123話 オズワルドと聖翼獅子団③
グシャリ、カサカサ
手元には乾燥させた豆のさやがある。
「だからよぉ! オズワルドの旦那! いつまでこうしてりゃあいいのよ」
グシャリ、カサカサ
一定の速度でさやを握りつぶして、中から豆を出す。
「そりゃあ、稼ぎが減らねぇように工夫してくれてるのはわかる。だがよ、俺たちにだって目指すもんがあって冒険者になったわけだ」
グシャリ……
夏にバッタ取りに精を出してくれた結果、秋にはこうして、例年を上回る収穫が迎えられた。収穫と処理のお手伝いクエストをしている最中。
王都の外にある畑の片隅で、冒険者が輪になって乾燥させたさやから豆を収穫中だ。秋風に吹かれて潰したさやが飛んで行く。
単純な作業だが、冒険者だけに任せておけずに、俺もぽこと一緒に参加している。
任せておけない理由は、止まないこの文句にある。
聖翼獅子団との問題解決に向けて提案した俺の案が採用されて二か月になる。
そろそろ結果が出てくれねば、責任を取らねばならぬだろう。
「旦那様、豆が潰れてしまいますよ」
隣で同じ作業をしているぽこに言われて、無意識の内に指に力を込めすぎていたことに気が付いた。
「あ、あぁすまん」
立ち上がって大きく身体を伸ばし、肩や首を回したら、盛大に関節が鳴った。
ぽこを含めた、周りの冒険者たちが苦笑する。
「まぁ、オズワルドの旦那は俺らのことを考えてくれてんだろうが、物事ってのは、現状維持が一番ってこともあるわけだ」
慕ってくれている彼らが前の方がよかったのにと文句を言うくらい、音沙汰ない。
じわじわと焦りが忍び寄っているのは、冒険者も俺も同じだ。
あのとき、俺がピーター・ウェインに進言したのは、騎士団の環境修復クエストの停止だった。
後始末をせねば、騎士団は困ることになるはずだ。
騎士団には、我々冒険者のおかげで、些末なことに気をとられずに国家安全に力を注げているのだと気づいて貰いたい。
今まであったクエストを停めるということは、それをやっていた冒険者の仕事を奪うことになるから、農家や地域と交渉して、地道な仕事を探してきている。俺の苦労を知ってか知らずか、冒険者たちはこの仕事に文句を言う。
ようやく黄色いリボンが取れた彼らは、自由に仕事をしたい。そこに俺が制限を設けているのだから、文句が出るのは仕方がない。
王都を離れる者もいるが、そもそも冒険者とはよりいい仕事を求めて彷徨う者である。元偽初心者たちは、最大で三年ほど王都に定住していたためか、移動を嫌うようだ。
「もう少しだけ待ってくれ」
「あんた先週もそう言ったがね。期限がなけりゃ、もう待てない」
いつものやり取りが始まったとき、冒険者の一人が王都の方を指さした。
「おい、あれは赤い獅子の紋章じゃあねぇか?」
王都から、赤い獅子の旗を背に差した騎士が馬に乗って駆けてくる。
「いよいよだな」
立ち上がると、身体中についていたさやの欠片が冷たい風に乗って飛んで行った。
❄
馬の背に載せられ、急ぎ王都の聖翼獅子団の館に連れてこられた。
以前と同じ部屋に通されると、前と違って今回は中に人がいる。
一人は第二団団長だ。同列に座っているから、もう一人は第一団団長だろうか。第三団団長のピーター・ウェインは今回もいない。
「呼ばれた理由はわかるな」
返事をしようとした瞬間、立て続けに詰問される。
「楔山、西の大草原、黒の森、例を挙げればきりがない」
「我ら聖翼獅子団への嫌がらせか」
「これは国家への反逆である」
「何とか言ったらどうだね」
団長二人の怒り具合に、いい具合に煮詰まったと内心ほくそ笑んだ。
貴族の彼らは冒険者の俺の話に耳を貸す気はなかった。こんな風に聞き出されるのを待っていたわけだ。
「しなくていいと仰ってたので、しませんでした」
悪びれなく言うと、第二団団長が顔を赤くした。感情に走る人は話をつけやすい。攻める相手は第二団長だ。
「そんな理屈が通るとでも⁉」
机を拳で叩き、憤る。
「そう熱くなるな。この男の思うツボだぞ」
第一団団長の声に、第二団団長が肩で息を吐いて、冷静さを取り戻してしまった。
そう容易くは乗ってくれないらしい。さすがは貴族と言ったところか。
「言いたいことがあるなら聞こう」
穏やかそうな声音だが、入室直後から、刺し殺しそうな視線で俺を見ている第一団団長が、両手を机の上で広げた。
話し相手は私だと告げている。
第一団団長と真っ直ぐ顔を合わせた。
「では、説明させていただきます」





