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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第12章 古の薬と迷宮
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128話 ぽこと記念会

「オズワルドさん! ちょうどいいところに通りかかりましたね」


 呼び止められて、声がした方を向くと、編集者とぽこがいた。


 キュマ先生百冊発売記念会は、挨拶、乾杯に業界のお歴々の挨拶からのサイン会と続いている。残りのイベントは締めの挨拶くらいだ。


 参加者は適度にくつろいで、酒と料理、そして雑談を楽しんでいる。開催者側の俺は、華やいだ会場内を見回っていた。


「こちら『おくすりのはなし』の挿絵を描いた方です」


 編集者に紹介してもらって、編集者とぽこの向こうの人に気が付いた。

 白髪で鉤鼻だけが赤い老人の夫婦だ。兄弟と言われても違和感ないくらい似ている。


「こちら中央にお勤めの冒険者オズワルドさんです」


「ぽこの旦那様です」


 老人は感じよく微笑み、やさしい握手をした。


「やぁ、身体も手も大きいですね。冒険者というと、専門は盾の方でしょうか?」


「おっしゃる通りです」


 パーティーメンバーを前線で守る盾は、総じて身体が大きく見た目が怖いから、言い当てられるのは不思議ではない。


「ちょうどよかったというのはですね、絵のことでご相談があるそうで」


「はぁ。何でしょうか」


 俺に絵心はないから、緊張してしまう。


「オズワルドさんは『おくすりのはなし』をお読みになったと伺いました。ねずみが熊になっている絵を覚えていらっしゃいますか?」


 確か熊みたいに強くなったら冒険者になりたいという話だった気がする。ねずみくんは、盾役の装備だった。


「あの絵は、どこがおかしいのでしょうか」


 言われて、改めて絵を思い出してみる。あのときに感じた違和感を伝えると、老人はその場で紙を取り出して、さらさらと絵を描いてくれた。


「これならどうです?」


「大丈夫です」


「なるほどなるほど」


 老人は自分の描いた絵を見ながら、すぐ隣に別の角度からの絵をいくつも描き始めた。

 正確な絵がどんどん生まれる様をついつい見てしまう。


「すみまんねぇ。夫は絵を描き始めたら夢中になってしまって」


 老婦人が、夢中で絵を描く夫の代わりに、話し始めた。


「いかがされましたか?」


「『おくすりのはなし』は、多くの読者さんに読んでいただける分、ご指摘も多いものですから、ずっと気にしていたようです」


 老婦人の言葉に、何がちょうどよかったのか納得した。

 子供向けの絵本くらいなら、所帯を持った元冒険者でも買えるから、俺のように違和感がある盾役がくだらぬ文句でも言っているのだろう。善意の押し売りってやつだ。


 老婦人は、まだ絵を描いている夫に優しく声をかけた。老人がこちらの世界に戻ってくる。


「またやっちゃったな」


 二人は顔を見合わせて、さらに目を細め合う。仕事に夢中になる夫と、サポートする妻の長年に渡る阿吽の呼吸を見ていると、こちらも、心穏やかになる。


「お二人は、仲がいいのですね」


「連れ添って三十年です。子供もおりませんが、その分二人で楽しんでいます」


 老夫婦に声をかけてくる者が出てきて、俺とぽこはその場から離れた。編集者も挨拶にせわしない。


「いいですねぇ」


「本当になぁ」


背の曲がった老夫婦が寄り添う様子を見て、こうありたいと感じたのは、どうやらぽこも同じらしい。

たぬきと人間の俺たちは、このままだと結婚しても子は成せない。古の薬を追いかけて、はるばる王都に来たのに、現状だと期待は薄そうだ。

子がいなくとも、ぽこがそれでも幸せだと思ってくれるなら、と感じていた。


「いつまでもあんな風にいたいもんだよ」


「え、誰とですか?」


 危うく返事をしそうになって、ぽこの頭をくしゃくしゃにしてやった。


「わっ、今日はだめですよ」


 記念会の会場の下見をしたときと同じように、美しく着飾ったぽこの髪を乱したことに抵抗されたが、顔は笑っている。


 時期をみて、プロポーズしよう。


 恋人になって一年と少ししか立っていない。それに、古の薬も見つかっていない。それでも、ぽこと形のある絆が欲しくなって長い。

 ぼんやりとした希望が、はっきりとした願いになった。


「おーい。冒険者くーん! 例の薬についてなんだがぁ!」


 キュマ先生が、俺たちを呼んだ。


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