第22話 領主の館
大猪狩で懐が潤い、どんな馬車が売っているか見に行こうかなんて考えていたある日の朝、宿でのんびりしていると珍しくドアをノックする音が響いた。
俺達に来客なんて珍しいと思いながら、ドアを開けると、30前くらいの優し気な風貌の男が立っていた。
男は、ビジネススーツのような服をきており、ネクタイの代わりにリボンのついたブローチのようなものをつけていた。
この世界のビジネススーツだろうか? 横に兵士らしき人もいる。
「ユージさんはいらっしゃいますか?」 どうやら俺に用があるようだ。
「はい。私がユージですが・・・」 俺が答える。
「私はメルベル侯爵家に仕える文官で、ゼニスといいます。」
領主の使いか?!もしかして死霊術士がバレたのか?!いや早とちりはよくない話を聞こう。
「ど、どのような御用でしょうか?」 不安になりながらたずねる。
「急で申し訳ないのですが、ユージさんには本日この後、領主館に来ていただくことになりました。外で馬車を待たせてあります。」
マジかよ!
「ええ?!領主館に今すぐですか?!・・・なぜ私は呼ばれたんでしょうか?」 慌てて聞いてみる。
「詳細は私からは申し上げられませんが、ご安心ください。悪い話ではありません。」
「そ、そうですか。」 どういうことだ?
「本日何かお約束があるようでしたら、領主館から事情説明の使いを向かわせますが、何かありますか?」
お、おう、断ることは絶対できない感じだなこれは。
「い、いえ、仲間と買い物に行く予定だっただけですので、問題ないです・・・」 ヤバい頭が回らない。
「では、出発の準備をお願いします。」
いや冷静になれ!いろいろ確認しよう。
「呼ばれたのは私一人でしょうか? 仲間は連れて行っても問題ないですか?」 一人は不安だ。
チラッと後ろにいる他のメンバーを見るゼニスさん。
「・・・いえ、お一人でお願いします。」
ダメらしい。ガラが悪いからか?
「そ、そうですか。服装や持ち物など何かありますか?」
「いえ、特に必要な持ち物はありません。その服装で問題ありません。」
今俺は部屋着みたいな服なんだが・・・
「私は冒険者なので普段外出するときは革鎧を着て槍を持っているのですが大丈夫ですか?」 念のため着て行きたいが。
「絶対ダメという訳ではありませんが、印象が悪くなりますので、できれば武装はご遠慮ください。」 印象が悪くなるのは避けた方がいいか。
「分かりました。では外出用の服にすぐに着替えます。」
「では下でお待ちしています。」 ゼニスさんと兵士は下に降りていった。
とりあえず図書館用に買った普段着に着替えながら考える。
悪い話じゃないと言っていたが本当だろうか?
演技には見えなかったし、兵士は一緒にいたが、特に俺達を捕まえようという感じでもなかった。
単に冒険者に会うから念のため護衛をつれてきただけっぽいから大丈夫だとは思うが。
パーティー全員じゃなく俺だけというのも気になるな。
冒険者への依頼とかなら他のメンバーが呼ばれないのはおかしい。俺だけを呼ぶ理由なんて死霊術士しか思い当たらないが、バレたにしては、穏やかだったしな。
すぐに逃げるという手もあるが、本当に良い話だったら、せっかくの順調な生活が台無しだしな。
仕方ない。基本穏便に済ませる方向で様子をみつつ、最悪全力で逃げる覚悟はしておこう。
いつでも逃げれるよう荷物と鉄仮面メンバーを収納して部屋を出ると、宿の入口でゼニスさんが待っていた。
そのまま宿の前に止めてあった馬車に乗り込む。
馬車は良い馬車ではあるが、貴族が乗るようなものではなく職員用といった感じだ。
良く晴れた気持ちの良い天気の下、馬車が進んでいく。
移動中に気になったことを質問することにした。
「あの、私はどなたと会うことになるのでしょうか? 貴族の方への礼儀作法などは知らないのですが。」
「おそらく執事長かその下の誰かだと思います。冒険者の方に礼儀作法を求めたりしないので、悪意の無い態度であれば問題ありません。貴族の誰かに会う可能性もあるかもしれませんが、理不尽なことを言う人はいないので、ユージさんなら大丈夫ですよ。正直礼儀正しい方で安心しました。」 一緒に乗っている兵士もうなずいている。
そうか、さすがに領主に会うわけじゃないようで安心した。
しかしやはり俺は学ばない男だ。
犯罪者対策していないことに犯罪にあってから気づき、魔物対策していないことに魔物に殺されかけてから気づき反省していたのに、貴族対策をしていなかったことに今気づいて後悔している。
いや、本当は気づいていたが、気づかないフリをしていただけだ。
貴族なんて良く分からない存在のことなんて考えるのも億劫で目を背けていた。
ぶっちゃけ貴族対策なんて何も思いつかない。 ・・・出たとこ勝負だな。
しばらく進むと領主館に到着したので、馬車を降りた。
ゼニスさんに案内されたのは、ソファとテーブルがある応接室のような場所で、内装はシンプルで会社のビジネス用といった感じだ。
貴族が使うような場所ではなくて安心していると、執事っぽい服を着た若い男が入ってきた。軽くお辞儀をして席について、話しはじめた。
「私はメルベル侯爵家の第四執事のクラフトと申します。」 やはり執事だったらしい。
「冒険者パーティー鉄仮面のユージです。よろしくお願いします。」
挨拶すると少し驚いた表情をした。荒くれ者の冒険者らしくない挨拶だからだろうな。
「さっそくですが、いくつか確認させてください。まずは、ユージさんは、鉄仮面という冒険者パーティーでポーターをやっているそうですが、間違いないですか?」
「はい。間違いありません。」 なんだ? 尋問か? 違うか、やさしい表情だしな。
「昨日、大猪の魔物であるビッグボアを3体冒険者ギルドに納品していて、これまでにも何度か同様にビッグボアを冒険者ギルドに納品している。間違いないですか?」
「間違いありません。」 なんとなく予想がついてきた。いや、まだ分からない。猪関連の何かかもしれない。
「失礼なことを聞いて申し訳ないですが、ビッグボアはいずれもユージさんのスキルで運搬したということで間違いないでしょうか。重要なことですので教えていただけますか?」
「・・・はい。私のスキルで運搬しました。」 ・・・やはり収納スキル関係だったか。
「よくわかりました。ありがとうございます。」 若い執事が爽やかな笑顔で笑った。
「いえ・・・」 非常に友好的だ、何とかなると信じるしかない。
「では、場所を移動しますので、私についてきてください。」 場所を移動するようだ。
執事についていくと、非常に豪華な作りの貴族エリアっぽい場所に入ったようだ。廊下だけでも造りが違うのが分かる。嫌な予感に冷汗が流れる。
案内された部屋に入ると、そこは豪華な応接室だった。
広くて凝った装飾がしてあり、まるで貴族が話し合いをするような場所だ。実際そうなのだろう。
中にはメイドと兵士が1人ずついた。緊張した様子でこちらを見ている。
「こちらでしばらくお待ちください。少し待たせてしまうかもしれませんので、何かありましたら、そこのメイドに声をかけてください。」
そう言ったあと何かメイドと兵士に話かけてから部屋を出て行った。
メイドと兵士は執事の話を聞いて明らかにホッとしたような顔をしていた。分かるぞ、荒くれ者の不良ではなく普通の人だと聞いて安心したんだろう。俺は冒険者だからね。兵士も不良冒険者がメイドさんにちょっかいかけないようにいるんだろう。
現実逃避をしているとメイドさんが高そうなカップでお茶を入れ、お茶菓子も出してくれた。
「ありがとうございます。」
お礼を言うとメイドさんも兵士も笑顔を見せた。さらに安心したんだろう。
さすがに上級貴族に仕えるメイドさんは美人で、綺麗な所作に思わず見とれてしまう。
本来であれば本格派な美人メイドに大喜びするところだが、今はそれどころではない。
現実逃避をやめて、真剣に考えよう。
まず呼ばれたのは俺の収納スキルが目立ってしまったためで間違いない。
実は俺も最初に大猪を出した時の周囲の驚き様に、やっちまったかと思った。
しかし詮索はされず、変な奴も寄ってこなかったため安心していたのだ。
だがこの状況を見ると、詮索はされなかったが報告はされていたようだ。良く考えたら当たり前だ。権力者や大きな組織がレアスキルの情報を集めるくらいしていても何も不思議はない。
ポーターの収納スキルの容量は俺が読んだ本には書いていなかったので良く知らないが、多分そこまで量は入らないのだろう。その結果、俺のスキルがユニークスキルかレアスキルであることがバレたのだろう。
手を抜かずに図書館でもっと良く調べておくべきだったな。すぐに手を抜いてサボってしてしまうのは俺の悪いクセだ。分かっていても直せない。ダラダラしたい。まあいい。
先ほどの応接室でのやりとりは、本人の口からスキルであることを確認するためだろう。
スキルについて誰にも話したことはないので、目撃情報しかなかったはずだからな。
お偉いさんの前に行ってから実は別の手段でしたなどということにならないための事前確認だな。
じゃあこの後は何を言われるかとなると、スキルを使った仕事の依頼か、もしくは引き抜きあたりか。
これまで対応してくれた人の反応を考えると、侯爵家なり関係者なりに仕えて働けと言われる可能性が高いな。
おそらく未来の同僚になると思われていたから皆好意的な対応だったのではないだろうか? 良い話だと言っていたし。
うーん。どう対応するべきか。
まず仕事の依頼だったら普通に受ければ良いから問題ない。
仕えろと言われた場合だが・・・
普通なら良い話だ。貴族に仕えたいかといえば微妙だが、絶対嫌というわけでもない。公務員みたいなものだし。仕事内容にもよるが、収納スキルを使うだけなら働いてもいい。給料高そうだし。
だが職業を隠せるだろうか? ・・・無理な気がする。断った方がいい。
だが断れるのだろうか? 貴族だぞ。断ったら消されないか? 敵に回られたら面倒だから始末しておこうみたいな? ・・・偏見だろうか?
何か良い手があれば良いのだが。
それと俺の死体収納のスキルの内容をどこまで教えるかだな。
まあ、これはバレているので、即死効果と配下アンデッド以外の部分は教えても良い気はする。
そうだ! 死体しか入らないから役に立てないと言って断るのはどうだろう。
貴族は軍事物資とかの運搬に使いたいんじゃないか? 死体だけしか入らないならいらないかもしれない。そうしよう。それでも断れなかったらとりあえず仕えると言っておいて後で夜逃げするしかないな。
よし!決まりだ。死体だけしか収納できないと言ってみて、それでも無理そうなら夜逃げだ。
死体がたくさん入るユニークスキルを持っていて、職業は無職ってことにしよう。
詳しくないのに変に職業を名乗ってスキルを見せろと言われたらマズいからな。
ユニークスキルであることも隠したいが、よく知らないのに適当なことを言ったら墓穴を掘りそうだからそこは諦めよう。
考えがまとまったので、落ち着いてきた。
メイドさんを鑑賞しながらお茶とお菓子を楽しんで英気をやしなうぞ。
領主館の窓から空を見上げると爽やかな青空が広がっていた。
そして、夏の終わりが近づいていた。




