第67話 愛以上の何か
ヨーラムさんが帰ったあと、ヨゾラさんが真剣な顔で何かを考え込んでいた。
ヨゾラさんは、先ほどヨーラムさんに自分たちも討伐対象になっているか聞いていた。
今のところギルバーン以外で討伐対象になっているのは、ギルバーンの仲間と配下のアンデッドで、仲間のうち顔と名前が知られているのは俺だけだそうだ。ヨゾラさんやユリアさんの顔と名前は知られていないらしい。勇者はヨゾラさんのことを「攻撃が効かない女」と呼んでいたが、顔と名前は知らなかったそうだ。
・・・俺以外は逃げ隠れしなくていいということだな。ちょっと嫌な予感がしてきた。
いや待て、落ち着こう。まだ慌てる時間じゃない。
まずはヨゾラさんに何を悩んでいるのか聞いてみよう。
「ヨゾラさん難しい顔をしていますけど、何か気になることでもありましたか?」
俺は内心を悟られない様に涼しい顔をして聞いた。
「え? ああ、うん。ユージ以外は顔や名前を知られていないなら、私達は自由に動けるんじゃないかと思って。アンデッド対策に引っかかることもないし。」
!! やっぱり!!
もともとヨゾラさん達が仲間になったのはレベル上げのためだ。しかしもうレベル上げはほぼ終わっている。あとは、配下が便利なことと、魔王と一緒に戦うためだな。配下は便利だが町から離れるとなると、町に住んだ方が良い点も多くなる。今はマジックバッグもあるし一緒にいる理由としては弱い。魔王もまだ現れていないから、現れるまでは別行動していても何も問題ない。
・・・ヨゾラさん達はもはや俺と一緒にいる理由は無いということだ。
ヤバい。冷汗が流れて来た。
俺はどうだ? 皆がいなくなって生きていけるか? 俺も強くなったし強い配下も増えた。魔の森の奥でも暮らせるはずだが、ドラゴンやSランク魔物に襲われたらどうだ? 今ならたぶん勝てるが10回襲われて10回勝てるかと言われたら厳しい気がする。常に万全な態勢で戦えるわけじゃない。カイザーの時みたいに、急に飛んできてブレスを連発されたら死ぬんじゃないか? 何より今更一人になるのは嫌だ。配下がいるとはいえ配下は生きた人とは違う。俺は心の弱い人間だ。絶対服従の配下だけしか周りにいない生活をしていたら絶対良くない方向にいってしまうだろう。まともな人間でいられなくなってしまうかもしれない。
ここでヨゾラさんを逃がしてはダメだ!何が何でも引き留めなくては!
俺は意を決してソファに座るヨゾラさんの前に立った。
「見捨てないでください!お願いします!」
俺はなりふり構わず土下座した。日本人の最終兵器だ!
「ええ?!急になに?!」 ヨゾラさんは驚いている。
引き留める理由は俺の気持ち以外何もない!勢いでいくしかない!
「俺はヨゾラさんが一緒にいてくれないとダメなんです!お願いします!」
俺はそのままソファに座るヨゾラさんに縋りついた。
「きゃ!ちょっとどこ触って・・」
「ヨゾラさんがいなくなるなんて考えられない!俺を一人にしないでください!」
「あっ!急にどうして・・」
気が付くと俺はヨゾラさんに下から抱き着く形になっていた。ヨゾラさんの体温を感じてドキドキしてきた。
ヨゾラさんは真っ赤になって固まっている。
・・・え? もしかしていけるの?
強引なのは良くないか? でもヨゾラさんは無敵バリアがあるし最強だから嫌なら俺を弾き飛ばしているはずだ。つまり嫌じゃない。俺を受け入れているということだ。
しかし俺はヨゾラさんを愛しているというわけではないが・・・ いや、俺はヨゾラさんに一生一緒にいてほしいと思っているし、命を預けている。これはもはや愛だ。いや愛以上の何かだ。ここで逃してはいけない。行くしかない。
「ヨゾラさん。俺と一生一緒にいてください。ヨゾラさんがいないと俺は生きていけません!」
「えっ、そんなっ、だっ・・」
俺はヨゾラさんに口づけた。
「ん~~っ、ぷはっ、こんなっ、急に、離れ・・」
「ダメです。返事を聞くまで離れません。一生一緒にいてくれますか?」
俺はもう一度キスした。よし!拒否されていない!やった!
「んっ、わ、分かった、一生一緒にいるから・・・はっ!」
ヨゾラさんが急に横を見た。俺もつられて横を見た。
ユリアさんが手で顔を覆いつつ指の隙間からこちらを見ていた。
ヨーコちゃんも赤い顔をしながら興味深々でこちらを見ている。
ヨーマ君は気を利かせて席を外したようだ。
バシン!
「ぐはっ」 俺はヨゾラさんから弾き飛ばされた。やはりいつでも弾き飛ばせたようだ。痛い。
「急に何するのよ!」 ヨゾラさんは、赤い顔をして怒っている。
しかし言質は取ったぞ。
「もう遅いですよ!ヨゾラさんは俺と一生一緒にいるって言いました!約束は守ってもらいますよ!やったー!」 無敵のヨゾラさんは俺とずっと一緒だ!約束したからな!絶対逃がさないぞ!
「なっ、何言っているのよ!何喜んでるのよ!もう!」
ヨゾラさんはプリプリ怒っている。ごまかされないように念押ししておこう。
「今更無かったことにするのはダメですよ。俺は命をかけていたんですからね。」
「わかってるわよ!一緒にいるわよ!」 ヨゾラさんは真っ赤になって認めた。
よしよし。これで俺とヨゾラさんは生涯のパートナーになったということだ。実質婚約者だ。
俺がニヤニヤしていると、赤い顔で睨みながらヨゾラさんが聞いてきた。
「でも何で急にこんなことしたのよ。もっとタイミングとかあるでしょ。」
ヨゾラさんは納得いかないといった風な口調だ。
「いやだって、ヨゾラさんが俺と別れて別行動するみたいなこと言ったから・・・」
「え? 何よそれ。そんなこと言ってないわよ!」
え? めちゃくちゃ言ってたじゃんよ。
「さっきヨゾラが私達は自由に動けるって言ったからじゃない?」 ユリアさんが言った。
そうだそうだ!言ったぞ!
「ああ・・・ バカね。あれは一時的に偵察に行ったり、色々できるって意味よ。今更あんたと別れるなんて無責任なことするわけないじゃない。あんたも大事な仲間なんだから。」
「・・・そうなんですか?」
「そうよ。」 ヨゾラさんはまだ少し赤い顔で言った。
俺の早とちりだったらしい。
恥ずかしくなってきた。俺が一人で焦って暴走していただけのようだ。
「でっでも、取り消しはできませんよ!一生一緒ですよ!」 俺は真っ赤になって言った。
「分かってるわよ!何度も言わないでよ!」 ヨゾラさんも真っ赤になって言った。
「ふふふ。良かった。」 ユリアさんは何故か嬉しそうだ、
「凄かったですね!」 ヨーコちゃんは楽しそうだ。
恥ずかしくなった俺は、すごすごと自室に引っこんだ。
まだ考えなければいけないことが色々あるのに、少しおかしくなっている。
窓の外の夜の森を見ながら、心が落ち着くのを待った。




