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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
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147話 ぽこと赤ん坊のお世話②

 キュマ先生の方面から古の薬を手に入れる方法はもうない。

 なら、どうすれば? 

もう迷宮はこりごりだ。

 茫然とした俺に、ぽこから声がかかった。


「え、あぁ、何?」


「旦那様、ぬるいお湯を作っておいてください」


「よしきた」


 台所で水瓶から鍋に水を移し、火を起こした。

 ほっと一息ついたのもつかの間、寝室から赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 大急ぎで戻ると、ぽこがおしめを確かめた後だった。


「旦那様、新しいおしめと一杯のお湯を取ってください」


 ぽこが赤ん坊を抱っこして、揺すりながら優しく話しかける。


「よしよし、あんまり泣いたらママが起きちゃいますよ~」


 そうか! 早くせねば!

 まず台所に飛び込んで、ようやくぬるく温まったお湯を杯に注いだ。

 居間に戻って、持って来た荷物から白い洗いざらしの布をぽこに持っていこうとしたら、一枚を床に落としてしまった。拾おうか迷って、泣き声でそんな暇はないと判断する。


 ぽこは赤ん坊をベッドに戻し、手早く布を畳んでおしめの形にし、赤ん坊の尻の下に敷いた。その上から古いおしめを外す。お湯の温度を確かめて、赤ん坊の尻を綺麗にぬぐってやる。


 本当に手慣れてるな。

 迷いのない手つきに、数をこなしているのは一目瞭然だ。


 おむつが綺麗になっても、赤ん坊は泣き止まない。

 おろおろするばかりで何をすればいいかわからないが、ぽこは落ち着いている。


「旦那様、お湯にミルクをつけて人肌に温めてください」


 人肌に? どうやって?


「私がやるので、抱っこしててもらえますか?」


「それだけは勘弁してくれ。説明してくれりゃわかるさ」


 赤ん坊を抱いたぽこと台所へ移動し、沸かした湯にミルクの入った哺乳瓶を入れて、時々かき混ぜながら温める。

 ぽこに暖かさを確かめてもらった。


 赤ん坊は、ミルクを飲み始めてようやく泣き止んだ。泣くのと飲むことの両方はいっぺんにできないようだ。当たり前のことなのに、泣き止んでくれるだけで、心底ほっとする。


 ミルクを飲み終わったら、眠くなったらしい。ふやふやとしていたのに、今度は自分のげっぷでふぇぇと泣き声を上げた。

 ぽこが優しく背中をトントンしながら、慎重にベッドへ寝かせる。

 ベッドに置いた瞬間、赤ん坊は驚いたように手足を伸ばした。

 ぽこが優しい声で話しかけると、また寝始める。


「大したもんだ。これならいつ赤ん坊ができても怖くない」


 ベッドから降りたぽこを労わって、沸騰したお湯でお茶を淹れた。

 物音一つ立てるのも赤ん坊が起きてしまいやしないかびくついてしまう。

 茶の入った杯を、寝室に一番近い椅子に座ったぽこに渡す。


 窓からは、涼しい風が入ってきている。


「このまま朝までいたりしないだろうか?」


 その可能性があるなら、俺はこの長椅子で寝る。

 押しつぶしてしまいそうで。一緒に眠れない。


「それはないですよ」


 あの母親の疲れ具合からすると、朝までぐっすり寝てもおかしくない。


「おっぱいの時間になったら、胸がおっぱいでパンパンに張って痛くて起きちゃうそうですよ」


「そら難儀だな」


 女性の神秘だ。俺の中で多くの女性というのは美しくあるために最大限の努力をする生き物だ。その女性が髪も梳かせないほど疲れ果ててもなお、赤ん坊の世話のためには身を挺して起き出す。男親はこの時期は何をしたって女性には敵わない。


「赤ん坊の世話は、母親に任せるしかないんだろうな」


 俺の言葉に、ぽこはきょとんとした後、首を振った。


「そんなことありませんよ。他人の私でもお世話できてるじゃないですか」


「あ、あぁそうか」


 そうだろうか? 俺のような大人からも怖がられる見た目だと赤ん坊は怖がるのではないだろうか? 何より俺が怖い。あんな小さな生き物をどう触ればいいのか。

 ぽこに肯定はしてみるものの、疑心暗鬼しかない。


「慣れです。やらなければ慣れませんから」


「なるほど。じゃあ、俺も自分の子供にはやろう」


 やれるだろうか。自信はないが、大事なぽこに疲れ果てて欲しくないから、挑戦するしかない。


 今まで考えもしなかった赤ん坊との生活は、想像してみたら、恐ろしくもあり楽しみでもある。身の回りに赤ん坊がいたことなんてなかったと思いつき、冒険者なんて仕事は家庭とは縁遠いのだともわかった。


「旦那様は料理だけじゃなく、子育ても一緒にしたいって思うんですね……」


 ぽこが、俺をじっと見つめる。


「ぽこのパパは、家のことは何もしませんでした」


 ぽこから父親の話を聞くのは初めてだ。


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