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たぬきの嫁入り3  作者: 藍色 紺
第9章 王都での新生活
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102話 オズワルドの過去

ラッセルと揉めたのは、俺が二十歳そこそこで、生涯を共にしようと決意した仲間と組んだばかりの頃。


 御多分に漏れず、俺は血気盛んな若者で、新しい仲間にいいところを見せたかった。

 相手の言い分を聞いて退くなんて負けも同然だと思っていた。

 だから、ラッセルが俺の仲間からいかさまカードで金だけでなく装備まで取り上げたのには我慢ができなかった。


 酒場の奥まったところにラッセルは仲間たちと一緒にいた。テーブルについたメンバーの内一人は見慣れない若いやつだ。新しいカモなのだろう。俺は、ラッセルたちがついたテーブルをなぎ倒して、テーブル裏に隠していた小細工をさらけ出してやった。

 足元に散らばったカードと割れた杯の欠片を踏んで、ラッセルの胸倉を掴んだ。

 零れた酒の匂いと悲鳴や怒号が俺を余計に駆り立てた。


「カードのルールは最初に説明してある!」


 ラッセルの言い分は聞きようによっては、騙された側が悪いようにも聞こえたが、俺は余計に腹が立った。


「酒場のルールというのなら、俺もそのルールでやらせてもらう。決闘だ」


 周りの悲鳴が歓声に変わった。俺たち冒険者が出入りしているような場末の酒場では、いかさまカードで身ぐるみ剝がれることや、決闘はいい見世物になる。

 どちらかが参ったという迄、得物でやりあう習わしだ。


 囃し立てられ、机と椅子が端に寄せられる。

 興奮したラッセルも、今思えば、当時の俺と同じで仲間の手前、かっこつけたかったのだろう。

 四の五の言わずに、俺達は向かい合った。

 俺は長剣、ラッセルはモーニングスターだった。


 互いの強さが拮抗し、激しい戦いが続いた。

 俺の長剣は、ラッセルのモーニングスターによって砕かれ、咄嗟に腰に差した短剣を抜く。

 決闘という名の殺し合い。剣を砕くほどの力でやり合っている。

 まともに食らえば死んでしまう。

 当時は、頭に血が回っていて、そんなことすら気づかなかった。


 ラッセルが振り下ろしたモーニングスターを寸手でかわし、頬が切れる。遅れて入る(おもり)を避けて、懐に入り込む。


 下から喉元目掛けて突き上げた短剣をラッセルが避けたが、完全には躱せずに、顎からこめかみまで短剣が切り裂いた。


 周りから見ていたら、俺がラッセルの喉を掻き切ったように見えたらしい。実際、そのつもりだった。

 誰かが人殺しと叫び、ラッセルの仲間が駆け寄った。

 俺もラッセルも血だらけだった。

 すぐに治癒魔術が入ったが、傷は残るくらい深かった。おまけに、酒場は大男二人が大暴れしたせいで滅茶苦茶だった。


 ラッセルは死に損ない、俺はクエスト屋で尋問にかけられた。クエスト屋ってのは、冒険者のいざこざまで解決する。

 互いに合意した決闘だったため、牢には入れられなかったが、厳重注意を受け、罰則として向こう何年かのクエスト報酬の天引きが行われ、店の修理費に回された。

 その後、ラッセルたちは、どこか遠くに流れて行った。これも冒険者ならよくあることだ。


 ぶち切れれば、同じ冒険者の喉でも掻き切る男として、俺は恐れられるようになった。

仲間が変わらぬ態度で接してくれなければ、俺と組みたい相手は出なかっただろうし、罰則金のせいで随分苦労させられた。



  ❄



 だから、ラッセルが、今になって親しそうに俺を呼ぶことに驚いた。

 再会することがあっても、互いに敬遠するはずだった。


「おいおい。元気だったか?」


 握手した手で引き寄せられて抱き合い、背中を叩かれる。これではまるで旧友だ。


 抱き合った後は、互いの姿を見合った。


 大きく白目がちの目は、相変わらず狡猾そうだし、モーニングスターを装備しているのも昔のままだ。


「変わっちゃいねぇな!」


「ラッセルもな」


 最後に会ったのが二十歳あたりで、今は三十代後半になる。流石にはちきれるような若さは消え去り、歳はくったが、俺もラッセルもそんな部分は気にしない。


「こんな所で何してる?」


「仕事で王都に来たばかりだ」


「だからか、俺はもう三年も王都にいるが、今まで会わなかったもんな。まぁ、俺たち冒険者はいつだってその日暮らしの根無し草だよなぁ」


 順で言えば、俺から何か話しかけるところだろうが、生憎俺は無口だし、ラッセル相手に無駄口を叩くつもりはない。


「宿はどこだよ?」


「ラッセルは?」


 ラッセルが宿の名を教えてくれたが、王都に来たばかりだから、それがどんな宿なのかはわからなかった。


「それで、お前は?」


 再度同じ質問をされて、答えるしかないと観念する。


九重蔓(ここのえかずら)の館だ」


 ラッセルの目が獲物を見つけたように光った。


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