104話 オズワルドと偽初心者
新人引率の基本的な仕事を二週間繰り返し、合間に王都のクエスト屋の傾向を掴むために過去のクエストに目を通した。
一番の懸念材料だった雪深い山と、温かい海側という気候の差によるクエストの違いを掴むためだが、知識は得られたので、後は実戦あるのみだろう。
二週間で何度もぶつかった問題点は、初心者だと偽った冒険者が多いことだった。
クエスト申込書には、黄色いリボンの有無にマルをつける欄がある。
偽初心者のパーティーは、最初、受付が俺も同行すると伝えると、嫌がり辞退していたが、最近では、呼んだ受付の背後に俺がいるのを見るだけで、帰るようになっている。
「今日も偽初心者を追い払いましたね」
仕事終わりに、クエスト受付係のブライスさんが話しかけてきた。
気のいい人で真面目に働くが、柄の悪い冒険者に押し切られるところがある。
偽初心者は、いかさまや、暴力は当たり前のようなタイプの冒険者だから、ブライスさんたち受付は、苦労しているのだろう。
「あれは一体何かね」
「わざとスダチ訓練に落ち続けて、リボンをつけたままにしているんですよ」
黄色いリボンを返上するためには、スダチ訓練に参加して合格する必要がある。
初心者ばかり数十人集めて行う大がかりなサバイバル訓練だ。
「何のために?」
「黄色いリボンをつけていれば、クエストの狩場が被ったときに優先的に仕事ができます」
「それだけじゃねーよ。あいつら、気に入らない冒険者を罠にはめてる」
いち早く仕事が終わった案内係が雑談に混じって来た。
黄色いリボンを悪用するなら聞き捨てならない。
「例えば?」
「んなもん山のようにあるさ。わざとぶつかってきて怪我させられてって言いがかりをつけたりとかさぁ!」
冒険者同士なら殴り合って解決するところだが、これが初心者相手だと、経験者が全面的に悪いってことになる。
黄色いリボンを悪用するなら、王都の初心者システムは崩壊し、初心者どころか経験者さえ寄り付かなくなってしまう。
そうなれば、国家事業であるクエスト制度の崩壊だ。
「ひどい有様だな。一体誰が入れ知恵してやがるかわかってるのかい?」
いつの間にか受付係が全員集まってきて、偽初心者から受けている悪事の愚痴大会になってきている。
皆、互いを見回して、目を逸らす。
知っているのに、言い出しにくいと見える。
「ラッセルだ」
意を決したようにブライスさんが名を出した。
「ラッセルって、あの?」
こめかみから顎にかけて指でなぞれば、皆が頷いた。
ラッセルが言っていた手広い仕事っていうのは、偽初心者の仲間を増やすことのようだ。
まとめ役がラッセルだとすれば、自分は手を出さずに、助言の見返りに金をせしめているに違いない。あいつはそういう輩だ。
本来、新人のリボン対策は、ラッセルのようなベテラン冒険者から新人を守るためのものだ。
悪知恵の蛮行を防げなかったのは、王都のクエスト屋に冒険者上がりがいないのが一番の理由だろう。お役所勤めだけでは、荒ぶる冒険者の相手は務まらない。
「なるほど。俺の仕事は、ラッセルから本当の新人と受付を守るってことだな」
「やってください!」
「お願いします!」
今まで余程耐えてきたのだろう。受付たちが色めき立った。
「さぁて、どうやろうかねぇ」
顎鬚を撫でて考える。
「私たちが合図したらクエストに同行するフリをしてくれませんか?」
「そうすれば、あいつら受けずに帰るもんね!」
「なるほど。それもやろう。でも、俺が連れだされた後のことも考えた方がいい」
「そうか。パーティーが一つ犠牲になれば、他の偽初心者が受けにくるもんね」
ラッセルのことだ。そろそろ次の手を打ってくるはずだ。
初心者の黄色いリボンは、ロンメル国全土で行われているから、気安く中止するのも、新しい方法を導入するのも難しい。王都だからこそ、身動き一つが全土に影響してしまう。
うまいやりかただ。
一時的にリボンの効果を無効化できればな……。
ラッセル対策に燃える受付と別れて、ピーター・ウェインの秘書に報告にあがった。
今しがた知った偽初心者の件も伝えると、秘書は無表情でわかったと言った。
「オズワルドさん、来週から引率を続けながら、引率の手引き書を作り始めてください」
新人育成部門の立ち上げには、引率する冒険者も必要になる。
偽初心者対策に、引率の手引き、それと古の薬の本探しか。
給与がいい理由は、面倒で誰もやりたがらない仕事をすることと見えた。





