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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第10章 石畳に根を降ろせ
15/60

107話 ぽことおくすりのはなし

 通りがかりに目に入った絵本を手に取った。


 表紙には『おくすりのはなし』という題名と、可愛らしいねずみの絵がある。

 中をめくってみたのは、つい先刻まで新しい本を手に取っては中を確認していた動作の延長のようなものだった。


 覗き込んだぽこが声に出して読む文字を一緒に追いかける。


「ねずみくんは、風邪をひいています。お母さんからわたされたお薬を見て、ため息を一つつきました」


 白いねずみがベッドで手に持った薬とにらめっこしている。

 次のページをめくった。


「あ~あ、薬は苦くてきらい。もし飲んだら、鳥になれればいいのになぁ。そうすれば空を飛べるぞ」


 どこかにねずみっぽさを残した白い鳥は、気持ちよさそうに滑空している。


「熊のように強くなったら、冒険に行ける」


 今度は熊が勇ましい盾役の装備をつけている。この装備には問題点があると思ったが、職業病は無視して、次をめくった。


「それを聞いて、お母さんねずみがねずみくんに言いました。『あなたはねずみのままでも勇敢で強く、自由ですよ。ママのねずみくんは、今のままでも最高なの。さぁ、お祈りをして寝ましょう』」


 ベッドで母ねずみに抱かれたねずみは、それでは納得できないらしい。


「神様がいるのに、病に苦しむのはどうして? 猫に襲われて腕がもげるのはどうしてなの?」


 子供向けにしては随分と踏み込んだ内容だ。

 教会のやつが読んだら、神への冒涜で発禁になりかねない。


 健康な人は神から与えられた姿を尊いと言うが、苦しみを神からの試練と心から思える人はいるのだろうか。


「お母さんねずみは、『お薬を飲んだら、なりたい自分になれますよ』と言って、ねずみくんにお薬を飲ませました」


 ねずみくんが寝ている絵には、夢の中で大活躍する姿が描かれている。


「お薬は用法用量を守りましょう」


 絵本の最後のページには、魔術研究所王都製薬部門キュマ・アレルと作者名があった。


 薬嫌いの子供が変身願望をくすぐられる話ということだろうが、大人が読めば奇妙に感じる。


 神から賜った先天的な姿を、薬で後天的に変化させることを訴えているようだ。


「これです! 作者のキュマ先生に会いに行きましょう!」


 ぽこが熱に浮かれたように叫び、俺の手から絵本を奪って、もう一度目を通し始めた。


「凄いです! なりたい自分になれるんですよ!」


「ぽこ?」


 俺の声は聞こえていないらしく「図書館にあるキュマ先生の本も読んでみなくちゃ! あぁ! 忙しくなってきましたね!」と続いた。


「キュマ先生は、製薬と動物実験で有名です」


 やっと作者名がわかり、ルイスが晴れ晴れした顔で教えてくれた。

 肩の荷が下りたのだろう。


「王都製薬部門ですって、王都にいらっしゃるのならお会いしたいです!」


 魔術研究所は、魔術師や治癒士といった冒険者が所属するギルドだ。そこまで考えると、妙案が浮かんだ。


「そうだな。魔術研究所から出されているクエストには、キュマ先生が依頼主のもんがあるやもしれん」


 一途で結果を出すことにこだわるぽこが、やっと掴んだ夢への第一歩だ。

 だから、こんなに興奮しているのだろう。


 俺とて、ぽことの関係を深めるまたとない機会は嬉しい。


「クエストですね! 探しましょう!」


 ルイスに礼を言って、図書館から外に出た。

 三連の月に照らされて、ぽこが図書館の階段をくるくる回りながら降りていく。

 スカートの裾から出ている尻尾が、動きに合わせて揺れる。


「旦那様のちゃんとしたバディになって、助け合える良妻になります!」


 ぽこの笑顔を見ていたら、絵本を読んだ後の違和感は薄れていった。


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