第66話 今後の算段
俺達はすぐに集まってヨーラムさんに詳しい話を聞いた。
「先日西側主要国による世界会議が行われ、その会議で、勇者を殺した死霊術士ギルバーンは魔王の手先であるとして、世界の敵に認定されました。」
「魔王の手先ですか・・・」 魔物のアンデッドを従えているので、こうなる可能性は初期の頃から考えていた。嫌な予想が的中してしまった。
「そんな?!」「私達は魔王と戦おうとしているのに!」
皆も動揺している。
「私達もこういう事態を避けるため首都の有力者を味方につけていたのですが、有力者全員を味方にできているわけでもなく、世界会議の結果には影響を与えることができませんでした。それにギルバーンに罪を負わせる方向で動いていたため、私達がギルバーンを庇うと矛盾してしまい私達の信用が失われてしまうので、庇うことも難しい状況でした。」
ギルバーンに罪をかぶせたのが仇になってしまったか。
・・・いや、そうしていなければ俺が世界の敵認定されていたかもしれない。間違ってはいないはずだ。
「ユージの扱いはどうなの?」 ヨゾラさんが聞いた。
そうだな。俺がどうなるのかが重要だ。
「ユージさんは世界の敵認定はされていませんが、ギルバーンの仲間として討伐対象にはなっています。ゴルドバ国内では、貸し出されているアンデッドが全員ユージさんの配下なのは国や有力者には知られていますから、ユージさんはギルバーンと違い交渉すればアンデッドの貸し出しにも応じてくれる話の分かる相手と認識されています。ギルバーンは危険人物と見られていますが、手を出さなければ魔物のアンデッドの研究をしているだけで何もしてこないという認識になっています。これらの情報は世界会議や各国にも伝わっているでしょうが、討伐対象からユージさんを外すのは容易ではありません。」
「やはり討伐対象なのね・・・」 ヨゾラさんは考えこんでいる。
うーん。俺はギルバーンの仲間だから討伐対象ということか。喧嘩別れでもしたことにすれば討伐対象から除外されたりしないかな? でも信じてもらえるか? 無理っぽいよな。それに信じてもらえたとしても拘束されたり尋問されたり鑑定されたりするだろうしな。最悪拷問されるかもしれない。交渉はリスクが高すぎてダメだな。
「出頭して交渉は厳しそうですね・・・」
「残念ながら現状では難しいでしょう。」 ヨーラムさんも同じ意見のようだ。
「聖女の時は大事にならなかったのに、今回はどうしてここまで大事になったの?」 ヨゾラさんが聞いた。
「聖女も勇者と同じく特別な存在ではありますが、聖女はあくまで太陽神教の聖女を名乗っていて太陽神教の活動しかしていませんでした。そのため各国は聖女を独り占めしているルディオラに不満を抱いていたので、騒いだのはルディオラだけでした。しかし、勇者は世界のために魔王と戦うという名目のもと活動していて各国が支援していたので、多くの国が当事者として動いて大事になってしまいました。」
「なるほど・・・」
俺達は多くの国を敵に回してしまったということだな・・・
「今後、様子見していた場合は、何が起こるか分かりますか?」
「はい。レイライン王国が討伐軍を起こしてここに攻め入ってくると予想しています。レイライン王国が勇者の保護国でしたので。今までは討伐軍は国が断ってくれていましたが、世界会議の決定なので今後は断れないでしょう。」
「討伐軍ですか・・・それはどのくらいの規模でしょうか?」
「義勇軍なども含まれるかもしれませんので正確な所は分かりませんが、少なくとも数千の軍になることは間違いありません。万を超える可能性もあります。」
「少なくとも数千ですか・・・」 やはり多いな。しかも増えるかもしれないのか。ドラゴンがいるのが分かっているからな。当然かもしれない。
「そんなに?!」「いったいどうすれば・・・」 皆も不安そうだな。
しかし相手はこちらがレベル上げしていることは知らないはずだ。配下全員が高レベルになっていることはバレていないだろう。それなら勝てる可能性もあるか?
「行商中に知ったんすけど、レイライン王国は黒髪黒目の人間を集めているそうっす。」 ヨーマ君が言った。
「ええ?!」
「たぶんユージさん達のように神から力を授かった人を集めているんだと思うっす。すでにこの国に滞在していた人が何人も連れて行かれているそうっす。実際に目撃した人に聞いたんすけど、半分脅すような感じで説得して連れて行ってるみたいっす。断ると神の意志に反したとして重罪人にされるそうっす。今回の件にも関係あると思うっす。」
「そうか・・・教えてくれてありがとう。」 日本人集めもしているのか・・・
討伐軍に日本人がたくさんいる可能性があるな・・・
ドラゴン対策もアンデッド対策もしてくるだろうし、これは勝てるか怪しくなってきた・・・
・・・さすがに今回は逃げるしかないか?
皆の意見を聞いてみよう。
「さすがに今回は逃げるしかないでしょうか? 勝てるか分かりませんし、勝てたとしても、かなり状況が悪くなる気がします。皆さんはどう思いますか?」
皆考え込んでいる。
「・・・そうね。私達が戦うと、将来魔王と戦う戦力を削り合ってしまう。戦わない方が良いわね。」 ヨゾラさんが言った。
そうなんだよな。普通に死んだ人は上級アンデッドにできないから勝ったとしても人類側の戦力はかなり減るだろうし、浄化される配下も出るだろう。万一勇者が浄化されてしまったら魔王に勝つのが難しくなってしまう。やはり戦うのは無しだな。
「そうですね。今回は戦わない方向で考えましょう。とりあえず俺達は見つからない場所に身を隠して様子を見るとして、ヨーラムさん達が無事でいられるかが問題ですね。アンデッドはそのまま貸し出し続けても問題ないですが、何か身を守る宛はありますか?」
前回も問題になったのがヨーラムさん達の安全だ。しかしあれから時間も経っている。ヨーラムさんのことだから何か考えがあるかもしれない。
「はい。根回しは済んでいます。アンデッドをこのままお貸しいただけるのであれば、うまく事業を継続しつつ身を守ることも可能です。ユージさんがいなくなった場合、万一暴れても取り押さえることが可能な弱いアンデッドのみという条件で、事業継続の許可を取ることができました。法的な対応も済ませています。強い護衛のアンデッドは返却する必要がありますが、普通の護衛を雇えば問題ありません。もちろん危険がゼロということはありませんが、そこは商人としての腕の見せ所ですので、ご安心ください。」
やはり対策をしていたようだ。さすがヨーラムさんだ。前回は突然のことだったから厳しかっただろうが、今回は準備時間も多少あるし、自信があるようなので大丈夫だろう。
「さすがヨーラムさんですね。それを聞いて安心しました。」
「良かったわ・・」 ヨゾラさんも心配していたようだ。
俺達の情報を聞き出すために拷問されたりする可能性が無くなったわけではないだろうが、おそらく有力者の味方がいれば回避できる算段なのだろう。戦う戦場が違うだけでヨーラムさんも命をかけて戦っている。言わば俺とヨーラムさんは戦友だ。ここは何も言わずに戦友の言葉を信じよう。
「私達はどこに行くんですか?」 ヨーコちゃんが聞いてきた。
「ヨゾラさんやユリアさんが良ければ、とりあえず、カイザーと戦った場所に新たな拠点を作って、しばらくはそこで様子見をしようと思う。Aランク魔物やドラゴンが出た場所だから軍も来ることはできないだろうし、カイザーゴンドラで数時間だから町に様子を見にくることもできるからね。お二人はどうですか?」
ブレスで吹き飛んで開けた場所になっているから木を切る手間も省ける。
それに広大な魔の森の奥なので、魔の森に入れる強者がいたとしても簡単には見つけることはできないだろう。
「そうね。いいんじゃないかしら。」 ヨゾラさんはOKのようだ。
「良いと思います。」 ユリアさんも賛成してくれた。
「ユージさん達は、そんな場所に拠点を作れるのですか?」
「聖女のスキルで魔物が入れない結界が張れるので、いざとなったらヨーラムさんの奥さんや従業員の方の避難場所にもできますよ。なんなら町を作ることだって可能です。」
町を魔物から守るスキルだからな。
「魔の森の奥に町をですか・・・」 ヨーラムさんは驚きつつも何か考えているようだ。商売の種にならないかとかだろうか。
「とりあえず定期的に配下を様子見に行かせるので、何かあったら言ってください。」
「分かりました。」 ヨーラムさんは頷いた。
「俺もユージさん達についていっていいっすか?」 ヨーマ君は俺達についてくるようだ。
「良いけど、行商はもういいの?」
「ちょっと行商どころじゃなくなりそうっすし、ヨーコもまだまだ心配っすから。それにユージさん達についていった方が将来の商売に役に立つ気がするんっすよね。」
確かに討伐軍が来るうえに俺達の関係者だから、うろうろするのは危険だな。あとやはりヨーマ君はアンデッド事業を継ぐ気はないようだ。まあ継げる可能性が低いからだろう。俺がいないとできないし。
「私もそれが良いと思います。ユージさん子供達をよろしくお願いします。」 ヨーラムさんも賛成のようだ。
「分かりました。お任せください。と言っても連絡はできると思いますし、ヨーマ君の強さなら魔の森でも活動できると思いますから心配ないでしょう。」
ヨーマ君はSランク戦士だからな。一人だと寝たり休憩したりできないから厳しいだろうけど、配下を数人つければカイザーゴンドラ無しで町に行くことも可能だろう。
「ありがとうございます。ヨーマも魔の森の奥の拠点をしっかり見てくるんだぞ。」
「分かってる。」
どうやらヨーラムさんは魔の森の奥に作る拠点が気になるようだ。まあ本当に弱い人が避難して大丈夫か気になるのだろう。奥さんを避難させるかもしれないからな。
ヨーラムさんは軽く今後の打ち合わせをして帰っていった。
ヨーコちゃんはヨーマ君が一緒に来ることになって嬉しそうだ。やはり知らない場所に引っ越すから家族がいた方が心強いのだろう。それにヨーコちゃんはまだ本格的な冒険をしたことが無いからな。色々な経験をせずにいきなり強くなってしまったから不安なのだろう。まあ今回も飛んでいくだけなので本格的な冒険はしないが。
俺は何とか今後の算段ができたことに胸を撫でおろしながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。




