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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
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140話 ぽこと建国祭

 王都の目抜き通りである海神通りには、多くの人々が集まってパレードが来るのを楽しみにしている。


 ロンメル国全土を上げて、夏の盛りには建国祭が行われる。

 去年は、生憎第二回のスダチ訓練の最中で(くさび)山の窪地にいたが、それでも祝杯だけはあげた。

王都での建国祭は今回が初めてだ。


 海神通り以外の通りには、お祭りの特別仕様になった出店が所狭しと並んでいる。

 この時期、王都には観光客が押し寄せ、人口は十倍に膨れ上がるという。


 観光客のお目当ては、何と言っても軍と聖翼獅子(せいよくじし)団のパレードだ。


 ファンファーレを合図に、威勢のいい音楽に合わせて軍隊の行進が始まった。

 部隊に分かれての行進は、一糸乱れぬ動きで力強いだけでなく芸術的でもある。

 上がる脚の角度も指の角度も、帽子の高さまで揃っている。


 これには軍や騎士団を毛嫌いしている俺でさえ、興奮した。


 門側の観客から「第一王子万歳!」と声があがった。

 国旗を持った若者が先頭を務める部隊が見えてくる。その若者こそ、第一王子だろう。

 他の者と同じように一挙手一投足乱れぬ行進なのに、毅然とした表情に品があり、身に纏った風格が違う。


 見ず知らずの若者なのに、誇らしく思え、ロンメル国のために忠義を尽くそうとさえ感じる。


「凄いですね!」


 興奮して頬を上気させたぽこに、俺の返事もついつい大きくなった。


 第二王子のパレードが始まる前に、冷たい飲み物を買って日陰に移動する。

 普段から王都には人が多いが、これほど多くなると人と人をかきわけるように進まねばならない。

 やっと建物の影に入れたときには、第二王子のパレードが終わり、次の部隊が入ってきていた。


「迫力ありますね」


「統率とは美しいものだな。やらされるのはかなわんが」


 ぽこが笑ったとき、腹に響く轟音が鳴った。

 通りの人々が身を縮めて、姿勢を低くする。


 何ごとだ⁉


「祝砲だ!」


 誰かが指した空には、煙幕が立っていた。


 祝砲が続き、今度は皆声を上げて数え始めた。

 祝砲と人々の声がまるで競り合うように交互に繰り返される。


 あれ? ぽこ?


 目の前にいたぽこがいない。

 慌てて回りを探すが、足元すら見えないほどの人ごみだ。


 嫌な汗をかきながら、ぽこがいたはずの周りの人を押しのけた。

 跡形もない。


「ぽこ?」


 俺のブーツを何かが引っ張った。

 人の群れの中に吸い込まれるように、しゃがむと、たぬき姿のぽこがいた。


「旦那様……」


 情けない顔をして、頭に葉っぱを載せて気合を入れるが、いつもの小爆発は起きない。


 危うく人に踏みつぶされそうになったぽこを、慌てて服の中に隠して立ち上がる。


「ぽこ、化けられなくなってしまいました」


 我が耳を疑い、くぅ~んと鳴く切ない声を聞いて事実だと理解した。

 それでも、頭の中では、なぜ? どうして? と疑問が浮かぶ。

 喉が締め付けられるような焦りがじわじわと迫って来て、頭を振って気合を入れた。


 俺がしゃんとせねば。


「家に戻ろう」


 こんな人ごみにいたら押しつぶされてしまう。落ち着くためにも、それがいい。

 ぽこを腹に抱えて、九重蔓(ここのえかずら)の館へ戻る。



 居間の長椅子の上に、ぽこを出すと、俺の汗で柔らかい夏毛が濡れてしまっていた。

 ぶるるっとぽこが身体をふるう。


「どうしたんだい?」


 がっくりとうなだれたぽこを、布で塗れた毛を拭いてやる。

 俺がこれほど動揺したのだから、ぽこはもっとショックだろう。


「大砲に驚いてしまって……」


「あれには俺も驚いた。みんなそうじゃないか?」


 どうにか理由を言えたぽこの気持ちに寄り添いたい。


「そうなんですけど……。ぽこはたぬきですから……」


 普段元気なだけに、落差にも衝撃を受けた。


 ぽこが自分をたぬきだというのは初めてではなかろうか。

 ケリーを犬だと言い、ぽこは人間なのだからと何度か聞いたことがある。

 敢えてそれに口を挟んでいないのは、普段から人間らしくいようとする努力に水を差したくなかったからだ。

 それが化けられなくなって、己をたぬきだというならば、重症である。


 想像以上に大ダメージを受けているぽこに、何も言えずにいると、ぽこがぽつぽつと話し始めた。


「前から予兆はあったんです。王都の葉っぱは硬いし、それに、あんなことがあって……」


 先週ラッセルから襲撃を受けてから、ぽこの眠りは浅かった。ようやくうとうとしても、夜中に悪い夢を見て飛び起きていた。

 その度に話を聞いたり、撫でたりしてはいたのだが、そこへ大砲の爆音があり、とうとう心の負担が限界を迎えたようだ。


「そうだな……」


 顎鬚を撫でながら、言葉を探す。


 何かいい手立てはないだろうか。

 ぽこの心の負担を軽くするようなこと。

 化け術へのプレッシャーを取り除くようなこと。


「あっ」


 二人同時に声が出て、顔を見合わせた。


「「種族変更の薬!」」


「種族変更の薬があれば、もう化けずにすみます!」


「そろそろ出来上がるんじゃないか?」


 昨夜見た三連の月の形を思い出す。

 もう随分と痩せていたはずだ。


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