第85話 港作り開始
さっそく俺達は港建設予定地に向かうことにした。
ヨーラムさんがスブ島で手に入れた今使われている海図と500年前の地図の写しの2つを見ながら港があった場所を探す。
今回は主要配下も全員連れていく。ヨーラムさんや侯爵や執事長などの内政隊も一緒だ。
港を作るとなると、軍事、商売、政治など色々なことを考慮する必要があるからだ。
労働力としてヨーラムさんに貸し出していた水中作業になれているアンデッド労働者達も100人以上連れて行く。
スブ島でもアンデッド労働者事業は続けているが、港の規模がそれほど大きくないので、スブ島には50人もいれば十分だ。
防衛用の海賊や兵士が手伝うこともできるので、急に人手が必要になったりしても問題ない。
労働者としては高レベルの兵士の方が有能だしな。
カイザーシップでのんびり雑談をしながら空を飛ぶ。
地図を見ながら話を聞くと、魔の森の東西の幅は3千から4千kmぐらいあるようだ。
大きすぎて良く分からないが、魔の森は中国くらいの広さがありそうだ。
この距離を寄港地無しで貿易するのはかなり大変だろう。
食料を多く積まなければいけないので積める荷物も減ってしまうし、事故で食料が減ってしまった場合などの危険も大きい。
俺達が中継地点を作れば多くの人が大喜びするはずだ。
目的地は魔の森の中央より少し西くらいにあり、ほぼ貿易航路上にあるため、当時は魔の森エリアでは一番の港だったらしい。
海岸線は当然一直線ではなくグネグネしていて、中央付近は南に陸が突き出ている。
場所が悪いと利用者が減ってしまうので、場所選びはかなり重要なようだ。
地域一番の港があった場所なら、俺達の国の首都にすれば良いかもしれない。
東京みたいに首都に大きな港があった方が何かと有利だろう。
配下とヨーラムさんにその話をしてみると、ヨーラムさんは賛成のようだったが、騎士団長や聖騎士は首都は内陸にあった方が良いという意見だった。
俺達は敵が多いので、守りやすい内陸に首都があった方が良いそうだ。
魔の森を天然の防衛施設として使えば、日本人集団はともかく普通の軍は確実に防げる難攻不落の首都になるからだ。
収納していた侯爵と執事長も出して話を聞くと、商売や経済においては首都に港があった方が有利だが、総合的に見ると首都は内陸の方が良いらしい。
首都が難攻不落だと、軍事だけでなく外交でも有利だそうだ。
軍事力を背景にした脅し等が一方的に行えるのはかなり有利らしい。
それを聞いてヨーラムさんも首都は内陸が良いと意見を変えた。
・・・どうやらこの世界では艦砲外交が当たり前のようだ。
まあそんな気はしていたけどな。
一日飛んでも着かなかったので、その日は適当な海岸で野営を行った。
全力で飛べば一日で着いただろうが、カイザーシップはシートベルト等は無いので揺れないように安全運転をしている。
なのでカイザーゴンドラより速度は遅い。
海岸でいつもの豪華なキャラバン野営で一夜を過ごす。
ヨーラムさんの分の寝室馬車や荷馬車も用意してきた。
話には聞いていたようだが、ヨーラムさんは一緒に野営したことは無かったので、家と変わらない食事や風呂に感心していた。
ヨーラムさんは現地を確認して建設計画を立てたあとは帰る予定だが、場合によっては長期滞在する可能性もあるので、快適なのは嬉しいだろう。
魔の森で野営する時は、念のため聖女の神聖結界を毎回張っているので安全面も問題ない。
ヨーラムさんも高レベルだから、やられることはまず無いだろうが、念のためだ。
それに強い魔物の奇襲で馬車を壊されても嫌だ。
神聖結界は、延長しなければ1日で切れるので、野営のあとは放置しても問題ない。
翌日もしばらく飛んで、港があった付近に到着したが、港らしき物は見えない。
とりあえず地形を照合して場所を特定したが、上から見ても分からなかったので、それっぽい位置にカイザーシップを着水させて調査することにした。
港があった場所は、大きな川があり、湾になっている場所なので、位置は多分あっている。
川や湾の位置は500年たっても変わらないだろう。
辺りを調べると、木と土に埋まっているが、所々石づくりの道や建物の残骸が見えた。
無事な建物は無いようだが、場所は間違いないようだ。
建物は期待していなかったので問題ない。
さっそく配下を大量に出し、神聖結界も全力で張らせて、調査と発掘作業の開始を指示した。
高レベルの兵士たちが次々と木を伐り倒して適当な場所に積んでいく。
アンデッド労働者や海賊達もヨーラムさんの指示で水中調査を開始した。
俺は聖女に神聖結界を延長させるくらいしかやることは無いので、ある程度広い場所ができたら、キャラバン野営の準備をして、のんびり待つことにする。
今回の港作りでメインとなるのはヨーラムさんだ。
メルベル領には海が無かったので、内政隊の侯爵や執事長は港には詳しくない。
しばらくスブ島の統治をしたので多少知っている程度だ。
その点ヨーラムさんは、アベニール、ゴルドバの首都、スブ島などで、ずっと港の水中作業の指揮をしていたので、港の設備や構造にはかなり詳しくなったそうだ。
なので、基本的にはヨーラムさんの指揮や計画で作業を行い、軍事、政治、外交などに関わる部分は配下達が一緒に考えるということになっている。
建前上は俺も一緒に考えることになっているが、素人は余計な口出しをしない方がいいだろう。
本来はスブ島から港作りの専門家を連れてくるのが一番だが、仲間以外を連れてくると、皆がギルバーンの部下の演技をしなければいけないので、できれば仲間以外とは一緒に行動したくない。
俺達だけでやってみて無理だったら呼ぶことにしているが、ヨーラムさんに貸していた大工の配下も大分港に詳しくなっているので、とりあえず簡単な港が利用できて人が住めるレベルくらいまでは俺達だけでやれる予定だ。
指揮所の設営やヨーラムさんへの差し入れ等を配下に指示しつつ、テキパキと動くヨーラムさんや配下達の作業を眺める。
ヨゾラさん達は周囲の見回りに行った。
ヨーマ君はヨーラムさんを手伝っている。
責任者かつ死体収納から色々出せる俺は、現状ではこの場を離れるわけにはいかないので、真面目な顔をしてただ作業を見ている。
特に意味は無いが、ヨーラムさん達が忙しそうなのに、だらけるのは申し訳ないからだな。
指揮所の設営も終わり、ヨーラムさんの作業もひと段落したようなので、難しい顔で図面を見ているヨーラムさんに話しかける。
「ヨーラムさん。指揮所ができたので、確認お願いします。」
「ああ、はい。分かりました。」
「ついでに少し休憩をしましょう。ヨーマ君も。」
「ありがとうございます。」「はいっす。」
指揮所は、天幕を張って会議テーブルや黒板などが置いてある。
指揮所に入ると、料理人剣士がお茶とケーキを持ってきた。
「このような場所で、こんなにおいしいお茶とお菓子がいただけるとは、さすがユージさんですね。」 ヨーラムさんは微笑みながら言った。
気に入ってくれたようだ。
「ユージさんの所のお菓子はいつも凄くおいしいっすね。」 ヨーマ君はいつも一緒に食べている。
「うちの女性陣おすすめのケーキですからね。喜んでもらえて良かった。」
スイーツ関係はヨゾラさんが料理人に色々言っていた。
地球のお菓子も教えたのだろう。元々レベルが高かったが、さらにおいしい物が出てくるようになった。
ヨゾラさんは、ああ見えて料理ができるからな。
「港は使えそうですか? こちらは今のところ予定どおりですが。」
「はい。予想より木の浸食が激しいですが、今のところ大きな問題はありません。ただ、私も港作りの経験があるわけではないので、何をどこまでやるべきか迷ってしまいますね。」
やはりいくらヨーラムさんでも港を作れなんて言われて困っているみたいだな。専門外だしな。当たり前だな。ここはフォローしておこう。
「港を作った経験がある人なんてほとんどいないでしょうからね。仕方ないですよ。何度も失敗しながら進めていくくらいで良いんじゃないでしょうか。」
「そう言っていただけると助かります。」 少しほっとしたようだ。
プレッシャーがあったのだろう。
ヨーラムさんには苦労かけっぱなしだな。
やる気を出してもらうために、前から考えていたことを伝えておこう。
「ヨーラムさんさえ良ければ、この港ができたらヨーラムさんに任せようと思っているので、ヨーラムさんの好きなようにやっちゃってください。」
「ええっ?! 港を私にですか?!」
「はい。と言っても俺達には敵も多いですし、建前上ギルバーンの部下みたいになってしまうので、それほど良い条件ではないかもしれませんが、立場や役職などはできるだけヨーラムさんの希望に沿うようにしますので、いかがですか?」
この話はヨゾラさんの了解もとってある。
というかヨゾラさんもヨーラムさんが希望するなら当然という感じだった。
「・・・本当に私で良いのしょうか?」 少し考えたあと、真剣な顔できいてきた。
「俺達もヨーラムさんなら安心ですからね。ヨーラムさん以上の適任者はいません。まあ、そうは言ってもヨーラムさんにも目指すものがあるでしょうから、ヨーラムさんの目標の邪魔をしたくはありませんし、目標の邪魔にならないようならお願いしたいという考えです。」
ヨーラムさんは夢を追って国を出て来た商人だからな。
おそらくヨーラムさんの夢は、世界を股にかけるような大商人だと思うが、話を聞く限りゴルドバの大商人達のような国を治める商人にも興味があったはずだ。両立も可能だしな。まあゴルドバは滅んだが・・・
「・・・そうですか。」
「もちろん答えは今すぐでなくてもかまいません。」
「いえ、その話、お受けいたします。」 ヨーラムさんは真剣な顔で答えた。
即断即決だ。やはりヨーラムさんはかっこいいな。夢を追う男だけある。働かずに暮らすのが夢の俺とはえらい違いだな。
「良かった。これからも一緒にがんばっていきましょう。改めてよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ユージさん達の期待を裏切らないようがんばります。」
俺達は固い握手を交わした。
いや良かった。ヨーラムさんの夢の詳細までは知らなかったからな。断られる可能性もあると思っていた。
「ヨーマ君もいずれ何か考えておくから、希望があったら遠慮なく言ってくれよ。」
ヨーマ君も超優秀だからな。やりたい役職があるなら就いてもらおう。
「いや、俺は親父みたいな実績はまだ無いっすから、もっと色々実績ができてからでいいっす。実績が無いまま高い役職について親の七光りとか言われるのは癪っすからね。」
「そう? もう実績はある気はするけど。まあ、確かに重役になるにはまだ若すぎるか。」
「そうっすね。色々やってみたいこともあるっすから、しばらくは自由にやらせてもらえると助かるっす。」
「わかった。そうしよう。」
ヨーマ君も自分で商売を色々やってみたいのだろう。町の重役とかになってしまうと、自由に動きづらくなってしまうだろうしな。
俺としては面倒なことは俺の配下達に丸投げしてしまって自由に行動してもかまわないと思うが、ヨーマ君の立場だと配下達を顎で使うのは気が引けるのだろう。
当分は本人の希望通り自由にさせてあげよう。
「さて、やる気も沸いてきましたし、私達は引き続き良い港を作るためにがんばるとします。」
「はい。お願いします。さっきも言いましたが、事故や失敗はつきものだと思いますので、ヨーラムさん達の安全さえ気を付けていただければ、配下達は復活できますから、気にせず色々チャレンジしてみてください。」
「ありがとうございます。お任せください。ヨーマ、行くぞ。」
「ういっす。」
ヨーラムさん達は仕事に戻っていった。
ヨーラムさんが今後も仲間としてずっと一緒にいてくれそうで良かった。
ちなみにヨーラムさんやヨーマ君は俺の部下ではないが、色々働いてくれているので働きに応じて多めに報酬を支払っている。
特にヨーラムさんには、スブ島の統治に協力してもらっているということで、スブ島の島長などと同じくらいの役員報酬を払っている。
ヨーラムさんはアンデッドを貸してもらったり便乗して商売させてもらうだけで十分と言っているが、商人にはお金は重要事項だろうからな。適当に扱うわけにはいかない。嫌われたくないのでしっかり報酬を払うことにした。
まあ俺には適切な報酬額は分からないので配下にお任せだが。
ヨゾラさん、ユリアさん、ヨーコちゃんの3人にも報酬を支払っている。
皆で稼いだ金は当然分配しているし、それとは別に高額な給料も出している。
というのも、この世界では、高レベル戦闘員には武具代なども込みで高い給料を払うのが常識だからだ。
普通の兵士などは武具は支給するのが一般的だが、高レベル者は、職業、スキル、戦闘スタイルなどが皆バラバラなので、統一装備を支給する方式だと弱くなってしまう。
それに、武具や消耗品に細かい拘りが強い人が多いので、給料をたくさん払って自分で揃えさせるらしい。
それと、この世界では高レベル者は人気が高いので、高レベル者の待遇が悪いと民衆から叩かれて雇い主の評判が悪くなるそうだ。
これは単なる好き嫌いの話ではなく、自分の住んでいる町に高レベル者がいるかどうかで自分達の安全度が全然違うからだ。
この世界では、強い魔物が町を襲って被害が出ることがよくある。日本での地震や台風のような災害感覚らしい。
その際に、町に強い高レベル者がいるかどうかで、町の被害や自分や家族が助かる確率が大きく変わってくる。
なので、強いというだけでどこに行っても厚遇され、民衆からも大歓迎される。
民衆から嫌われている冒険者ですら高ランクの強者は大人気だ。
自分達が助かる確率が高くなるから当然だ。
低ランクの冒険者は、逆に犯罪者になって町の人にとって害になることが多いので嫌われている。
まあ低ランクの冒険者も、魔物の間引きや素材の供給などで町にかなり貢献しているが、直接の関係者以外には実感できないので、犯罪の方が目につくのだろう。
まあそういうわけで、小さい町の領主などは、強い高レベル騎士等が部下にいるだけで良い領主扱いされたりする。逆に高レベル者が出奔してしまうと暗君扱いだ。
そういう意味では、強いドラゴンや聖騎士を多数配下にしているギルバーンは良い領主ということになる。
ちょっと納得いかないが、ギルバーンが割と受け入れられているのは、本人や配下の強さも理由の一つだ。まあ本人の強さは誤解だが。
そんなわけで高レベル者の待遇は安全にかかわるので民衆も注目している。なので、世界最強クラスのヨゾラさん達の待遇を悪くするわけにはいかない。
ヨゾラさん達の強さは公表していないが、無理に隠したりもしていないので、気づいている人もいるだろう。すぐに有名になる可能性もある。
ユリアさんやヨーコちゃんは高い給料をもらうことに恐縮していたが、評判が悪くなることと、万一俺達が捕まった時に助けてもらうための資金でもあるという理由で納得してもらった。
ヨゾラさんは、俺と生涯のパートナーなので、お金はどっちが持っていてもいいという感じで気にしていなかった。相変わらず男前だ。
あと捕まった時には助けてほしいのは本音だ。まあ戦いに負けたら捕まるよりすぐ殺される確率が高いけどな。
・・・絶対負けないようにしよう。
見回りから帰ってきたヨゾラさん達に、ここの港が完成したらヨーラムさんに任せることが正式に決まったことを伝えると、皆喜んでいた。
ヨーコちゃんは目を白黒させて驚いていたが、すぐに喜んでヨーラムさんの手伝いに向かっていった。
家族だから色々嬉しいのだろう。これまで結構苦労もしただろうし。
その後、俺達はそのまましばらく滞在して港作りの作業を行うことを決定し、滞在の準備を行った。
その日の夜は皆で港の構想を色々語り合った。
俺は将来完成するであろう賑わう大きな港町を夢想しながら眠りについた。




