124話 オズワルドと聖翼獅子団④
「では、説明させていただきます」
姿勢を正し、二か月の間幾度も練習したことを話し出す。
「俺たち冒険者は金が貰えればたいていの仕事はしますが、無給では動きません」
「どういうことだ」
第一団団長が片眉を上げる。
「演習場を荒らしているのは、俺たちではなく、あなたがた自身です。我々は今までしていた環境修復をしていないだけです」
この二か月の間に、何度も足を運び、どんどん荒れていく演習場を見てきた。何の訓練でどんなダメージが残るかを説明する。
二人は黙って話を聞いてくれている。
「これらのダメージを、我々冒険者は修復してきました」
「今までやっていたことをやらぬのは、なぜだ」
「無給だからです」
「今までも同じだっただろう?」
「これまではクエスト屋と冒険者が折半して費用を出していました」
「納得がいかんな。君らが損をしてまで修復していた理由は何だね」
ここでようやく本題が始められる。
「騎士団の演習場は、王都から徒歩二日以内なら六ヶ所あります。この全てが我々冒険者のクエストの場でもあります。我々は騎士団の演習とクエストが被った場合、即座にお譲りしていました。これは、国と騎士団への敬意の表れです」
「そんな当たり前のことはいい」
第二団団長の言葉を遮るように、第一団団長が先を話せと手を払った。
「クエストには期限があり、守れぬ場合は罰則金が課せられます。これも我々は黙って被って来ました」
「なるほど。同じ場所を使うから自分たちの為に修復していたというわけだな。だが、お前が、我々に費用を出させれば儲かると言い出した。違うか?」
「演習の日程も教えていただければ、演習後即座に修繕ができます」
第二団団長はまた顔を真っ赤にしたが、今度は怒鳴ったりしなかった。第一団団長が腕組みをする。
「大胆な手を使ったものだ。名を何と申す?」
心の中で、顔を歪めてしまう。
とうとうこのときが来たか。
騎士団や軍に名を覚えられていいことなぞ一つもない。
今回、軍が出張ってこなかったのは、彼らには専用の訓練所があるからだ。
騎士団や軍をなるべく避けたい理由は、俺の父親が、国境での小競り合いに巻き込まれて死んだから。彼らに巻き込まれたりしなければ、あんなことは起こらなかった。
騎士団や軍は、個を認めないくせに、ひねりつぶすためなら名を聞いてくる。
「オズワルドです」
この計画を思いついたときから、名乗る覚悟をしていたが、苦い思いが伴った。
「ふぅむ。騎士団に入団しないかね」
意外な言葉に驚き、次に、からかわれているのだろうと思った。
「俺は生まれが卑しいもので」
「騎士団にも出自が貴族と関係なかった者もいる。養子になれば済むだけのこと」
そんな方法があるのかと意外だった。それでも、俺は冒険者でいたい。
自由気ままな冒険者でいれば、自分が守りたいものを守れる。
脳裏にぽこが浮かんだ。それだけで、騎士団の館で詰問されている苦しさから癒される。
「任務に向けて二度も策を練られる者は少ない。その実行力を評価しているのだ。どうかね」
第一団団長が話す最中に、俺の背後の扉がノックされた。
第三団の者だと名乗った男が入室して来る。
第三団はピーター・ウェインが団長を務める騎士団だ。
第三団からの使者は、団長二人にだけ聞こえる耳打ちをして出て行く。それだけで団長二人は態度を変えた。
「もう帰ってよい」
唐突に開放されて、海神通りへ出された。
クエスト屋に騎士団の演習日程を予告してくれる話も、環境修復クエストへ予算を回してくれる話もどうなったのかわからない。
おまけに、演習を邪魔した俺の処分がどうなるのかもわからないままだ。
不明点が多く、気味が悪いまま畑に歩いて戻る。
皆の姿が遠目に見えるようになったとき、向こうからぽこが駆け出すのが見えた。
それでようやく、ぽこに何も言わないまま、突然騎士に連れられて行ってしまったと思い出した。
「旦那様!」
ありえない距離から、飛びついてきて、こっちは驚いて両手を広げて受け止める。
ぽこの柔らかい衝撃を受け止めると、すぐに両手で頬を固定された。
「大丈夫ですか⁉」
顔を確認し、耳元に鼻を寄せて嗅がれる。
「よせ、くすぐったい!」
人間姿なのに、ピスピスと鼻が鳴る。
向こうの方から、冒険者たちの笑い声が秋風に乗ってくる。
両足を俺の胴に巻きつけ、両腕は首に回される。
ぽこをへばりつけたまま、皆と合流した。
「で、何だって?」
「要望を言うだけだった」
「お貴族様のすることはわかんねぇな」
「オズワルドの旦那が無事に帰ってきただけでもよかったぜ」
曖昧なままではあったが、今度は話を聞いてもらえただけでも前進だ。
第三団からの連絡が何かの決め手になったのも間違いないだろう。
つまり、ピーター・ウェインからの一言が俺を助けてくれたのだ。
そして、その日の夕方には、新しい環境修復クエストが、騎士団から正式に発注された。





