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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第10章 石畳に根を降ろせ
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108話 オズワルドと偽初心者引率

 中央に出勤して、クエスト掲示板を眺める。

 魔術研究室から出ているクエストの内、発注主がキュマ・アレルのもの、若しくはキュマ先生の研究室のものをチェックするためだ。


 昨夜は、図書館の後に飲み屋に寄って、古の薬の手がかりを掴めた祝杯を上げた。

 ぽこが酔い潰れるのは初めてで、背負って帰ることになった。大した量飲んでいないから、気が抜けたってことだろう。


「オズワルドさん、どうかされましたか?」


 振り向くと受付係のブライスさんだった。


「魔術研究室のキュマ先生から出されるクエストがあれば、個人的に受けたくてね」


「あぁ、見かけますよ。今度見つけたらお知らせしますね」


「ありがたい」


 ブライスさんと俺の年齢はそう変わらない。受付係としては経験を積んでいるから、安心して任せられる。


「今日も、偽初心者除けよろしくお願いします」


 ブライスさんに手を上げて応えながら、案内係が朝一番の冒険者を案内し始めるのを眺めた。


「このクエストには、当職員のオズワルドが引率係として付きます」


「わかりました」


 偽初心者の快諾に、こちらの方が戸惑ってしまう。


 とうとう来たか。


 ラッセルが、手をこまねいているわけがなく、早くも次の一手が繰り出された。

 予想していた事態だが、受付が俺を見上げ、俺が頷いて落ち着かせる。


 手続きを済ませて、俺が中央の建物から出るときに、もう一度受付の皆を振り返った。

 緊迫した様子の受付と、子羊を前にした狼のような偽初心者が対峙している。


 念のために考えた初心者同士のいざこざは調査対象だという警告に効果があればいいのだが。

 心配しながら、偽初心者の後を追う。


 ラッセルは頭が切れるから、こちらも次の一手、その次の一手を考えねばならぬ。

 キュマ先生のクエストがあっても、ぽこ一人で受けないように注意も必要だ。



  ❄



 今日の引率クエストは、王都周辺にある畑のバッタの駆除だ。

 本来なら、農家がする仕事も、人手が足りない場合は冒険者が駆り出される。

 何しろ、俺たち冒険者は領民の困りごとを片付けるのが仕事だ。


「まじだりい」


 いつもの愚痴が始まった。

 広大な畑の中、一列になってバッタを捕まえていくのに飽きたらしい。

 他の偽初心者より、今日の偽初心者たちは若い。文句を言いながらもちゃんと駆除もしているし、他の冒険者の邪魔をする様子もない。


「ちゃんと駆除してたら、おかわりがもらえるから頑張れ」


「おかわり?」


 一年以上もクエストをしているのに、冒険者用語を知らぬらしい。


「おかわりは、同じ依頼主から出される追加クエストだ。今回の場合なら、またバッタの駆除だな」


「またぁ⁉」


 嫌そうな声に思わず笑ってしまう。すれた考え方をする偽初心者よりも、率直な感想はかえって好感度が高い。


「今年みたいに食物の成長がいいときには、バッタも成長しすぎるからな。何度も根気よく駆除しないと、あっという間に大群になり、食物を残らず食い荒らしてしまう」


「何それ怖っ!」


「聞いたことがあるぜ。バッタの大群が飛来した町は餓死者が出るらしい」


「ううわ……」


「だから、このだるい仕事は、大切なクエストでね。信頼できる冒険者にこそおかわりが出されるってわけだ。おかわりには指名料が追加されるからうまいぞ」


 話しながらも、目と手は休まずに動かす。

 おかわり話をしてから、偽初心者の動きも格段によくなった。


「もしかして、おかわりには日数縛りもないんですか?」


「うん? あぁ、ない。そもそも、日数縛りは初心者だけだ」


「はぁっ⁉」


 冒険者登録をするときに説明があったはずだが、知らなかったらしい。

 登録時には山のように注意を受けるから、その内のいくつかを忘れてしまっても無理もないだろう。

 クエスト屋に、初心者用の規則をまとめた掲示物を張ろう。きっと最初の注意を全て覚えているのはクエスト屋の職員と、引率ばかりしている己くらいのものだ。


「今は、一度クエストを受けたら二日休みを取らなきゃいけない。それが毎日できれば、三倍儲かるな!」


「そうだよな。冒険者って儲かるイメージがあったもんな」


危険で汚くてきつい仕事だが、儲かるのは事実だ。

家業を継げる子以外が、食べていくためには、職人か軍隊が挙げられるが、一番儲かるのは冒険者だ。

ただし、使い捨ての駒のようなものだから、致死率も高い。


「危険性が高い仕事ほどより儲かる。ただし、迷宮や手ごわい魔物はリボンをつけている内は基本回してもらえない」


「それが本当なら、絶対外した方がいいな!」


「でもなぁ」


「あ……」


 黄色いリボンを取るのだと健全な目標に向かっていたのに、偽初心者たちは一気に顔を曇らせた。

 勝負に出よう。若い奴らがまっとうになろうってときに、助けないでどうする。


「ラッセルに何を吹き込まれた?」


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