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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第9章 王都での新生活
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96話 ぽこと買い出し①

 ぽこと連れだって王都の街に食料品の買い出しに出る。

 人通りが激しい初めての街ではぐれないように、ぽこと手を繋ぐ。

 蒸し暑い気がするのは、陽射しが強いせいにしておこう。


「旦那様! 見たことがないお魚ですよ!」


 魚屋の軒先には始めて見る魚ばかり並べられていた。

 夏の暑さにやられないように、氷が乗せられていて涼しそうだ。


「あぁ。海の魚か」


「お、内陸の人? 海の魚は身が締まっててうまいよ! これなんかどう?」


 薄オレンジ色の魚は鱗が光っていて、新鮮のようだ。


「どうやって食べると美味しいんですか?」


「塩を振って焼くだけでもうまいし、ローズマリーを乗せれば魚の匂いも抑えられるよ」


「やってみます! 香辛料のいいお店を教えてください」


 ぽこは人当たりの良さを発揮して、こんな風に行く先々でお勧めのお店を教えて貰った。

 横で荷物を持っているだけで、王都の料理が集まっていく。


 ぽこと俺が住んでいたインマーグは内陸で標高が高い、冬の長い地域だった。

 王都は正反対で海に接しているし、外国との取引で珍しい物が手に入る。

 保存食より新鮮さを楽しむ土地柄らしい。いつでも食料が入手できるというのは気楽でいい。



 買い物に疲れて、中央広場の屋台で穴がたくさん開いた平たいパンと、魚のフライを買った。

 座るところもないので、周りにあわせて立ったまま食べる。

 買い物をするのもおもしろいが、落ち着いて周りを見るのもなかなかおもしろい。


 誰かが小さな鐘を鳴らしながら歩く。


「これより聖翼獅子団の定例会議を行います! お立合い、お立合い~」


 かと思えば、また鐘が鳴る。


「グヌー家の御嫡男とカルヒー家の御令嬢がまもなく結婚式を終えて出ていらっしゃいます!」


 この先ぶれの直後、大聖堂から出席者が出てきた。カーペットの両側に並ぶ様子を見て、野次馬が集まる。


「行きましょう!」


 テンションの高いぽこに誘われて、柄にもなく他人の結婚式を見物する。どこからともなく花びらが入った籠が回されてきたので、見様見真似で俺も一握り貰って次へ回した。


 大聖堂の階段上に花嫁が現れると野次馬たちは歓声を上げた。

 参列者の間をゆっくりと進んでくる花嫁は、煌びやかだった。衣裳の裾もベールも長く、子供が後ろから持ってついて歩いている。


 美しい花嫁をエスコートしている花婿も誇らしそうだ。

 二人の頭上へ花びらが撒かれる。

 花びらが舞う中、幸せそうな花婿と花婿が歩き、最後に馬車に乗り込んだ。


 馬車が出発すると、集まった人々もどこかへ行ってしまった。

 ぽこは、ぼんやりしてその場から動かない。


「ぽこ?」


「素敵でしたね」


 ぽこが感動のため息をついた。


 インマーグでも結婚式はあるが、これほど豪華ではない。

 俺も初めての体験で、凄いとは思ったが、ぽこみたいに夢うつつになるほどではない。


 ぽこと結婚するつもりで、古の薬を求めて王都まで来た。

 だが、結婚式を考えたことはない。

 そもそも、俺には家族はいないし、ぽこは家出娘だ。

 許可を得る相手も、報告する相手もいないのなら、結婚式をする意味はない。


 でも、ぽこの様子を見たら、同じ考えではないのかもしれないと思った。

 もしかしたら、ぽこは挙式したいのかもしれない。

 一体何のために?

 わからない。俺とぽこの価値観が違うのは当たり前で、聞いてみなければわからないことは沢山ある。


 あんな豪華な結婚式がしたいと言われたら、困る。

 そもそも温泉宿を買い取る資金を貯めるために王都に来たわけで、生活を新しくするのは物入りだ。

 今日だって、塩や酒のような細かな食料から買い揃えねばならずに、散財している。


 思わず金の入った巾着を入れている胸元を触ると、ぽこが目ざとくそれを見つけた。


「パパから貰った反物を売って、当面の資金に使うつもりです」


「なんだって?」


 あまりにもさらりと言われて、俺が目を剥く。

 ぽこはぽこで、俺の様子に驚いたような顔をした。



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