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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第10章 石畳に根を降ろせ
13/60

105話 旦那様と午前休

 仕事から帰った旦那様の話を聞いている。外では蝉がひっきりなしに鳴いている。


「書類仕事ってのはどうも好かん」


手引き書を作るようになってから、旦那様は眠るのに苦労している。仕事が気になるみたいで、朝早く目が覚めることも多い。


 寂しいなぁ。


 顔を洗っている旦那様の背中を眺めて、つくづくそう感じる。


 図書館通いには慣れてきて、自分に余裕ができると、今度は旦那様と離れている時間の長さに気が付いてしまった。

 インマーグでも別行動はあったけれど、なるべく一緒にクエストができるようにしていた。

 それが、離れる時間が長くなったのは、中央でのお仕事に私がくっついていけないからだ。旦那様は中央の職員で、私はただの冒険者だから。

 冒険者は流れ者だから、身分を偽ることは簡単だったけれど、中央の職員だとそうはいかない。


 旦那様に、よく寝て疲れを取って欲しい。そして、かまって欲しい。

言ってしまえば、休みを取ってくれるだろう。

 でも、王都に来たのは一緒に働く温泉宿を買い取る資金作りが目的で、旦那様は、初めての仕事に慣れようと頑張ってる最中だ。男の人が仕事に打ち込んでいる間は、家庭のことまで気が回らないのは、知っている。


 素直に我儘が言えない自分が恨めしい。


 早く古の薬の本が見つかればいいのに。

 今のところ手がかりさえない。



「明日、午前休を取ったよ」


 顔を洗ってさっぱりした旦那様が、食卓で夕食を待つ私を振り返って、突然そう言った。

 音を立てて飛び上がり、ぴょんぴょんジャンプしながら飛びついた。


「嬉しいです!」


 髪の毛がくしゃくしゃになるくらい撫でてもらってから、一緒に夕食を食べる。


「明日、何をしましょう?」


「ぽこがしたいことなら何でも」


「旬の野菜を使った料理はどうですか? 一緒に朝から市場に行って、何を作るか決めましょうよ」


「いいね」


 旦那様は大きな欠伸をした。


「あ、でも、居間でのんびりするのもいいですよね」


 疲れてる旦那様を無理させちゃいけない。

 傍でいるだけでも嬉しい。


「明日はぽこの好きなことをしよう」


「はい!」


 夕食後、旦那様はいつものようにお酒を一杯だけ飲んだら、すぐにベッドに入ってしまった。

 夕食の片付けをして、たぬき姿に戻り、いそいそとベッドへ上がる。


「ねぇ、旦那様、ぽこは明日、公園に行きたいです」


 いつものように旦那様の腕と身体の間に、身体を滑り込ませる。旦那様は私の背を撫でてくれた。それなのに、返事はない。


「旦那様?」


顔を上げたら、返事の代わりに寝息が聞こえてきた。


 ピスッ


 寂しくて鼻が鳴る。


 明日は半日一緒にいられる。大丈夫。計画は私が立てておけばいい。


 あらゆる妄想の果てに寝てしまい、楽しみすぎて、朝一番の鐘の音と一緒に起きた。

 隣で眠る旦那様は、珍しくよく寝ている。


 最近あまり寝てなかったもんね。


 目の下のクマは取れていない。寝かせてあげなくちゃ。


 大丈夫。今日の午前中は家にいてくれるもん。前向きに行こう!

 おいしい料理に、清潔なお家! 頑張ろう!


 動いていれば気がまぎれる。旦那様が起きたら褒めてくれるはず。そしたら、たくさん甘えよう!



 結局、旦那様はお昼まで寝ていた。


「旦那様、そろそろ起きないと、午後からのお仕事に間に合いません」


 仕事の一言で、勢いよく目を覚まし、大慌てで旦那様が身支度を始めた。


「お食事は……」


「帰ったら食べる」


 鍋には、旦那様の好物を温めてある。一緒にゆっくり食べるはずだったものだ。

 玄関で軽く抱擁し、踵を返した旦那様の服の裾を、思わず引っ張ってしまった。


 旦那様が私を振り返る。


「どうした?」


 やつれた顔で、それでも旦那様は私に優しく声をかけてくれる。

 口がハクハクと音を出さずに動いた。寂しいの一言が言えない。


 突然、旦那様に抱き上げられた。

 顔の前に顔がある。

 息がかかるような距離感で旦那様の目の下のクマを指でなぞった。


「ぽこのおかげでよく眠れたよ」


 唇に唇が軽くあわさる。

 コクコクと何度も頷いた。


 旦那様の高い鼻が、私の鼻を下から上へとなぞる。


「今夜は早く帰る」


 音を立てて額に約束の口付けをしてくれた。

 がばりと抱きつく。


「約束ですよ」


「あぁ」


 こんなやり取り一つで、心が満たされるなんて不思議。

 閉じられる扉を見ながら、そんな風に思った。


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お読みいただきありがとうございます

おいしい食べ物を通して、人と人の反応が生まれる瞬間――
そんな場面を書くのが好きです。
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