表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
51/60

143話 ぽこと種族変更の薬②

九重蔓(ここのえかずら)の館に走って戻り、部屋の鍵をしっかり閉めて、窓まで閉めた。それでようやく人心地つく。

 うだるような熱帯夜なのに、身体は冷えて強張っている。

キュマ先生がナッツの殻を剥く音が、耳に残っていて追いかけてくる気がする。


 ぽこをマントから出し、二人分の水を用意する。

 俺の分は杯に、ぽこの分はスープ椀に入れる。


 たぬき姿のぽこが、床に置いたスープ椀から音を立てて水を飲んだ。


「恐ろしい男だ」


 肩を上下しながら、額にかいた脂汗を手でぬぐって、ようやく話せるようになった。


「まさか、自分や研究員の身体を使って実験するとはな……」


「元には戻れないんでしょうね」


 じゃなければ、真っ先に自分を元に戻しているはずだ。

 目の前のぽこは、また項垂れて、夏毛がぺしゃんこに寝ている。


「わっ、私、古の薬があんな恐ろしいものだとは思わなくて!」


 ぽこがしゃっくりを上げて泣き出した。けれど、たぬき姿のぽこの涙をどう拭えばいいのか戸惑ってしまう。抱き寄せて、顔を近づけると、濡れた鼻先をスンスン鳴らした。


「もし、知らないままで旦那様に飲ませていたら?」


「そうはなってない。自分を責めるな」


 身体を揺すってやるが、ぽこは首を振る。


「キュマ先生なら、九重蔓(ここのえかずら)の館に住んでいるってすぐに調べられるはずです。ぽこを捕まえに来ます!」


 ラッセルに襲われたのを思い出したらしく、毛が逆立った。

 どうする?

 鍵は変えたから安全? 鍵なんか斧があれば意味がない。

 ケリーが守ってくれる? 犬の話はやめておくべきだ。

 ぽこは不安がっているのだから、一緒にいればいいとひらめいた。


「なら、一緒に中央に出勤しよう」


「でも、ぽこは職員じゃありませんから、入れませんよ」


「そうだな……。何かハンカチとか小さな物に化けたら一緒に――」


 しくじった。

 ぽこは化け術が使えなくなっていたのに、俺は何てことを提案しちまったんだろう。


 ぽこは「ぽこは駄たぬきなんです!」と、さらにエスカレートした。


「自分を追い込んで突っ走るなって旦那様は仰ってました。若気の至りだって! 私、私、またやっちゃった? でも、そうでもしないと、一緒にいられない!」


「待ってくれ。お願いだから、俺の話を聞いてくれ」


 俺だって種族変更の薬がどんなものか知らなかったし、ましてや百冊も本を出して、人気のキュマ先生が異常者だとは想像もしなかった。

 驚き、怖かったのはぽこと同じなのに、ぽこだけが取り乱している。


 たぬきだとばれて、狙われたのだから当然か。

 だが……。

 どこかで俺が安堵しているのは、ぽこが俺と同じように種族変更の薬を恐ろしいと感じて、拒否したからだった。使うと言い出したら、止める方法は少なかっただろう。


 俺はぽこに安堵し、ぽこは俺のことを思いやってパニックになっている。


「キュマ先生の薬だけが頼りだったんです!」


「違う! 俺を頼ってくれ‼」


 思わず大声が出た。

 唸り声を上げていたぽこが腕の中でようやく俺を見上げる。


 怖い思いをしたぽこに、大声を出してしまい、申し訳ない気持ちが押し寄せる。

 すんっとぽこの鼻が鳴った。


 どうしたらわかって貰えるだろう?

 しばし考えて、二人が落ち着いて話せるような場所を探す。


「明日も休みを取るよ」


 今日も休みを取ったばかりだが、どうしたってぽこを優先したい。

 ピーター・ウェインの秘書から正式な返事をせっつかれえているが、ぽこはもう限界だ。


「一緒にピクニックに行こう」


 ぽこが首を傾げる。耳が揺れた。一瞬沈黙があり、ぽこが微笑みかけてくる。


「はい。王都の外に行きましょう」


 大粒の涙が落ち、絨毯に染みを作った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
あなたの楽しみになるよう、更新していきます!


10eg69f26mdlk4fqio1vb3fz9nad_o7x_2hw_2xk_h1zm.jpg
『たぬきの嫁入り4』へ



〇 更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ マシュマロ(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
新しい物語の活力になります☺️


本日もお読みいただき、ありがとうございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ