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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第13章 毛深き愛しいもの
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137話 オズワルドの新しい仕事

 約ひと月の間、キュマ先生の研究室に行く必要がなくなった。

 ぽこは他の比較的安全なクエストをしたり、籠を編んだり、人付き合いをして過ごしている。

 俺はというと、目下、書類のを書くのに頭を抱えている最中だ。


 王都のクエスト屋のカウンターテーブルの内側にある机を使い、文字通り頭を抱えて、髪をくしゃくしゃにかき乱す。


「考えすぎなんじゃなーい?」


 案内係が三つ編みを揺らしながら、脇を通る間にアドバイスをくれる。


「俺は冒険者だ。書類を作るのは苦手でね」


 前回は、新人引率のコツを書くことだったが、あれは十年やってきた経験を書けばよかった。

 今回の書類は、規模が違う。


 新人育成には、引率が有効だと周知されると、今度は予備校を作ろうという動きが出てきた。魔力を使う治癒士や魔術士には、予備校が既にある。

新人育成に必要なことは、俺に聞けばいいという間違った見識ができてしまい、俺なぞに書類作成が回ってきたわけだ。

頭を使うのは得意ではなく、動物的な勘を働かせて肉体労働する方が余程向いている。


「まずはさ、思ったように書いて、それから直せばー?」


 走っていってしまった案内係を見送り、気を取り直して、書類に向き合えば何本目かのペンをへし折ってしまった。


「だぁぁ!」


 苦しむ俺を、カウンターの外から見た冒険者たちが笑う。


「オズワルドさん、四階からお呼びがかかっていますよ」


 ブライスさんの声に、喜んで立ち上がる。書類作りから一時的にでも逃げられるのなら、ピーター・ウェインの秘書に呼びつけられようと、喜んで馳せ参じる。



   *



 絨毯に足を沈ませながら、ピーター・ウェインの秘書の前で直立する。


「お呼びでしょうか」


 ピーター・ウェインの秘書は書類から顔を上げて、俺をしげしげと見た。


「予備校設立の書類の提出が遅れているようですが、進捗は?」


 提出期限は、先週だった。一階の机にある書類には、ペンをへし折ったときにできた染みしかない。


「苦戦中です」


「ブライスさんに助けて貰えるように頼みましたから、必ず今週中に提出してくださいね」


 これでペンだこを作るのもおさらばだと思うと、喜びのあまり、ブライスさんに抱き着いて、抱き上げ、振り回したくなる。

 回れ右をして帰ろうとしたら、ピーター・ウェインの秘書が咳払いした。


「まだ話は終わっていません。ここからが本題です」


 叱られた犬のように、肩を落として元の姿勢に戻る。


「オズワルドさん、あなたに予備校の校長先生の打診が来ています」


「は?」


「ですから、予備校の校長先生の辞令が出れば、受けるつもりがありますかと聞いているのです」


 校長っていうと、学校の責任者のことだろう。俺は他に校長という言葉を知らない。予備校のってついたから、おそらくそうだろう。


「なんで俺が?」


 間抜けな返事に、ピーター・ウェインの秘書が頷いた。


「正直、私も驚いています。今、新人引率者を育てる仕事をなさっていますが、今度は先生を育てて欲しいとの上からの意向ですね」


 聞くだけで胃がしくしく痛み始めた。そんな書類ばかりの仕事は絶対に嫌だ。


「それだけでなく、聖翼獅子(せいよくじし)団や軍とのやり取りの仕事もあります。この仕事はオズワルドさんが新しく作ったのでしたね」


 確かに、今までになかった仕事を俺が作った。

 だが、それは聖翼獅子(せいよくじし)団第三団長のピーター・ウェインがやればいい話だ。


「いやぁ、俺なんか話も聞いてもらえませんから。そういう話は貴族の方にお願いするしかありませんよ」


 苦笑いしながら、顎鬚を幾度も撫でる。

 うぅむ。無性にたぬきのぽこを撫でたい。柔らかい毛並みに指を通せば、大抵の疲れが癒される。


「それですよ。オズワルドさん」


 キツイ口調に、背筋が伸びる。


「他の関係部署とやりあえるように、あなたに騎士爵の称号授与も検討されています」


「騎士ぃ⁉」


 なんとも間の抜けた返事だ。爵位が貰える人物とは思えない。


「騎士爵は、貴族としては末端ですし、一代限りで世襲はできません」


 いくら俺でもそんなことは分かっているが、そのまま言うことはできない。


「それで、いかがでしょう?」


「まっぴらごめんです」


 唇の端から漏れ出た返事に、奥の部屋から笑い声が聞こえた。


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