第36話 アンデッド労働者と狐耳兄妹
あれから町の犯罪者を何人かアンデッドにして貸し出した。
アンデッドにした犯罪者はどんなやつらかというと、主に海賊や盗賊だ。
この町より東は、どこの国にも属していない魔の森の沿岸海域で無法地帯になっていて、しかも大きな貿易船が通るため、海賊が出るらしい。
そのためこの国の海軍が海賊討伐を行ったりしているが、海賊が捕まると一番近いこの町に連行されるそうだ。
実際に見た海賊は、ありったけの夢をかき集めているような連中ではなく、いかにも凶悪な犯罪者か、拷問でボロボロになっていてよく分からないかのどちらかだ。
町には軍の拷問官が駐留しているらしい。
ボロボロになっている奴は念のためエルフ神官に回復させてから配下にしている。
俺は強い順にもらって、弱い無職などは町とヨーラムさんに渡している。
町とヨーラムさんも強いアンデッドを求めているわけではないので問題ないらしい。万一襲ってきた時のことを考えて弱い方が良いと思っているのかもしれない。
ヨーラムさんとは、配下が魔物を町に売りにいった時にヨーラムさんの店に毎回寄って、手紙をやり取りすることにした。
まあやり取りするのは俺じゃなくて侯爵と執事達だが。
まだ10人くらいしかやっていないので、たいして強い配下はいない。
町の犯罪者は少ないし、すぐ処刑していたから海賊の犯罪者も溜まっていたりはしないからだ。
海賊の討伐があったりすると大量に手に入るらしいので、期待して待っていよう。
そんなこともありながら、普段通りの生活に戻り過ごしていると、カゲイチ達の反撃暗殺部隊が帰ってきた。
思ったより早かったが、24時間走り続けて移動し、24時間戦い続けたからだそうだ。
しかも誰もやられていない。正確にはやられた奴もいたが、浄化されたり魔石を砕かれたりしなかったので、死体を食べて復活したらしい。
アンデッドだと気づかれなければ死んだフリでやり過ごして復活できるそうだ。
うん。アンデッド暗殺部隊は思っていたより遥かに恐ろしい存在だったようだ。
その結果、暗殺組織は壊滅し、依頼者であった新侯爵や新執事長も死んだそうだ。
偽装工作もうまくいき、新侯爵は暗殺組織と抗争を起こして殺されたことになった。
そして暗殺組織は、俺の暗殺失敗で弱ったところを侯爵家と別の組織に潰されたことになった。
証拠もさりげなく色々な場所に残してきたので、こちらが疑われる可能性は低いそうだ。
これにより、侯爵家は跡目争いの勃発が予想され、俺への復讐どころではなくなり、数年は時間を稼げる予定だそうだ。
もしかして俺は誰でも暗殺できるようになってしまったのだろうか? まあ暗殺したい相手は別にいないが。
一応カゲイチに聞いてみたが、今回は暗殺組織と侯爵家の人間を配下にしていて詳しい情報があり、侵入したり成り済ましたり色々することができたから簡単だったが、普通はこんなに簡単ではないらしい。
暗殺組織は難しいが、平均的な貴族くらいならいける程度だそうだ。
うん。分からん。まあ暗殺は基本封印だ。暗殺されそうになった時の仕返しだけにしよう。俺はダークサイドに堕ちないようにしているからな。シュコー
念のため防衛体制は今後も強化するが、とりあえず俺はだいぶ安全になったはずだ。
レイライン王国では相変わらず指名手配されているが、この国では問題ないだろう。
あとは魔王襲来に備えて、レベル上げと戦力増強をしながらのんびりダラダラ生活していれば良い。
ヨゾラさんとユリアさんにも報告だ。
報告すると一応二人は喜んでくれたが微妙な顔をしていた。やはり暗殺は印象が悪いのだろう。封印しよう。
そしてまたしばらく平和に生活した。
近頃ヨーラムさんの事業は大盛況で、小さい店の店主だったヨーラムさんは正式に商会を立ち上げ、急拡大しているところだった。
というのも、アンデッド労働者の有効活用法が見つかったためだ。
当初やらせていた仕事は、低所得者の仕事を奪っていると見られたりして微妙だったが、新たな仕事を行ったことにより周囲の評価は一変した。
それは水中作業だ。
これまで深い位置の水中作業は水魔法や風魔法もしくは高価な魔道具を使用しなければ行えなかった。
そして魔法使いや高価な魔道具を持つ者は現場労働者のような仕事はしない。高価な魔道具も簡単には貸し出さない。したとしても高額な依頼料が必要なうえに少人数では大したことはできなかった。
そこに登場したのがアンデッド労働者だ。
アンデッドは呼吸が必要ないため、水中でも溺れない。
ヨーラムさんは、それを生かして海中に落ちた荷物の回収や桟橋の修復など、水中作業の仕事の受注や作業員の貸し出しを始めた。
町の方でもこれには大喜びして、大きな船をつけれるように港の海底工事を計画しているらしい。水深を深くすれば大型船も着岸できるからだ。
これまで30人くらいアンデッドを作り、20人貸し出しているが、全然足りていない。なので、首都や他の町から罪人を運ぶ計画や、海賊の大規模討伐の要請などを考えているそうだ。
そんなある日、ヨーラムさんが二人の若い男女の狐獣人を連れて訪ねてきた。
事前に連絡は受けていたので出迎えて案内する。
「ユージさん。ごぶさたしています。」
様よびは堅苦しいので止めてもらった。
精神的な年代が近いこともあり友人になってもらおうと思っていたからだ。
「ヨーラムさん。いらっしゃい。上がってください。」
応接室や来客用の別棟もできたが、友人のヨーラムさんは家のリビング対応だ。
ヨゾラさんデザインのおしゃれソファでおもてなしだ。
仲間の二人は庭にいる。商売の話には興味ないようだ。
「まあ座って寛いでください。そちらのお二人はご家族ですか?」
連れの二人の狐獣人にも座るよう勧める。
「はい。今日はユージさんに息子と娘を紹介しようと思って連れてきました。息子のヨーマと娘のヨーコです。」
「ヨーマっす。よろしくお願いしまっす。」 10代後半くらいの狐目のそれっぽいあんちゃんだ。
「よろしくお願いしまーす。」 10代半ばくらいの元気でかわいい狐っ子だ。
親子三人ともきつね色でヨーコちゃんは少し色が薄い感じだ。目は茶色だ。
「ユージです。二人ともよろしくね。」 友人の子供だからな。仲良くしておこう。
「二人ともまだ未熟者ですが、将来商人になりたいと言っているので、色々経験を積ませようと思いまして。今後ユージさんとも顔を合わせることもありますので、紹介するために連れて来たんです。」
おー若いのに偉いな。
「跡継ぎを育てているってことですね。ヨーラムさんの事業も順調ですしね。」
「ええ。ユージさんのおかげで夢を掴めるかもしれないと思っています。ユージさんには足を向けて寝られませんよ。」 にこやかに語るヨーラムさん。
夢を追う男はかっこいいな。目が生き生きしている。死んだ目の俺とは違うな・・・ 俺も何か見つけようかな。そう言って何もしないのが俺だが。
「いえいえ、俺のやっていることは以前から変わってませんよ。ヨーラムさんの力です。」 うむ俺はアンデッドを作っているだけだ。ヨーラムさんが来る前と何も変わっていない。
「ユージさんにそう言っていただけると少し安心しますね。まあうちも今が重要な時ですから、ユージさんにご迷惑をおかけしないようがんばろうと思います。それでちょっと相談もありまして・・・」
お、来たな。世間話だけじゃないと思っていた。まあ世間話だけでも来てほしいが。
「はい。何でしょうか。」
「今が重要な時期でユージさんとも密に連絡したいこともあって、できればこちらにも人を置かせていただけないかと思いまして。」
ここに人をか。分からなくもないが妙だな。
俺の配下を使った連絡はうまくいっている。仲良くなったとはいえ、ヨーラムさん以外は今までここに来ていない。あまり他人にいてほしくないのはヨーラムさんも分かっているはずだ。
「ここにヨーラムさんの商会の人を常駐させる感じですか。外部の人が宿泊する建物もできたので、問題はありませんが・・・何かありましたか?」 素直に聞いた方がいいな。
「さすがユージさんですね。お分かりになりますか・・・」
やはり何かあったようだ。さすがとか言われるとちょっと気分がいいな。お世辞だろうけど。
「アンデッドを使った事業は大成功なのですが、ちょっと大成功しすぎて目立ってしまいまして・・・」
「ああ、なるほど。」 そうだよな金の臭いに寄ってくるのが商人と悪人だしな。
「こちらにも、おそらく大商人の手の者が来る可能性があります。我々にそれを止める権利はありませんが、もし良かったらせめて交渉の席には同席したいと思いまして。」
とりあえず商人の方か。でも正直色々な商人と交渉するなんて面倒すぎる。
「私としては、できれば他の商人と取引はしたくないですね。ヨーラムさんの所だけにしていただけると凄く助かります。」 マジで嫌だ。
「ありがとうございます!そう言っていただけて安心しました。ご希望に沿うように全力を尽くします。」 ホッとしているな。
俺が大商人に取られたら終わりだもんな。
まあ仲良くやってるから大丈夫だと予想はしていただろうけど、可能性は考えちゃうだろうしな。
「私もできることはしますから、何か良い案があったら教えてください。例えば商業ギルドに手紙を出して他の商人を抑えてもらうとか。」
「そうですね。それはやってもらおうと思っていました。細かい手紙の内容は後で執事長さんとも相談させてください。」
「ええ、お願いします。」
いつも手紙は執事長とやりとりしてるからな。俺では良い手紙を書くのはちょっと無理だ。この世界の手紙の様式とか商習慣とか知らないからな。面倒なので学ぶ気も起きないし。
「それと、先ほどのお願いなのですが、とりあえず今日連れてきたヨーマとヨーコをここに置いていただけないかと思いまして。」
「え?!お子さんをですか?!」 マジかよ!子供を死霊術士に預けるとか正気か?! あんたそんなにヤバい奴だったの?! 商売のためなら魂売っちゃう感じ?
それともこの世界じゃ普通なのか? 子供を人質に出す戦国大名みたいな。
「はい。お恥ずかしながら、うちも商会ができたばかりで、まだここに置けるほど信用のおける職員の見極めができていなくて・・・」
ああ。前は家族経営の店だったみたいだしな。他から移ってきたって言っていたし、長年働いている人とかいないんだろう。苦肉の策というやつか。
まあとりあえず歓迎しておこう。
「いえいえ、ヨーラムさんのご家族なら大歓迎ですよ。母屋の方にも出入りしてもらって問題ありません。でも二人はそれで良いの?」
「もちろん大丈夫っす。」「大丈夫です!よろしくお願いします!」 元気に返事をする二人。
怖がっている風ではないな。初対面の死霊術士なのに。
「ありがとうございます。兵士の方が町に来る際に毎回どちらか同行しても大丈夫でしょうか? 何でしたらこちらから迎えを出しても良いですが。」
「それは問題ないですよ。」
それなら定期的に会えるから寂しくないし安心するだろう。町での護衛にもなるだろう。
そういえば悪人の方は大丈夫なのだろうか? 聞いてみよう。
「そういえば、私は商人について詳しくないのですが、ヨーラムさんの護衛は大丈夫でしょうか? 目立ってしまうと悪人も寄ってくるイメージですが。」
「おっしゃるとおりです。私も護衛を雇うつもりです。実はそれもあってヨーマとヨーコをここに置いていただこうと思ったんです。ここの方が安全そうですから。」
「ああ、そうだったんですね。」 悪魔に魂を売ったわけではなかったようだ。
単に俺を信用してくれたのと、ここの防衛力が理由だった。疑ってすみません。
しかしそうなると、うちからもヨーラムさんの護衛を出した方がいいな。あと商業ギルドにもヨーラムさんに何かあったらしばらくアンデッドの貸し出しは中止すると脅しておこうかな。まあそこは後で執事長と相談だな。
「では不安なので、うちからもヨーラムさんの護衛を出しますね。正直ヨーラムさんに何かあるようなら事業中止も考えていますので。」
「ありがとうございます。護衛料もお支払いします。」
「いえお金はいいですよ。そのかわり町の中にうちの人員が待機できる部屋を追々用意してもらえると助かります。急ぎませんので。」
お金を取るのはちょっと面倒だ。勝手に護衛を増やしたりできなくなるからな。
「分かりました。お任せください。」
「じゃあちょっとヨーマくんとヨーコちゃんを仲間に紹介しますね。」
「ヨゾラさん!ユリアさん!ちょっといいですか?」 リビングから外に声をかける。
「何?」「はーい。」 二人が庭から入ってきた。
「ヨーラムさんの息子さんと娘さんが今度ここに住むことになったから紹介しようと思って。」
「そうなの?!よく住む気になったわね。」 驚いている。
失礼な。良い場所だろここは。まあ俺も驚いたけどな。死霊術士のアジトだし。
「理由は後で説明しますね。ヨーマ君とヨーコちゃんです。こちらが俺の仲間のヨゾラさんとユリアさん。」
「ヨーマっす。よろしくお願いしまっす。」
「ヨーコでーす!よろしくお願いします!」
「ヨゾラよ!よろしくね!」
「ユリアです。よろしくお願いしますね。」
「狐耳もかわいいわね。」「そうですね。」
ヨゾラさんとユリアさんは気に入ったようだ。
その後は、他の商人が来た場合の対応を相談した。
家に直接商人が来た場合は、商業ギルドと契約しているので商業ギルドを通すよう言って帰ってもらう。
商業ギルドには手紙を出して、他の商人とは取引する気が無いことと、万一ヨーラムさんに何かあったら一旦アンデッド貸し出し事業は中止する予定であることをやんわり伝えることになった。それと、うちに罪人を届けに来る担当者には念のため詳しく説明しておく。
ヨーラムさんの護衛は、騎士1兵士2暗殺者2の計5名つけることにした。様子を見てヨーラムさん以外もうちで守った方が良い人がいる場合は、増員する予定だ。
その後三人は町に戻っていった。
二人は引っ越しの荷物を持って次の便でうちに来る予定だ。
俺は親友候補のヨーラムさんがすぐに帰ってしまってガッカリだった。一緒に飲もうと思って準備していたからだ。
飲まないと気が済まないので、しょんぼりしながらヨゾラさんとユリアさんに声をかけた。
「ヨゾラさ~ん、ユリアさ~ん、一緒に飲みましょうよ~。慰めてください。」
「急に何言ってんのよ。どうしたの?」 こういう態度ならヨゾラさんはやさしくしてくれると分かっている。
「今日こそは、ヨーラムさんと一緒にお酒を飲んで仲を深めようと思って準備していたのに、帰ってしまったので・・・」
「それなら誘えば良かったじゃない。多分付き合ってくれたわよ。」
「でもお子さんも連れてきていたし、忙しそうだったので・・・」
「そんなこと気にしなければいいのに、多分向こうも仲良くなりたいと思ってるわよ。」
「そうですよ。喜んだかもしれません。」
「そうですかねぇ。でもうまく誘えなくて、次はお二人も協力してくださいよ~」
「しょうがないわね。わかったわ。次は協力してあげる。」 ヨゾラさんは何だかんだ言いながら頼られて嬉しそうだ。
「うふふ。私も協力しますね。」 いつもどおり優しいユリアさん。
「じゃあ今日は予行演習で飲みましょう。良いワインとエールと旬の魚貝を買ってこさせたんですよ。」
俺は配下に用意していた酒や食材を出させた。
今日のためだけじゃなく死体収納に入れておけばいつでも旬の物が食べられるので、季節ごとにまとめ買いさせることにしたのだ。
「もう、しょうがないわね。じゃあ私は、この間食べた貝のワイン蒸しが食べたいわ。」
「うふふ。じゃあ私はエビを焼いてもらいます。」
二人ともおいしそうな魚貝に釣られてくれたみたいだ。
料理係に指示を出して前菜をつまみながら飲み始める。
「仕事の話や変な話をしている時はあんなに堂々としているのに、こういうことはダメなんだから。まったく。」 せやかて工藤。
「いや仕事は経験が多いから大丈夫なんですが、友達作りはそんなに経験豊富ではなくてですね。」 あと変な話はしていないぞ。
「私もそれは苦手です。一緒ですね。一緒にがんばりましょう。」 お仲間がいた。
一緒に二人三脚で歩んでいこう! ・・・そこまでは言ってないか。
最近暑くなってきてきて薄着になった二人の胸元をこっそり見たりしながら酒と料理を楽しんだ。
女性は視線に敏感なのでバレているだろうが、しょうがないんだから的な反応っぽいので許されているようだ。
二人も俺が快適な生活のために色々提供しているのは分かっているので、少しくらいならうるさく言わないのだろう。まあ提供しているのは配下だが。
・・・調子にのって見すぎないように気をつけよう。
俺は女子が薄着になる熱い季節の到来に乾杯した。




