第17話 人気冒険者と影武者
冒険者として活動を始めた俺たち「鉄仮面」は、リーダーの青髪がDランクだったため、Dランクの依頼をいくつかうけた。
青髪は、真面目にやっていた時に、もうすぐCランクになれそうなDランクだったそうだ。
俺は、Dランクの依頼で猿の魔物クロウモンキーと蛇の魔物フォレストスネークを死体収納で倒した。その結果レベルが2上がった。猿は格下だったらしく倒してもレベルが上がらなかったが、蛇は同格以上だったようでレベルが上がった。体感的には俺は同格の初見魔物一種類10体をソロ討伐すると2レベル上がる感じだ。
上がりやすいように感じるが、4人パーティーだと2レベル上げるには4種類40体必要だし、同格以上の魔物なので普通に戦ったら負けることも多い相手だ。他の魔物も出るし毎回1匹で出るわけでもない。相手の生息地で戦うので不利なことも多い。何も考えずに戦っていたらすぐやられて死ぬだろう。毎回入念な準備をして1体倒しては撤退を繰り返すのが基本になるので、普通の人にとってはレベル上げはかなり大変だそうだ。
今の俺のステータスはこうだ。
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名前 ユージ
種族 人間Lv11
年齢 18
職業 死霊術士Lv11
HP 252/252
MP 657/657
身体能力 20
物理攻撃力 20
物理防御力 20
魔法攻撃力 86
魔法防御力 86
ユニークスキル
死体収納
スキル
配下作成
配下解放
配下回復
配下
上級アンデッド 19
ゾンビ 6
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それとレベル10でスキルを覚えた。
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配下回復 消費MP20
配下アンデッドのHPMP損傷を回復する。
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配下限定の回復魔法だな。MPと損傷も回復できるのは良いな。
ただアンデッドは再生と死体喰いで自力回復できるから、そこまで有用というほどでもない。
まあ再生も死体喰いも回復スピードは遅いから、戦闘中にすばやく回復できるのは強いかもしれない。
配下に戦わせて後ろで回復役をするのが死霊術士の戦闘スタイルなのだろう。
それと試しに猿と蛇の魔物を1体ずつ配下にしてみたので上級アンデッドが2体増えた。だがたいして強くない魔物はゾンビと同じ使い捨て要員にしかならないことが分かった。
猿は木登りが得意で、蛇は狭いところを通れるが、使い道は今のところない。木は人間でも登れるしな。
奇襲などはできるが、意思疎通や細かい指示はできないので偵察は無理だ。
奇襲してもそこまで強くないから使い捨てのかく乱要員でしかない。
がんばって集めて戦力にするほどでもないので、今後は売ることにした。
グレイやつのっちと違って見た目も良くないしな。俺はとくに蛇好きでもないし。
そして俺もレベルが上がって身体能力も上がったのでDランクになることができた。ガストークにいたときと違いポーター役を名乗っているので、槍がへたでも何も疑われないため、気軽に試験をうけることができた。
まあDランクはレベル10くらいあれば誰でもうかるらしい。アックスとジミーも一緒にDランクになった。これで全員Dランクだ。
ちなみにCランクになるには、依頼達成実績と職員に実力を見せるだけでなく、ギルドの指定するCランク依頼をこなす必要があるらしい。
依頼の内容は、そのときにある不人気で誰も受けない依頼だそうだ。
・・・試験を口実にした不人気依頼の処理だな。
青髪はもう依頼達成実績の条件は満たしているので、そのうちCランク試験も受けさせようと思う。
依頼達成はパーティーメンバーと協力しても問題ないので、俺とアックスがいれば大丈夫だろう。
パーティーメンバーの実力だが、アックスはDランクは余裕だった。Cランクも多分余裕だろう。
アックスは基礎的な肉体能力が普通の人の2倍くらいあるので、身体能力35のアックスは普通の人の身体能力70くらいの力があるということだ。強すぎる。
斧士を自力習得した天才だけあって斧の扱いもうまいし戦闘センスも高い。
青髪の実力は可もなく不可もなく普通に強いんじゃね?って感じだ。素人には分からん。
ジミーが意外にも優秀で、斥候役として索敵ができた。
戦闘でも立ち回りや攻撃するタイミングがうまいように思う。ステータスに現れない強さというやつだ。
それと薬草採取もできて小銭も稼げる。盗賊団の参謀役もしていたらしい。
これだけできるなら普通に冒険者やった方が良かったのではないかと思い、なぜ盗賊になったのか聞くと、人を殺すのが好きだからだそうだ。ヤバい奴だ。サイコパスだ。地味な顔して一番ヤバい奴だったらしい。
鉄仮面も有名になってきた。アックスは相変わらずしょっちゅう冒険者を殴っている。
そして驚くことにアックスは冒険者の間で喧嘩屋アックスと呼ばれ人気がある。
この前も数日前にぶん殴った相手から笑って話しかけられていた。
人気の理由はいくつかあって、ひとつはアックスの分かりやすい強さが良いらしい。
アックスはでかいし動きも速いしパワーが尋常じゃない。アックスが冒険者を殴っているのを見れば馬鹿でも強いのが分かる。男は強さに憧れるからな。
それとやりすぎないし悪さもしないのが良いそうだ。吹き飛ぶほどの威力でぶん殴っているのにやりすぎないって何だよと思ったが、日本基準では明らかにやりすぎだがここは異世界。HPがあればHPが減るだけで痛みもすぐ引くし怪我もしない。それでいてHPが無くなったらヤバいのでHPが減ってきたらビビッて相手もすぐ引くから長引かない。HPは食って寝れば回復するので問題ない。
確かに怪我しない程度と考えればやりすぎていないのだろう。アックスは相手が引いたら追撃しないし、他の悪さもしないしな。
おそらくアックスは生前はやりすぎるタイプで他の悪さもしていたから嫌われていただろう。俺が命令した結果、偶然うまく悪いところが無くなって人気になったのかもしれない。
実際俺もアックスのことは気に入っている。怪我しないと分かっていれば嫌な奴が吹き飛んでいるのを見るのはスカッとして気持ちが良いし、何よりアックスは俺の悪口を言うやつも殴り飛ばしている。そして他のパーティーメンバーの悪口を言うやつも殴り飛ばしている。
つまり見方によっては仲間想いにも見える。仲間想いで強い男はかっこいい。喧嘩したいだけだと思うし、皆もそう思っているから喧嘩屋アックスなんて呼んでいるが、それでもかっこいいと思っているから人気なんだろう。
ちなみに他のメンバーの評価はというと、青髪は他の冒険者からも鉄仮面の青髪と呼ばれていてリーダーとしての評価がかなり高い。
真面目モードの青髪は優秀なリーダーっぽく見えるし、なによりアックスみたいな奴と組んでリーダーとしてうまくやっているので、リーダーとして高い資質があると思われている。完全に誤解である。
ジミーは地味なので注目されていないが、一部の鋭いやつは危険な雰囲気を感じているらしく舐められたりはしていない。
そして俺はというと、鉄仮面の死んだ目の男として不気味に思われているらしい。ひどい評価だ。
ポーター兼雑用係なのに他のメンバーと対等以上に話していたりするのを見られているからのようだ。
まあ俺も下っ端の演技とかした方が良いかと思ったが、面倒くさすぎるので普通にしているからな。俺は楽にダラダラ生きるのが目的だしな。しょうがない。
まあとりあえす、生活の目途はたったが、目立ってしまっている状況だ。
目立てばトラブルに巻き込まれる可能性も増えるので、その時に備えて対策を考えようと思う。そしてひとつの作戦を思いついた。
影武者作戦である。
どういうことかというと、今後人前で死霊術士の能力や死体収納を使うことがきっとあると思う。できれば回避したいが、回避できないこともあるだろう。
その時に俺ではなく別の奴を死霊術士だと勘違いさせれば、多少状況がマシになるのではないかと思ったのだ。
具体的には、配下の一人にいかにもネクロマンサーっぽい恰好をさせて収納しておき、能力を使うときはそいつを適当な位置に出してから使うようにするのだ。
そうすればその後アンデッドが現れたり人が消えたりしても、俺ではなくそのネクロマンサーっぽい奴がやったと思わせることができるので、俺が指名手配される可能性が下がる。
まあ部下だと思われたりはするかもしれないが、うまくやれば無関係だと思ってくれるかもしれない。
さっそく無職の配下の中から、俺と年齢や見た目が大きく違う、灰色の髪をした小柄なおっさんを選んだ。
まだ職業に盗賊は無いので、犯罪者になって日が浅いのだと思うが、なぜその年で盗賊になったのだろうか。
気になって理由を聞いてみると、農民をしていたが、弟夫婦に畑を奪われて追放されたらしい。いい歳して独身なのが理由らしい。・・・悲しい話だ。
長年農民をしていて農家とかの職業は得られないのか聞くと、農家の職業は、農業の専門書を購入して勉強したうえで、職業をもつ人から何年か実地指導を受けると覚えるそうだ。
まともな教育を受けていない村人には無理だそうだ。
・・・職業を覚えるのはどれも大変なんだな。無職が多いわけだ。
さっそく小柄なおっさんをつれて、それっぽい装備を買いに行く。
まずはどこにでもある黒いローブを購入した。中に着る服も農家スタイルだと見えたとき微妙なのでそれっぽい黒い服と手袋を購入。
杖を見に行ったが、ネクロマンサーっぽいデザインのものは無かった。
適当な杖を買うとどこで買ったかバレそうなので、大工に作らせることにした。
適当に木を切ってそれっぽい杖を作るよう指示。荒い作りの少し禍々しいゆがんだ杖ができた。
さっそく装備させてみる。
小柄な悪い魔法使いのおっさんが完成した。
これなら俺と全然違うので、容姿などの情報が広がっても俺が疑われることはないだろう。
出てきて突っ立ってるだけだと不自然なので試しにネクロマンサーっぽい演技をするよう指示してみた。
「我こそは闇の王ギルバーン! 貴様らを殺し我が配下としてくれよう! フハハハハハ!」
・・・意外とノリの良いおっさんだな。身振り手振りもちゃんとやっていて演技も結構うまい。
なぜ結構うまいのか聞くと、魔法使いに憧れていた時期があったらしい。そういう人は結構いるそうだ。
・・・この世界にも中二病はあったのか。やはり右腕が疼くのだろうか?
ちなみにギルバーンは本名だそうだ。無駄にかっこいい名前だな。
人前で出したときはその演技をするよう指示して収納した。
ギルバーンを出す時は農家軍団も出して、余裕があれば俺も農家になってまぎれこむことにする。
農家軍団の何人かは俺と似たような革鎧を着ているので、手ぬぐいと麦わら帽子をかぶれば多分大丈夫だろう。余裕ができたら戦闘要員は全員革鎧にしよう。
とりあえずこんな感じでいいだろう。
続いて配下のレベル上げを試すことにした。
アンデッドなので簡単には死なないため、ソロ討伐にも気軽に挑める。
だが、これはうまくいかなかった。
レベルが上がった者もいたが、生前よりかなりレベルが上がりにくくなっているらしい。ソロ討伐してもパーティー討伐と同じくらいしか上がらない感じだ。
もともと人間は基礎能力は低いがレベルが上がりやすい種族らしい。おそらくアンデッドはレベルが上がりにくい種族なのだろうという予想だ。
他にもアンデッドの特性として、休憩してもHPMPが回復しないこと、HPがゼロになっても気絶しないことが分かった。気絶はしないがステータスは消えた。試しに配下回復をかけたらすぐにステータスは戻った。意外と使えるスキルだった。
ちなみに人間は座って休憩していると少しずつHPMPが回復する。そして寝ると一気に回復する。座っていても警戒していたり緊張していたりすると回復しない。エルフなど他の人種も一緒らしい。
そんなこんなやっているうちにDランクの依頼ではもう俺のレベルは上がらないことが分かった。
俺は種族レベルはまだ11だが、職業レベルも合わせると総合的には結構レベルが高いようだ。
普通は職業はあとから覚えるから職業レベルはもっと低い。
強さの判断は単純なレベルの足し算ではないようだが、もうランクを上げた方が良いらしい。
というわけで、Cランク依頼を受けられるようにするため、青髪にランクアップ試験を受けさせることにした。
太陽の日差しも強くなり、季節はすっかり夏になっていた。