表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第12章 古の薬と迷宮
35/60

127話 ぽこと記念会準備②

 今日の会場の下見は、最有力候補だ。

 まるで貴族の館のように優美な外観で、庭までついている。

 白い手袋をした店員がいらっしゃいませと店名を言わなければ、来る場所を間違えたと思っただろう。


「こちらでございます」


 中に入れば、玄関ホールの隣の大きな広間が見えた。ゆったりと机が配備されていて、多くの客が食事を楽しんでいた。インマーグでいえば、街長の館のような豪華な空間だ。


 二階へ続く階段を見て、ぽこと視線を交し合う。

 今日、下見をしているのは店には内緒だ。


 食前酒を頼み、杯に口をつけるとぽこが早速話し始めた。


「ここを立食形式にするつもりです」


「なるほど。今の机の配置なら三百人と少しだが、立つのなら四百人入れるというわけか」


「そうです。ですから、今日の料理も手でつまめるメニューを中心にしました」


 メニュー表を見せられても、俺は全くわからなかったが、ぽこはすぐに決め、店員さんにお勧めを聞いていたくらい余裕があった。


「この酒、うまいな」


 辛口で口にふくんだ途端に華やかな香りが広がった。喉を焼きながら腹へと落ちていく。


「ヘレス酒と言っていましたね」


 琥珀色の液体が杯の淵をゆっくり伝い落ちる様が目を楽しませる。


「王都では初めてづくしだが、これはいいな」


「今度、酒屋さんで探してみましょうよ」


「あぁ。楽しみだ」


 たった二口で飲み終わってしまった。

 残念に思いながらも、料理にも期待してしまう。


 最初の料理は、スプーンに一口分だけ乗ったものが出てきた。たった一口分しか出ないことに驚いたが、まぁ、こういう店は大皿料理をがっつくところではないのだろう。


 次に出てきたのはスープで、これには困った。

 机には様々な形のスプーンが用意されている。自由に使っていいわけじゃなさそうだ。


「一番外側から順に使うように並べられています」


 ぽこが手に取るのを真似する。

 ぽこはたぬきのはずなのに、という疑問はこういうとき毎回湧くが、規格外なのだ。

例えぽこが人間だったとしても、記念会の準備をこなして、貴族のようなマナーを身に着けていることには驚いただろう。

 ただの人間の俺は、どうにも落ち着かず、食った気がしない。


 だが、三皿目の魚のムニエルは一口目から、唸ってしまった。


「うまいな」


「エシャロットが効いてますね」


「今度うちでもやってみよう」


 ぽこと顔を見合わせて微笑みあう。

 うまいもんを一緒に食べる。初めてのことを一緒に経験する。これがやけに心を満たす。

 王都に来て、それまでは年上としてぽこを常にリードすることを意識していたと気づいた。

 見知らぬ街で、道にさえ迷う己を情けなく感じたが、ぽこは道に迷うことすら楽しんでくれた。


 どこか心の隅で、家出娘で末っ子のぽこは、父親のような年齢の男に頼りがいを感じ、それを好意と置き換えているのだと思っていた。

 実際には、対等な立場になっても変わらずに好いてくれている。



 大きな窓から庭が見える。三連の月に照らされて庭木が一段と暗い影を落とすが、そこにカンテラが置かれて、オレンジ色の明かりが心をよりくつろげる。


「庭も素敵ですね。ガーデンパーティーも考えたのですが、雨が降ることを考えると、なかなか思い切れなくて」


 そういえば、仕事で来たのだったと思い出した。


「なるほど。玄関ホールから見えた二階も雰囲気があってよかった。あっちを使う予定は?」


「記念会は、キュマ先生にお祝いを述べつつ、顔を広め、お世話になっている人をもてなし、さらには宣伝する目論見がありますから、一同に会する必要があります」


 二階には複数の扉があったから、一階のこのホールほど広くはないらしい。


「控室として予約するつもりです」


「さすが、抜け目がないな」


 褒めるとぽこは花が咲くような笑顔になった。

 記念会当日は、きっとコキ使われて忙しいのだろうが、下見の今ぐらいは、食事を楽しむことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
あなたの楽しみになるよう、更新していきます!


10eg69f26mdlk4fqio1vb3fz9nad_o7x_2hw_2xk_h1zm.jpg
『たぬきの嫁入り4』へ



〇 更新情報はX(旧Twitter)にて

▶https://x.com/aiiro_kon_



〇 ご感想・一言メッセージをどうぞ

→ マシュマロ(匿名)
https://marshmallow-qa.com/ck8tstp673ef0e6



〇 新しい話の更新をお届け

こちら ↓ で、『お気に入りユーザ登録』お願いします。
(非公開設定でも大丈夫です)
▶▷▶ 藍色 紺のマイページ ◀◁◀




いいねや反応を伝えてもらえると、
新しい物語の活力になります☺️


本日もお読みいただき、ありがとうございました。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ