150話 ぽこと配達人
「レナからの結婚式の招待状をお届けぃ!」
目つきの悪い細い男が、得意げに鼻を擦る。
「ジョアン!」
「久しぶり! さすがに王都は遠かったわ。ってか、いつの間に引っ越してんだよ! 俺に相談しろよ!」
すかさずぽこに抱きつこうとし、腕を伸ばして拒否される。もう片手で手紙を受け取り、すぐさま開いて読む。
「あれからすぐに引っ越しを決めてね」
「招待状を届けに行ったら、ボロボロになった張り紙が家の玄関に張ってあってさ。もうこっちは里にぽこの引っ越し先を伝えなきゃならないし、レナには早く届けてこいって怒鳴られるしよぅ」
ジョアンが俺が飲んでいたヴァダーの杯を勝手に煽る。
「ぷはぁっ、あぁ、染みる」
「大変だったな」
ぽこが握りしめている招待状を読むと、出された日付は一か月前。結婚式は一か月先だ。レナとジョアンが大慌てになるのも無理はない。
ジョアンはぽこに惚れているとはいえ、なかなか面倒見がいい若者だ。
「いよいよです!」
ぽこの頬が紅潮し、瞳が光っている。
ジョアンに冷たい水を渡して、何か食べ物がないか再び台所へ引っ込むと、ジョアンとぽこもついてきた。
「ふぃ~。王都ってのはでっかいね。ねねね。明日どっか案内してよ」
渡したばかりのライ麦パンをスープに浸してがっつき、ジョアンがぽこに強請る。
ぽこは、いつぞやのようにレナの結婚式について想像しているらしく、夢ごこちでジョアンの話を聞いていない。
「旦那様、レナの結婚式ですよ!」
「あぁ、ちょうどいいタイミングだな」
「楽しみです! こんなに準備期間を設けるってことは、手が込んだお式になるんじゃないですか?」
レナの結婚式が楽しみだという話が早口でまくしだてられる。
「もしもーし? どうなってんの?」
久しぶりの再会、それも徒歩でなら一か月ほどもかかる道のりを来たのに、こんな扱いを受け、溜まりかねたジョアンが、ぽこの腕をちょいちょいと突いた。
ぽこがジョアンを振りむく。
「ジョアン、旦那様とぽこはインマーグに帰ることにしました」
「え、俺来たばっかなんだけど」
ぽこの言葉に珍しくジョアンが嫌そうな顔をした。
「まぁまぁ、仕事の引継ぎがあるから、今日明日ってわけじゃないさ」
「よかったぁ。俺、行きたいとこがあんの」
「レナにお祝いの品を買いに行きましょう! 王都でしか手に入らないような物がいいんじゃないですか?」
うぇぇぇと、ジョアンが情けない声をあげた。気の毒で肩をすくめてしまう。
「ぽこはレナの結婚式の話になるとこうなんだ。で、どこに行きたいって?」
「王都でしか売ってないっていうショコラっていうお菓子が食べたい。あと、王都にはいろんな酒が飲める居酒屋があるんだって?」
「ショコラ⁉」
ぽこの耳に届いたキーワードだったらしい。
「ぽこも行ってみたいです。口に入れると雪みたいに解ける甘いお菓子なんですって」
「キャラメルみたいに苦くて甘いらしいぞ」
本当にたぬきというのは、食い意地が張っている。
「じゃあ、ジョアンの疲れが癒えたら二人で行ってくるといい。それで、レナのお祝いの下見もしておいてくれるかい?」
キュマ先生から守るためにぽこは俺の持ち物に化けて、毎日一緒に仕事に行っていたが、ジョアンが一緒なら問題ないだろう。
「おっさん、話がわかるじゃねーか」
ジョアンが食べ終わった食器を片付け、居間の長椅子に寝床をこしらえてやる。
ぽことジョアンは、他に王都で食べたい物がないか話し合っている。
ぽこは俺相手には丁寧な言葉しか使わないが、ジョアン相手だとくだけた口調になる。
息の合った掛け合いに二人の仲の良さを感じてしまう。
「俺は明日仕事だからもう寝るぞ。買い物は次の休みに行こうか」
枕を叩いて寝床の支度を終わらせる。
「おっさんがそこに寝んの?」
にっこり笑って、何も言わずに寝室の扉を開ける。
「ぽこおいで」
毎晩の声かけに条件反射のようにぽこがたぬき姿になって、トコトコ寝室に入ってくる。
ジョアンの顔を見て、にやっと笑ってやった。
「おやすみジョアン」
「おっさぁぁん⁉」
扉をゆっくり締める。
怒っていたジョアンだが、俺が寝付く前に大きないびきが聞こえてきた。





