外伝9 戦いへ
ユージの情報が入らないことに苛立ちを感じながら、聖女セイラからの依頼をこなしていたある日、セイラから死霊術士の情報を入手したと連絡があった。
私はすぐさま、セイラのもとへ向かった。
いつもの聖女の部屋に入ると、セイラとともに文官らしき人が待っていた。
「セイラ!ユージの情報が見つかったの?!」 私は我慢できず挨拶もせずに問いかけた。
「ふふふ。そのとおりよ。慌てないで。担当者を呼んだから一緒に説明を聞きましょう。」
文官から資料が渡された。
はやる心を抑えながら。ソファに座って説明を聞いた。
ユージは東にあるゴルドバ商業連合国にいて、すでにメルベル侯爵家の刺客を何度も退けているらしい。直近では、ギルバーンが魔物アンデッドの大群を操りAランク冒険者を撃退したそうだ。
予想以上に力をつけている。・・・少人数では厳しいかもしれない。
「・・・この資料を見ると、メルベル侯爵家はかなり前からユージとギルバーンの居所を掴んでいたようだけど。こっちに届くのが遅かったのね。」 もっと早く情報を得られたのではないか。
その問いには文官が答えた。
「メルベル侯爵家が自分たちで討伐するために、他に先を越されないよう隠していたようです。そのため情報の入手が遅れました。」
「誤解しないでちょうだいね。この世界の情報伝達の遅さや不正確さは知っているでしょう。正確な情報を確認するのにも時間がかかるわ。特に今回は私が討伐に参加することになっていたから、しっかり情報を確認する必要があったそうよ。」
・・・聖女が出るなら不確かな情報では動けないということか。
私に仕事をさせるためと聖女を出したくないために、討伐が成功するか様子見していた可能性もあるが、すでに情報を得られたのだから追及は無意味だろう。
「・・・そう、信じるわ。」
「ふふふ。信じてもらえて良かったわ。それで討伐隊なのだけれど、資料を見るかぎり、少人数では討伐は難しそうね。」
「ええ、人数は必要になりそうね。」
「大人数の討伐隊を他国に送るとなると、編成にも他国との交渉にも多少時間がかかることになるわ。」
「・・・時間がたてばユージ達がさらに力をつけてしまう!一刻も早く討伐に行かないと!逃げられる可能性だってある!」 胸の中の黒い渦が早く殺せと叫ぶ!
「残念だけれど私の権力でできる範囲を超えているのよ。他国に大勢の戦力を送るには戦争にならないよう調整が必要よ。特にゴルドバ商業連合国には多くの国の拠点があるの。強引なことはできないわ。万一戦争になってしまえばユージの討伐どころではなくなってしまう。理解してちょうだいね。」
「・・・くっ!」
私一人ででも行きたいところだけど、それで勝てるほど甘い相手ではない。
居場所が分かっていながらまだ待つしかないの?
「ごめんなさいね。私にもできないことも多いのよ。」
「・・・わかったわ。できるだけ早くお願い。」
「もちろんよ。できることはするわ。それと即死を防ぐタリスマンの素材がやっと手に入ったわ。あなたと私の二つ分しかないけれど、これがあれば勝てる確率が大幅に上がるから、それを作って待っていて。」
即死を防ぐタリスマンは、MPを込めておけばユニークスキル級の即死攻撃も防げる貴重なアイテムだ。
この国の宝物庫にあったものだが、国王でもある教主が身に着ける物なので、貸出許可が下りず、今までは材料も手に入らなかった。
これがあればユージに勝てる可能性が大幅に上がる。
ただし防ぐたびに込めたMPを消費するので、何回防げるかは未知数だ。それでも作れるなら絶対に作りたい物だ。
「わかったわ。」
私は話を終え、胸の渦を抑えながら部屋を出た。
そしてまたしばらく錬金の仕事をしながら、討伐の日を待った。
即死を防ぐタリスマンも作ることができた。
タリスマンを作ってから数日後、ある程度予定が決まったようで、討伐隊の会議が行われることになった。
もしかしたら聖女に万一のことがないように、このタリスマンができるまで出撃するつもりが無かったのかもしれない。
ユージと戦うにあたり、聖女セイラの能力は大きな戦力になる。
セイラは、聖女と支援術士の職業を持っていて、ユニークスキルは「味方支援」だ。
味方支援は、広範囲の大勢の味方に一気に追加コスト無しでスキルや魔法を使うことができる能力で、聖女の強力な支援や回復の魔法を1回分のMP消費で町全体や軍全体にかけたりすることができる。
そして聖女を敵視している相手にはかからないので、スパイや裏切り者の判別にも使える。
さらに、魔法をまとめて千人にかければ魔法千回分、一万人にかければ一万回分の経験値が得られるので、職業レベルのレベル上げにも使える。
非常に強力な能力だ。
魔法の経験値はその魔法を覚える職業にしか入らないので、セイラの人間と支援術士のレベルは低いが、聖女のレベルは30を超えているそうだ。
味方用の魔法やスキルがある職業限定だが、私の詳細鑑定よりレベル上げ性能が高い。
毎日町全体に魔法をかければもっとレベルが上がりそうだが、そのような奇跡のような行為は、特別な時以外禁止されているらしい。なので、私よりレベルが低いようだ。
聖女は神官の上位互換のような職業で、光魔法が使えて回復、防御支援、浄化などができる。
神官系は魔法系ステータスだけでなくHPや物理防御力も上がる。
聖女も神官と同じくHP、MP、物理防御力、物理攻撃力、魔法防御力が上がる職業で、防御系ステータスは全て上がるため防御能力が高い。
身体能力と物理攻撃力は上がらないが、勇者と同等の特別な職業だけあって、ステータス上昇値が非常に高く、自分で回復や防御バフもできるため、高レベル者相手でも簡単にはやられない能力をもっている。
それもあって、唯一の懸念であった即死対策ができたので、出撃が認められたのだろう。
支援術士は、前衛に支援魔法をかけて魔物討伐をさせて人間のレベル上げをしていたら、いつの間にか覚えたそうだ。ユニークスキルに関係する職業だから覚えやすかったのだろう。
支援術士は、聖女には使えない攻撃系の支援もできる。攻撃力アップだけでなく、覚えている魔法の属性を武器に付与して一時的な魔法剣にすることもできるので、光魔法と味方支援が使えるセイラが使えば、味方全員の武器を光属性にできる。これも非常に強力だ。
体裁にこだわらず毎日町全体に何度も魔法をかけてレベル上げをしていれば、レベルMAXの無敵の聖女になれたと思うのだが、宗教国家のしがらみがあるのだろう。
もしかしたら強くなりすぎることを警戒されたのかもしれない。
まあ支援魔法は体が光るので、町の全員が何度も光ると色々と事故が起きたりするというのもあるだろう。
レベルMAXは99だと言われているらしい。
会議の当日になり、主要メンバーが会議室に集まった。
会議が始まると説明担当者から今回の討伐部隊の編制が発表された。
今回参加する高レベル討伐隊員は私とセイラの他は6名。
総指揮官の聖騎士ライアス
聖女の護衛騎士マリー
獅子獣人の剣士ガオル
祓魔師ゲイン
エルフの弓士フェリオール
火魔法使いアリス
一般隊員は、騎士10名、前衛50名、神官30名、斥候20名だ。
戦闘員の総勢は128名になる。
それ以外にも外交官や聖女のお世話係やその他雑用係等様々な人員が最寄りの町まで同行する。今回は船も使うので船員等も港まで同行する。大所帯だ。
聖騎士というのは神官と騎士のレベルを上げると覚える防御に優れる上級職だ。
今回参加する聖騎士ライアスは、アンデッド討伐部隊太陽の炎の副長でもある。残念ながら隊長は不参加だ。まあ総力戦というわけではないので、隊長までは出さないのだろう。この布陣で問題なく討伐できるはずだ。
祓魔師というのは、近接戦闘と浄化や攻撃系光魔法が使える対アンデッドや対悪魔特化の魔法戦士のような職業だ。
自分を中心に周囲を素早く浄化したりできるので、アンデッドに対する接近戦では無類の強さを誇る。
移動は、この国の南の海沿いにある港から船でゴルドバ商業連合国に向かう。
まずゴルドバ商業連合国の首都の港町に寄って議会に対して挨拶と外交手続きを行い、その後再び船に乗り、ユージの拠点の近くにあるレバニールの港町に向かう計画だ。
船を使う理由は単純に早いことと、間にあるレイライン王国とは関係が良くないので部隊の通行許可が取りづらいためだ。
ゴルドバ商業連合国の首都に寄る理由は、それなりの戦力を他国に上陸させるにあたり外交儀礼が必要になるからだ。
そこでも時間が取られてしまうようだ。ユージに逃げられてしまわないか不安だ。
そして説明担当者から今回の敵の戦力についての資料が配られ説明が行われた。
ユージのステータスやユニークスキルの情報、能力が不明なギルバーン、数十名の人間アンデッドと100体以上の魔物アンデッドを保有していると書かれている。
担当者が今回の作戦について説明を始めた。
「今回の基本的な戦術は、正面から敵拠点に乗り込み、出てくるであろうアンデッドの軍勢を撃破。斥候と前衛はユージやギルバーンを探しつつ戦い、見つけ次第、斥候職が足止めと目つぶしを試みると同時に、遠距離攻撃可能な高レベル隊員が遠距離からユージやギルバーンを集中攻撃して仕留めるというものになります。」
基本正面から当たるだけだが妥当なところだろう。
今回は人数も多いし移動も時間がかかるので奇襲は難しい。
遠距離攻撃担当は、私と弓士と火魔法使いだ。
「何か意見や質問がある方はどうぞ。」
「ギルバーンとユージは同じ場所にいるのは確定なのか? それとギルバーンの情報は不確定でもいいから何かないか?」 ガオルが質問した。
「はい。まずギルバーンですが、資料のとおりAランク冒険者が戦った際に現れているので、そこにいることは間違いありません。ユージについても同じ拠点にてレバニールの町の商人と継続的に取引しているとの情報が入っているので、まず間違いないでしょう。ただし外出中だったりした場合は捜索が必要になるかもしれません。その場合は現地で判断することになります。」
死霊術士と判明しているのに商人と取引できているということは、ゴルドバ商業連合国は死霊術士の存在を認めているのだろう。
「ギルバーンの能力については不確定ですが、魔物アンデッドの軍勢と互角以上に戦っていたAランク冒険者達が、ギルバーンが出てきてすぐに劣勢になり魔物の軍勢に飲み込まれ見えなくなったという情報があります。何らかの強力な能力があるのは間違いありませんが、詳細は不明です。」
「そうか。」 ガオルは思案顔だ。
「アンデッドは私達なら問題ありませんが、ギルバーンには注意が必要そうですねえ。」 嫌味っぽい雰囲気の祓魔師ゲインが言った。
「我々を察知して逃げられる可能性はどうみているんだい?」 エルフの弓士が質問した。
「はい。過去の事例や性格分析から、大きな拠点とアンデッドの大群を所持している死霊術士が戦闘もせずに逃げる可能性は極めて低いと判断されました。戦闘の勝敗が決したあとは逃げる可能性があるので、斥候は早めに発見して逃がさないことに注力させます。」
「うん。わかったよ。」 エルフの弓士が返事をする。
「私が入手した情報によると、最近メルベル侯爵と執事長が殺されたそうだけど、この件と関係があるの?」 火魔法使いアリスが質問した。
侯爵が殺された? どういうこと?
「その件に関しては、こちらの入手した情報によりますと、侯爵家がギルバーンやユージの暗殺を依頼していた暗殺組織と揉めて抗争になったそうです。何度も失敗したことで侯爵家と暗殺組織が揉めて抗争に発展し、その結果、暗殺組織に侯爵と執事長が暗殺されたと聞いています。その後暗殺組織も侯爵家と他の組織によって潰されたとのことです。」
「ギルバーンやユージが殺したわけではないのね?」
「はい。こちらで確認したわけではありませんが、証拠もあがっているそうです。」
「そう。ならいいわ。」
私がメルベルにいた時に挨拶だけしたが、殺されたのか。少し気になるが関係ないなら今はいい。
祓魔師ゲインが嫌味っぽい口調で聞いてきた。
「聖女様と錬金術師殿に質問なのですがね。ユージは黒髪黒目でユニークスキルを持っているとのことですが、お二人も黒髪黒目でユニークスキルを持っていらっしゃるそうですね。何か関係がおありなのですか?」
面倒なことを聞いてきた。しかし話せることは無い。
「・・・関係ないわ。」 私は答える。
「そうね。詳細はこの場で話すことはできないけれど。しいて言うなら同じ国の出身といったところかしら。」 セイラが答える。
「ふーむ。お仲間といったところですか。お二人はお仲間とちゃんと戦えるんでしょうね? いざというときに手心を加えるようでは困りますよ?」
「仲間などではない!!」 私は怒りに頭がカッとなり思わず薙刀に手をかけて立ち上がった。
胸の中の黒い渦が怒りで膨れ上がる。こいつを
「アスカ。落ち着いて。」
落ち着いてなどいられない!
「私に任せて。」
目の前の男を叩き切りたい衝動を何とかおさえ、嫌味な祓魔師を睨む。
「おお怖い。」 私の権幕に少し驚いたようだが、再びニヤニヤしだした。
「ゲインあなた変わった考えを持っているのね?」 セイラが話す。
「そうでしょうかねえ?」 嫌味な男が答える。
「あなたグラシス王国の出身だったわね。ではグラシス王国出身の相手の時はゲインを外すよう通達しておくわ。同じ国出身の仲間のために裏切るかもしれないと自分で言っていたと伝えてね。」
祓魔師ゲインは苦々しい顔をしたあと、真剣な顔をして言った。
「・・・前言を撤回して謝罪いたします。私にも同じ国の出身者に殺したい相手がいます。おかしなことを言って申し訳ありませんでした。」
どうやら殺したい相手との戦闘から外されるのはよほど嫌なようだ。
「わかってもらえればいいわ。アスカもいい?」
「いいわ。でも気を付けて、次は自分を抑えられるか分からない。」 私はゲインを睨みながら言った。
空気が悪くなった会議室に沈黙が訪れる。
「では聞きたいことができた場合は個別に聞きにくるように。出発は10日後だ、各自準備に取り掛かれ。」
今回の総指揮官の聖騎士ライアスが解散を促し、会議は終了となった。
「おう。アスカ!」 会議室から出ると。ガオルが話しかけてきた。
「・・・なに。」 私は不機嫌にガオルを見る。
「おまえ思ったより熱い奴だったんだな!熱い奴は嫌いじゃないぜ!気に入った!」
「・・・そう。あなたに気に入られてもね。」 少し気が抜けた。
「ワハハ!」 ガオルは笑いながら去っていった。
何も考えていないように見えるが、思ったより気遣いができる男のようだ。・・・多分。
その後、10日の間に追加作成の依頼をこなした。
護衛騎士のマリーの進言で、セイラは触っている相手を弾き飛ばす魔道具を身に着けるそうだ。
セイラはステータスは高いが、身体能力は低いし戦闘技術はまったくないので、取り押さえられて人質にされてしまう可能性があるためだ。
私はいつでも出れる準備ができていたので問題ない。
ポーションや催涙弾も用意している。ジェリーのMPも満タンにしてある。
ジェリーの出番はあまり無い予定だが、ジェリーは不意打ち対策として優秀なので、私の不得意な部分をカバーしてくれる頼りになる存在だ。
会議の資料はジェリーにも見せておいた。意味があるかは微妙だが、記憶力は高いので何かの役に立つこともあるだろう。
討伐隊は予定通り出発した。
この世界の船の旅は、想像するような優雅なものではなく、揺れるし食事は不味いし慣れない人は皆吐くし臭いしで、不快なものだった。
私も気分が悪くなったので、自分で作った酔い止めを飲み、知り合いにも酔い止めを配って回った。
ルディオラ太陽神国の首都ディオルから陸路を2日、海路を7日ほどの旅を終え、ゴルドバ商業連合国の首都の港町に着いた。
1日休憩の後、式典やパーティーに出席させられたりして首都で数日過ごした。
私は立っていただけだったが、聖女であるセイラは式典で挨拶したり、複数の議員と会談したりと忙しそうにしていた。
私はくだらない儀式に時間を消費することにイライラしながら出発を待った。
ようやく首都を出発し、また2日ほど船に乗り、ユージが近くに住むというレバニールの町に着いた。
ユージは魔の森に住んでいるという。悪の死霊術士にはふさわしい場所だ。
胸の中の黒い炎が激しく渦巻くのを感じながら、ようやく近づいてきた復讐の機会に殺意を滾らせる。
季節は秋になっていて、すでに私が復讐を誓ったあの日から1年以上が過ぎた。
私のレベルは39になっていた。
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名前 アスカ
種族 人間Lv39
年齢 19
職業 錬金術師Lv39 鑑定士Lv38 槍士Lv38 戦士Lv28
HP 9686/9686
MP 12852/12852
身体能力 60+7
物理攻撃力 1936+300
物理防御力 1195
魔法攻撃力 828+450
魔法防御力 789
ユニークスキル
詳細鑑定
スキル
錬金
錬金レシピ
修復
付与
合成
複製
大量錬金
錬金術魔導書作成
鑑定
鑑定結果記載
鑑定記録
偽装解除
鑑定妨害
鑑定魔導書作成
槍術
パワースラスト
ハードチャージ
スマッシュジャベリン
ブロウスイング
ポールハイジャンプ
フォーリングアサルト
身体強化
物理攻撃力強化
物理防御力強化
魔法防御力強化
威圧
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