外伝34 報酬交渉
侵略軍に対する攻撃を終えた私は、予定どおり例の町に報告書を渡してから、エルフの国の首都である森の都に帰還した。
町では兵士に報告書だけ渡してすぐに飛び去った。
兵士は何か命令されていたらしく、私を引き留めようとしていたが、面倒なので無視した。
相手をしても面倒なことを要求されるだけだろう。
森の都に到着し、帰りは門を通るよう言われていたので、そのままの門の前に着地して特別窓口で手続きを行う。門には馬車が用意されていた。
そのまま馬車で王宮に向かう。
魔導外骨格を着たままなので周囲がワーワー騒いでいたが、特に隠せとは言われていないので気にしない。
王宮に着くと、すでに報告会の予定が入っていた。
着替えて休憩と昼食をとったあと、出発前と同じメンバーで報告会が行われた。
今更能力を隠す気もなかったので、ジェリーが作成印刷した写真入りの報告書を皆に配り、プロジェクターで映像を流しながら報告を行った。
プロジェクターはカラーだが、報告書はモノクロだ。
報告書がモノクロの理由は、プリンター用カラーインクは材料を集めるのが面倒だからだ。黒インクなら町で材料がそろうため、印刷物は基本モノクロにしている。
参加者は、写真やプロジェクターなどの理解不能な技術や、戦闘映像の内容など、色々な驚きと混乱で頭を抱えていた。
報告会は、戦闘についていくつか質問があっただけですぐに終わった。
最後にプロジェクターや印刷物に関しても聞かれたが、詳細は国の機密事項であると回答して済ませた。
実際にジェリーや魔導外骨格関連のことは、国の機密に指定されていて、詳細な情報は秘匿するよう指示されている。
機密なのに人に見せていいのかと思うかもしれないが、戦闘用装備は、戦時には身に着けて行動し、戦闘で大勢の兵士の前で使うことが前提であるため、人前で使用することは認められている。
厳密にはプロジェクターやプリンターは戦闘用とは言えないが、私が魔導外骨格等とまとめて戦闘用装備として書類を提出したため、これらは戦闘用装備扱いになっている。
国の専門家が見ても理解不能な機械類のため、私の報告どおりそのまま戦闘用に分類された。
報告会の次の日、すぐにエルフの国の迎撃軍は出撃していった。
私の攻撃が成功した場合の対応は、決めてあったらしい。
長いことモタモタ準備していたのに急に動きが早くなったことを疑問に思ったので、ガイラルに聞いてみると、もともと出撃準備はほぼ終わっていて、どこで戦うかで揉めていたそうだ。
具体的には森の都で戦うか、もっと前の町や砦で戦うか揉めていたらしい。
森の都には、伝説級の魔道具を使った防衛設備が複数あるので、森の都で戦えば確実に勝てるという意見が出ていたそうだ。
しかし、敵が森の都に来るまで待つと、それまでの間に非常に多くのエルフが殺されたり捕まったりする。なので、多くの国民を守るために、もっと前で迎撃すべきだという意見も出たそうだ。
ただ、レイライン王国軍は非常に強いので、それだと勝てるか分からないし、万一軍が壊滅した状態で森の都を攻められると、森の都も落とされかねない。つまり国が滅ぼされる可能性がある。
国を滅ぼされる可能性がある選択はとれないとして森の都で迎撃すべきという意見、国民を見捨てるなんてできないとしてリスクを負ってでも前で迎撃すべきという意見、それと軍が壊滅しても森の都は魔道具で守り切れるという意見、そもそも普通に戦っても勝てるという意見など、色々な意見があって揉めていたらしい。
ちなみにガイラルの予想では、迎撃軍が普通に戦って勝てたかは五分五分だそうだ。
何の作戦もなく正面から戦えば負けるが、エルフの国にも二つ名持ちの強者はいるし、相手のユニークスキルの情報を知っていればやりようがあるという考えだ。
私が寄った町はまだ普通に人がいたが、森の都で戦う案が出ていたなら、なぜ避難だけでもしていなかったのか疑問に思った。それを聞くと、避難が進んでいないのはエルフの宗教が理由だそうだ。
エルフは独自の森林信仰をしていて、エルフの宗教では、結婚したあと生涯住む森を決めて、その森の社で「この森を愛し守ることを誓う」みたいな儀式をするそうだ。その森は愛する家族と同列になるらしい。
なので死ぬと分かっていても逃げるのを嫌がる人もいて、子供や独身者以外は避難がなかなか進まないそうだ。
ともかく、私の攻撃により、侵略軍は森の都まで来られないことが確定した。そのため、迎撃軍は出撃していったということだ。
侵略軍は、本国から補給をすればまだ進めるはずだが、現状なら補給を阻止することは十分可能なので、現実的にはこれ以上進めない。
そして、今なら補給を妨害すれば相手は退くしかなくなるので、補給線から距離が近いルディオラの援軍が補給を妨害し、エルフ軍が撤退する敵を追撃する予定になっている。
なので今回の戦争では、もう私が出ることは無いそうだ。
そういうことなら私は本来の目的である低級精霊の採集をしよう。
ガイラルに精霊採集の許可をとってもらうようお願いした。
しかし、どうやら戦争中なので手続きに時間がかかるらしい。
仕方がないので町で珍しい魔道具の鑑定をしたり、町の外で素材採取などをしながら待つことにした。
そして待たされた結果、話が進んだのは一ヵ月後だった。
しかもエルフ側の反応を見る限り待たせたという意識は無いらしい。
寿命が長く気も長いエルフの感覚では、一ヵ月は待たせたうちに入らないようだ。
・・・まあいい。常識の違う悪意の無い相手に文句を言ってもしょうがない。
話が進んだのは、侵略軍の撃退に成功し、その論功褒賞の話になってからだ。
内々に報酬の希望を聞かれたため、精霊採集の許可と、ついでに光の薙刀を作るための素材を希望しておいた。
その後、私は報酬の事前調整の打ち合わせに参加することになった。
今回は公式の会議ではないので、応接室のような場所だ。
ガイラルと主任外交官も一緒だ。
私以外の援軍への対価交渉は別途行われるので、今回の打ち合わせは私の報酬に関することだけだ。
交渉相手は精霊府、外務府、内務府の高官と作戦会議にも出席していた従軍軍師だ。
お互い挨拶を済ませたあと、さっそく私は報酬案のリストを確認した。
予定ではここに精霊採集の許可も含まれているはずだ。
しかし、リストに精霊の採集に関することは書いていなかった。
不穏な気配を感じたが、とりあえず聞いてみることにする。
「事前に希望していた低級精霊の採集の許可が含まれていないけど、どういうこと?」
担当らしき精霊府の高官が言いづらそうに答える。
「・・・実は、その件につきましては非常に難航しておりまして・・・」
難航? 今更何をいっているのだろうか?
「どういうこと? 私の希望は援軍に来る前から伝わっていたはずだけど?」
「え、ええ、もちろん伺っておりましたが、その、精霊というのは我々にとって特別な存在でありまして・・」
「なぜ今それを言うの? そんなことは事前に分かっていたことでしょう?」
・・・私を騙していたということか?
「ご、誤解しないでいただきたいのですが、我々は嘘をついていたわけでも、騙そうとしていたわけでもありません!」
私の気持ちを感じ取ったのか焦るように言ってきた。
「じゃあ何なの?」
「さ、最初から説明いたします。まずアスカ様は我が国に「装備強化のための低級精霊の採集」を目的とした入国申請を行われました。これに対して我が国は「我が国の防衛戦争に参戦するなら許可する。」という回答をいたしました。ただ、これはあくまで入国を許可するという意味で、精霊の採集を許可するという意味ではありません。というのも精霊の地への立ち入りは、本人の資質などを審査する必要があるので、文書のみでは判断できないのです。」
参戦のかわりに入国許可したんだから嘘はついてないと言いたいのだろう。
「嘘をついていないのは分かったけど、それなら先に審査とやらをするなり説明するなりすべきじゃないの?」
こちらの目的が分かっていて説明しないというのは、実質騙したようなものではないだろうか?
「い、いえ、我々もアスカ様が精霊の友となられているのが分かった時点で、資質有りと判断していたのです。許可する方向で手続きを進めておりました。」
・・・許可する予定だったが問題がおきたということか?
「じゃあなぜ許可が下りていないの?」
「そ、その、手続きを進めたところ、アスカ様の目的とアスカ様の種族が問題となりまして・・・」
目的と種族?
「どう問題になったの?」
「ま、まず目的ですが、「装備強化のための低級精霊の採集」に間違いないでしょうか?」
「そうね。」
「・・・低級精霊というのは、我々が小精霊と呼んでいる精霊のことだと思いますが、我々にとって精霊は、友であり、仲間であり、階位によってはエルフよりも大事な存在です。小精霊であってもエルフと同列の存在なのです。これは、装備強化のためにエルフを採集したいと言っているようなものなのです。例えばルディオラでは、他国の人が「装備強化のために人間を採集したい」と言ってきた場合、許可が下りるでしょうか?」
「・・・下りないわね。」 そういうことか。
想像以上に精霊は大事な存在のようだ。昆虫のように採集させろというのは無理があったようだ。
「それでも我々が手続きを進めていたのは、アスカ様がお連れになっている精霊を感じとれば、精霊に対して酷いことはしないと確信できるからです。しかし、精霊を感じとることができない者にとっては、文面どおりであれば許可できないと判断して当然の内容になります。」
精霊を感じとることができる人とできない人がいて、感じとることができる人は許可に賛成だが、感じとれない人は反対ということだろうか?
「精霊を殺したりするわけじゃないんだけど、どうにかならないの?」
精霊にとって酷いことをしないというのは、ちょっと自信が無いが、機械式魔導精霊や魔導外骨格の製作では精霊を殺すわけではない。
「は、はい・・・我々精霊府も光の中位精霊の友となっているアスカ様には、ぜひ導師となっていただきたいと考えていますので、各方面の説得に動いていたところです。」
「導師というのは何なの?」
「中位精霊と契約することができれば、精霊使いの上位職の精霊導師となることができるのです。精霊の地で契約を行うことができます。」
上位職につけるということか。
・・・知らない職業だが、強くなれるならなっておきたい。
「ちょっと確認だが、アスカ様が導師になれるというのは間違いないのか?」 内務府の高官が聞いた。
「は、はい。前例が無いので絶対とは申し上げられませんが、私はなれると思います。」 精霊府の高官が答える。
「精霊弓士長もアスカ殿には導師の資質があると言っていたな。」 軍師が言った。
「流星様が・・・そういうことなら私も協力しよう。」
よく分からないが内務府の高官が協力してくれるらしい。
「では私も協力しましょう。と言っても外務府は管轄外なので、できることは少ないかもしれませんが。」
外務府の高官も協力してくれるようだ。
「軍は最初から全力で協力している。救国の英雄であり、おそらく世界最強の強者である銀翼殿を騙すようなことをして敵に回すなど有り得ない。」
どうやらエルフの国でも私は世界最強候補になったようだ。
「で、では、ここにいる方は協力してくださるということですね。非常に心強いです。とはいえ問題は我々より上を説得できるかですが・・・」
「それについては俺にちょっと案がある。これだけ協力者が増えたのなら実現できるだろう。といっても確実な策ではないが。」 軍師が言った。
「どういった案でしょう。」
「長老議会の議題に上げて、精霊府長にその場でアスカ殿には導師の資質があると宣言してもらうのはどうだろうか?」
「なるほど。それだけだと少し厳しいかもしれないが、その場でアスカ様に精霊に対して具体的に何をするのか、精霊を傷つけるわけではないことを説明していただければ、いける気がするな。」
「・・・そうですね。このまま一人ずつ説得していては何年かかるかわかりませんし・・・。その、アスカ様、いかがでしょうか? 長老議会でご説明いただくことになりますが・・・。」
・・・許可に手間取ると何年もかかるのか。エルフなら普通なのだろうか?
仕方ない。議会というのに出て説明をしよう。何年も待っていられない。
「分かったわ。説明するのはかまわない。」
ただ、説明しても許可が下りるかは微妙だ。機械にするわけだし。
まあジェリーを見せてみて、ダメだったら無許可で強行するか考えよう。
「あ、ありがとうございます。では皆様そのように手回しお願いします。」
「そういえば種族の問題というのは何なの?」
「ああ、そうでした。申し訳ありません。説明いたします。我々もほとんどの者が知らなかったのですが、古い掟に精霊の地に人間を入れてはならないというものがあったそうです。」
「・・・それは大丈夫なの?」
掟は破ってはいけないとか言いそうだけど。
「は、はい。掟と言っても、今も有効なのかどうかすら分からないくらい大昔のもので、救国の英雄で中位精霊の友であれば問題ないと思っていたのですが、ただ、その・・どこにでも頭の固い者というのはおりまして・・・一部の者が問題視しています。し、しかし、これも長老議会で許可が下りてしまえば問題ないかと思います。」
「そう、ならいいけど・・・」
種族を変えることはできないので、これはどうしようもない。
話は一旦終わり、その後はリストの他の報酬に問題ないか確認をした。
私個人への報酬は、お金、光属性の素材、最上級ポーション、最高級布、魔法装備などだ。
私を派遣した国への対価は別途ガイラルと外交主任が確認した。
光の薙刀を作るための素材は希望通り用意してくれたようだ。
他の品はエルフの国の特産らしい。
魔法装備は、ステータスアップの各種アクセサリと、何故かエルフの名工の魔法弓だった。
主任外交官によると、エルフの国では英雄には弓を送る風習があって、名誉なことなので素直に受け取った方が良いそうだ。
私は弓は扱えないが、特に拒否する理由もないので全て了承した。
そして打ち合わせは終了した。
「では皆様、長老議会への根回し、よろしくお願いします。アスカ様にも日程が決まり次第ご連絡いたしますので、しばらくお待ちください。」
「ええ、わかったわ。」
また待たされるのか。
長老議会は、この国の国会のようなものらしい。
エルフ基準だとどれだけ待たされるか分からないが仕方がない。
最上位魔導外骨格や追加武装を作るための勉強でもしながら待つしかない。
ルディオラと獣人の国の遺跡でダウンロードした資料は、膨大な量がある。
何かの役に立ちそうな資料は読み切れないほどあるし、この国は居心地が良いから、それほど苦にもならないだろう。
私は、綺麗な花がたくさん飾られている喫茶店に入り、タブレットで資料を読みながら暖かいハーブティーを飲んだ。
しばらくはここで資料を読む生活が続くだろう。
ブックマークや評価をよろしくお願いします。




