第35話 暗殺する覚悟と商人
現在、刺客が送られてくると戦力がアップするという謎の状態だが、油断するのは良くないので対策を考えることにした。
Sランク冒険者とか来たらヤバいしな。
前回来た暗殺者に反撃の糸口について聞いてみた。
すると現在暗殺組織はだいぶ弱体化しているそうだ。
俺が返り討ちにしまくったからだな。
奥の手のカゲイチも失敗したので、信用なども落ちてしまい、内部の統制も揺らいでいるらしい。
今回高ランク冒険者も失敗したので、さらに悪くなっているはずだそうだ。
まだ半分くらいの暗殺者は残っているが、防衛に向いた組織でもないため、内部を知っている暗殺者達で襲撃すれば壊滅させることができるかもしれないそうだ。カゲイチも一緒なら確実だという。
うーん、しかしカゲイチがいないと不安だな。俺の護衛を疎かにしたくはないぞ。
カゲイチに聞いてみると、護衛はノワリンと前回配下にした斥候の黒猫獣人ちゃんがいれば問題ないらしい。
ノワリンと黒猫獣人ちゃんは、生まれつき高い感知能力と感知スキルの両方があるので、カゲイチでも気づかれずに近づくのは難しいらしい。
黒猫獣人ちゃんは、ウルフカットのかっこいい系の女性だ。
ちゃん付けする年齢でもないだろうが、俺にとっては若ければ皆ちゃん付け圏内だ。
・・・もしかしてこれってセクハラ? いや心の中だけなのでセーフだ。あと相手が不快じゃなければセーフだ。アンデッドは何も感じない。
職業は、斥候と暗殺者と戦士を持っている。
暗殺者が気になったので聞いてみると、物心ついたときから暗殺者として育てられていたそうだ。壮大な物語が始まりそうなので聞くのをやめた。
まあそういうことならカゲイチを送り込んでみようと思う。
俺は順調にレベルを上げて今レベル27になっているが、25になった時にスキルを覚えた。
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遠隔命令 消費MP2
遠方の配下に命令ができる。
ーーーーー
これがあれば何かあって俺が逃げた時にも合流できるので、遠方に送り込んでも大丈夫だろう。
ちなみに一方通行で会話はできない。そこはちょっと不便だ。まあ軍を指揮したりするスキルなのかもしれない。一括で命令もできる。千体のゾンビに一括命令とかしたらMP二千消費するけどな。
というわけで、カゲイチ率いる暗殺者部隊を送り込み、暗殺組織を壊滅させることにした。
そして可能なら暗殺依頼を出した相手も暗殺した方が良いそうだ。
不安だが俺の犯行だとバレないようにやるらしい。暗殺組織と揉めて暗殺されたことにするそうだ。
実際に暗殺組織に所属していた配下がやるので、偽装は簡単らしい。
暗殺失敗しまくってるから実際揉めているらしいしな。
そういうことなら良いだろう。
でも俺の犯行だとバレないことが第一なので無理しないように。
送り込む人員はカゲイチ、暗殺者11名、盗賊2名の計14名だ。全員暗殺組織から来た配下だ。
暗殺者だけでなく盗賊も毎回来ていたらしく、前回の別動隊にも1人いた。
盗賊は解錠スキルがあるかららしい。
では行ってこい!
暗殺していいのは暗殺される覚悟があるヤツだけだ! 倍返しだ!
こうして反撃暗殺部隊を送り出した。
そうして反撃部隊の結果を待ちつつ、配下を増やしたりレベル上げをしたりオークに亀を投げる練習をさせたりしながらいつも通り暮らしていた。
そんなある日。
「ユージ様。来客です。」 突然執事長が俺に言った。
「来客? 俺にか?」 侯爵ではないのか?
「はい。レバニールの商人でヨーラムという名前の男です。ここに住んでいる死霊術士のギルバーンかユージ様をご指名です。侯爵家からの情報は知っているのでしょう。」
商人が俺にか・・・ どうするかな。ギルバーンに商人の対応は無理だろうしな。とりあえず相談だ。
執事長に相談すると、商人が治めるこの国では商人とのつながりを持つことが非常に重要なので、友好的な商人と接触する機会は逃さない方が良いそうだ。
高ランク冒険者を撃退したこともあり、レバニールの町にも警戒されているので、商人とのつながりが無いと、いずれ排斥される可能性が高くなるとのことだ。
それなら、とりあえず会うしかないか。
ちなみに魔物の壁は来客には見えないようにしてある。
応接室なんて無いので、とりあえずリビングダイニングのテーブルで対応しよう。
「あたしたちはどうする?」 ヨゾラさんが聞いてきた。
ヨゾラさんはソファで寛いでいる。ヨゾラさんの注文で作ったものだ。おしゃれでいい感じだ。
ユリアさんは床に敷いたラグの上でノワリンにもたれかかりながらつのっちを撫でて寛いでいる。
黒猫獣人ちゃんも護衛でいる。
しかし女子率高いな。いつの間にか俺はハーレム主人公になったのか?
まあ配下の男共もたくさんうろついているからハーレム感は低いが。
人妻エルフも並べようかな? ・・・仲間に嫌われそうだからやめよう。
「そのまま話を聞きながら寛いでいてください。」 一応いてもらおう。
女子が寛いでいれば相手の警戒心も下がるだろうしな。多分。
「うーん。わかったわ。口を挟むつもりはないから安心して。」
見ているだけのようだ。まあいいか。
「はい。大丈夫です。」
しばらく待っていると、狐獣人の中年の男が入ってきた。
狐獣人の商人か、それっぽいな。
奥にノワリンが見えるのに一瞬固まっただけで普通にしているとは中々の胆力だな。まあユリアさんが寄りかかって寛いでいるから迫力は半減しているが。
「初めまして。レバニールで物売りをしています。商人のヨーラムと申します。よろしくお願いいたします。」
「死霊術士のユージです。よろしくお願いいたします。どうぞ座ってください。」
お互い挨拶をして席につき、執事長がお茶を出す。
にこやかにお礼を言う狐さん。
「今日は話を聞いていただいてありがとうございます。ここのお屋敷のご主人はユージ様でよろしかったでしょうか?」 さっそく探りを入れてきたな。
ちなみに家はまだ屋敷というほど大きくはない。
まあ敷地の建物全部あわせたら結構でかいから屋敷感はある。
「この家の主はギルバーンですが、ギルバーンはこういう話を聞くことはないので、私が対応します。」 一応ギルバーンにしておこう。
「そうですか。ありがとうございます。ユージ様はここにはどのくらいお住まいなんですか?」
「まだ一年も経っていないですね。」
「は~なるほど。一年も経たずにこのような立派なお屋敷を構えられるとは、死霊術士の方々は凄いお力をお持ちなんですね。」 知ってるけど聞いてる感じだな。
「いえ、それほどでもありません。町の人など多くの人の協力あってこそです。」
こういう微妙な探り合いの世間話は苦手なんだよな。
「これは失礼いたしました。商人ばかり相手していると、どうも回りくどくなってしまいまして、悪いクセです。」
俺の考えを感じとられてしまったようだ。
「いえいえ。」
「では本題の前にまずは私のことをお話します。信用を得るためにはまず自分がどういう人物なのかを話すよう言われていまして、退屈かもしれませんが、お聞きください。」
なるほど。こういう時いきなり自分語りが始まったりするのはそういうことなのね。
ヨーラムさんは商人として身を立てるため、家族でこの国に来たそうだ。
首都でがんばったが大商人たちにより利権が雁字搦めに固められていて、入り込めなかった。泣く泣く首都の港町はあきらめてこの町に移ってきたそうだ。
この町は、大きな船が着岸できない港しかないが、それでも大陸の東側との航路上にあるため、何らかの理由で水や食料が不足した船が補給に寄ったりすることが結構あるそうだ。ついでに魔の森の素材などを買っていくらしい。
この町でチャンスを掴もうとしているが、思うようにいかずに燻っているらしい。
そんな時にこの町に死霊術士が来たことを知ったそうだ。
「こう言っては何ですが、最初は死霊術士の方には、特に興味は無かったのです。ゾンビを作れても商売は難しいと思っていました。しかし町に魔物を売りに来ている兵士の方はアンデッドらしいという情報を得ました。私も試しに話しかけましたが、笑顔で冗談を言い合っていたり、どう見てもアンデッドではありませんでした。他の人も信じていませんでした。」
うん、少し話が見えてきたが、結論が分からん。どうしたいんだ?
「しかし、どうにも頭から離れず観察していると、一度も日光にあたっていないことに気づいたのです。これはもしやと思い、今日ここにお話しを伺いにまいった次第です。」
「なるほど。しかしそれを知ってどうしたいんですか?」 そこが重要だ。
「そうですね。勿体ぶっても仕方ありません。もし、彼らのように人間にしか見えないアンデッドを作れるのであれば、労働力として商売に使えると考えました。このお屋敷を見て、それは確信に変わりました。ぜひ労働力としてアンデッドの提供をご検討いただければと思います。」
うーん。まあ上級アンデッドの労働力は凄まじいから欲しいのは分かるが、問題は対価だよな。貴重な上級アンデッドを提供するほどの対価なんて思いつかないぞ。でも何かあるかもしれないし、この国での安全もあるしな。
とりあえず正直に話して聞いてみるか。
「そうですね。お話は分かりましたが、対価はどう考えているのでしょうか。私はそれほどお金に魅力を感じていません。よほど高額であれば考えますが、それだと普通の人を雇った方が良いと思います。」
「なるほど、なるほど。もちろんおっしゃるとおりです。碌な対価もなしに貸し出せるものではないことはよく分かります。お金がそれほど魅力ではないのでしたら、死体・・・などはいかがでしょうか?」
「死体ですか・・・」
ふむ。そういうことか。でもゾンビにしかならない死体じゃなあ。
「・・・お気に召しませんか?」
どうやら期待していた反応ではなかったようだ。まあ一応聞いてみるか。
「どういう死体をいただけるんですか?」
「そうですね。今のところ処刑された罪人の死体を考えています。その死体でアンデッドを作っていただいて、対価として作ったアンデッドの何割かを貸していただくことを考えておりました。」
なるほど。割と良く考えられているな。でもやはり処刑された死体じゃゾンビだからダメだな。でも罪人なら生きている状態でもらえる可能性もあるか? 一応聞くか。でも大丈夫かな。嫌悪感とか。まあステータスもユニークスキルもバレているんだし今更か。聞いてみよう。
「処刑された死体をもらっても、ゾンビしか作れませんね。生きている状態でないと労働力にできるようなアンデッドは作れません。」
「な、なるほど・・・ そうなんですね。うーん。」
嫌悪感は大丈夫そうだがちょっと難しそうな感じかな。
「例えばですが、町の担当者にアンデッドを作るところを見せたりはできませんか?」
「え? 作るところをですか?」
何でだ? 秘密を知りたいみたいな? ステータスを知られているのだから見せても良いかもしれないが、どうなんだ。
「あっいえ、全部でなくても、死亡確認ができれば問題ないと思います。製作過程で死体になる部分があれば、そこだけ見せることができれば・・・」
なるほど。罪人がちゃんと死んだか担当者が確認する義務があるとかかな。それなら可能かな。
「それなら可能ですね。ただ死体に傷をつけない様にしてもらう必要はありますが。」
「おお!良かった!それでしたら何とかなります。・・・ただ、町の担当者に説明が必要になりますので、もし可能なら、アンデッドの方をどなたかお一人お借りできないでしょうか? 鑑定されてしまう可能性もあるのですが・・・」
うーん鑑定か。でもこの話を受けるならどちらにせよ貸すわけだから鑑定は避けられないな。だから受けるかどうかだ。
上級アンデッドの情報は隠したいが、さすがにもうある程度はバレているよな。人間レベルの行動ができることがバレているからこの人が来たわけだし。バレているなら鑑定されても変わらないか。「ユージの配下」と表示されるからギルバーンではなく俺の配下なのはバレるが、俺が配下を作れるのはバレているから関係ないか。
うまくいくかは分からないが、商人とつながりを作ることも大事だから、とりあえず受けることにしよう。
「分かりました。では貸し出す者をつれてきますので、少々お待ちください。」
部屋を出て別室で執事長達と相談する。護衛の黒猫獣人ちゃんもついてきた。仲間二人にはノワリンがいるから大丈夫だろう。
相談して、無職の農家軍団の一人を貸し出すことにした。
そして、生前の記憶があることは隠して、できるだけ大人しめの良い人そうに振る舞うよう指示した。
多少演技が不自然になるかもしれないが、アンデッドなのはバレているので別に良いだろう。
記憶があることを教えれば犯罪捜査に協力できるという点で評価されるかもとも思ったが、警戒されたり、送られてくる犯罪者が減ったりするだろうということで、隠すことにした。
知られたくないことを知っている犯罪者もいるだろうからな。それに生前の記憶があることは隠した方がなにかと有利だろう。まあもうバレている可能性もあるが。
「お待たせしました。では、このアンデッドを貸しますので、連れて行ってください。」
「おお!ありがとうございます!」
その後、アンデットの特徴や注意事項を説明した。
簡単には死なないので早とちりで埋葬しないようにとかだ。あと、こちらで分かるので浄化されたりしても隠さないよう釘を刺しておいた。農家の服装は、安い日光よけだと説明した。
ヨーラムさんは、説明を聞いたあと、町と交渉してくると言って、貸し出した農家を連れて帰っていった。外に護衛を待たせていたようだ。護衛無しで一人で入ってくるとはやはり度胸があるな。
「あんたがいないとき話しかけられたわ。私達がアンデッドじゃないことは気づいていたみたいよ。」 ヨーラムさんが帰ったあとヨゾラさんが教えてくれた。
そういえば部屋を出たとき二人を残したままだったな。気遣いがたりなかったか。また非モテムーブをしてしまった。
「部屋に残してしまって、すみませんでした。大丈夫でしたか。」
「自己紹介しただけだから大丈夫よ。」 とくに機嫌は悪くないようだ。
商人だからな。取引先の相手を不快にするようなことは言わないか。
しかし、すでにアンデッドを見分けられるのか? 何でだ? やはり商人は油断できないな。 ・・・まあふやけた顔でつのっちを可愛がっているユリアさんはアンデッドには見えないけどな。
しかし応接室は欲しいな。あと客室もあった方がいいか。今後関係者が宿泊する可能性もあるな。さっそく執事長に相談して準備させよう。
一応ギルバーンの部屋は完成しているが、外部の人間をギルバーンの部屋に泊めるわけにはいかない。親しくない相手を泊める場所が必要だ。
ヨーラムさんは次の日すぐにまた訪ねてきた。
交渉はうまくいったらしく、日程調整に来たそうだ。
数日後、町の担当者が実際に犯罪者を連れてきて、死体を見せて死亡確認をしてもらってから上級アンデッドを作った。
一応死体収納と配下作成の場面は見せないようにした。
知っていたとしても聞くと見るとじゃ大違いだからだ。
配下作成も印象悪いが、詠唱も予備動作もなく瞬時に発動できる死体収納の脅威は見ないと実感できないものだ。見せたら危険視されたりするかもしれない。
担当者は犯罪者で作ったアンデッドを一旦連れ帰り、安全確認と町への報告を行った。
問題がないことが確認されたので、契約することができた。
契約はレバニールの役所である商業ギルドも入ることになり、ヨーラムさん経由で商業ギルドにもアンデッドを提供することになった。
アンデッドの管理は、商業ギルドの分も一括してヨーラムさんが行う。
取り分は、俺、ヨーラムさん、商業ギルドで三分の一ずつだ。三人アンデッドを作ったら一人ずつ分けるということだな。
この国は商人の国だけあって役所も商売っ気が強い。当然のように契約に食い込んできた。
俺の取り分は減ってしまったが、役所である商業ギルドと契約したことで、俺の安全は確保されたようなものなので大歓迎だ。
もう町から討伐隊が来ることはないだろう。
それにアンデッドは俺の配下なので、実質全部俺のものだしな。
金を取ることも検討したが、事業が失敗する可能性が上がるし、半分安全のためなので、余計な欲はかかない方が良いという判断になった。
ヨーラムさんが大儲けできたら再度話し合うことにする。まあそこまで儲からない気もするしな。
アンデッドの主な利用方法は、下水掃除などの人が嫌がる作業、高所作業などの危険作業、荷運びなど重労働だそうだ。他にも有効な利用法を模索するらしい。
俺は新たな展開を喜び、期待に胸を膨らませながら、ヨーラムさんの手土産のコーヒーと菓子を楽しんだ。
まもなく異世界で二度目の夏を迎えようとしていた。




