第76話 闇の王国
次の日、視察団は一日かけて拠点を確認した。
宿泊した避難民用のアパートは、家具や生活用品は不足しているが、建物自体には不満はないようだった。
この世界の人の標準的な住居と同等らしい。
荷物は馬車に乗るものなら無制限に持ち込めると伝えてあるので、家具や生活用品の不足も問題ないだろう。実際に荷物を載せた馬車がいつの間にか運ばれていたのを見て納得していた。死体収納の詳細は知られているので、隠す必要はないが、念のため俺のことは隠している。まだ皆がここに住むか分からないからな。実際住み始めて問題なさそうなら隠れるのは止める予定だ。
アパートは、俺達の家から池を挟んで反対側に作られている。他の住民と顔を合わせずに暮らすことも可能だ。
知らない人とご近所付き合いするのは面倒だし、俺達の屋敷はギルバーンの屋敷ということになっているからな。他の人達もギルバーンとご近所付き合いしたくないだろう。
池もあるし、井戸も掘ったし、近くに小川もあるので水は問題ない。いざとなったら大魔導士や水猿が飲水を出すこともできるしな。
食料関係も植物魔法使い神官エルフちゃんが作った畑と配下がその辺で狩ってきたきたBランク魔物を見せた。
季節や地域を無視した作物が実っていることに不気味がられてしまったが、植物魔法使いが食料を生産できると説明して納得してもらった。
Bランク魔物を軽々狩ってくる配下の強さに色々複雑な反応を見せていた。強いから安心という気持ちと強いから逆らえないという恐怖の両方があるのだろう。
魔物がまったくいない森も見せて安全の確認もしてもらった。
とりあえず住居、水、食料、安全関連を見て、今のところ聞いていた話に間違いはないことを確認できたようだ。
日が沈む時間まで色々見て回ったあと、予定どおり半数くらいを拠点に残して、再びギルバーンにドラゴンを召喚したふりをさせて、レバニールに戻った。
悪の親玉がタクシーのようなことをするのは不自然な気がしたが、ドラゴンはギルバーンでないと出せないことになっているので、毎回ギルバーンが送迎しなくてはならない。ギルバーンはドラゴンで空を飛ぶのが大好きということにしてごまかした。ちょっと怪しいが実際空が飛べて大喜びしている人もいるので、何とかなるだろう。
ドラゴンを貸し出せるという設定にすることも考えたが、変なヤツが要望を出して来たりしたら嫌なので、ドラゴン貸出はできないことにする。ギルバーンは恐れられているから大丈夫かもしれないが、怖いもの知らずな活動家はどこにでも現れるからな。もし今後貸出が必要になったら、レベルアップして貸し出せるようになったということにすれば良いので、念のため今は人前ではカイザーとギルバーンはセット運用だ。
その後、とうとう占領軍がレバニールに向かって出発したという情報が入ったので、急いで避難作業を進めた。
ギルバーンが闇の王国の民にするとか言ったせいで、当然避難先としてはヨーマ君の船で島に行く方が人気だが、全員は乗れないということで、俺達も聖女で悪意を確認したりして避難先の振り分け作業を手伝った。
ギルバーン領は、広くて環境が良いし、荷物を無制限に持っていけるし、今後町を作るので初期住民として利権にからめるというメリットを説明したり、そのうち行き来も可能になる予定だと言ったりして、無理やり納得させた。
行き来というのは、いずれ港を作って道をつなげる予定にしたからだ。聖女の結界を使えば魔の森に安全な道を作ることも可能だからな。まあいつになるか分からないが。
それでも嫌な人は自力避難してもらう。乗合馬車などで他の町に行くことも可能だからだ。その場合は費用は自己負担だが。ヨーラムさんの斡旋で避難すれば当面の生活や仕事探しの面倒を見てもらえるという感じだ。なので金の無い人や他の町でやっていける自信の無い人、こっちの方が条件が良いと考えた人はヨーラムさんの斡旋で避難する。現在この国は首都が占領されているヤバい状態なので、普通の人は他の町に行っても、うまくやれる可能性が低い。捕縛対象だしな。捕縛対象なことを隠しながらだとなおさらだ。だから皆ヨーラムさんを頼っている。
カイザーシップで全員を島に送ることも可能だが、ギルバーンがそれをするのは不自然だし、島のキャパも厳しいので、後々のことを考えれば、俺達の拠点に人を住まわせた方が良いと判断した。ギルバーンを権力者にするからな。
多少紛糾したが、アンデッド兵の威圧もあって乱闘になったりはせずに話がまとまり、避難が開始された。
ヨーマ君も再び130人ほどを乗せてスブ島へと出航していった。
俺達も数日かけて合計300人ほどの人を拠点に運んだ。
そしてヨーマ君から島との交渉について連絡がきた。連絡方法は配下がわざと死ぬ例のやり方だ。
カイザーとギルバーンの出番のようだ。
ヨーマ君の指定の日時に、ギルバーンと一緒に島を訪れる。
昼間にカイザーシップで堂々と空を飛んで来てほしいそうだ。島の住民にも見せつけるらしい。
・・・前から思っていたが、ヨーマ君はかなり大胆な作戦を立てるな。普段は控えめな印象なのに。やはり狐目の男は伊達ではないということか。
避難民を大勢乗せたのでカイザーシップの情報はすでに漏れているだろうから、隠す必要はないが、大丈夫なのだろうか? 大騒ぎになると思うが・・・
まあ、ここはヨーマ君を信じるしかないな。
詳細な現地での行動は、配下とヨーラムさんに任せることにした。俺の配下には、侯爵、執事長、騎士団長、聖騎士など、権力者側だった者がそれなりにいる。現地の権力者との交渉は、俺達日本人より彼らの方がうまくやれるだろう。日本人は優秀だがこの世界の慣習にはうといからな。交渉には不向きだ。
ヨーラムさんや身分が高かった配下、権力者と交渉したことのある配下を集めて会議を行った。口出しする気はないが俺達も一応参加した。もちろん実際に対応するギルバーンもいる。
会議の結果、詳細な交渉は侯爵、執事長、ヨーラムさんが行い、俺達の戦力の説明は騎士団長が行うことになった。ギルバーンは部下にまかせると言って偉そうにしながら、重要な場面で指示を出すだけだ。そして話の流れ次第では、カイザーに空に向かってブレスを吐かせて力を見せる。島を守る力があることを見せる必要があるのだろうが結構過激だな。
島を守る対価としては、避難民の受け入れだけでなく、俺達の滞在する拠点を作る許可や、商取引での優遇措置を要求する。
ゆくゆくはギルバーンの領地にする計画だがそれはある程度実績を上げてからだ。
別荘にできるのと島の海産物が手に入るのは良いな。森に住むと海産物が手に入らないからな。それ以外は俺達にはどうでも良いので配下におまかせだ。極力恨まれたり面倒ごとがおきたりしないようにしてもらえればいい。
対応が決まったので、指定の日時にカイザーシップで島に向かった。
島の位置は配下探知のスキルを使えば、ヨーマ君と一緒に島へ行った配下の位置が分かるので迷う心配はない。距離も確認したが、飛べば数時間で着くようだ。
出発時は晴れていたので再生を使いながら飛んでいたが、島に近づくと徐々に曇ってきた。日光を気にしなくて良いのでいいが、どんよりしていて不吉な感じになってきた。悪役のギルバーンには似合うが、イメージを改善したい俺としては微妙だ。もう手遅れかもしれないが。
ちなみに以前、アンデッドだとバレるので侯爵を操って裏の権力者になるという案をボツにしたことがあったが、ギルバーンはもはやアンデッドと同じくらい評判が悪いのでアンデッドだとバレても関係ない。だからどうしたという感じだ。
そうして島が見えて来た。
島の上に一時停止して降りる場所を探すと、連絡のあった場所に目印と、数十名の出迎えの兵士が見える。
ワーワーと島の住民のざわめきが上空にも聞こえてきた。大騒ぎのようだ。
暗雲立ち込める不吉な雰囲気の中、巨大なドラゴンと船が空から降りていく。
指定の場所に船を着水させて、配下の海賊たちが岸壁にロープをつなぎ着岸作業を行う。
岸壁には出迎えの使者と兵士達が、ドラゴンを前にして緊張と恐怖の表情で待機している。おそらく何かあった時のための兵士だろうが、勝ち目が無いことを悟っているだろう。
船からタラップが降ろされ、数名の騎士が先に降りて安全を確認してから合図を送った。
「ギルバーン様!下船!」 騎士が叫ぶ。
豪華な衣装のギルバーンが船を降り、その後ろに侯爵、執事長、騎士団長、聖騎士達など豪華な装備を纏った配下達が続く、人妻エルフさんや火魔法使いちゃんなどの綺麗どころも一緒だ。ヨーラムさんと俺達も一緒に降りた。俺達はヨーラムさんの後ろで護衛の兵士のフリをして顔を隠している。
空に浮かぶドラゴンをバックに派手で威圧感のある集団が出迎えの使者の前に進んだ。
「ぎ、ギルバーン様。よ、ようこそいらっしゃいました。わ、私はスブ島の文官副長のキセムと申します。」 震えながら挨拶をする出迎えの使者。
ドラゴンが来ると聞いていたはずだが、予想以上の恐ろしさだったのだろう。
「うむ。出迎えご苦労。我が闇の王ギルバーンである。ここが新たに我が領地となる島か。小さいが美しい。悪くない島だ。」
「なっ?!」
「え?」
ちょ、まだそれは言っちゃダメだろ!
ヨーラムさんも驚いている。アンデッドは驚かないので無反応だが、おそらく予定外の発言だ。
「な、何をおっしゃいます!そ、そんなことは聞いておりませんぞ!」 震えながら反論する使者。兵士たちにも緊張が走っている。
ですよね。どうすんだこれ。しかし、この状況でしっかり反論できるとは中々根性があるな。結構優秀な人なのかもしれない。
俺が他人事のように見守っていると、ヨーラムさんが口を出そうと近づいていった。
しかしヨーラムさんが何か言う前にギルバーンが言った。
「ふむ? 我の力を見せるのであったな。ドラゴンよ!ブレスを放て!」
ギルバーンが遠くに見える領主館を指さしながらカイザーに指示を出す。
俺が驚いていると、止める間もなくカイザーが口を開けてブレスを放った。
ゴオオオオオオ!
極太の黒い光のブレスが領主館の少し上に放たれ、広範囲に暴風が吹き荒れる。ブレスはそのまま空に消えていった。
どこにも当たっていないが、ブレスの起こした強風で色々な物が吹き散らされている。屋根がはがれたりしている家も見える。
おい! いやブレスを放つ予定もあったけど、それは話の流れによってはだっただろ! 何やってんの?!
「ひえ~~~!」「あわ、わわっわああああああ!」「あっ、あっ」
使者と兵士たちは腰を抜かしている。
「どうだ? 分かったであろう?」
「なっ、何をなさいますかっ!」
「ドラゴンだけではないぞ。おいお前、力を見せてやれ。」
ギルバーンが横にいる強面聖騎士に声をかけた。
「・・・・分かりました。」
ブオン!ズバアアアアアアン!
強面聖騎士が空に向かってグランドクロスのスキルを放った。光の十字架が飛んでいくなかなか派手な技だ。どうやら配下達は諦めてギルバーンにあわせるようだな。
「ひゃーーー!」「わー!」
「なかなかであろう。確かお前は聖騎士のレベルが30であったか。」
「はい。」
「聖騎士30?!」
「騎士と剣士は40くらいだったか?」
「43です。」
「あわわ。」
「こやつより強い者もまだまだたくさんおるぞ。お前は我々の中でどのくらいだったか?」
「おそらく10位くらいの強さだと思われます。」
「何? そんなに上だったか? てっきりもっと下だと思っていたが。」
「正確にはわかりませんが、聖騎士の中では一番強いので。」
ギルバーンと強面聖騎士が使者の前で、威圧的な会話をしている。打ち合わせはしていないはずなので適当にあわせているのだろう。
「で? 早く案内せよ。歓待の準備はできているのであろう?」
「はっ!ははあ!こちらでございます! おい!お前!今の内容を急いで島長に伝えよ!兵士も何人か連れていけ!急げ!」
使者は青ざめた表情で案内に立ち、島の長への連絡も送ったようだ。ギルバーンの領有発言を伝えるのだろう。
「ユージさん。どういうことです? ユージさんの指示ですか?」
「そうよ!聞いてないわよ!」
ヨーラムさんとヨゾラさんが聞いてきた。
「いえ。俺の指示ではありません。」
「ええ? ならどうして?」
「おそらくですが、ギルバーンは先日の会議の内容をよく理解できなかったのでしょう。」
「ふむ?」
「どういうこと?」
「俺も最初は配下が命令を無視したのかと思いましたが、よく考えると頭の悪い配下ではよくあることです。配下は、命令がうまく理解できなかった場合は、自己判断で都合のいいように解釈して行動してしまうんです。ギルバーンは演技は結構うまいですが元々それほど頭の良い男ではなかったことを失念していました。」
最近は優秀な配下に囲まれていたから忘れていたが、もともと配下の能力は生きていた時と同じだ。頭の悪いやつは配下になっても頭が悪いままだ。そして配下は命令に曖昧な部分があっても自己判断で行動する。頭の良い配下の場合は良い効果だが、頭の悪い配下の場合は自己判断が悪い方向に作用する。頭の悪い配下に難しい命令をすると、理解できなかった部分は曖昧になり自己判断でバカな行動をしてしまう。以前は良くあったことだ。アックスとかな。
ギルバーンはもともと教育をうけていない農民のおっさんだから理解できなくても仕方がない。農民なのに演技ができて人を騙す能力が有るだけでも十分凄いしな。
「そうなの?!」 ヨゾラさんは驚いている。
「そ、そう言われれば心あたりがあります。」 ヨーラムさんも普段アンデッドを使っているからな。アンデッドが予想外の行動をした経験があるのだろう。
「とりあえず他の優秀な配下はギルバーンに合わせることにしたようです。」
「そうですか。仕方ありません。他の配下の方に確認して私も合わせることにします。」
「すみません。お願いします。」
「ちょっと。ギルバーンがトップで大丈夫なの?」
「今更変更はできないので、仕方ありません。」
凄く不安だが仕方がない。
いつの間にか雨が降り出し雷も鳴っている中、領主館では威圧的な交渉が行われた。
島側は圧倒的戦力の前になすすべはなく、俺達の言いなりになった。領主館にいた島の主要人物も頭の上を通り過ぎていく圧倒的な力を体感して抵抗する気がなくなったようだ。
ギルバーンは、政治のことは侯爵と執事長に、商売のことはヨーラム親子に一任すると発言してふんぞり返っていた。
ヨーラムさんは、商売はこれまでどおり行えるし、非道なことはしないと必死で説明していた。
ヨーマ君が島の人達を騙したという話になりかけたので、ヨーマ君もギルバーン達に騙された側だと説明した。実際ヨーマ君も本気で驚いていたので、納得してもらえたようだ。
まあ多少予定が早まっただけでヨーマ君の作戦なんだけどな。
こうして海に浮かぶ南国の島スブ島は、ギルバーンの領地となった。
窓の外を見ると、まるで闇の王国の誕生を祝福しているかのように、不吉な雷鳴が鳴り響いていた。
ブックマークや評価をよろしくお願いいたします。




