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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第12章 古の薬と迷宮
33/60

125話 ぽこと研究室

ピーター・ウェインはなぜ俺を助けてくれるのだろうか?

部下だからか?

そもそも中央に属しているものの、上部の人間関係はよくわかっていない。

周りの反応からするに、ピーター・ウェインが慕われているのは確かだ。


ブライスさんや案内係にピーター・ウェインに会ったことがあるか質問すると、ブライスさんは騎士団の行進で遠目に見たことがあり、案内係はなかった。

そもそも、俺たちの身分で、騎士団長級の貴族と対面すること自体が珍しいらしい。

 

一度も会ったことのないピーター・ウェインって人がわからないまま、一年が過ぎ、また夏がやって来た。

この一年、クエスト屋も健全に運営され、新人育成部門の立ち上げでは、引率者が十一人に増えた。

この先、指導員を指導する者を育てられたら、俺しかできない仕事も減るだろう。


他に変わったことと言えば、ぽこは、犬のケリー対策として、肉やチーズの切れ端を持ち歩くようになった。

九重蔓(ここのえかずら)の館から出入りするときは、遠くに肉を投げて、ケリーが取りに行く間に姿を消している。

インマーグのクエスト屋受付は、昇進試験を不合格になったが、再チャレンジしているらしい。相変わらずの様子で、これに関しては父親が気の毒で心が痛む。

ラッセルは行方不明のままだ。



  ❄



「材料、なかなか揃いませんね」


 キュマ先生の研究室で、ぽこと並んでヨモギを茎と葉に分けている。

 当初、気味が悪いと感じた研究室にもすっかり慣れるくらい様々な材料を納品してきた。

 キュマ先生意外の研究員は、追加注文すれば、俺とぽこが材料の下ごしらえもやると知ってしまい、研究室で作業することも増えている。


「今日こそキュマ先生を捕まえて、種族変更の薬の材料がどのくらい集まったか教えてもらおう」


 ぽこが頷き、研究室の奥の扉をじっと見つめた。

 キュマ先生の部屋には、常に灯りが灯っているが、ノックは許されていない。キュマ先生に用のある者は、稀に出てくるのを捕まえるしかない。


 研究室で仕事をするたびにキュマ先生を探しているが、最近は益々姿を見ていない。


「大量に集めるようになって、もう一年です」


「違う実験に横流ししてるんじゃないか?」


 俺たちが寄り分けたヨモギを、横ですり潰している研究員がびくりと身体を揺らした。


「お! いいところにいた! 来たまへ!」


 キュマ先生が、突然現れて、ぽこと俺を呼びつけた。先生の後に続いて、奥の部屋に入ると、先客がいた。


「さっきの話は、この二人に任せるから」


「はじめまして。私は先生の編集者です」


「ほら、『おくすりのはなし』は、この人が担当だよ」


 編集者が握手を求めてきたので、応じる。


「二人は優秀な冒険者でね。この二人にできないことはない!」


「それは頼りになりますね」


 褒められて悪い気はしないが、まだ何を任せられたのかはわからない。そもそも、呼ばれただけで、仕事を受けるとも言っていない。


「私は会議があるから出るが、ここで打ち合わせするといい」


 キュマ先生は電光石火の勢いで出て行ってしまった。

 残された編集者と、三人で顔を合わせる。


「さて……。何の話なのかお聞きしましょうかね」


 本当のところは、こんな胡散臭い話は聞きたくない。聞けば、承認したも同然だからだ。

しかし、俺たちは冒険者。

全ての仕事はクエスト屋を通さないことには規則違反になるから、いざとなればそれを盾に逃げられるはずだ。


 応接用の低い机を挟んで、編集者の正面に座った。いつものようにぽこが隣にいてくれる。


「キュマ先生の百冊目の本の記念会を開くことになりましてね」


「百冊⁉ 凄いですね」


「いやぁ。本当にキュマ先生の執筆の速さには驚きますよ。快挙です!」


 研究する傍ら、よく百冊も書けるものだ。


「お二人には、その記念会の準備をお願いします」



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お読みいただきありがとうございます

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