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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第11章 朱に交わらぬ者
28/60

120話 ぽことスダチ訓練④

(くさび)山は我々が使う。獲物と間違えられたくなければ、早々に立ち去れ」


「はっはひ!」


 クエスト屋の情けない返事に、冒険者側から不満が出た。


「またかよ!」

「スダチ訓練はどうなる?」


 またってどういうことだ?

 疑問が頭に浮かんだが、聖翼獅子(せいよくじし)団が歩を進めてくるのに対応する方が先だ。


 騎士団の先頭に立った者が、一番近くに張ったテントのロープを剣で打ち切った。

 中に身を隠していた者の上にテントが落ち、混乱して足掻く。


「はははは! 今度は不敬罪で首を落とすぞ!」


 冒険者の立場は、限りなく底辺に近い。それに対し、あちらは貴族の親類縁者。こうなれば、圧倒的に不利だ。


 大慌てで荷物をまとめて、我々スダチ訓練関係者は、窪地を出るしかない。



 最初、楔山に登った時に絶景を見てため息をついたのと同じ場所で、今度は違うため息をついた。


 腕に矢を受けた冒険者は、ここまで来てようやく治癒魔術をかけてもらえた。

 つい今まで腕に刺さっていた矢を地面に投げ捨て、足でへし折った。


「畜生! 毎回毎回嫌になるぜ!」


「毎回? さっきも()()と言ったな。どういうことだ?」


 口々に不満と一緒に教えてくれるが、全員同時では聞き取れない。

 とりあえず、みんなに言いたいことがあるのはわかった。

 皆の不満の渦が止んでから、ブライスさんが静かに口を開いた。


「騎士団の実地演習がクエストと被ると、今日のように問答無用で追い出されます。それがかなりの頻度で起こるのです」


 ベテラン冒険者の引率候補者五人が、そうだそうだと肯定する。


「今日のようにクエスト途中で追い出されたら、達成条件をこなせずに、罰則金を払うこともある」


「しかも、騎士団の演習は荒らし放題やり放題だ!」


「演習場の環境回復がクエストに上がることもあるくらいですよ」


 なんてことだ。

かちあえば騎士様に優先権が生じるのは仕方のないようにも感じるが、こちらとしてはやりきれない。

 偽初心者のような若者でもこれほど不満を持っているのだから、経験を積んだ冒険者なら王都でクエストを受けなくなるだろう。

 冒険者は根無し草だから、王都にこだわる理由はない。


「大問題じゃないか」


「でも、中央にはピーター・ウェインさんがいらっしゃるのでは?」


 ぽこの言葉に、ブライスさんが頷いた。


「ピーター・ウェイン団長の第三隊と被ったことはありません」


 なんだ被らないように調整しようと思えばできるじゃないか。


「騎士団に演習の日時を教えてもらうっていうのはどうだ?」


 騎士団相手に、冒険者の権利を説いても相手にされないのは明白だが、日時くらいは教えて貰えるのではないだろうか?


「それができれば……」


 単純な話だから、今までも同じ案はあって当然だ。


「それより、スダチ訓練はどうなる?」

「これもやり直しか?」


 偽初心者たちが、意欲的に取り組んでいたのはもう十分伝わっているから、クエスト屋の方も無碍にはできないらしく、困っている。


「オズワルドさん、どう思われますか?」


 こんなとき、俺のように新入りで、他の職員とは異質なタイプは発言がしやすい。

 他の職員を気遣わなくて済むからだ。


「続けよう。ただし、窪地でのサバイバル訓練よりもきつくなるがいいか?」


「やりますって!」

「もうあんたがそういうタイプだってわかってるから!」


 こんなときでも、冒険者というものは気楽に考えられる。

 故郷に残した家族以外に守るものを持たない者が多い。

 人生をどんなときでも楽しむ術を知っているのだ。


 俺が、遥か向こうの尾根を指で辿る。


「楔山のピークから、あちらのピークへ尾根伝いに移動していこう。眺めがよくてきっと気持ちいいぞ!」


 嫌そうな返事が聞こえた。


「食料はどうするんですかい? 俺たちゃ、そもそも持って来ていませんぜ」


「今日までに溜め込んだ分があるだろう?」


 ん? と笑いかけてやれば、偽初心者たちが騒ぎ出した。


「あぁ、嫌だいやだ! これだから冒険者あがりのクエスト屋は嫌だね」


「足元みてやがるぜ」


 文句を言いながら、慌てて持って来た荷物を叩いた。

 任せておけってことだろう。


「黄色いリボンをつけている割にはしっかりしてるぞ」


 褒めると笑い出す。

 騒ぐ奴らを放っておいて、隣にいてくれるぽこと視線を合わせた。


「ぽこはどうだい? 大丈夫かな?」


「勿論ですよ! 旦那様! これはぽこにとってもスダチ訓練なんですから」


 頼もしい返事に、ついつい頭を撫でてしまった。


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