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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第12章 古の薬と迷宮
38/60

130話 ぽこと守りの迷宮①

 なぜ皆揃って俺とぽこを迷宮に行かせたがるのだろう?

 迷宮に入りたい奴はたくさんいるのだから、そいつに任せればいいものを。


 キュマ先生が迷宮の話をしてから、俺は機嫌が悪い。普段からあまり話す方ではないが、さらに口数が減っている。

 ぽこと迷宮の話をすれば喧嘩になるのが見えているから、ぽこも何度もせがんでこない。だが、目には口ほどにものを言う。

 期待の籠った眼差しを受け止められず、「クエスト屋で話を聞く」とだけ言っただけだった。


 それが、クエスト屋からも守りの迷宮に入れと言われたわけだ。

 断り難い方法を取られることも解せない。


「キュマ先生からの依頼、それに龍への納品クエスト、両方合わせてキャンセル料はいくらだ?」


 温泉宿への貯蓄が全て飛ぶだろうと予想している。


「えっ⁉」


 ブライスさんは驚き、それでも計算しはじめてくれた。


 ぽこからの視線が痛い。


「旦那様」


 返事もせず、目を瞑った。昨日から酷いことをしている自覚はある。


「旦那様、話を聞いてください」


 隣にいるぽこにゆっくり視線をおろした。大きく丸いぽこの目には、強い意思を感じる。


「ぽこを失いたくない」


 絞り出すような声に、ぽこが頷いた。

 安全な迷宮だろうと、まだ龍がいるのだ。龍のいる深層に入れば安全ではないだろう。ましてや、龍の髭なぞ。


「ぽこは、旦那様との赤ちゃんが欲しいです」


 震える声に胸を打たれる。強く握った己のこぶしが震える。


「赤ちゃんを産むのだって、母親は命がけです。それでもぽこは赤ちゃんが欲しいです」


 ブライスさんが察したように、とっくに終わっているはずの計算を何度もしているフリをしているのが目の端に映った。


「大山根山の氷窟の迷宮には連れて行ってくれましたよね」


「あれは入り口までのクエストだったからな」


 ようやく返事ができた。


「ぽこは一人でも行きます」


 ぽこは目じりに涙を溜めて、ブライスさんの手からクエスト証を奪い、自分の名を書き始めた。


 止められないのか。

 行って欲しくないと懇願しても無駄なのだろうか。

 俺が迷宮に入らぬ理由を、ぽこは理解しているはずなのに、それでも行くのか。


 ぽこの美しい文字を眺めて、奥歯を噛みしめる。


 父親からの誕生日の祝いの品を火にくべる苛烈さがぽこにはある。

 家出するほどの行動力も。

 大事だからと家に閉じ込めておくことはできないらしい。


 頭を掻きながら、大きくため息をついた。


「悪かった。俺が間違っていた」


 ぽこが持っていたペンを奪い、記名する。


「どちらにせよ失うことになるのなら、俺が連れて行く」


 ぽこが俺の背中に額を押し付けた。とりあえず和解ということだろう。

 手を探り当てて、固く握りしめると、握り返してきた。


 二名のバディーとして記名済みのクエスト証を、ブライスさんに手渡すと、固い表情で受け取った。

 クエスト証には、受付担当者の名前も必要だ。


 ブライスさんは、ペンを持たずに、クエスト証を見つめて、ゆっくり顔を上げた。


「冒険者にもそれぞれ背負った生き方があります。私はそれを考えずに一方的にお願いしてしまった。どうか、この仕事をお二人にお願いする理由を聞いてください」


 ブライスさんが、椅子を勧めてくれた。

 冒険者と話し込むためにある長椅子にぽこと並んで座る。手は握り合ったままだ。


「守りの迷宮の龍は、大昔は恐ろしい暴れ龍だったそうです。近隣の村は水没され、人々は人身御供を捧げることで機嫌を取っていたそうです。そんな暴れ龍が、ある日契約を持ちかけてきたと伝えられています。その契約を守るなら人を襲わないと」


 それが安全協定なのだろう。


「その契約が、四年に一度、龍へ貢物を捧げるというものです。我々王都のクエスト屋にとってもっとも人選が難しいのが、今回の龍への納品クエストです」


「なぜですか?」


「実は龍が生きていることは極秘事項です。冒険者に知れると、退治しようと侵入禁止地区に入ろうと企むはずですから」


「冒険者が龍討伐のために三層よりも深くに入れば、守られてきた協定はなくなってしまいますね」


「そうです。龍を退治しようとは思わない者しかできない仕事です」


 冒険者になる者の多くが、金と名誉を求め、危険を伴うクエストへ憧れる。

 スダチ訓練で命が重視されるのはここにある。


「なるほどな」


 迷宮に入りたくない俺は、このクエストにうってつけというわけだ。


「これまでは誰がやっていた?」


「病を患った者、生い先短い老人です。冒険者には頼めませんでした」


 それでも断る人の方が多いだろう。クエスト屋が一般人を相手にすることはご法度だから、これは王都のクエスト屋が抱える闇の部分になる。


「ですが、彼らは皆、生きて帰ってきています。だから、安全なのだと勝手に考えていました。お二人の気持ちを考慮せずに発注して申し訳ありません」


 ブライスさんが、頭を下げた。


「超難易度のこちらのクエスト、王都クエスト屋としてオズワルドさんとぽこさんに依頼させてください。よろしくお願い致します」


 ブライスさんが俺とぽこの顔を見る。ぽこと顔を合わせて頷き合った。

 それからブライスさんがクエスト屋の部分に記名した。


「さぁ、忙しくなるぞ!」


「はい!」


 腹は決まった。守りの迷宮に入り、龍から髭を貰おう。

 そして、種族変更の薬を完成させる!

この一件が片付いた暁には、ぽこにプロポーズしよう。


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