102話 オズワルドの過去
ラッセルと揉めたのは、俺が二十歳そこそこで、生涯を共にしようと決意した仲間と組んだばかりの頃。
御多分に漏れず、俺は血気盛んな若者で、新しい仲間にいいところを見せたかった。
相手の言い分を聞いて退くなんて負けも同然だと思っていた。
だから、ラッセルが俺の仲間からいかさまカードで金だけでなく装備まで取り上げたのには我慢ができなかった。
酒場の奥まったところにラッセルは仲間たちと一緒にいた。テーブルについたメンバーの内一人は見慣れない若いやつだ。新しいカモなのだろう。俺は、ラッセルたちがついたテーブルをなぎ倒して、テーブル裏に隠していた小細工をさらけ出してやった。
足元に散らばったカードと割れた杯の欠片を踏んで、ラッセルの胸倉を掴んだ。
零れた酒の匂いと悲鳴や怒号が俺を余計に駆り立てた。
「カードのルールは最初に説明してある!」
ラッセルの言い分は聞きようによっては、騙された側が悪いようにも聞こえたが、俺は余計に腹が立った。
「酒場のルールというのなら、俺もそのルールでやらせてもらう。決闘だ」
周りの悲鳴が歓声に変わった。俺たち冒険者が出入りしているような場末の酒場では、いかさまカードで身ぐるみ剝がれることや、決闘はいい見世物になる。
どちらかが参ったという迄、得物でやりあう習わしだ。
囃し立てられ、机と椅子が端に寄せられる。
興奮したラッセルも、今思えば、当時の俺と同じで仲間の手前、かっこつけたかったのだろう。
四の五の言わずに、俺達は向かい合った。
俺は長剣、ラッセルはモーニングスターだった。
互いの強さが拮抗し、激しい戦いが続いた。
俺の長剣は、ラッセルのモーニングスターによって砕かれ、咄嗟に腰に差した短剣を抜く。
決闘という名の殺し合い。剣を砕くほどの力でやり合っている。
まともに食らえば死んでしまう。
当時は、頭に血が回っていて、そんなことすら気づかなかった。
ラッセルが振り下ろしたモーニングスターを寸手でかわし、頬が切れる。遅れて入る錘を避けて、懐に入り込む。
下から喉元目掛けて突き上げた短剣をラッセルが避けたが、完全には躱せずに、顎からこめかみまで短剣が切り裂いた。
周りから見ていたら、俺がラッセルの喉を掻き切ったように見えたらしい。実際、そのつもりだった。
誰かが人殺しと叫び、ラッセルの仲間が駆け寄った。
俺もラッセルも血だらけだった。
すぐに治癒魔術が入ったが、傷は残るくらい深かった。おまけに、酒場は大男二人が大暴れしたせいで滅茶苦茶だった。
ラッセルは死に損ない、俺はクエスト屋で尋問にかけられた。クエスト屋ってのは、冒険者のいざこざまで解決する。
互いに合意した決闘だったため、牢には入れられなかったが、厳重注意を受け、罰則として向こう何年かのクエスト報酬の天引きが行われ、店の修理費に回された。
その後、ラッセルたちは、どこか遠くに流れて行った。これも冒険者ならよくあることだ。
ぶち切れれば、同じ冒険者の喉でも掻き切る男として、俺は恐れられるようになった。
仲間が変わらぬ態度で接してくれなければ、俺と組みたい相手は出なかっただろうし、罰則金のせいで随分苦労させられた。
❄
だから、ラッセルが、今になって親しそうに俺を呼ぶことに驚いた。
再会することがあっても、互いに敬遠するはずだった。
「おいおい。元気だったか?」
握手した手で引き寄せられて抱き合い、背中を叩かれる。これではまるで旧友だ。
抱き合った後は、互いの姿を見合った。
大きく白目がちの目は、相変わらず狡猾そうだし、モーニングスターを装備しているのも昔のままだ。
「変わっちゃいねぇな!」
「ラッセルもな」
最後に会ったのが二十歳あたりで、今は三十代後半になる。流石にはちきれるような若さは消え去り、歳はくったが、俺もラッセルもそんな部分は気にしない。
「こんな所で何してる?」
「仕事で王都に来たばかりだ」
「だからか、俺はもう三年も王都にいるが、今まで会わなかったもんな。まぁ、俺たち冒険者はいつだってその日暮らしの根無し草だよなぁ」
順で言えば、俺から何か話しかけるところだろうが、生憎俺は無口だし、ラッセル相手に無駄口を叩くつもりはない。
「宿はどこだよ?」
「ラッセルは?」
ラッセルが宿の名を教えてくれたが、王都に来たばかりだから、それがどんな宿なのかはわからなかった。
「それで、お前は?」
再度同じ質問をされて、答えるしかないと観念する。
「九重蔓の館だ」
ラッセルの目が獲物を見つけたように光った。





