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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第10章 石畳に根を降ろせ
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106話 旦那様と特別展示室

「ぽこ、そろそろ出られるかい」


 旦那様から声がかかり、部屋の最終チェックをする。


「火の元よし! 鍵よし!」


 部屋の鍵をかけていると、一階からケリーが上がってくる足音がした。

 軽快な足音、頭を低く下げてお尻を高く上げる。しっぽは振り千切れんばかりで、旦那様に遊べとねだる。

 毎朝、なるべく旦那様と一緒に出発するようにしているのは、ケリー対策のためだ。


 ケリーは私を追いかけるし、旦那様に馴れ馴れしい。その両方が嫌。

 私の気持ちを知らない旦那様は、毎朝ケリーを撫でまわしながら、褒める。

「毎朝賢いなぁ」だとか、「いい毛並みだ」なんて、浮気もいいところだけど、旦那様が犬を撫でるのは、私と暮らすようになってからだと言われると、反対もできない。

何より、良妻を目指している身なのだから。犬のようにやきもちを焼くのは人間らしくない。


「旦那様、行きましょう」


 旦那様に褒められたケリーが、私に「いいでしょう?」と自慢してくるのを無視して、出発することに成功した。



 中央のある戦乙女通りという名の目ぬき通りまで、二本の通りを渡る間は、お互いの今日の予定を確認しあう習慣になりつつある。


「ジュリアンは、ウシュエさんが中央図書館に出入りしてた時期を覚えているのですって」


 古の薬を中央図書館で探してみればいいと教えてくれたのはウシュエさんで、今はインマーグで魔法薬の研究をしている。

 そのウシュエさんが古の薬について知らなかったのだから、ウシュエさんが王都を去った後の本に記されている可能性が高いと、旦那様と見当をつけた。

 三人がかりでも、一日百冊には程遠く、途方に暮れていたところの妙案だ。

 旦那様は本当に頼りになる。


「ジュリアンが新しい本をリストアップしてくれるのを待つ間に、今日はルイスと一緒に特別展示室を調べてみるつもりです」


「今日は開館時間延長日だったよな。俺も仕事が終わったら行こう」


 嬉しくて、繋いでいた手に力を込めてしまう。


「本当は一緒に探したいのに、なかなか行けてないからな。延長日くらいは何とか参加したい」


 ラッセル対策と手引書で忙しくなっているはずなのに、旦那様は嬉しいことを言ってくれる。

 インマーグでは、古の薬について旦那様から積極的な話を聞いたことはなかったけれど、王都に来ることになってからは、こうして同じように考えてくれる。

 全く知らない王都で暮らす不安はあるけれど、旦那様が一緒だから大丈夫。

 寂しさを小爆発させてから、旦那様と過ごす甘い時間は増え、充足している。


 海神通りまで来て、手を振って別れた。



  ❄



「ぽこ、お待たせ」


 旦那様の声で我に返った。

 疲労がにじむ旦那様と抱き合って挨拶を交わした。服からは夜の匂いがする。


「もうそんな時間ですか?」


 お昼休憩を取った後から、時間の間隔がない。

 旦那様は、汗を拭って特別展示室を見回した。


「どの棚から調べようか?」


「残りは、この棚です」


 特別展示室の本は少ない。平積みになった羊皮紙の本ばかりで、分厚さの割にページ数も少なめだから、予想外に調査が進んでいる。

 人手が二人から三人に増えたから、今日中に見つかるかもしれない。



「ないですね」


「こっちもない」


「これで特別展示室は全滅ですね」


 希望がまた打ち砕かれた。

 毎日、本との格闘で嫌になってくる。

 ジュリアンとルイスも仕事の合間を惜しんで協力してくれているし、旦那様といえば、仕事帰りに探してくれている。

 自分だけでなく、他の人にも迷惑をかけていることがプレッシャーになる。


 探してもなかったらどうしよう。そもそも、ある保証はない。


 想像以上に落ち込んで、立ち上がれない私の頭を旦那様が撫でてくれる。


「まだ探し始めたばかりだ」


 頷いてみせるけれど、情けなくて泣けてくる。

 実は、化け術に使う葉っぱのストックが減ってきていて、それで焦燥感が増している。


 王都に近づくほどに、思ったような葉っぱは見つからなくなってきている焦りを、種族変更の古の薬が見つかれば、そんな心配もしなくて済むようになると思うことで誤魔化してきているのだ。


 葉っぱ探しをしたい。でも、今日こそ本が見つかるかもしれない。

 本が見つかれば、もう化けなくても人間でいられる。

 なのに、今日も見つからなかった。


 ルイスに礼を言い、特別展示室を施錠してもらって、玄関ホールへ歩き出した。


 まず葉っぱを探して、一人でこつこつ探した方がいいのかもしれない。


 古の薬が見つかるまで、旦那様は待っていてくれるだろうか。

 年齢を随分気にする旦那様のことだから、またぽこの結婚適齢期を気にし始める可能性もある。


 もやもやしながら歩いていると、旦那様にぶつかった。

 前を歩いていた旦那様が突然立ち止まったらしい。


「こんなところに絵本が」


 旦那様は、展示されていた今月のおすすめの本を凝視し、手に取った。それを横から覗き込む。


表紙には、『おくすりのはなし』とあった。


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