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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第12章 古の薬と迷宮
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136話 ぽこと守りの龍③

「人身御供が行われていたと聞いています」


 白竜が頷いた。


「若い娘はうまいからな」


 ぽこが俺の背に半身を隠した。


「たぬきは食わぬ。まぁよい。余はその内の一人の娘に一目ぼれしたのよ」


 美しく白百合を好む女だったと小さく呟いて、また白百合を見る。


「愛し合うようになったが、余も種族の違いに苦しんだのだ。人として生きればあったかもしれぬ幸せを、余はあれから奪った。そして、あれは余との子孫を残せぬことを謝った。子孫がいれば、己が死んだ後も余が寂しくないだろうと嘆いたのだ」


 龍は想像できぬほど長生きするという。目の前の白竜も古代文字を書くし、安全協定はロンメル国ができる前からある。

 どれほどの長い間、愛する人を失って忘れられずにいるのだろう。

白竜は幾度も白百合を愛で、痛みに眉をしかめている。


 暴れ龍からの、突然の安全協定の申し入れ。そして、愛した女が好きだった白百合を納品させる。

 何もかもが酷く感傷的で嫌になる。

 それは、己の過去と似ている。


 三人が揃って黙り、各々が幸せとその先にあるものへ思いをはせる。


「つまり、あなたのような立派な龍でも、古の薬は手に入らなかったということですか?」


 白竜が頷いた。


「見てください」


 ぽこが、治癒玉を巾着ポシェットから取り出して、白竜に一つ渡した。

 白竜は掌の治癒玉を見て、匂いを嗅ぎ、そしてぽこに戻した。


「見事な薬だ。傷を癒すための成分が濃縮されている」


「それは、ぽこのお友達が作りました。人間は魔術を研究し続けて、そんなものまで作るようになりました」


「認めよう。人間には知恵がある」


「ぽこの知り合いは、種族変更の薬を研究しています。最後の一つの材料が、あなたの髭です。髭を分けてください」


 白竜が、宙にたゆたう白いリボンの一つを撫でた。人間姿に化けたら、髭はリボンの形になるらしい。


「余の髭が目的だったのだな」


 重苦しい沈黙が降りて来て、上から照り付けていた太陽が傾き、紅の陽と黒い影が窪地に落ち込む。

 滝に巻き上げられた空気が、白百合の濃い香りを広めた。


「一縷の望みにすがる者よ。余と白百合の痛み、ゆめゆめ忘るることなかれ」


 白竜が長い指で、白いリボンの根元を手折った。

 白いリボンは、長くしなる半透明の髭に変わった。


「タダではやれぬ。何かと交換だ」


 またぽこと顔を合わせた。伝説の白竜の髭に見合うような上等な物は持ち合わせていない。

 大山根山で、幼獣に物々交換を教えたツケが回って来た気がする。


「あ!」


 ぽこが、巾着ポシェットに手を突っ込んで、中から純白の反物を取り出した。

 三連の月光に照らされて、自ら光を放っているかのように輝いている。


「これは、ぽこのママが、ぽこの花嫁衣裳に使うようにと用意していたものです。これならいかがですか?」


 知らされていなかった情報に驚いた。

 上等なただの絹織物ではなく、花嫁衣裳のための布だったとは。

 今は亡き母親からのものだと聞けば、手放すにはあまりにも惜しい。


 ぽこの肩に手を置いて止めようとしたが、ぽこは首を振って否定した。


「いいんです。ママはぽこが幸せになるために選んでくれたはずですから」


 白竜はぽこへ半透明の髭を渡し、ぽこは大切な絹織物を全て交換してしまった。


「旦那様、王都へ帰りましょう! 古の薬の薬を作るんです!」


 ぽこの元気な声に、頷くしかできなかった。


 迷宮なら得意だと連れて来ただけで、俺は何か役に立っただろうか。

 ぽこを守るつもりで、幸せにするつもりで、本当に幸せにできているだろうか。


 深層を後にする中、背後を振り返ったら、白竜と目が合った。

 異種族間の愛の末路を知る白竜は、変わらず深い悲しみを浮かべ、白百合を嗅いでいた。



  ❄



 王都に帰ったその足で、キュマ先生に龍の髭を納品した。


「やりおった! 後は薬を煎じるだけだ! 忙しくなるぞ!」


 キュマ先生は、龍の髭を研究室中の人に見せて周り、匂いを嗅ぎ、重さをはかり、スケッチをして、少量刻んでは何かと混ぜ始めた。

 小刻みに動きながら、研究室の人にあれこれと指示を出す。それぞれが動き出し、研究室はこれまでになく活気づいた。


「どのくらいでできあがりますか?」


「新しい月が生まれて死ぬまでだ!」


 せわしなく走り回るキュマ先生をやっと捕まえて、取りに来る日を約束した。


 俺たちが部屋から出ると、研究室に「立ち入り禁止」の張り紙が出された。


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