131話 ぽこと守りの迷宮②
全身鎧を着けるだけで、自然と気合が入る。
守りの迷宮のクエストを受けるまでは釈然としなかったが、受けると決めたからには盾として心が震える。
迷宮の入口に立ち、スリングの試し打ちをしているぽこに声をかける。
「安全協定があるとはいえ、三層までは戦闘がある。覚悟はいいか?」
「勿論です!」
ぽこが巾着ポシェットを揺らした。中には、ウシュエと開発した治癒玉が入っている。
王都から徒歩で四日かかる山脈は、ここら辺で最も美しく、そそり立つ山頂に登頂できた者はいないという。その山裾に、守りの迷宮はあった。
切り取られたような円形の洞穴の入口はかなり大きく、巨人が巣穴に使っていると言われても違和感はない。
「大きな穴ですね」
「どうやってできたんだろうな」
両端には、岩に掘られた古代文字がある。入山の儀式をしてから、ぼっかりと口を開けた穴へ足を踏み入れた。
音を立てて中に引き込まれる風が吹き、手前から奥へとゆっくり明かりが灯った。
「ふわぁ」
ぽこが驚くのも無理はない。
「さっきの古代文字といい、余程古くから安全な迷宮としてあるのだろう。通い詰める冒険者たちによって、狩りがしやすいように工夫されているってわけだ」
用意してあったカンテラを吹き消して、中へと歩を進める。
上り傾斜がついていて、また驚かされた。
「一層、二層ってのは上りの層だったか」
「守りの迷宮は山頂へ近づいていくんですね」
緩やかな曲がり角の向こう側にニュウっと影が伸びるのが見えた。
壁へ張り付き身を潜め、剣を握る。背中につくぽこが身構えた。
影の主はギュムっギュムっと奇妙な足音を立てながら近づいてくる。
影が近づくにつれて小さくなっていく。
独特の足音と、影の形に魔物の予想をつけた。
腰元のポーチから布を取り出して鼻と口を覆い隠すように巻いた。ぽこも真似る。
現れたのは歩きキノコの列だった。
毒々しい鮮やかな色のカサは一匹ずつ違う色だ。群れで歩くときに一列になる習性がある。
「狩るぞ」
俺の言葉にぽこがこくりと頷く。
歩きキノコの列の先頭が俺たちを通り過ぎたところで、剣を一振り。
サクッと、歩きキノコのカサの部分が三匹分、宙を舞う。
頭を失ったままで、しばらく行進していく胴体を放っておいて、次の三匹を切った。
サクサクサクッ!
ポインポインポイン
地面に落ちて跳ねたカサから、紫色の煙が出る。
充満する前に、全て倒して先に進む。
「あんなに切れるものですか?」
紫色の煙から十分距離を置いたところで、ぽこから質問が出た。
「――――」
剣の刃を鞘からわずかにちらつかせて戻した。
刃が鞘から出入りする音に心が躍る。
「あぁ、だから研ぐのが好きなんですね」
「そうだ」
元はといえば根っからの盾である。切れ味を追い求める内に、暇さえあれば刃物を研ぐようになり、今でも習慣が残っている。
迷宮に入らないくせに切れ味だけは鋭く、歩きキノコ相手に切れ味を喜んでいるだなんて、恥ずかしいにもほどがある。
顔から火が出そうなのを隠して先に進む。
奥に進むにつれ、歴代の冒険者たちによって整備された標識は朽ち果て、灯りの魔術が減っていく。代わりに、下草が生え始め、とうとう巨大な洞穴から森に出た。
ここからが二層だ。
ここが迷宮だというのを忘れるほど穏やかな森の中を、目印を頼りに奥へ進む。
「守りの迷宮と、大屋根山の氷窟は全然違いますね」
「インマーグの迷宮は手つかずに近いからな。こっちは安全な迷宮ってやつだから、冒険者の出入りの数が違う」
ぬかりなく警戒しながらも、頭に叩き込んできた地図の道を登る。
俺たちを警戒しているのか魔物は出てこない。ここらにいるのは野生動物ばかりだ。
「冒険者が狩っちまうから金になる魔物はここらには少ないのかもな」
二層でさえも人の手が入っている。拍子抜けするほど安全で、迷宮に入るか入らないかで、あわや別れ話になるほど揉めたことが恥ずかしくなる。
ぽこが鼻をスンスンと鳴らした。
鋭く二度、俺の尻を叩いた。危険を知らせるサインだ。
ぽこの視線は前に固定されている。あちらに何か匂う生き物がいるらしい。
足音を消して、道から外れる。元の道の行く先に回り込むようにゆっくり近づくと、人間の俺でも悪臭を感じ取った。
枯れた声で、引きつるような鳴き声、それに汚物の臭い。
厄介な魔物を思い描きながら、視界を遮る枝を静かにずらした。
枝に茂る葉の間から、岩の上で道を見張る魔物が見えた。
顔から胸は人間の老女で、翼と下半身は鳥。ハーピーだ。





