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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第11章 朱に交わらぬ者
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121話 オズワルドと聖翼獅子団①

 たった一度のスダチ訓練で驚くほど王都の冒険者たちの雰囲気が変わった。

 多くの冒険者が合格することで、二の足を踏んでいた偽初心者たちも二度目のスダチ訓練の申し込みをしている。

偽新人はほとんどいなくなり、王都在住の正規の冒険者の数が激増した。元の人数はやや減少だが、システムを悪用する者がいなくなれば、この程度はすぐに自然回復するはずだ。


予想外だったのは、クエスト屋の職員たちのやる気が上がったことだろう。

冒険者たちからクエストの相談を受けるようになり、仕事にやりがいができたようだ。



 だが、俺は新しい問題に直面している。

 クエスト屋のカウンター内で、この一年に起きた騎士団によるクエスト妨害の件を洗い直しているところだ。

 多い。実に多い。

 クエスト納期に余裕があっても、騎士団の演習後はひどい有様で続行不可となっている。


「あぁ、この回は酷かったんです。それで十三件のクエストが中断しました」


 付き合ってくれているブライスさんが、中断した十三件のクエスト証を出してくれる。

 彼の仕事は早くて正確だから、資料を漁るときには大変助かる。


「中断なんかすりゃ、ペナルティーが科せられるだろう?」


「代わりに環境修復クエストが出ましたから、それを優先的にしていただいて、ペナルティーの半分をクエスト屋が補いました」


「残りの半分は?」


「冒険者持ちです」


 えー。そりゃないわ。ない。

 ついブライスさんを白い目で見てしまった。


「相手は、聖翼獅子(せいよくじし)団です。王都では、国軍や議会に肩を並べる権力があります」


 言い繕うというよりも、俺に注意しているブライスさんに、感謝してしまう。

 本当にいい人だ。


「それで、環境修復クエストって何かな?」


 渡された該当するクエスト証をめくると、ブライスさんが横から説明してくれた。


「ゴミ拾い、折れた木の手当て、抜かれた希少植物の植え直し、踏み固められた畑を耕し、傷ついた野生動物を保護……」


「わかった。ありがとう」


 次々と読み上げられるのを手で制する。


「これを全て冒険者たちがしてるのか?」


「そうです」


 言葉にはしないが、ブライスさんが騎士団にいい感情を持っていないのは確かだろう。

 俺も同じだ。

 その上、俺はできれば騎士団や軍と関わり合いにならないでおきたかった。だが、仕事は仕事。仕事とは面倒くさいものだ。


「費用を騎士団に押し付けたら、いい仕事になるんじゃないか?」


「えげつないこと考えますね……」


 元は騎士団のせいでできた仕事を、クエスト屋が費用を被って損しているのだから、そこの筋を正せばいいだけのこと。

 ついでに、演習の日程を教えてもらえれば、事前に環境修復クエストが出せるから、やりたい冒険者が増えるだろうと考えている。


 ピーター・ウェインの秘書へ上げる今日の報告のために、せっせと証拠を集める。

ピーター・ウェインを納得させるには、できるだけ具体的な事例と数字を出すのがコツだと、手引き書を作る間に学んだところだ。



「旦那様―!」


 書き終わった書類をまとめていると、ぽこがカウンターの外から俺を呼んだ。

 背中に風呂敷リュックを背負っているから、キュマ先生の研究室への納品クエストを終わらせて、褒賞を取りに来たところだろう。


 片手を上げて、外を見た。

 日の傾き具合からしたら、そろそろ仕事上がりの時間だ。


「ぽこちゃん、頑張りますね」


 一緒に書類を作ってくれていたブライスさんがぽこを見て目を細めた。


 古の薬の材料集めである、俺たちを指名した採集系クエストは多い。

 ぽこは、スダチ訓練の後から、毎日一人でできる仕事を選んでこなしている。

 俺のバディーで恋人だと周知された今、ぽこに嫌がらせする者はいないし、持ち前の人当たりの良さと努力で人脈を築いているようだ。


「ちょっと待っててくれるかな? 今から報告に行くところでね」


 カウンターから出て、ぽこの様子を観察する。

 今日は柳の葉の採集だったはずだ。

 頭を撫でていた手が頬を伝い、顎から鎖骨へ、そして腕をなぞって降りて行く。

 見てわかる傷はない。表情もいつも通り可愛いから、問題はなかったようだ。


「わかりました」


「ぽこ! 時間あるなら、この間言ってたお店に寄ろ!」


 案内係が来て、ぽこの首に腕を回した。いつの間にか随分と仲良くなっていることに驚く。

 まだ日も暮れ始めたばかりだから、女二人でうろついても問題ないだろう。相手は、冒険者を相手に引かない案内係だしな。


「行ってくるといい」


 口ではそう返事したが、手はぽこの指をなぞる。


「あー! もう! ぽこ行こっ‼」


「あーん。旦那様ぁ」


 案内係に無理やり引きずられていくぽこを見送ってから、奥の階段へと向かった。



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