132話 ぽこと守りの迷宮③
ようやく迷宮らしくなってきたか。
見張りをしているハーピーは一羽だけ。
仕留めるのは苦でもないが、厄介なのは仲間を呼ばれることだ。
気付かれずに近寄って、一撃で仕留めたい。
ぽこと頷き合う。
ぽこがスリングショットをハーピーの頭に命中させ、昏倒したハーピーに駆け寄って剣で胸を刺す。
絶叫を上げる間もなくハーピーを倒した。
「やったな」
二人で喜び合い、仕留めたハーピーを見下ろした。
「大きいですね」
「そうだな。上半身は人間と同じ大きさだからな」
ハーピーは、翼を広げるとさらに大きい。
そのとき、奥の下草が揺れた。
ぽこを背中に庇い、その手で斧を引っ張り出す。
「オオトカゲだ!」
馬並みに大きなオオトカゲは、手足の短さに反して、かなりの速さでハーピーの死骸へ走り寄った。
最初の一匹がハーピーを咥えた瞬間、遅れを取った二匹目、三匹目の顎がハーピーをかすめた。
一羽のハーピーの死骸を巡って、合計で五匹のオオトカゲが争い始める。
顎からはみ出た腕と翼は他のオオトカゲに噛みちぎられた。本体を奪われたくない一匹目が、ハーピーを咥えたままで、頭を左右に激しく振る。
他のオオトカゲに激突し、一瞬の隙をついてハーピーを丸のみした。
チロチロと細長く、二股に分かれた舌を出し入れして、満足そうな一匹を除いて、残りの四匹は不満気だ。
ハーピーの血肉の臭いに釣られて来たらしい。オオトカゲは獰猛で貪欲だ。
四匹のオオトカゲが、俺とぽこという新しい獲物との距離感をはかっている。
「気を付けろ、歯と背中の棘には毒があるぞ」
言い終わらない内に、一匹がぽこ目掛けて噛みついて来た。
ひらりとぽこが避け、俺がオオトカゲの首を大斧でグシャリと叩きつぶす。
さすがに一撃では仕留めきれず、もう一度振りかぶったところを、別のやつにスネを噛まれた。
すかさずぽこの治癒玉が命中した。続いて毒消しが飛んでくる。
噛まれたところから、広がった痺れが緩和される。
一匹を仕留め、噛みついたやつに大斧を投げる。
大斧は回転して、眉間に命中した。
「残り三!」
剣に持ち変え、尻尾を鞭のようにしならせて打って来たところを両断した。
切られた尻尾が、まるで別の生き物のように激しくのたうち回る。
反射的に、その尻尾に噛みついて丸のみするオオトカゲを脳天から地面に串刺しにした。
背の棘を踏まぬように、ビクンビクンと死後痙攣する巨体の頭に足をかけ、剣を引き抜く。
「キャア!」
ぽこの声に振り返った。
ぽこが、木の枝にぶら下がり、その真下でオオトカゲが口を開けている。
ハーピーを食った最初の一匹がぽこを狙ったのを、上に飛んで逃げたらしい。
オオトカゲの口からは毒ありの涎がスライムのように垂れさがっている。
短足で背の低いオオトカゲからは、枝にぶら下がるぽこには届かない。
ぽこは、必死に枝に脚をかけようとしている。
オオトカゲの前脚がびくびくと動き、勢いよく後ろ脚だけで立ち上がった。
今までぽこの脚がぶらぶらあった空間を、オオトカゲの顎が空振りする。
「ひぃんっ!」
もう一度、ぽこに向かってオオトカゲが立ち上がった。
その腹に体当たりして転がす。
オオトカゲは、長い鍵爪で俺を抱え込み、地面を回転し始めた。
鎧の隙間から鍵爪が服を切り裂き、身体に突き刺さる。そこから毒の鈍い痺れが身体を周り始めた。
治癒玉が、俺とオオトカゲをかすめて、地面で割れる。
絶え間なく地面を回転しているから、ぽこがスリングショットの狙いをつけられないらしい。
鋭利な小型剣で、オオトカゲの喉元を横に切り裂いた。
鮮血がほとばしり、胸に抱かれたままの俺を濡らす。
やがて、オオトカゲは動かなくなった。
ぽこが枝から飛び降り、オオトカゲの胸元から這い出た俺に、毒消しと治癒薬をかけた。
「旦那様。大丈夫ですか?」
痺れの広がりは止まり、神経がゆっくりと再生するのを待つ。
唇が痺れて、上手く話せない。
俺を覗き込むぽこは、丸薬の入った油紙を手に持っている。
ウシュエから貰ったたった一粒の丸薬だ。
使いどころを間違わぬように、今必要かどうか見ているらしい。
顔についたオオトカゲの血を拭い、顔色を確かめるぽこの背後に、何か動くものが見えた。
尻尾を失くしたオオトカゲが、ぽこを背後から狙っている。
‼
俺が身体を起こすのと、オオトカゲがぽこへ突進してくるのは同時だった。
その時、夏の暑い陽射しが、突然遮られ、旋風が巻き起こった。
ぽこを胸に匿い、身を低くして、空を見上げる。
「ワイバーンだ」
上位種の登場にオオトカゲが逃げ出した。
ワイバーンは、青い空を向こうの方へ飛んで行ったが、もしかしたらオオトカゲの大乱闘に気づいているかもしれない。
「俺たちも行こう」
空を飛ぶ小型龍とでも表現できそうな姿を見ながら、ぽこと奥へと進んだ。
さすが迷宮。
そして、この奥には、オオトカゲやワイバーンなぞ数ともしない最上位種の龍がいるのだ。





