110話 ぽことニワトコの花摘み
ラッセルの賭博酒場の場所を突き止めたところで、ピーター・ウェインの秘書に報告するタイミングになった。
「賭博酒場の件は預かります。オズワルドさんは手引き書と引率に注力してください」
「そうは言うが、俺にとっては因縁相手だ。預かると言われて、はい預けましたとはいかない」
言うだけ言って机に視線を戻していた秘書が、座ったままで俺を見上げた。
赤縁の眼鏡を指で上げ直す。
「手引き書の進捗具合はいかがですか?」
「ぼちぼちだ」
まるで話にならないというように小さくため息をつかれた。
「お預かりしますね」
格段笑うこともないのに笑顔で言われるということは、これ以上話すことはないから、とっとと戻れということだ。
今度こそラッセルを逃すつもりはない。報告前に乗り込むべきだった。
地団駄を踏みながら、一階のクエスト屋に戻る。
「オズワルドさんが引率した偽初心者の何チームかが戻らないのですが、まさか始末したんじゃ?」
ブライスさんの冗談に、今日もクエスト屋の妨害に来ている偽新人たちが、黙り込んだ。
視線は集まらないが、意識はビンビンに集まる。
「さぁてね」
曖昧に言葉を濁すと、余計に疑心暗鬼になるらしい。
実際には、仕事先に預けて長期クエストをさせているのだが、足を洗おうとする彼らの情報を出すわけにはいかない。
ブライスさんが冗談を言ったのは、居残って悪さをする偽新人を牽制するためだ。
おかげで俺は偽新人たちから目の仇のようにされている。
説得しづらいったらありゃしない。
「オズワルドさん、今日はこんなクエストがありますよ」
ブライスさんが手渡してくれたクエスト証には、ニワトコの花集めとあった。発注者の欄には魔術研究所王都製薬部門キュマ・アレルとある。
驚いてブライスさんを見、ブライスさんが嬉しそうに頷く。
「だが、俺がバディとクエストに出れば、受付が困るだろ?」
「少しでもオズワルドさんのお役に立てればと思って」
「一日くらい何とかするよ! 行ってきな!」
いつの間にか案内係が混ざり、俺の背を勢いよく叩いた。
「ありがたい。恩に着るよ」
❄
大急ぎで図書館にぽこを迎えに行き、装備を整えて、王都の最寄りの森へ入った。
ニワトコの木は割とどこにでも沢山あるし、一本の木が大量に花を咲かせる。
インマーグでもやっていた仕事だから、気楽にやれるのがいい。
ぽこも久しぶりの森にはしゃいで、花集め半分、葉っぱ集め半分ってところだ。
「やっぱり違いますね」
「何が?」
ぽこが、カエデの葉っぱを拾って、俺に見せる。
「王都の葉っぱは、インマーグに比べて、ちょっとカサついてますし、それに硬いです」
気候の違いのせいだろうが、俺にはわからないいつものやつだ。詳しく聞いたら、話についていけずに困るので、曖昧に返事するのがベターと言える。
「化け術に使えそうかな?」
王都に来る間も、ぽこは葉っぱコレクションを増やすことに熱心だった。
ぽこが顎に手を置いて考え込む。
即答でないってことは、問題があるってことだ。
「この子たちにはこの子たちの魅力があるはずです。沢山触れてたらきっと見つかるはずです」
気合を入れるぽこを見ていたら、心配してしまう。
好みの問題に、気合いなぞ入れたら疲労してしまうだろう。
こんなとき、ぽこにどう声をかければうまく通じるのかはまだつかめていない。
頑張り屋だから、励ませば励ますほど頑張ってしまうし、些細な違いだから気にするななんて言えば、神経を疑われるだろう。
何も言えないまま、ニワトコの木に向き合った。
まず、俺が花を茎ごとむしって、虫を落とす。
「はい、よっ」
掛け声の後に、背後に投げると、ぽこが風呂敷リュックでキャッチする。
「はい」
ぽこの声が聞こえたら、またすぐに投げる。
「はい、よっ」「はい」の掛け声に合わせて、どんどん採集できる。
一人でやるより断然早い。
俺は質のよい花を選ぶことに注力できるし、ぽこは俺の身体の向きでどこに投げるのか見極めているらしい。
二人で採集のクエストをやるときは大抵こんな感じで役割分担しているから、すっかり慣れたものだ。
風呂敷リュックと、俺のリュックいっぱいにニワトコの花を入れて帰途につく。
息の合った仕事ができて、充実した一日になった。





