第73話 カイザーシップ
レイライン王国の軍がいつこちらに来るのか気になるが、じっと待っているだけでは無駄な時間を過ごすことになる。
というわけで俺は思いついたことを試すことにした。
何を思いついたかというと、ヨーマ君の船を見て俺も船が欲しくなったのだ。
船で何をするのかと思うだろうが、俺は最近はカイザーが持ち上げられる重量や大きさの確認をしていた。
今のカイザーゴンドラは、オークに引かせて収納するためのサイズになっていて、カイザーの持てる最大サイズではない。カイザーが使う無魔法で持ち上げられる最大重量は魔法攻撃力の高さで決まる。そしてカイザーの魔法攻撃力は八千以上あり非常に高い。
そう、船を持って空を飛べるということだ。
さっそく配下に船の購入ができないか確認させた。
しかしさすがに船は予約なしですぐに購入することはできないようだ。首都なら可能性もあったようだが、レバニールでは難しい。発展してきたとはいえ地方の小さい港だしな。小さい漁船なら可能だが、小さい漁船では馬車と大差ない。
それに相場の何倍も払って無理に購入したりすると予算も厳しい。ヨーマ君に貸してしまったしな。
配下達に他の手段はないか聞くと、海賊から奪えば良いという意見が出た。
配下には海賊も多いので、海賊のアジトの位置はだいだい分かるらしい。俺の配下は捕まった海賊なので、こいつらのアジトはやられてしまっただろうが、他の海賊のアジトがありそうな場所も多少知っているので、カイザーで空から探せば見つかるそうだ。
さっそく有力情報を持っている海賊配下をカイザーゴンドラに乗せて海賊探しに行かせた。探すのには時間がかかりそうなので、俺は拠点で待っておく。配下だけで行けば徹夜で探せるからな。
1日待った結果、海賊を二組見つけたそうなので、海賊狩りに向かうことにした。
海賊狩りには俺も行く。俺が行かないと海賊を配下にできないからな。まあたいして強くないだろうが、念のため操船できる配下を増やしたいし、お宝の隠し場所とかの情報も聞き出せるからな。
ヨゾラさんとユリアさんにも声をかけよう。
「ヨゾラさん、ユリアさん、海賊狩りに行きますけど、一緒に行きますか? 基本配下が戦うのを見ているだけだと思いますが。」
「海賊狩り? 今度は何を始めたの?」
「船が欲しくなったので、海賊から奪おうと思いまして。海賊は資源ですからね。」
「また変な事言って・・・、まあやることも無いから一緒に行くわ。」
変なことではなくネット小説界の常識なんだが・・・まあいい。
「私も見に行きます。海の戦いがどんなものか気になりますから。」 ユリアさんも来るようだ。ユリアさんは最近強くなるために勉強熱心だからな。
ヨーコちゃんは実家に行っている。まだヨーラムさんの奥さんは避難していないし、心配なのだろう。毎日こっちにも話を聞きに来ているので、配下に伝言を残しておけば問題ないだろう。船は1つずつしか運べないから1ヵ所襲撃したら一旦戻ってくる予定だしな。1ヵ所なら一晩で終わるだろう。
日も沈んできたので、すぐに出発した。数時間飛んで、魔の森のある陸から比較的近い小さな島がたくさんある場所についた。
ヨゾラさんがいれば闇魔法のナイトビジョンが使えて周囲が良く見えるので助かる。闇魔法を使えるのはヨゾラさん以外にはAランクの熊の魔物しかいない。熊はでかいのでカイザーゴンドラには出せないからな。海の上だと着地する場所が無いので使いづらい。
闇魔法を使える人は非常に少ない。闇魔法を使える職業は一応あるが、聖騎士や神官と違って人気がないので、目指す人がほとんどいないらしい。闇の神が一部で邪神扱いされたりしているからだろう。
海賊のアジトを見ると、島の外からは見えない岩の影に船が泊っていて、そのそばに洞窟がある。
レベル上げ済みの海賊配下を海に投下して、闇にまぎれて泳いで船に乗り込ませて船を奪うように指示した。
高レベル海賊たちは凄い勢いで泳いでいき船によじ登り船を制圧した。あまり人は乗っていなかったようだ。アジトにいるのだろう。
その後、ギルバーンを船に降ろして襲撃に気づいた敵に向かって演説させた。
「我は闇の王ギルバーン!海を荒らすウジ虫どもよ!我がアンデッドにして雇ってやろう!海賊のようなウジ虫よりよほどマシであろう!感謝しながら我のために働くがいい!」
「なんだ?!」「バカが何言ってやがる!」「スケルトンだ!」ワー!ワー!
相変わらずギルバーンは適当なことを言っているな。何か幻も見せているようだし。
そして配下達を突撃させて簡単に海賊討伐は終了した。
ギルバーンに演説させた理由はいくつかある。
1つめは、全員を逃さず捕らえるのは難しいからだ。何人いるかも知らないしな。情報が洩れてしまう可能性が高い。そこでギルバーンに海賊退治の功績を上げさせてギルバーンのイメージ回復に利用する。
2つめは、夜だが海の上は遠くまで見えるし、暗視ができる人はたまにいるのでドラゴンが目撃されている可能性がある。不明なドラゴンが飛んでいたとなると大騒ぎになるので、ギルバーンが飛んでいたことにするためだ。
3つめは、海賊に囚われた被害者がいる可能性があるので、それを町までドラゴンで送っていくためだ。ドラゴンを使わなければ時間がかかりすぎる。ドラゴンのそばにギルバーンがいないと不自然だし、ギルバーンが傍にいないとドラゴンを出せないと思わせたい。ドラゴンが自由に単独行動できると思われると警戒されるからな。あと、ギルバーンに助けられたと認識させるためでもある。これもイメージアップだな。まあ怖がったり嫌がったりする人がいた場合でも、悪名高いギルバーンがいれば逆らえないだろうという脅し役でもあるので、イメージアップするとは限らないけどな。脅し役なんて俺はやりたくないからギルバーンにやらせる。
こんな感じだ。
まあカイザーが見られてしまう可能性が高いから、ついでにギルバーンの評判を多少改善しておこうということだ。
すでに勇者との戦いで見られているし、前回飛んでいる所を目撃された時もギルバーンのドラゴンということになったので、無理に隠す必要もない。
配下が捕らえた海賊を収納していると、やはりアジトには捕らえられた商人や女性が数人いたようだ。
俺達のことを見られるのは良くないので、俺達は会わないことにした。酷い状態のようなので、配下に治療やお世話をさせて、見た目だけは綺麗にしてから、運ぶために船に乗せた。俺達のことを見られないようにお世話係の配下と一緒に船の奥の貨物室に入ってもらった。何か言う気力もないようで大人しかった。
手に入れた船は、小型の貨物船を改造した物のようで、麦わらの一味が初期に乗っていた船をちょっとボロくした感じだ。戦闘用に補強されているが、大砲は無い。この世界では砲撃は魔法使いの役目なので大砲は無いそうだ。一応砲撃できる魔道具はあるそうだが、普通の船に積めるほど量産はできないらしい。
さっそく必要要員以外を収納し、空を飛んでみた。
船がゆっくりと持ち上がり空に浮かび上がる。
最近ではカイザーもジェットコースターのようにならない方向転換を覚えたので、それほど揺れない。俺達が落ちることもないし、貨物室の被害者も問題ないだろう。
高速で飛ぶと空気抵抗でマストが折れたりしないか不安だったが、帆を畳んでいれば問題ないようだ。人妻エルフさんが風魔法で風を抑えているからだろう。
夢の空飛ぶ船の完成だ。
「ヨゾラさん、ユリアさん、どうですか新たな空飛ぶ乗り物は?」
「良いじゃない。前より広いし、大きいから安心感があるわ。」 ヨゾラさんは気に入ったようだ。
「そうですね。人数も大勢乗れますから町の人の避難にも使えそうです。」 ユリアさんは避難に使うことを考えているようだな。まあ俺も緊急時はヨーラムさんの関係者を乗せるつもりだった。
「今までのカイザーゴンドラとは全然違うので、これはカイザーシップと名付けます!」
俺は新たな名前を高らかに宣言した。
「うん。いいんじゃない。」「そうですね。」
二人はあっさりとしていて、ちょっと物足りない反応だった。残念。
しばらく飛ぶと見張りの配下から洋上で海賊船を見つけたと報告があった。今までは乗れる人数が少なかったから見張りは置けなかったが、それなりの人数が乗れるようになったので、着水時の操船要員もかねて見張りをさせていた。
ついでなので、もう一隻もらっていこう。配下に操船させておけば洋上で何日か待たせても問題ないだろうからな。
俺は海賊船への襲撃を指示した。
高レベル海賊配下を海に落として襲撃させる。海賊配下が凄い勢いで泳いでいき船によじ登った。そして船で戦いを開始した。今度はそれなりの数の海賊が乗っているようだ。
俺は念のため今回もギルバーンに演説をさせることにした。
船上は戦闘中なので、ギルバーンに風蛇を巻き付けてパラシュート代わりにして、上空からギルバーンを落としてみた。
「ワハハハ!我は闇の王ギルバーン!海賊は我の獲物とすることにした!地獄で海賊になった不運を呪うがいい!ナイトバットスウォーゥムッ!」
「うわああああ!」「ぎゃああああ!」「お頭!無理でさぁ!」「何とかしろー!死にたくないー!」
夜の闇の中から大蛇を巻き付けた悪の魔法使いの登場だからな。強風を吹かせながら上空から降ってきていているし、相手はかなり怖いだろう。よく分からないが凄い幻も見せているようだしな。
「ギルバーンは相変わらず酷いセンスね。」 ヨゾラさんも呆れている。
「そうでしょうか? ちゃんと闇っぽいかっこいい演技ができていると思いますが。」 ユリアさんはギルバーンの演技は高評価のようだ。
マジで?! もしかしてこの世界の人には中二系が人気なのか? それとも闇=中二系なの?
「・・・そうかしら?」 ヨゾラさんも納得いかないようだ。
「ええ。物語ではあんな感じが人気ですよ?」
この世界ではギルバーンみたいなのが人気らしい・・・
いやよく考えたら日本でもある意味人気だしな。ネットが無ければネットのおもちゃにされて変な扱いを受けたりしないし、人気でもおかしくはないのだろう。
ギルバーンが遊んでいる間に海賊配下がサクっと敵を倒して制圧完了した。
しかし海賊配下は陸だと弱いが海だとかなり使えるな。泳ぐのも早いし、揺れる船の上でも身軽で全然バランスを崩さない。操船もできる。それにアンデッドは呼吸も必要ないから水中の魔物とも戦える気がするな。今まではただの弱い戦闘員だったが一気に高評価だ。海賊は今後も集めよう。まあ捕らえた奴らは無職も多いみたいだけどな。
二隻目の海賊船は運べないので、操船できる配下を数名残して海の上においていった。
とりあえずレバニールの町の近くに被害者を降ろして、数日分の宿代を持たせて配下に町まで送らせた。あとは商業ギルドが何とかするらしい。
口止めはしても無駄なのでしていない。まあ船の奥にずっといただけでほとんど何も見ていないので、船を運べるという以外は何も分からないだろう。船を運べることも知られたくなかったが口封じするわけにもいかないので仕方がない。そんなことをしたらヨゾラさんに捨てられてしまう。
俺達は一旦拠点に帰り、カイザーのヘリポートの横に船保管用の池を作って、船を拠点に持ってきた。無限魔力の大魔導士がいれば船を浮かべる池はすぐに作れた。プールと違い多少水が汚くても問題ないから、木を吹き飛ばして土を掘って水を入れるだけだ。
その後、数日かけて置いてきた船の回収ともう一か所の海賊のアジトを襲撃して、船は合計三隻になった。
レバニールの拠点に船が三隻あっても無駄だし目立つので、とりあえず魔の森の奥の新拠点に二隻は置いてきた。
そしてようやくヨーラムさんがレバニールに戻ってきた。
丁度良くヨーマ君も第一陣の航海を終えて帰ってきた。
久々に全員がそろったことに喜びながら今後の話し合いすることにしたが、そこに新たな情報が飛び込んできた。
「近々占領軍がレバニールに向かうという情報を得ました。」
相談することが増えたようだな。
さっそくカイザーシップの出番が来てしまうかもしれない。
しかし俺達が協力し合えばどうにかなるだろう。
俺は心の不安を押し殺しながら、強気に笑った。




