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第19話 山中の限界バトル


 翌朝、昨日の話を聞いてやる気が低下した俺は、ノロノロと起き上がり村の店でパンを買って食べてから、調査に出発した。


 面倒なので調査は青髪とジミーにまかせ、俺は後ろをついていくだけだ。

 道中でオークか大猪が出た場合は、死体収納でソロ討伐チャレンジする予定だ。もはや調査よりレベル上げの方が重要だからな。

 事前情報ではどちらも不意打ちでも受けない限り問題なく収納できそうな相手だったので大丈夫だろう。

 動きが単純なパワータイプは俺と相性が良いからな。ジミーがいれば不意打ちを受けることもない。


 しばらく蛇や猿を倒しながら山へ向って歩くと、前を歩いていたジミーがオークを発見した。特に遠距離攻撃もないらしいので、適当に声を出して呼び寄せた。

 オークは体も大きく結構迫力があったが、動きはそれほど速くない。配下に護衛されながら特に問題もなくオークを3匹収納できた。

 まっすぐ正面から近づいてきたので余裕だった。その結果レベルが1上がった。


 しばらく行くと今度は、軽自動車くらいの猪に遭遇した。

 予想以上のでかさで、走る速さもかなりありそうだ。

 内心ビビったが、念のため回避行動をとりながら収納し、特に問題なく倒すことができた。そしてまたもや1レベル上がった。


 簡単にレベルがポンポン上がったことに上機嫌になりながら青髪のあとについていき、木の生い茂る山を登っている最中のことだった。



「敵襲!!」 突然ジミーが後ろを振り返りながら叫んだ。


 ガッ!ビュッ!

 右前にいたアックスが突然前方に凄い勢いで吹き飛んでいった!

 アックスには黒い塊がまとわりついている!


 アックスと黒い塊が前方のかなり離れた位置に着地した!

 黒い塊が斧を持っている右腕に噛みついてるようだ!


「アックス!!」 槍を構え俺は思わず叫ぶ!


 黒い塊が左右に動いたことで、形がはっきり分かった。


 でかい黒豹だ! 虎よりでかい!


 アックスは自由な左腕で黒豹を殴ろうとするが、黒豹がアックスをブンブン振り回し、右腕が嚙み砕かれた!

 アックスは振り回された勢いでどこかに吹き飛んでいった!


 なんだあいつ!アックスが簡単にやられた!まずいぞ!いや落ち着け!収納すれば大丈夫だ!


 黒豹はアックスの腕を不味そうに吐き出すと姿勢を低くしてこちらを見てくる。




 目を離すな!近づいてきたらすぐ収納してやる!


 ドクドクと心臓が音を鳴らし、額に汗が流れる。


 ザッ! 黒豹が左側の茂みに消えた。


 なんだ? 逃げたのか? いやそんな感じじゃなかった! どこいった?!


 ダダッ!左前にいた青髪が突然右に走った!

 ビュン!ガン! 青髪が凄い勢いで吹き飛んでいく! 青髪が地面に転がった次の瞬間、黒豹が青髪の上から現れ、青髪の背中を踏みつける!


 何がおきた?! 速すぎて全然分からん! 死角からきているのか?!


 黒豹が青髪の左足を食いちぎった!


 ヤバい!ヤバい!とにかく全員出撃だ!取り出し!


 農家軍団とゾンビ数体と猿と蛇が目の前に次々と現れる。

 驚いて黒豹が後ろに下がり、青髪の足を吐き捨てる。


「あいつの足を止めろ!」 どうしていいか分からず適当に指示をする。

 配下達が一斉に黒豹に向かって動き出す。


 ザッ! 警戒したように配下達を見たあと、黒豹は右の茂みに消えた。


 くそ!また消えやがった!どこだ!?


 心の中に負と死の文字がよぎり、思考がまとまらない。息が荒くなる。


 突然ジミーが謎の粉をあたりにバラまいた!


 なんだ!?


 ザッ! 右後ろで音が聞こえ、とっさに振り向く。


 数メートル先に顔をしかめた黒豹がいた!射程内だ!


 死体収納!!!!!! 


 消えた!!成功だ!!!



「ふぅ~~」 思わず座り込む。

 心臓が激しく音を鳴らし汗がだらだらと流れる。涙と鼻水が止まらない。


 死ぬかと思った・・・くそ!いい大人が泣くなんて!情けない!ちくしょう!


 自分を激励するように心の中で吐き捨てる。

 それでも涙と鼻水は流れ続け、目と鼻がヒリヒリする。


 ・・・ん?ヒリヒリ? ・・・そういやジミーが何かバラまいていたな。


 どうやらジミーが撒いたのは、相手の目と鼻をおかしくするためのスパイスや薬草、小麦粉などを細かくしてブレンドした粉らしい。

 盗賊時代から強い人間や魔物相手に使っていたものだそうだ。

 怪我しない程度の刺激はHP障壁で防がれないから有効だそうだ。

 なるほど強い辛味とか臭いとかは感じるもんな。


 俺が泣き虫になったわけじゃなくて良かった。

 しかしそれで黒豹が変な位置で立ち止まったのか・・・ジミーは本当に有能だな。青髪よりはるかに有能だ。

 そうだ!青髪とアックスは無事か?


 配下達に周囲警戒を命じ、青髪のもとへ近寄る。

 アンデッドなので生きているがHPはゼロになったそうだ。すぐに配下回復を使って復活させた。


ガサガサ! 音がしたので警戒して茂みを見ると、アックスが歩いてきた。アックスもHPはゼロになったそうだ。腕を拾って配下回復でくっつけた。


 よし!すぐに撤退しよう!こんな危険な場所にいつまでもいられない!

 やべ!ゾンビどこだ? 何人か見当たらない。

「全員集合!」呼んだら出てきた。ゾンビは収納!


 よし、下山だ! ・・・もう一匹いないだろうな? 次は勝てるか分からんぞ! ・・怖くなってきた。


 先に黒豹を配下にしよう!すぐしよう!考える必要など無い!どうせあいつは配下確定だ!それを売るなんてとんでもない!


 取り出し!


 横たわる大きな黒豹が現れる。

 死体でもすごい迫力だ。凄まじい威圧感がある。気のせいか黒いオーラが見える。 ・・・気のせいだな。


 配下作成!


 大きな暗く光る魔法陣が死体の下に現れ、黒い光が死体を包む。


 黒豹がゆっくりと起き上がった。


 でかい。四つ足なのに目線が同じくらいだ。背中が俺のあごくらいにあるぞ。

 ふ~む。いいなこいつ。


 いや鑑賞している場合じゃない。とりあえず下山しよう。

 こいつがいれば護衛は十分だな。鉄仮面パーティー以外は収納だ。


 下山しながら俺は考える。

 なんて報告すればいいのだろうか?

 何も無かっただと良くない気がするな。もう一匹いるかもしれないし、いなくても痕跡くらいは残ってるだろうしな。

 こういうときはジミーに相談だ。今後は青髪じゃなく基本ジミーに相談しよう。青髪は相談役から降格だ。


 ジミーと一応青髪に相談した結果、大きな黒豹を目撃だけして撤退したと報告することにした。

 いなかったことにすると痕跡を再調査されたときに、ちゃんと調査していない扱いになるし、万一もう一匹いたら問題になる。

 痕跡だけあったと報告する場合はどこにあったか報告しないといけないが、痕跡調査はしていない。怖いのでする気もない。

 倒したことはもちろん報告できないので、目撃だけしたことにするのが一番となった。

 再調査や討伐隊が組まれて見つからなかったとしても痕跡があれば嘘つき扱いはされないし、実際目撃したのは嘘じゃない。言っていないことがあるだけで嘘はついていないというわけだ。


 途中で大猪にあったので、サクっと収納した。

 目撃されないよう森の切れ目で黒豹も収納。

 青髪とアックスの食いちぎられた服を着替えさせて、村に戻った。


 すぐに村長に報告することにした。

 幸い村長は家にいたので早速報告する。報告は青髪にまかせた。俺は嘘や演技はへたなので、鋭い人には怪しまれるからだ。

 アンデッドは動揺しないしリーダーの青髪が報告する方が自然だしな。

「調査の結果、原因らしき魔物を発見しました。」

「やはり魔物でしたか。どのような魔物でしたでしょうか。」 心配そうに村長がきいてくる。

「山の中腹あたりで、大きな黒豹のような魔物を発見しました。非常に強そうだったので刺激しないようにそのまま撤退しました。」

「その魔物について何かご存じですか?」 村長も知らないようだ。

「いえ、我々が知らない魔物でした。ギルドに報告するので、ギルドに情報があれば分かると思います。」

「そうですか・・・。ではギルドによろしくお伝えください。」

「はい。では我々はこれで。」

 報告は問題なく済んだな。とくに怪しまれたりしなくて良かった。


 ダン達にも報告がてら何か知らないか聞いてみよう。

 ダンを探すとちょうど獲物をもって帰ってきたところだった。


「ダン!ちょっといいか!」 青髪が声をかける。

「おお、青髪か。なんだ? もう調査が終わったのか?」

「ああ。そのことで報告と聞きたいことがある。」

「わかった。これを納品するからちょっと待ってろ。」


 しばらく待つとダンと仲間たちが全員きた。全員で話を聴いてくれるようだ。

「待たせて悪かったな。酒場でいいか?」

「ああ。」 酒場で話すようだ。まあ冒険者だしな。

「さっそくだが、原因は大きな黒豹のような魔物だった。遠くから見ただけだが、かなり強そうだったんだが、何か知らないか?」

「大きな黒豹か・・・詳しくは知らないが、Aランクの魔物にそんなのがいるって話は聞いたことがあるな。」「おまえら何か知ってるか?」 ダンが仲間達にも聞くが仲間は知らないようだ。

 しかしAランクか、確かにBランクくらいの力がありそうなアックスが瞬殺だったもんな。

「Aランクか・・・。分かった。ありがとう。」 青髪がお礼を言う。

「しかしAランクとは、まいったな。山を下りてきたら俺らじゃどうしようもないぞ。」 ダンが真剣な顔で言う。

「そうだな。万一のことがあるからダン達も気を付けろよ。俺たちはすぐに戻ってギルドに報告してくる。」 青髪が話を切り上げ立ち上がる。

「おう!どうするか俺たちも考えることにする!またな!」


 適当に俺も挨拶して、村を出た。



 草原の道を静かに歩く。

 夏のにおいがする風が吹き、危険な戦闘ですり減った心が少しだけ癒されるのを感じた。



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