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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
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141話 ぽこの覚悟

「来週ですね」


 ぽこが丸い肉球のある手で日数を数えた。


「いよいよだな」


 ぽこが、ほっとしたように身体の力を抜いた。


「なぁ、ぽこ、種族変更の薬だが、俺に使わせてもらえないだろうか?」


 今、言い出すことでないのは承知の上だが、今言わずして、いつ言えばいいのか。


「え……。ぽこはてっきりぽこが使えると思ってました」


 葉っぱにラッセルに大砲とショックが続くぽこが、動きを止めた。


「俺には家族はいないが、ぽこには」


「待ってください。ぽこは家出娘です。同じ条件ですよ」


「いいや、レナもジョアンもいる。それに誕生日に反物を贈ってくれる父親だっているじゃないか」


 ぽこが実家の話に触れて欲しくないと知っていたから、今までこの話題は避けて来た。だが、種族変更の薬を目前にした今は向き合うべきときがきたのだ。


「それに、たぬきは人間に化けられるが、人間はたぬきに化けられないだろ」


 俺なりにどちらがいいか考えた結果だ。

 ぽこは、じぃっと俺を見て、それから視線を足元に落とした。


「たぬきは温泉宿もできませんよ」


「化ければできるだろ」


 また沈黙があった。


「ぽこは、旦那様のお役に立ちたいんです。化け術が使えないたぬきは駄たぬきです……。こんな情けないまま結婚はできません!」


 駄たぬきで、結婚できないときたか……。


 そんなに自分をさげすまなくともいいだろうに。


 あんなに結婚したいと言っていたのに……。

 近い内にプロポーズしようと、あれこれない知恵を絞っている身としては、最も聞きたくない言葉だ。


 ここまで言われては、俺の意見を交えて話し合いすることは無理だと悟った。

 古の薬を飲むのは、生き方を左右する大きな決定打になるだろうから、入手してから話し合おう。いくらぽこが思い切りがいいと言っても、さすがに勝手に飲んだりはしないはずだ。


 結婚ができないと言うほど、ぽこにとって化け術は大事な要素で、アイデンティティにも関わることなのだろう。


「人間になれば、化け術へのプレッシャーもなくなります。葉っぱの残量を気にしたり、人前で尻尾が出ないように踏ん張ったりしなくてもいい。犬だって――」


 改めて、本人の口を通して聞けば、プレッシャーにプレッシャーが上乗せされるような大変な状況だったと実感できる。

 俺が思っているよりも、たぬきでいるのは苦労が多いのかもしれん。


「もし――」


 ぽこが、声をかすらせた。


「もし、古の薬が作れなくて、このままだったら、ぽこを王都の外に捨ててください。

ぽこは飼い犬になりたくない!」


 飼い犬ね……。

 今日は、ぽこから衝撃的な言葉ばかり聞かされる。


 それほどのことなのだろう。


 取り合えず、どちらが薬を飲むかという話は一度保留にした方がよさそうだ。


「俺はぽこを犬だと思ったことはないよ」


「人間でなければ、クエストのバディーもできないじゃないですか」


 食い扶持を稼ぐことにこだわるのは、ここか。

 犬相手となると、ぽこがムキになることが不思議だ。


「まぁまぁ、古の薬ができるまで待とうじゃないか」


「待ちきれません!」


 ぽこを落ち着かせるために、頭から尻尾の先まで撫でながら話す。

 もしかして、撫でれば落ち着くのは己の方かもしれないな。


 金色の毛並みが名残惜しい。


「じゃあ、明日にでも進捗を聞きに行こうかね」


「ぽこも連れて行ってください!」


「無論だ」


 その日は、久しぶりに俺だけで夕食を作って食べた。

 ぽこは終始元気がなかったし、ぽこに元気がなければ俺とて同じだった。



翌朝、街に建国祭の余韻の残る中、キュマ先生の研究室へと脚を運んだ。

慣れたはずの研究室への廊下が暗く、気味が悪い。

妙に緊張しながら、扉の前に立った。


もう、立ち入り禁止の札は出ていない。


「いよいよだな」


 扉を三度ノックした。


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