117話 ぽことスダチ訓練①
王都の陸側唯一の門である、勝利の女神門を出て橋を渡り終えたところで、偽初心者とクエスト屋の職員が群れを成している。
ラッセルの経営していた賭博酒場が摘発され、借金返済を迫るラッセル一味が消えたことで、再起を図る偽初心者たちは多い。
「今からスダチ訓練を実施致します」
それぞれのパーティーに分かれて話していた黄色いリボン保持者たちが、クエスト屋の話を聞くために黙った。
「先に今回からの新しい規則を発表します。スダチ訓練に二度不合格の場合は、冒険者登録は抹消されます。また、登録時にかかった費用は一切返金しません」
ブーイングが聞こえ、野次が飛ぶ。
ここに集まった偽初心者たちの中で、未だに悪習のままでいられるかもしれないと思っている連中がいるのだろう。
習慣とは恐ろしいもので、変化を受け入れるのには時間がかかる。
「また、この二度の両方に参加しなかったリボン保持者も同様に冒険者登録抹消です」
今度は本気のブーイングが飛んだ。
怪我などを理由にスダチ訓練を免除できる制度があるが、その悪用防止のためには、ある程度の厳しさは必要だ。
反発があるのを予想して、事前に二回のスダチ訓練の日程は告知してある。
「今回と次回の二回のみ特別に短期間で実施するのは、事情への配慮です」
「あぁ⁉ 何わけわからねぇこと言ってやがる!」
受付相手には、ごねるに限ると勘違いしている野郎のために、俺が声を張り上げた。
「二度もチャンスをやってるんだ、文句を言うな」
腕組みをして、睨みつければ、すぐに黙る。
ある一定の冒険者には、言葉よりも力で分からせる方が納得してもらいやすい。
「スダチ訓練に参加したい者は並べ!」
普段なら、クエスト屋の職員の他、ベテラン冒険者が一名同行するだけだ。今回は、通常の人数に加え、俺と、他五名の引率者、それにぽこが混じった大所帯だ。
偽初心者の経験が長いほど、同行する職員の人数の違いに気づく。
嫌がらせや不正行為は見逃すまいという意気込みが通じたのか、様子見のために集まっていた偽初心者が群れから離れた。
結局、今回のスダチ訓練の参加者は五十四人。最低二十名程度から行われる訓練だから、今回の参加者がいかに多いかわかる。
スダチ訓練は二週間のサバイバル訓練で、クエスト屋を上げての大がかりなイベントだ。
これを短期間で二度やろうっていうのだから、どれほど今回のスダチ訓練に力を入れているのかがわかる。
「今回のスダチ訓練は、楔山です」
参加者のため息が聞こえた。
「どうしてみんながっかりしてるんですか?」
ぽこが、俺の袖をツンツン引っ張った。
「王都のクエスト屋が持っているスダチ訓練の場所は、楔山と離島の二つで、楔山の方がより厳しいからだ」
ぽこが首を傾げる。山育ちの我々にとっては、山の厳しさは日常で、海の方がよほど怖い。
「山には高山病があるから、訓練場までたどり着かない場合もあるかな」
サバイバル訓練だから、高山病などの不可抗力にもどう対応するのかが合否をわける。
より厳しい楔山を選んだのは俺だ。
万一ラッセルが戻れば、即座に元に戻りかねない尻軽冒険者は蹴落とすつもりでいる。危険な仕事だからこそ、求められる資質もある。
参加者には悪さの中心人物だった者もいようが、その者は受付たちが厳しく合否を下すだろう。
昨夜の最終打ち合わせを思い出す。
クエスト屋の中には、これまでの恨みを晴らそうとする者もいた。
ラッセルがいたときとは逆の流れになっている。
これが急激すぎれば、反発を呼び、スダチ訓練は失敗してしまうだろう。
「どうせ不合格だろうと参加せぬ者もいる中、参加する意気込みは察してやって欲しい。
誰もが正しいことだけを選び続けられるわけではない」
それでなくとも、中央のクエスト屋は皆、書類審査で職員になった者ばかりで、元冒険者はいない。
勉強する余裕のある家庭で育った者と、読み書きさえ覚束ない環境で育ち、捨てられるように冒険者になった者では、境遇が違う。
「ラッセルの悪事は、国中のクエスト屋に共有されています」
ブライスさんの言葉に、恨みを晴らしたいと願っていた職員が大きく頷いた。
ラッセルがどこに逃げようと、同じ悪さはさせないという断固とした意志がある。
クエスト屋職員一同、厳しくも温かい目で今回の一大イベントを迎えているのだ。
目の前にいる偽初心者たちを、もう一度よく観察する。
ろくな仕事もできずに、壊れた装備品を誤魔化している者が多い。本当の冒険者になろうと自ずから立ち上がった者もいる。
「これから、真っ当な仕事をやるぞ! てめぇのチャンスはてめぇで掴め!」
俺の掛け声に、偽初心者たちが目を輝かせた。
おぉーー‼
スダチ訓練が始まった。





