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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第11章 朱に交わらぬ者
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119話 ぽことスダチ訓練③

「この地で十日間のサバイバルの後、王都に到着後合否を発表する!」


 参加者が威勢のいい返事を寄越した。


「サバイバル訓練開始の前に、皆さんの荷物から食料品を没収させていただきます。隠し持っているのが見つかれば、即時不合格となります」


「到着前に食べましたー!」


 ちゃっかりした参加者の返事に、クエスト屋も参加者も皆が笑った。


五十四人中、(くさびやま)山の窪地にたどり着いたのは四十八名。

 本来なら一度受ければ十分なスダチ訓練を複数回受けている偽初心者が多いから、ここで食料品が没収されるのはわかっているらしい。

 本当の初心者だけが戸惑う中、大きな混乱はなく、それぞれのパーティーに散らばった。


 これが初心者の集まりだと、食料品の確保をどうすればいいのかという大問題から始まるから大変だ。

 今迄、多くの偽初心者は、食料品を隠し持っていて不合格となっていたが、今回は、真面目にやるようだ。

 寝床を確保してから、釣りに行く者、狩りや採集に行く者など、それぞれの好みに合わせて分かれた。


 クエスト屋は王都から持って来た食料を食べるので、二、三人で一組になって参加者の行動を見守る。

 今回、俺はぽこと現地で食料調達することにしている。ぽこにスダチ訓練を体験してもらいたいし、何よりもやはり俺は冒険者側としての意識がどうしても抜けない。

 他の引率候補者も同じらしく、五人それぞれが食料調達に参加して、飲み水の見分け方や、食べてはいけない植物を教えている。



  ❄



 七日目にもなると、得意なことを活かして物々交換が始まった。

これが不正を働いていた偽初心者たちだろうか?

 訝しんでしまうほどに、皆がはつらつと活動して、問題という問題は起きていない。


「大変ですけど、二度のスダチ訓練を開催して正解でした!」


 ブライスさんがやってきて、俺とぽこにコーヒーを差し入れてくれた。

 朝食を終えたばかりで、ありがたく頂戴する。

ブライスさんは、焚火を見つめる俺とぽこの隣に座った。


「スダチ訓練自体には何も問題がないな」


「そうですね。これまでの長い期間、改変されてきただけはあります」


 俺とぽこの言葉に、ブライスさんが誇らしそうに胸を張った。


「今回起きた偽初心者問題は、本来ならスダチ訓練に合格した方が得であることをアピールしそびれているところが原因だったと思います」


「悪知恵が働く者というのはどこにでもいるものだな」


 低く笑うと、ブライスさんも笑った。

 コーヒーを一口ふくむ。独特のかぐわしさが口中を喜ばせる。

 ほっと一息ついた。

 弓の弦音がして、隣のぽこに覆いかぶさった。

 地面に転がり、投げ捨てたコーヒーが焚火にかかって白い水蒸気が上がる。


 近くにいた参加者の一人が、鈍い声を挙げて倒れた。


「なっ何事ですか⁉」


 慌てふためくブライスさんは座ったままだ。

 返事する余裕はなく、弦音と反対方向にある林へ低い姿勢で移動する。

 最初はぽことブライスさんを両手で掴んで引きずっていたが、ぽこは途中から自走してくれた。


 安全を確保してから、周りを見渡す。

 矢を受けた参加者は幸い、腕だったらしい。

 その場で伏せただけの者が、こっちに助けを求める。


「伏せておけ!」


 その場で石になったように、動かなくなった。


引率候補者は皆隠れている。

 その内の数名と目が合った。


“これは訓練の内か?”


首を振って否定すると、引率候補者の目が細められた。


 訓練でないなら、実戦ってことだ。怪我くらいでは済まない可能性がある。


 矢が射かけられた方から、気配が発せられた。先刻までは消していたはずだ。

 かなりの大所帯だ。こちらよりも多いだろう。


背の低い樹木が揺れ、生い茂った枝の間から、旗だけが出された。


「赤い獅子の紋章……」


 王都に来てから嫌ってほど見ているから、わかる。

 スダチ訓練側から、ほぼ同時に舌打ちが聞こえた。


「我々は、聖翼獅子(せいよくじし)団である! 楔山での実地演習を邪魔するそちらは何者か⁉ 名乗れぃ!」


 ブライスさんを見るが、震えて歯が鳴る有様だ。


「どっどうしましょう?」


 俺の腕を掴むので、引きはがして落ち着くように手で制した。


「我々は、王都クエスト屋、スダチ訓練の最中の者です!」


 声を張り上げた。


「それが本当ならば、隠れずに出てこい!」


 あちらは隠れたままだが、仕方ない。

 ゆっくりと身体を木の影から出すと、他の者も続いた。

 一番最後に、クエスト屋の職員が出てくる。こちらは素人だからか、木から離れたところまで出て行った。


 この無防備さが、結果的に功を奏した。

 聖翼獅子団から斥候が出て、我々を確かめる。


「本当のようです!」


 この声で、聖翼獅子団側が姿を現した。

 この暑いのに、揃いの全身鎧に赤いマントだ。


「楔山は我々が使う。獲物と間違えられたくなければ、早々に立ち去れ」


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