第23話 執事と貴族と日本人
待ち時間はそこそこ長かった。まあ約束していたわけではないからしょうがないだろう。
俺が宿に居なかったらどうしていたのだろうか。まあ伝言を残して後日でも良いと思っていたのかもしれない。それとも見張っていたのだろうか。
体感1時間ほど待っていると、いかにもな高齢の執事とさっきの若い執事が入ってきた。
一応立ち上がって出迎えお互い挨拶してから座った。執事長のジルベルトさんだそうだ。セバスチャンではないらしい。執事長は俺の挨拶に満足そうだ。
「時間もありませんので、単刀直入にお伝えします。まずユージさんは侯爵家に仕えていただきます。これは決定事項と思っていただいて問題ありません。」
有無を言わさず断れない感じだ。夜逃げになりそうだ。
「はい。」 逆らわずにうなずいておく。
執事長が目くばせすると、メイドさんと兵士が退室した。ここからが本題のようだ。
「情報は秘匿しますので、正直に答えてください。あなたは収納系のユニークスキルを持っていますか?」 ユニークスキルであることもバレているようだ。
「はい。」 今のところは予定通りだ。
「スキル名と内容を教えてください。」
「死体収納というスキルで、魔物の死体をたくさん収納できます。ただ、死体以外は収納できないのでお役に立てるかどうか・・・・」 さっき考えたことを伝えてみる。
「死体だけ・・・ですか?」 執事長が鋭い目でにらんでくる。
「は、はい。」 な、なんだ? 何かマズいこと言ったか? 期待外れだからか?
「そうですか。では、持っている職業を教えてください。」 厳しい表情のまま次の質問がきた。
「は、はい。職業は持っていません。」 すごく不安だが予定どおり答える。
「・・・職業無しですか。本当に死体しか運べないんですか?」 睨んでくる。若い執事も厳しい目をしている。
「は、はい。」 なんだ? ヤバいのか? バレたのか? 何でだ?
「・・・報告によると、ユージさん達のパーティーは、毎回たいした荷物も持たずに町を出ているそうですね。野営の荷物や食料などはどうしているんですか?」
ヤバい!そうだった!見落としていた!パーティーメンバーには不自然じゃない程度の装備はさせているが、ポーターがいる前提の装備だ!どうする!
「歳のせいか少し耳が遠くなっていまして、今なら先ほどの答えは聞こえなかったことにいたします。ユニークスキルの名前と内容を教えてください。」 執事長が再度きいてきた。
若い執事はめちゃくちゃ睨んでいる。
もうわからん!荷物も運べることも言って謝ろう!
「す、すみませんでした! スキル名は死体収納で間違いないですが、死体に荷物を括り付ければ荷物も運べます!」 配下と即死は何とか隠したい!
「・・・なるほど。死体に荷物をですか・・・」 信じてもらえたようだが、かなり微妙な表情をしている。普通に運べると思っていたのだろう。
「それはどのくらいの量を運べるのですか?」 考えながら聞いてきた。
「オークなど力のある魔物ならかなりの量を運べます。その魔物が持ち上げて歩けるくらいの量なら大丈夫です。死体の数があれば運べる量は増やせます。」
これ以上印象を悪くしないようある程度説明しよう。これはオークの死体で検証したので間違いない。馬車は一応言わないでおく。今見せろと言われても見せられないし。
「ふーむ。工夫次第というところですか。・・・まあいいでしょう。先ほども言いましたがユージさんが侯爵家に仕えることは決定です。」
「はい・・・」 そうですか。
「侯爵閣下に会っていただきます。念のため申し上げますが、貴族に嘘をつくのは重罪です。くれぐれもお気を付けください。」
執事長は部屋から出て行った。若い執事は残っている。
侯爵に会わないといけないのかよ。
ユニークスキル持ちはそれだけ貴重だということか・・・
・・・勘弁してくれ。俺のライフはもうゼロよ。
俺がげんなりしていると若い執事が話しかけてきた。
「ユージさん。何であんな嘘をついたんですか・・・」 ちょっと睨んでいる。
「じ、じつは死体に荷物を括り付けるのは嫌な作業でして、大量にはやりたくないので、つい・・・」 適当に言いわけしておく。俺は言いわけは得意だ。 ・・・ダメ人間っぽい能力だが。
「・・・ああ。そういうことですか・・・」 若い執事が困った顔をしながら考えている。信じてくれたようだ。
「後日、死体に荷物を括り付ける作業を代わりにやる人を用意できないか聞いてみますね。だから嫌なことがあった時は隠さず事前に相談してください。」 同情してくれているようだ。いいやつだな。
「はい・・・ありがとうございます。」 素直にお礼を言う。
「それでは、侯爵閣下に会う際の注意点をお伝えします。まず、知っているかもしれませんが閣下のお名前は、グランツ・フォン・メルベル侯爵です。」
「はい。」 知りませんでした。
「ユージさんが閣下を呼ぶ際は、今日のところはメルベル様とお呼びください。正式に仕えた後は呼び方が変わりますので配属先で確認してください。」
「わかりました。」 教えてくれてありがたいな。
「ファーストネームで呼ぶのは親しい方と許可された方だけですので、グランツ様とは呼ばないように気を付けてください。」
「はい。」 なるほど。社長を下の名前で呼ばないようなものかな。
「それ以外は今日のところは、これまでと同じ対応で問題ありません。閣下は慣れない平民が多少粗相やミスをしても罰をあたえるような方ではありませんので、ご安心ください。ユージさんは注意事項が少なくて助かります。」 褒められた。うれしい。
そんなこんなで侯爵がやってきたようだ。入ってきたのは、侯爵、執事長、騎士3名、文官らしき女性1名の計6名だ。
立ち上がって出迎える。
侯爵は、太めなナイスミドルといった感じでピンクブロンドの髪とカイゼル髭をしていた。乙女ゲームとか悪役令嬢系小説の広告とかで見る髪色だな。おっさんだけどな。
騎士は、一人は豪華な鎧の騎士団長っぽいおっさんと、上級騎士っぽいおっさんと若い騎士だ。
そして文官らしき女性は俺好みのスレンダー美人で、黒髪黒目の若い女性だった。俺の直感にビビッときた。
この人日本人じゃないのか? もしそうならこの人に相談すれば良い方向に進むかもしれない。日本人なら死霊術士の職も突然押し付けられたことを理解しているからな。かなり期待がもてるぞ。
文官女性と若い騎士は壁際で待機するようだ。
「コホン。」 執事長が咳払いをする。
「初めましてメルベル様。私は冒険者をしているユージと申します。」 あわてて挨拶して頭を下げる。
「うむ。グランツ・フォン・メルベルである。侯爵家に仕えてくれるそうだな。」
「はい。誠心誠意仕えさせていただきます。」 しっかり挨拶しよう。
「ふむ。聞いていたとおり冒険者とは思えぬほど礼儀正しいな。まあいい。お前はここにいる騎士団長のガイルの下につける。良く言うことをきくように。ユニークスキルについては他言無用だ。聞かれても侯爵家の名前を出して何も答えないように。」
「はい。承知いたしました。」 侯爵の機嫌も悪くない。大丈夫そうだ。
「騎士団長のガイルだ。こっちは副団長のゼグロス。そっちに立っているのがレオスとアスカだ。よろしくな。」 アスカ!日本人っぽい名前だ!よっしゃ!
「はい!これからよろしくお願いします!」
にこやかに挨拶が進み良い雰囲気だ。アスカさんは執事長と何か話している。
しかし大分安心したな。夜逃げもアスカさんに相談してから決めよう。うまくいけば侯爵が俺を保護してくれる可能性も見えてきたな。
ちなみに俺の好みはスレンダーな女性だ。巨乳派ではない。小さめなくらいが良い。なのでアスカさんはドストライクだ。俺のヒロインはアスカさんに違いない。
「で?どうだ?」 侯爵が執事長に何かを聞いている。何だろう。
何かと思い様子を見ていると侯爵が突然驚いたように声をあげた。
「何!死霊術士だと!」 え?!
「その男を捕らえろ!」 バレた?!なぜ?!
騎士団長と副団長が立ち上がり若い騎士が駆け寄ってくる。副団長と若い騎士が左右から俺の両腕と両肩を抑えた。
やばい!動けない!すごい力だ!俺は普段着の非武装だ!
どどどどどどうする?!
あたりをきょろきょろ見る。みんな厳しい目でこちらを見ている。
心臓がバクバク音を鳴らし、全身に血が駆け巡る。
「どうしますか? 今すぐ始末しますか?」 騎士団長が侯爵に質問した!
始末?!やるしかない!全力だ!死んでたまるか!
こういう時のことは考えていた!
まずは少し離れた位置にギルバーンを出す!
「我こそは闇の王ギルバーン! 貴様らを殺し我が配下としてくれよう! フハハハハハ!」
突然小柄な悪い魔法使いが現れ叫ぶ。
そしてギルバーンの前にゾンビ団!オークスケルトン!
「なんだ?!」 侯爵、執事長、若い執事が驚愕で硬直する。
「どこから?!」 騎士団長は驚きながら剣を抜いて構える。
「戦闘準備!!」 騎士団長が叫び、俺の手を抑えていた二人が手を放し剣を抜く。
死体収納!死体収納!
左右にいる二人を収納した!
「え?!」 誰かが驚きの声をあげるが気にしない。
死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!
驚いている騎士団長、侯爵、執事長、若い執事を収納した!
さらに農家軍団取り出し!
アスカさんが驚いて硬直しているのが見えた。
「アスカさん逃げろ!」 俺が叫ぶ!
慌ててアスカさんが扉から出ていく。
誰もいなくなった!
荷物持ちを取り出して予定どおり俺は農家スタイルになり農家軍団に混ざる。
すると兵士が数名入ってきた! 死体収納!死体収納!死体収納!
すぐに町を出よう!もうこうなったら堂々と出ていくしかない!隠れるような手段はない!
ギルバーンを先頭にすぐ後ろに俺が入り左右と後ろを農家軍団6人で固めて隊列を組む。
言うこと聞かないゾンビは放置だ!オークスケルトンだけ一番後ろからついてこい!
部屋を出て、やってくる兵士を小柄なギルバーンの後ろから死体収納を使って消していく。
ギルバーンに小さい声で進路を指示しながら出口に向かう。
「キャー!!」「うわああ!」「な、何だ?!」
ギルバーンと農家軍団とでかいオークスケルトンを見て周囲は大混乱で逃げまどっている。散発的に向かってくる兵士や騎士を収納していく。
「ワハハハハ! 我は闇の王ギルバーン! 愚かな人間どもよ! 逃げ惑うがいい!」
ギルバーンはノリノリだ!くそ!こっちの気も知らないで!
領主館の入口のホールについた!人が逃げまどっている!
外を見るとこんな時に限って今日は快晴だ。運がない。農家軍団とギルバーン以外は長時間外にはいられない。オークスケルトンは囮でこの場に残そう。
オークスケルトンに兵士や騎士だけ攻撃するよう指示してこの場に残す。
1体じゃ足りなそうなので使い捨て要員の猿と蛇も出して同じ指示をしてこの場に残す。
「何者だ!」「なぜ魔物が?!」
その間も兵や騎士がやってきたがどんどん収納。
いったん兵や騎士が途切れたので、ギルバーンに大人しくするよう指示して町の外に向かって歩く。
これで俺たちは、魔法使いギルバーンと農家軍団だけだ。静かに歩けば事態を把握していない人にとっては、ただの変わった集団でしかない。
奇異の目で見られながらも堂々と町を歩く。
よし!攻撃してくるやつはいなくなった!
いや、最初からほぼ攻撃をうけていない。驚いている最中にほぼ収納できたからな。
弓や魔法がこなくて良かった。事態を正確に把握できている人がいないので、まともな指示が出ていないのだろう。
しかし大勢の領主館の職員には見られているから追手がくる可能性がある。
そのまま歩いていると門の方から兵が来たが、俺達ではなく領主館に向かっているようで、通り過ぎて行った。囮がきいているようだ。
門は封鎖や検問はされておらず、兵士があわただしいだけでほぼ日常どおりだ。
俺はオークスケルトンと猿と蛇とゾンビ6体を配下解放で解放して野良アンデッドにしてから町を出た。
これでやつらがステータスを見られても大丈夫だろう。
町を出てしばらく歩いたあと、道をそれて人目のない場所に移動した。そして、ギルバーンと農家軍団を収納し、鉄仮面パーティーを出し、俺も鉄仮面に着替えた。
これで追手が来ても気づかないはずだ。鉄仮面は今回の騒動には関係ないと思われているだろう。・・・多分。
最初に迎えに来た文官のゼニスさんとアスカさんは怪しむかもしれないか。
念のためしばらく隠れて夜になったら、黒豹のノワリンを護衛にしてヨカゼに乗って盗賊のアジトへ向かおう。
アンデッド馬のヨカゼは晴れた日に乗れないからな。
しかし・・・・やっちまったな・・・・・・はぁ~・・・
罪もない騎士や兵士を大勢殺してしまった。いいやつだった若い執事も殺してしまった。完全に凶悪犯罪者だ。
まあ殺されそうだったから仕方ない。こうやって人は慣れていくのだろうか。あ~やだなぁ・・・
しかし、途中までは良い感じだったのに、なぜ急にバレたんだろうか。
あとで侯爵を配下にして聞いてみるか。
これからいったいどうなってしまうのか。
あんな事件があったにも関わらず、周囲はのどかでのんびりとした時間が流れていた。




