外伝12 決着
大きな黒豹の魔物は私の後ろに回り込むように無音で移動した。
目で追えないほどではないが速い。
そして急激に方向転換して飛び掛かってきた。
私が攻撃をかわすと、私が反撃する前にそのまま走り抜け距離をとった。
「くっ!!」 ヒットアンドアウェイの動きだ。攻撃を当てるのは容易ではない。
「ジェリー援護して!」
「了解シマシタ。支援射撃ヲ開始シマス。」
バシュン! バシュン!
黒豹がジェリーのビームを躱す。
私は躱す先を読んで斬り込んだ。
黒豹がジェリーを狙えば私が隙をついて攻撃し、私を攻撃しようとすればジェリーのビームで動きを鈍らせる。
何度か攻防を繰り返し、ジェリーのビームが何発か当たり、私の攻撃が黒豹の体の表面を少し削った。アンデッドなので光の薙刀が当たれば一撃で仕留めることもできるだろう。逆にジェリーのビームでは中々倒せないようだ。相手もそれを理解しているようで私の薙刀を優先して躱している。
時間をかければ倒すことができそうだが、セイラを救うためには時間が惜しい。しかし無理して斬り込んでも簡単にはやれそうにないし、私以外にこいつをまかせるのは難しいだろう。ここは全力で戦って少しでも早く倒すしかない。
「はっ!!」 バシュン!!バシュン!!
私の斬撃を躱した黒豹にジェリーのビームが当たる。
もうそろそろ動きが鈍ってくる頃だ。動きが鈍ったら一気に仕留める。
シュン! ガイン!
突然黒い影が飛んできてジェリーが吹き飛ばされた。
「何?!ぐっ!!」
驚いた隙に襲ってきた黒豹の攻撃を受けてしまった。追撃はかろうじて防いで距離をとる。
見ると仮面を付けた忍者がいた。
くっ!!敵には忍者もいるのか!!マズい!!
黒豹と戦いながら忍者の攻撃を躱すが手裏剣を何回かうけてしまった。さっきとは逆の状況だ。幸い忍者の攻撃力はそれほどでもないし、セイラの魔法で毒なども効かないのですぐやられることはない。しかしこのままでは負けてしまう。
バシュン!!バシュン!!
ジェリーが戻って来て援護してくれた。多少マシになったが勝てないのは変わらない。誰かに光魔法で援護を頼みたい。しかし並みの隊員ではこの戦いについてこられないだろう。
戦いながら周囲の味方を見る。ほとんどの味方は戦っているかセイラのことを気にしていてこちらを見ていない。しかし祓魔師のゲインがこちらを見ていた。ギリギリ声が届きそうな位置だ。
「ゲインこっちを手伝って!!」 私は叫んだ。
高レベル祓魔師のゲインが加勢してくれれば勝てるはずだ。
ゲインは、周囲を見渡しこちらを見たりセイラが閉じ込められたドームを見たりしている。兵士に指示も出しているようだが、動く様子はない。
「ゲイン!!」 もう一度叫んだ。聞こえているはずだ。
ゲインは動かない。このままではマズい。ジェリーのMPが切れたら負ける。
味方が混乱してしまうが、どうにか聖域の張ってある位置に飛び込むしかない。しかし相手も分かっているのか、聖域の場所には行かせないつもりのようだ。
なんとか切り抜けようと戦っていた時だった。
「見ての通り聖女は死んだわ!聖女の魔法が切れたらあなた達も終わりよ!」 ドームの方から女の声が響いた。
「な!?」 セイラがやられたの?!
「そんな!」「聖女様!!」「よくも!!!」「神はお前を許さないぞ!!」 味方の悲痛な声が響く。
ガッ!!ビシ!!
「うぐっ!」 思わず動きが乱れて、黒豹と忍者の攻撃を受けてしまった。乱れた思考を何とか鎮めて立て直す。
間に合わなかったの?
「撤退しますよ!!」 ゲインが叫んだ。
撤退?!そんな!!
「し、しかし!!」
「ライアスも聖女も死にました!今の最上位は私です!命令違反で処分しますよ!従いなさい!」
「は、は!!了解しました!撤退の合図を打ちます!」
兵士が花火を打ち上げて音がなる。
「撤退ノ合図デス。敗北ガ確定シマシタ。撤退ヲ推奨シマス。」 ジェリーが無感情に声を発した。
「敗北?!ぐっ!!」 また攻撃をうけてしまった。
私たちは負けたの? セイラやガオルは死んだの?
涙で視界が滲む。
「ぐはっ!!」 敵の攻撃を受け体が地面を滑る。滑りながら素早く起き上がり構える。
「MP残量低下。撤退ヲ推奨シマス。」
ジェリーのMPが切れたら負ける。まだ負けていないのもセイラの魔法が残っているからだ。セイラの魔法が切れても負ける。
味方も戦いながら撤退している。・・・退くしかない。
「ジェリー退くわ・・・」「了解デス。」
警戒しながら後ろに下がると、敵は追撃の姿勢を見せた。簡単には逃がしてくれそうにない。
敵の攻撃を防ぎながら少し下がると急に敵が目の前からいなくなった。
・・・もう追撃を止めたのだろうか。
周囲を伺うと遠くにいる一人の敵兵士が目に入った。なぜか気になったので見ていると、その兵士の前に死体が運ばれてきて死体が消えた。
あれはユージだ。
胸の中に渦巻いた黒い憎しみの炎が激しく燃え上がる。
私は無意識のうちに投槍器と火の魔法槍を取り出し、無我夢中で投槍スキルを放った。
ゴウ!ドガギイィイン!!
別の兵士がユージを庇い、槍は兵士に当たってはじかれた。
また邪魔を!何度でも投げてやる!
すぐに次の槍を取り出し構える。
「こっちだ!いたぞ!」
聞き覚えのある声が聞こえて私は思わず固まった。
見ると魔物を引き連れた敵の騎士がこちらに向かってきている。
見覚えのある槍、見覚えのある鎧、見覚えのある体型、見覚えのある身のこなし。
騎士は仮面付きの兜をかぶっていて顔は見えないが、見なくても分かる。
レオスだ。
私は何も考えられなくなった。
気が付くと私はジェリーの球状バリアに守られながら吹き飛んでいた。
「危険デス。直チニ撤退シテクダサイ。」
ジェリーの子供っぽい機械音声で私は正気に返った。
大勢の敵の魔物が迫っている。まだ頭がうまく回らないが、とにかく逃げなければならない。
ジェリーを背中に貼り付け、ポールハイジャンプのスキルと魔法の靴を使い木の上まで跳んだ。アンデッドが苦手な太陽の光が当たる位置まで跳び、そのままの勢いで風の鎧で追い風を起こして、木を蹴り魔法の靴で宙を蹴りながら森の外に向かって木の上を跳んで移動した。
森の上を跳ぶ私の目からはとめどなく涙が溢れ、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。




