外伝10 魔の森の戦い
私は今日ユージがいるという魔の森に攻め込む。
共に戦う聖女セイラとルディオラ太陽神国のアンデッド討伐部隊「太陽の炎」のメンバーと共に作戦の再確認を行った。
高レベル討伐隊員は私とセイラの他は6名。
総指揮官の聖騎士ライアス
聖女の護衛騎士マリー
獅子獣人の剣士ガオル
祓魔師ゲイン
エルフの弓士フェリオール
火魔法使いアリス
一般隊員は、騎士10名、前衛50名、神官30名、斥候20名だ。
戦闘員の総勢は128名だ。出発前の予定と変更はない。
作戦は、正面から敵拠点に乗り込み、出てくるであろうアンデッドの軍勢を撃破。斥候と前衛はユージやギルバーンを探しつつ戦い、見つけ次第、斥候職が足止めと目つぶしを試みると同時に、遠距離攻撃可能な高レベル隊員が遠距離からユージやギルバーンを集中攻撃して仕留める。これも変更はない。
幸い今日は良く晴れている。アンデッドと戦うには絶好の天気だ。
胸に渦巻く復讐心を燃え上がらせながら森の向かっていると獅子獣人のガオルが話しかけてきた。
「いよいよだな。」
「そうね。絶対にユージを仕留めてみせるわ。」
「おいおい。気負い過ぎるなよ。」
「分かっているわ。」 過剰な力みはミスにつながる。
「俺もお前のおかげで、魔法の靴と魔法武器を手に入れることができた。その分しっかり働くぜ。露払いはまかせてお前は本命のために温存しておけよ。」
「ええ。」 ガオルが装備している火の魔法大剣と魔法の靴は、聖女の依頼で私が作ったものだ。
「俺も魔法の靴を手に入れた今ならユージの視界の外から近づいて切り捨てることもできる。ユージは基本はお前らにまかせるが、向こうから間合いに入ってきたら殺っちまうからな。俺が殺っちまっても恨むなよ。」
私がトドメを刺すことに拘っていては、取り逃してしまう確率が高くなるだろう。そこまで余裕のある相手ではない。拘りは捨てて協力して仕留めることに集中しよう。
「・・・トドメに拘りは無いから安心して。でも無理してやられたりしないでよ。」
「ワハハ!そんなヘマはしねえよ!」
ガオルと話して少し肩の力が抜けた。戦いに集中できそうだ。ガオルは私と違って戦場の経験が豊富なのだろう。周囲にも気を配っているようだ。私も周囲が見えなくならないよう気を付けよう。
森に入ってしばらく進むと敵を発見したようだ。森の中は天気が良いので十分明るいが、残念ながら直射日光はほとんど差していない。アンデッドの行動阻害はできそうもない。敵もそれを考えてここに拠点を構えたのだろう。
そして予想通りすでに魔物アンデッドの大群を展開して待ち受けていたようだ。
「敵の数はおおよそ150。一部の斥候はすでに敵の斥候と交戦中です。敵斥候は人間のアンデッドと思われます。」 斥候が指揮官の聖騎士ライアスに報告している。
「うむ。150か、少し多いが予想の範囲内だな。しかしまだ温存戦力が50はいると思っておいた方が良いか。すでに交戦しているなら早く始めた方がいい。聖女様、お願いします。」 聖騎士ライアスが言った。
「わかりました。」
聖女セイラが頷くと周囲に様々な魔法陣が浮かび上がり、討伐隊全体が光り輝いた。強化系の魔法だろう。
私にも魔法がかかり、攻撃と防御のステータスが大きく上昇した。武器にも光魔法が付与されたようだ。
いよいよ戦いが始まる。
「敵は前方100メートル!魔物アンデッドの群れだ!全員戦闘態勢!」 指揮官のライアスが叫んだ。何かスキルを使っているのだろう。声がよく聞こえる。
おう!!!! ザザッ!!
全軍が戦闘態勢に入った。
「邪神の眷属であるアンデッドと死霊術士を滅し、光を齎せ!神敵滅殺!全軍前進!」
うおおおお!!!!
「神官隊は前衛が接敵次第、浄化と聖域を使え!」
前方で戦いが始まった。私達遠距離攻撃担当の高レベル者はギルバーンやユージが見つかるまで待機だ。
ただ私は弓士や魔法使いと違い、前衛に守られる必要はないので、状況によっては前に出ても良いことになっている。
少し前に出て、前線の様子を伺いつつ、ユージやギルバーンを探すとしよう。
ワーワーと激しく戦う最前線を見るために前に出ようとすると、神官隊に向かって上から魔法が降ってきた。
頭上を見ると木の枝に猿の魔物が見える。結構な数がいるようだ。
猿の魔物は神官の魔法を妨害しようとしているようで、威力は大したことないが、神官ばかりを狙っている。おそらく敵の作戦だろう。
前線はセイラの魔法のおかげで優勢に戦えているようだが、本来対アンデッドの主力であるはずの神官がうまく機能していない。
アンデッドは正面から力押しばかりしてくるイメージだったが、敵は綿密な作戦を練ってきているようだ。
魔法の靴があれば木の上でも戦えるので、私は木の上の猿を倒した方が良いかもしれない。
私が木の上の猿を倒そうかと考えていると、突然謎の声が響いた。
「フハハハハ!我は闇の王ギルバーン!我の領域を侵す不届き者どもよ!死霊どもに喰われて後悔するがいい!サモンデスソウルアーミー!!」
見ると敵の向こう側の少し高い位置に見覚えのある黒い魔法使いが見えた。
あれはギルバーン!! 私のターゲットの一人だ!!
胸の黒い渦が激しく燃え上がり今すぐ敵の中に飛び込みたい衝動に駆られる。
いや!冷静にならなければ!
胸の黒い渦を押さえつけギルバーンを観察すると、ギルバーンの周囲に黒いモヤが集まり武装したスケルトンやローブを着た骸骨が次々に生み出されている。
あれはハイスケルトンともしかしてリッチ?! マズい!
「なんだあいつは?!」「あれがギルバーンか!!」「あれはリッチじゃないか?!」「マズいぞ!」 皆ギルバーンを見て焦っている。
ウオーーーー!!
そして左側から軍の雄たけびらしき声が聞こえた。
「左から敵の増援だ!」「クソ!」
見ると敵の歩兵らしき部隊と先頭に馬に乗った騎兵が一騎見えた。
騎兵が異常な加速で馬を操りながら斬撃を飛ばしてこちらの前衛を倒している。
「第3隊と第4隊は左を抑えろ!!」
すぐに指示が飛ぶが、立て続けの敵の援軍に味方は浮足立って動きが鈍い。マズい状況だ。
「アスカ!ギルバーンを狙えるか?!」 ライアスが聞いてきた。
「やってみる!」 私は投槍器と投槍用の火の魔法槍を取り出した。
「頼むぞ!!」 ライアスもかなり焦っている。
「アスカが攻撃したらすぐにフェリオールも追撃しろ!」 弓士のフェリオールも狙える位置を探しに移動していく。火魔法使いのアリスは射程外のようだ。
このまま強力なリッチを次々と生み出されては、勝てるか怪しくなってくるし、味方の士気も下がっていて危険な状況だ。
まさかギルバーンがこれほどの力を持っているとは思っていなかった。
「ジェリー!空中に足場を!」
「了解シマシタ。」
背中にくっついていたジェリーが上に飛び上がりバリアで空中に足場を作成した。
以前リッチと戦った時に狙える場所が中々見つからなかったので、それを改善するために試行錯誤をして、ジェリーが空中に平らな足場を作れることが分かった。
私は足場に飛び乗った。
ここならいける!
狙うのは胸の中心。ギルバーンがアンデッドだった場合は魔石を砕かなくては倒せない。これもリッチを倒した時に学んだことだ。
私は全ての装備と強化スキルを発動した。全身から様々な色のオーラが立ち上る。
絶対に当てる!
魔法槍に火をまとわせ、風の鎧で追い風を起こし、魔法の靴でしっかりと足場を蹴り、風の投槍器で槍に加速をつけ空気抵抗を減らし、投槍スキルを発動して、全力で火の魔法槍を放つ!
ゴウ!ドガアァン!!
槍が空中に炎の線を引きながら飛翔し、轟音とともにギルバーンが砕け散った!
やった!胸の中心に当たった!確実に殺せたはずだ!
ギルバーンを倒すとハイスケルトンやリッチも霧のように消えていった。ギルバーンが死ぬと維持できないタイプのスキルだったようだ。
「アスカがギルバーンを打ち取ったぞ!リッチも消えた!」 ライアスが叫んだ。
うおおおお!
士気も持ち直したようだ。これなら大丈夫だろう。
私は足場を消して本陣に戻った。足場はジェリーのMPを結構消費するので、常時出しておくには向いていない。
「よくやった!」 ライアスが話しかけてきた。ライアスも嬉しそうだ。それだけ危険な状況だったのだろう。
「ええ。仕留められて良かったわ。それよりユージは見つかった?」
「いや。まだ見つかっていない。」
「斥候部隊は何をしているの?」 まさかユージはいないの?
「斥候はほとんどやられてしまったようだ。どうやら隠密タイプの強い魔物がいるらしい。」
「そんな・・・」
それではここで待っていてもユージが見つかる可能性は低い。
「じゃあ、私はユージを探しに行ってくる。いいわよね?」 私自ら探しに行こう。
「・・・わかった。ギルバーンを仕留めた功績もあるしな。許可しよう。だができるだけこちらの状況も把握しておくように。」
「わかった。」
周囲を見ると、セイラは本陣で待機している。騎士のマリーはセイラの護衛をしているようだ。弓士のフェリオールと火魔法使いのアリスは木の上にいる猿の魔物を攻撃している。そしてガオルが前線から戻って来ていた。
「アスカ!やったじゃねえか!」 ガオルがこちらに気づいて話しかけてきた。
「ガオル前線はどうしたの?」 なぜ前線から戻ってきたのだろうか。
「ああ。前線はお前のおかげで問題なさそうだからな。俺は木の上の猿どもを倒そうと思ってな。魔法の靴があればやれそうだからな。それで仲間に攻撃されない様に言いにきたんだ。」 ガオルも私と同じようなことを考えたようだ。
「そうなのね。ユージは見つかった?」
「いやそれらしきヤツは見ていない。」
「それなら私は左側の敵を見に行くわ。」
木の上にはおそらくいないだろうし、ユージがいるとしたら人間のアンデッドが多い左側の可能性が高いだろう。
「ああ。気を付けろよ。」
「あなたもね。」
左側にいないようならユージは戦場にはいないのかもしれない。
斥候がやられてしまったから捜索は難航するだろう。
私はユージがいることを祈りながら回り込むように左側の敵軍に向かっていった。
前線では死体が散乱し、戦場の空気は重苦しさを増していた。




