第18話 ランクアップ試験
適当に曇った日に青髪のランクアップ試験を受けることにした。実力試験の会場は外にある訓練場だからだ。
まあ晴れた日でも大丈夫だと思うが、兜をとって挨拶しろとか言われたら面倒だしな。
最近青髪には、盾を持たせている。俺の護衛を強化するためだ。
能力的にアックスの斧士は攻撃重視の職業で、ジミーの盗賊は逃げ隠れしながら攻撃する職業なので、防御には向いていない。
その点戦士は攻守のバランスが良い職業なので、俺の護衛は自然と青髪がメインとなる。
まあ基本全員俺の護衛がメインなのでアックスに大盾を持たせることも考えたが、守っているだけじゃ勝てない敵が現れた時のことを考えれば、総合的にみて強い両手斧の攻撃役にした方がよいと判断した。
青髪は生前盾は使っていなかったが、仲間が盾を使っていたのを見ていたので普通に盾をうまく使うことができた。今も試験官相手にうまく盾を使って戦っている。
しばらく戦って問題なく合格していた。
青髪に生前より強くなったのか聞いてみたところ、技量や能力はあまり変わっていないが、恐怖心や迷いが無いため強くなったそうだ。
アンデッド効果だな。緊張で実力をうまく発揮できない人にはアンデッドがおすすめということだ。 ・・・違うか。
後はギルドが指定するCランクの不人気依頼を受けて達成すれば合格だ。
さっそくギルドの受付で説明を聞くことにした。
受付で性格の悪そうな見た目のおっさんから説明を受けた。
「お前らにやってもらうのは、北にあるアド山の調査だ。最近アド山から多数の魔物が下りてきていて麓にあるアド村に被害が出ている。下りてきた魔物の討伐は別のやつらが依頼をうけているから、お前らはアド山でなぜ魔物が山を下りてきたのか原因を調査してこい。依頼を達成すればCランクにしてやる。説明は以上だ。」
偉そうな感じのおっさんである。
「何か試験特有の禁止事項とかありますか?」 俺が質問する。
「特に禁止事項はない。何なら誰かに手伝ってもらってもいいぞ。」
・・・やはり不人気依頼の処理が目的のようだ。
「原因が魔物だった場合でも討伐はしなくても良いんですよね?」 念のため聞いてみる。
「原因さえ分かれば討伐はしてもしなくてもどちらでも良い。それと調べても分からなかった場合は、できるだけ状況を細かく報告すれば、内容によっては達成扱いになるからしっかり調べろよ。」 アドバイスもしてくれた。思ったより性格は悪くないようだ。
「では準備して出発します。」
「手を抜くんじゃないぞ!行ってこい!」
振り返るとアックスは冒険者と殴り合いをしていた。
最近は相手のレベルも上がっているらしい。ちょっと楽しそうだ。まあ普通に勝ったようだが。
ちなみに定住している冒険者にアックスより強い奴はいないようだ。
アックスより強いような高ランク冒険者は各地を巡ってレベル上げをしているので定住していない。
たまにこの町にも来ることがあるようだが、今はいないらしい。
レベル上げを終えた高ランク冒険者は、各国のギルド本部で高額依頼をしながら贅沢三昧しているか、冒険者をやめて国や貴族に仕えるらしい。まあほぼそうなる前に死ぬようだが。
いったん宿に戻って作戦会議だ。
今回の依頼がなぜ不人気なのか青髪に聞くと、この手の調査依頼は強い魔物が原因なことが多く危険な割に、ただの調査なので報酬が安いからだそうだ。
・・・やっぱり強い魔物がいるかもしれないのか。行きたくねえ・・・
まあ仕方ない。アックスと俺がいれば強い魔物がいても何とかなるだろう。
俺は青髪とジミーに必要な物を買ってきて準備するよう指示した。
俺には調査に必要な物なんて分からないからな。特に今回は調査依頼なので斥候のジミーが主役だし。まあいつもまかせているが。
人間の配下アンデッドはロボットみたいに逐一命令しなければダメということはなく、こいつらは適当に命令しても自分で考えて行動してくれる。
複数命令しても自分で優先順位を判断して行動するし、人間らしくしろと命令するだけで人間らしく色々なことをする。
人間の脳はAIなどよりはるかに高性能だからだろう。
なので、ダメな上司のように自分で考えろと命令するだけで割と問題ない。その結果、俺はダメな上司になりつつあった。
だが別に問題はない。 ・・・はずだ。
まあ思考力や判断力などは生前と同じなので、変な奴にまかせると酷い結果になったりするが。アックスとかね。
準備ができたようなので、北に向かって出発した。
まずは麓にあるアド村に向かうことにした。アド村までは歩いて2日らしい。
ちゃんとした道があるので、試しに馬車に乗って移動してみたが、乗り心地が悪いし、荷物が多くて遅いし、時間停止が解除されるから食料が傷むし、微妙だったので歩くことにした。
馬車に積んであった布やウサギの皮やアジトにあった物資は、売ったりしていないので場所をとっている。
業者につてなんて無いし、行方不明の商人が扱っていた品を素人が売ったら怪しまれると思ったからだ。
商人の情報網をなめてはいけない。死んだ商人の知り合いに知られて疑われるのは避けたい。
でももったいないから捨てられない。貧乏性なのだ。
途中で一泊野営をした。
最近は夏になったらしく鉄仮面をつけていると暑い。
まあ日本みたいにジメジメはしていないので耐えられないほどではないが。
配下たちは暑さを感じないらしく、特に汗をかいたりもしていない。
町の外では俺はほぼ鉄仮面をつけていないが、町の中では俺だけつけていないと目立つので仕方なくつけている。
まあ配下たちも夜や晴れていない休みの日など、鉄仮面をつけていないことも普通にあるので、絶対つけているわけではない。怪しまれない程度に脱いだりしている。
それと夏になって気づいたが、この世界には蚊はいないようだ。蚊以外の虫に刺されたこともない。
おそらくHPバリアがあるせいだろう。蚊などの虫はHPバリアを突破できないだろうからな。
ちなみに虫は普通にいるのでハエは良く見る。それでもアウトドア好きがこの世界に来れば大喜びだろう。
いや、蚊より危険な魔物がいるから微妙か。
それとどうやら小さい生物にはHPやステータスは無いようだ。小さい虫や小鳥やネズミには無い。理由は不明だがツノウサギくらい大きくないとダメらしい。
そんなこんなで次の日の夕方にアド村についた。
村から見えるアド山は、それほど大きな山ではなく、山頂まで木がびっしり生えて森のようになっている。魔物がいなければ日帰り登山できそうな大きさだ。
小さい山だが、起伏の少ない平野に一つだけ山があるので良い目印になっているため割と有名らしい。山に出る魔物は、猿と蛇とビッグボア(大猪)とオークだそうだ。
ちなみにこれは、準備を指示したらジミーがギルドで調べてきたものだ。ジミーは情報収集も勝手にやってくれる便利な奴だ。
村は結構大きかった。頑丈そうな柵もあるし、店も普通にあるようだ。
さっそく村長に話を聞きにいった。
「すみません。我々はアド山の調査依頼で来た冒険者です。アド山の話を聞きにきました。」 俺が声をかける。
「こ、これはようこそいらっしゃいました。私がこの村の村長のグルドです。」 いかにも村長な爺さんだ。ちょっと鉄仮面の集団にビビっているようだ。
「冒険者パーティー鉄仮面のユージです。アド山のことで分かっている情報があれば教えてください。」
「はい。先月から村側だけでなく山の周り全体に山の魔物が下りて来ていて、村や旅人に被害が出ています。特に思い当たる原因は無いのですが、村では強い魔物が山に住みついてしまったのかもしれないと考えています。もしそうなら討伐依頼も出さなければいけないので、まずは調査をお願いします。」
「なるほど。」 ・・・やはり強い魔物がいるっぽいのか。幸い討伐はしなくても良いから、魔物を見つけたら撤退しよう。
「山から下りてきた魔物の討伐依頼を受けてくださった冒険者の方々も村に滞在していますので、あとはそちらに話を聞いていただければ・・・」
鉄仮面集団とあまり話したくないのか、早く切り上げたそうにしている。
「わかりました。冒険者はどちらにいますか?」
「出て右の道の奥にある空き家に泊まってもらっています。みなさんもその隣の空き家をつかってください。」
その後軽く案内をうけて、冒険者に会いに行った。
村長の家に泊めたりはしないらしい。まあ荒くれ者のゴロツキである冒険者を家に泊めたい人はいないか。俺も嫌だ。
「アックスじゃねえか!」 案内された家に向かっていると声をかけられた。
「あぁ? おうダンか。」 アックスが答える。
ダンはアックスによく声をかけてくるCランク冒険者で、アックスに殴られたこともある。メルベルに定住している冒険者の中では上位の冒険者だ。
「お前らもしかして調査依頼で来たのか?」 調査依頼のことも当然知っているようだ。
「ああ、そうだ。ダンは討伐依頼か?」
「ああ。しかしお前らが調査依頼なんて面倒な依頼を受けるとは珍しいな。何でこんな依頼受けたんだ?」 やはり普通は受けない依頼らしい。
「俺のCランク試験の条件だ。普通なら受けなかったよ。」 青髪が答える。
リーダーらしくするよう言ってあるので、青髪はこういう時は割と積極的に会話をしている。
「お前らもうCランクになるのかよ!早いな!この前登録したばかりじゃなかったのか?」
「Cランクになるのは俺だけだ。俺は結構長く冒険者をしているからな。」
「そうなのか。まあいい、飲みながら話そうぜ!山の魔物の話を聞きたいんだろ?」
「ああ頼む。」
「この村にも酒場があるぜ!こっちだ!来いよ!」
ダンの仲間と合流し村の酒場に向かった。
村の酒場は結構ちゃんとした店で、町の酒場とそん色ない感じだった。
ランプの明かりに照らされた異世界情緒あふれる店内は、笑い声が響いていて活気がある。
ダン達は村人からも歓迎されているらしく笑顔で挨拶されたりしている。
魔物被害があった割に全然暗い雰囲気じゃないな? まあいいか。
さっそく皆でテーブルを囲み俺は高めのエールを頼んだ。
最近俺は仕事終わりのエールにハマっている。以前エールを飲んだ時は不味かったが、それは安宿で出す安物だったからだと気づいたのだ。高いエールは普通にうまい。
科学技術を除けば、この世界と日本の品の一番の違いは安物の品質だ。日本では安物でもそれなりの品質の物が出てくるが、この世界の安物は全然違う。ひどい品質だ。
逆に高級品は日本と変わらないくらいの高品質な物が普通にある。
魔法やらスキルやらがあるおかげだと思うが、ちゃんとした職人が作った物の品質はかなり高い。低品質の安物はおそらく無職が作っているのだろう。全然違う。
まあこの世界は無職が多いからしょうがない。 ・・・誤解を招きそうな言い回しだ。
まあそんな訳で、まずは乾杯して高めのエールを飲み、豪快な肉料理を食べながら話をきいた。
「よし。じゃあ魔物の話からだな。お前らのことだから調べたと思うが、山から下りてきた魔物は情報どおり猿と蛇と大猪とオークだ。他の魔物は見ていない。」
「魔物の様子はどうだ? 何か変わったことはあったか?」 青髪が質問する。
「特に変わった様子は無かったな。おそらくしぶしぶ下りてきたんだろうが、今まさに追われているって感じじゃないし、特別狂暴ってことも無い。」
「村の被害は?」
「初期の頃に村の外で村人が襲われたのと、旅人が襲われただけだな。この村は元々大猪を狩って特産品にしていたんだ。だから戦える奴が多いから村の被害は少ないんだ。」
へ~この世界の村人はたくましいんだな。
「ダンさん達みたいな上位冒険者を雇い続けていて、この村は大丈夫なんですか? 特に村が苦しい様子はないですが。」 俺は気になったことを聞いてみた。
「村の防衛があるから村の連中は狩りには行けなくなったが、俺たちが狩った魔物を村に売っているんだ。それを村は解体なり加工なりして町に売って儲けている。山に登らなくても近場で狩れるから、以前より多く狩れていて逆に金は儲かっているらしい。俺たちも町で売るよりは安いが、運ばなくても良い分たくさん狩れるから儲かっている。特にでかい猪が高く売れていてな。ウハウハだ。」 ご機嫌に笑っている。本当に儲かっているようだ。
・・・それで酒場も賑わっているのか。誰も焦ってなさそうだしな。
「この店で出している肉も俺たちが狩ったやつだぜ!うまいものが安くたくさん食えて儲かる。この仕事は大当たりだったぜ!村長はもっと冒険者雇うか検討してるみたいだぜ!お前らも調査が終わったらここで狩りでもしていった方がいいんじゃないか?」 ワハハと笑うダンと仲間たち。
「そうなんですね。」 俺は適当に相槌をうった。
・・・ちょっと気が抜けたな。誰も困っていないなら調査も適当にのんびりやるか。俺はどうでも良くなってきたので、酒と食事を楽しむことにした。
アックスは話をろくにきかずに肉をがっついている。
おまえそんなに食べる必要ないだろ。まあ不自然じゃないよう振る舞っているんだと思うが。怪しいな。食いたいだけなんじゃないか?
青髪は適当に雑談しながらうまそうに肉を食っている。こいつも意外と大食いだ。
ジミーはダンの仲間の斥候に何か専門的なことを聞きながら肉を食っている。
ちゃんと仕事しているのはジミーだけだな。あと肉ばかり食いすぎだろ。アンデッドだから野菜を食べる必要はないだろうがバレないか心配になるな。回復しないだけで食べることはできるはずだが。
野菜を食いながら見ていると、ダン達も肉ばかり食べていた。
・・・冒険者は肉ばかり食うのが普通なようだ。逆に俺が不自然なくらいだ。
「情報ありがとうございました。」 ダン達にお礼を言って店を出た。
ちなみに俺はいつも他人には普通に敬語で話している。ラノベ主人公のように異世界に行ったとたん俺様系になったりはしない。
配下には偉そうにしているが、それは奴らが気を使う意味のない相手だからだ。アンデッドだし本人達もなにも感じないと言っている。元極悪人だしな。
よく仲間の女の子とかにも偉そうにしている主人公が多いが、客観的に見ると結構嫌な奴だからな。強いからって偉そうにしているわけだし。現実であんな態度だと嫌われるぞ。
ぶっちゃけ悪さしていないだけで悪役の我がまま貴族と大差ない態度だ。まあラノベでは好かれまくりだけどな。現実では無理だ。
・・・いや俺様系が好きな女子も多いのか? 不良がモテたりするし・・・分からん。
その後、宿泊場所のボロい空き家に入り、眠りについた。
月明りの下、山の上では怪しい黒い影が揺れていた。