第84話 色々な予定を立てよう
俺達は、スブ島から魔の森の村に拠点を移した。
襲撃からの急遽引っ越しを行った翌朝、寝ぼけた頭でボーっとしながら皆と一緒に朝食をとっていると、ヨゾラさんがヨーコちゃんに話しかけた。
「ヨーコちゃん。元気が無いようだけど、どうしたの?」
俺は色々あって気づかなかったが、言われてみればいつも元気なヨーコちゃんが、襲撃後はずっと黙っていた気がする。怪我をした様子はなかったが何かあったのだろうか?
「はい・・・。聖騎士をいただいて期待されていたのに、昨日の戦いではお役に立てなかったので、このままじゃダメなんじゃないかって考えてました。」
どうやら戦いで活躍できなかったのを気にしていたらしい。狐耳をがペタンとなっていてかわいいな。
しかし、いつも元気なヨーコちゃんが落ち込むほどのことだろうか? 敵が空を飛んでいたから聖騎士のヨーコちゃんには攻撃手段が無かっただけだと思うが。
いや、よく考えたらヨーコちゃんにとっては昨日が初めての実戦だったからな。ナーバスになるのも仕方ないか。
魔の森の魔物相手の実戦訓練をしたことはあるが、ドラゴン級の強さのヨーコちゃんにとっては格下を倒すだけだったからな。実質魔物を殺す時の気持ち悪さとかに慣れるための訓練みたいなものだった。
「そんなことを気にしていたの? 今回はたまたま接近戦にならなかっただけじゃない。気にすることは無いわよ。」
「でも私以外は三人ともちゃんと活躍してたのに、私だけ何もできなかったので・・・」
「前衛の活躍する機会は多いから、今後はいくらでも活躍できるよ。それに俺達後衛にとっては、強い前衛はいてくれるだけで凄く安心するからね。気にすることは無いよ。」 俺もフォローしておこう。
「そうですね。私もヨーコちゃんがいるだけで心強いです。それに今回はたまたま私も役に立てましたが、ユージさんやヨゾラと一緒にいたら活躍できないことの方が多いですからね。気にしていたら身が持ちません。こういう時は誰もやられずに勝てたことを喜ぶ方が良いですよ。」 ユリアさんが言った。
ユリアさんも一時期悩んでいたから言葉に重みがあるな。まあ言うほど貢献度は低くなかったと思うけどな。
「ユリアさんでもですか・・?」 ヨーコちゃんが驚いている。
今回はユリアさんは大活躍だったからな。今回のMVPはユリアさんだ。ユリアさんがいなかったらもっと苦戦しただろう。
「そうですよ。私も何もできないことはよくありました。」
そうだっけ? まあいいか。ヨーコちゃんのためにそういうことにしておこう。
「・・・そうなんですね。わかりました!気を取り直して今後も元気にがんばります!」
ヨーコちゃんは元気になったようだ。空元気な気もするが。
「その調子よ。元気なのが一番だわ。」
一応俺も思いついたことを言ってみよう。
「もし気になるようなら、ヨーコちゃんも遠距離攻撃の練習をしてみたらいいんじゃないかな。ヨーコちゃんのステータスなら、ただ武器を投げるだけでもかなり強いだろうし。何なら槍士や斧士にみたいに投擲系スキルを覚える職業の習得を目指してもいいかもね。」
ぶっちゃけ身体能力の高いヨーコちゃんなら石を投げるだけでも強いからな。ただ、スキルや職業の効果が無いと物理攻撃力のステータスが乗らないから強敵には厳しいかもしれない。
今は剣を習っているが、剣士は投擲スキルは無いからな。代わりに斬撃を飛ばすスキルがあるが、射程は長くない。聖騎士のグランドクロスの下位互換換みたいな感じだから、覚えても使わないだろうしな。
「なるほど!やってみます!」 どうやらやる気が出て来たようだ。
「投擲スキルなら斥候系の方がいいんじゃないかしら? ヨーコちゃんの剣の腕はかなり上がってきたし、今から武器を持ち変えるのはもったいないわ。」 ヨゾラさんが言った。
ヨーコちゃんの今の戦い方は、高い身体能力やステータスを生かして、ホーリーシールドで身を守りながら高速で敵に近づき、すれ違いざまに火の魔法剣とホーリーウエポンと狐火の三連撃をくらわせるという一人ジェットストリームアタックだ。
1回で倒せなければ、そのまま高速で周囲を動き回りながら三連撃を加え続ける。めちゃくちゃ高火力で強い。
そして速くて回避力も高いうえに聖騎士だから防御も高くて回復も戦いながら自分でできるから全然やられない。
アスカさんが空を飛んでいなければ一人で勝てそうな気がするくらいに強くなっている。
せっかく強いので、今更武器を変えない方が良いといえばその通りだ。
まあ素人的には武器を変えても同じ戦法ができる気がするが、そう簡単でもないのだろう。ヨゾラさんも弟子を取られたくないだろうしな。
ちなみに狐火は、狐獣人の種族スキルで弱いと聞いていたが、魔法攻撃力5千のヨーコちゃんが使うとかなり強かった。
青白い炎が大型バーナーみたいな勢いでシュゴーと燃える。鉄も溶かせそうな火力だ。
使い方はホーリーウエポンと同じく自分の近くに浮かせて敵に当てるのだが、ホーリーウエポンと違って剣などで受け止めてもすり抜けるので、防ぐのが難しい。物理攻撃力が乗らないので両方乗るホーリーウエポンよりは威力が弱いが、魔法に弱い敵や炎に弱い敵にはかなり強い。消費も少なく火力調節もできてお湯を沸かしたりもできるので便利でもある。魔法攻撃力が低い人は明かりや種火にしか使えないらしいが、魔法攻撃力が高ければかなりの優良スキルだ。
しかし遠くには飛ばせないので、魔法攻撃力の高い近接職でないと戦闘では生かせないだろうから、使う人は少ないのだろう。
まあとにかく斥候系のナイフ投げとかなら武器を変える必要はないから、その方が良いかもしれない。
ナイフ投げは射程が短いイメージがあるが、ヨーコちゃんのステータスなら遠くまで投げられるだろうから、物理攻撃力のステータスが乗って命中率が上がるなら何でもいいしな。
「じゃあヨーコちゃんは猫獣人の二人から斥候を習うということにしましょうか。」
「はい!ありがとうございます!がんばります!」
元気いっぱいなヨーコちゃんが戻って良かった。
「遠距離攻撃といえば、俺も遠距離攻撃ができないんですよね。魔法を覚えたりできないですかね? 魔導書を作れればいけるのなら覚えたいんですよね。」
槍を習っているが、俺は魔法系ステータスの方が高いから魔法の方が良いんだよな。何より俺も魔法を使ってみたい。
魔法系職業は高レベルになると魔導書作成のスキルを覚える。魔導書があれば弟子に職業を覚えさせることができるらしい。
ヨゾラさんやユリアさん、魔法使い系の配下は、魔導書作成のスキルを持っている。俺も持っているな。
「使う魔法と同じ属性の強い魔物の魔石が必要みたいだけど、確かに私達なら取ってこられそうね。ユリア、どうなの?」
「そうですね。Aランク魔物の魔石で作るので、普通は手に入りませんが、私達なら取ってこられますね。狙った属性の魔物が見つかるかは分かりませんが、探してみてもいいかもしれません。」
「じゃあ色々な計画と同時並行で魔導書用の魔石集めもしましょう。ヨゾラさんやユリアさんも使える魔法を増やしてもいいですし、ヨーコちゃんも魔法を覚えてもいいかもしれないですからね。」
まあ配下を使ったレベル上げはこれ以上できないから、上級魔法は使えないだろうが、俺達のステータスなら初級魔法でもかなり強いだろう。それに人間はレベルアップが早いから無限魔力で回復しながら魔法を使いまくれば意外と早くレベルが上がるかもしれない。
「私もですか?!でも魔法使いは頭が良くないとなれないって聞きましたよ。」
「そうなの?」
「魔法使いになるには勉強も必要ですからね。でもヨーコちゃんならやる気があれば問題ないと思いますよ。」
「うーん。でも私は斥候にします!獣人は斥候を覚えやすいらしいんですよ!それに獣人は相性が悪くて魔法を覚えられない人もいるって聞きました。」
やはりそういうのがあるんだな。まあ狐獣人は魔法攻撃高めの万能タイプだから大丈夫な気もするけどな。
「同時並行で色々やりすぎるのも良くないから、それで良いんじゃないかしら。」
確かにそうだな。
「わかりました。じゃあ俺達は魔導書が作れたら、また考えましょう。」
ちなみに死霊術士の魔導書は、強いアンデッドの魔石を使う。試してはいないが、レベル上げをした配下の魔石を使えば作れるだろう。
しかし俺は死霊術士の指導なんてできないので、作っても死霊術士は増やせない。
魔導書で職業を覚えさせるには、起こす現象に関する知識を教えないといけないみたいだからな。アンデッドが動く仕組みとかを教えなければいけないのだろうか? 俺にそんな知識はない。
そういう意味ではヨゾラさんも闇魔法は教えられないかもしれないな。ダークやナイトビジョンはともかく、ドレイン系やデバフ系の知識は無いだろうしな。何をどこまで教えなければいけないのかも分からないしな。
時間をかけて書籍を集めたり研究したり試行錯誤をすればいけるかもしれないが、俺はそんな面倒なことをする気は起きない。
正直俺は魔法を覚えるために勉強するのも嫌だが、火とか雷とか自然現象系の魔法なら日本の基礎的な科学知識があれば大丈夫なのではないかと期待している。魔力とは何かみたいな勉強は必要かもしれないが、少なくとも勉強時間の短縮はできると思う。・・・・たぶん。
しかし普通の死霊術士はどうやって魔導書を作るのだろうか? もしかして頑張ってゾンビのレベル上げをするのか? すごく大変そうだぞ。絶対やりたくない。それとも強い野良アンデッドを見つけて倒すのかな? 浄化したり魔石を砕いたりしたらダメみたいだから、それも大変そうだけどな。
まあ、そもそも魔導書作成を覚えるまでレベル上げをすることが難しいし、そこまでいけた人なら何とかなるのだろう。配下復活も使えるしな。
その後俺達は、ヨーラムさんとも合流して皆で魔の森に港を作る計画について話し合いを行うことにした。
避難民が住んでいるエリアには、ヨーラムさんの奥さんもずっと住んでいて家もあるので、魔の森ではヨーラムさんもそっちに住んでいる。
奥さんがスブ島に行かずに魔の森にいたのは、避難民を安心させるためのようだ。
奥さんがいればヨーラムさんに見捨てられることはないという安心感があるからだな。
最近は大丈夫そうだが、初期のころはヨーラムさん一家が全員いなくなったら見捨てられたかもしれないと不安になる人は多かっただろう。
ヨーラムさんの奥さんには一度挨拶をしたが肝っ玉母ちゃんタイプなおばちゃんだった。
配下が言うには、人望もあってなかなか優秀な人らしい。
まあヨーラムさんと一緒に夢を追って国を出てきたくらいだからな。家庭だけでなく仕事でもヨーラムさんのパートナーなのだろう。
主要メンバーが集まったので、さっそくヨーラムさんの計画を聞いてみた。
ヨーラムさんによると、魔の森の中央には綺麗な形の大きな山があり、その山では色々な希少資源が採れるらしい。その山に近い位置に港を作り、山付近にも資源採取の拠点を作ると良いそうだ。
なぜ通過も開拓もできない魔の森にそんな場所があることを知っているのかというと、500年前までは魔の森は今の3分の2ほどの大きさだったらしい。
当時は海沿いは魔の森ではなく、陸路で大陸の東西を移動することも可能だったそうだ。
そして魔の森の中央の海沿い付近にはそれなりに広い土地があり、国があったそうだ。
その国は魔王に滅ぼされ、魔の森に飲み込まれてしまったらしい。魔王には魔の森を広げる能力があったと言われているそうだ。
なるほどな。魔王には聖女の神聖結界の逆みたいな能力があったのかもな。もしかしたら魔王が人類を滅ぼす方法は、世界中を魔の森みたいにすることなのかもしれない。ただ殺して回るだけだと完全に滅ぼすのは難しいだろうしな。この世界の人はサバイバル能力が高いから、町を壊しても魔の森以外の場所なら隠れ住んだりできそうだからな。
とにかく、その当時の記録が残っていて、中央の山では様々な希少資源が採れることが分かっているそうだ。
大きな港もあったらしいので、同じ場所に港を作れば、工事期間も短縮できるのではないかという話だ。
過去に港があった場所を使うのは良い案だな。さすがヨーラムさんだ。
建物は残っていないかもしれないが、岸壁などの地形が残っているだけでも全然違うだろう。普通の砂浜や岩場を港にするなんてどれだけ時間がかかるか分かったものじゃないからな。
正直俺は港を作ると聞いて、カイザーのブレスを連発して人工的な湾や水路でも作ろうかと考えていた。それだと成功率とかデメリットとかまったく不明だからな。まともな案があって良かった。
色々話し合った結果、しばらくは全員で港作りを行い、様子を見て俺が工事現場に張り付かなくても良い状況になったら、空軍作りや魔導書作りのために魔物探しに行くということになった。
ヨゾラさん達も基本俺と一緒に行動してもらうことにした。
また急にアスカさんや野良ドラゴンが襲ってくるかもしれないからだ。
別に一人が嫌だからじゃないぞ。まあ仲間外れは嫌だったので、ちょっと嬉しいが。
とにかくまだまだ忙しくなりそうだ。スブ島の統治や他国への警戒も続けないといけない。
いつになったらのんびり気楽な生活ができるのだろうか。
働かずにダラダラ暮らすという俺の夢は、まだまだ叶いそうになかった。




