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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
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149話 ぽこと二通の手紙

 赤ん坊が母親の元に戻ると、ぽこは赤ん坊を抱いていた腕を何度もさすった。


「手のこんだ料理を作りたくなってきました」


 俺を見上げて微笑むが、無理しているように見えた。

 赤ん坊を無事に返せて、俺なぞは安堵したが、ぽこは寂しいらしいと気が付いた。


 そうか。ぽこには家族がいるからだ。

 俺が想像しないような温かさや関わりがぽこの心を満たすのだろう。

 ぽこの人付き合いの良さは、家族との関わり方ともいえる。


 俺なぞは、関わりのある人の名を覚えようと心掛けるようになったのは、この一年くらいだ。


 プロポーズしようと考えていたとき、同時に考えていたことを口に出すことにした。


「なぁ、インマーグに戻るときに、先にぽこの里に戻らないか?」


「なんでですか⁉」


 哀愁が漂っていたぽこの顔が突然険しくなる。


「結婚の承諾をぽこの親父さんに貰いたい」


「嫌です!」


 取り付く島もなく拒否される。

 想像の範囲内の反応だから、格段驚かない。


「レナの結婚式に参加するときに、俺は何と名乗ればいいのかな?」


 ぽこは、言葉に詰まった。


「婚約者でないのなら、恋人? こんないい歳したおっさんを婚約者と言わぬのなら、それは言えないような相手だってことになるな」


「婚約者だと名乗りましょう! 名乗ればいいのですよ」


 ぽこが無理のある提案をしてくる。自分でも無茶だとわかっているのか頬がひくついている。


「ぽこの親父さんは里長なのだろう? 挨拶もさせてもらえないのだろうか?」


「ぽこは、パパに掴まるかもしれないってだけで怖いんですよ!」


 牢にでも入れられそうな言い方に、もしやとも思う。


 そのとき、扉がノックされた。

 怯えて緊張していたぽこが、音に驚いて飛び上がる。


 出るとイスタリさんが預かっていた手紙を渡してくれた。

 相手がイスタリさんと分かったぽこが、俺の横から挨拶するために覗き込み、手紙を見て顔をしかめた。


「またですか?」


「あぁ」


 中を確かめずに、今週三通目のキュマ先生からの手紙を破って捨てた。


 お茶のお誘いが来ているのだが、先生は現在取り調べを受けている最中だ。

 人体実験をしている疑いがかかり、センセーショナルな疑惑によって、本がさらに売れているらしい。


 諦めの悪いキュマ先生からぽこを守るために、ぽこは俺から離れないようにしている。


「インマーグまで追ってくるでしょうか」


 ぽこの顔は青ざめている。

 探求心の奴隷であるキュマ先生なら、やりかねない。


「たぬきの里なら、結界があるから追ってはこれないはずです」


 ぽこが大きなため息をついた。

 一端、たぬきの里に戻れば、キュマ先生の追手をまけるはずだ。


 駄目押しの一手を出すならここだろう。


「そうだ。古の薬は赤壁山のたぬきたちの方が詳しいんじゃないのか?」


「えっ⁉」


「昔話を聞いたんだろ? どこのたぬきにも伝わってる話しなのかい? それともインマーグだけの話だろうか?」


「えぇぇ⁉ 待ってください。この話を教えてくれたのは里のおばぁですもん! おばぁに聞くのが一番早いですよ!」


 興奮したぽこが俺の腕にしがみつく。


「ぽこは俺が守る。閉じ込めさせたりするもんか!」


 ぽこがこくこくと頷いた。


「わかりました。ぽこの里に帰りましょう! パパに結婚を認めてもらいます!」


意気込むぽこの背後で、露台に絡みついた九重蔓の枝がミシミシと不自然に揺れた。


キュマ先生を想像して、警戒する。

しかし、ぴょこんっと現れた耳の丸さを見て力が抜けた。


「あ~らよっと!」


 窓から入り込んだたぬきは、宙で一回転しながら小爆発を起こし、俺たちの前へ着地した。


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お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
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