外伝29 戦闘映像分析
ルディオラに帰還することを決め、海の上を飛んでいる最中、私の胸には大きな敗北感が渦巻いていた。
今回は偵察が目的ではあったものの、私は前回よりも大幅に強くなったので、うまく奇襲することができれば勝てると考えていた。
そして実際に、ユージが水着で遊んでいる所を完全な形で奇襲することができた。
にも拘わらず、大した被害を与えられないまま敗北し、撤退することになってしまった。
怒りで頭に血が昇っていたため、冷静に戦えたとは言い難いが、今考えても大きな判断ミスは無かったように思う。
つまり私とユージの間には、奇襲に成功しても勝てないくらい大きな実力差があったということになる。
・・・マサノブが指摘していたとおり、私の考えが甘かったということなのだろう。
もはやユージ達は、私一人ではどうがんばっても勝てないくらいに強大な敵となってしまったということか・・・
「ぐぅ・・・」
胸の中の黒い渦が、暴れ出す。私の心が、弱気になるなユージを殺せと叫んでいる。
やはり復讐を諦めることなどできない。
今の私一人では勝てないなら、もっと強くなればいい。協力者を集めればいい。策を練ればいい。
そのためには、今回の戦いをしっかり分析して次に生かすべきだ。
敗北したことは悔しいが、もともと偵察が目的だったので、失敗というわけではない。
気になることも色々あった。移動中にジェリーと確認しておこう。
まずは鑑定記録のスキルを使いドラゴンのステータスを見る。
ジェリーにもドラゴンのステータスを見せた。
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名前 カイザー
種族 上級アンデッドLv2(ブラックドラゴンLv6)
年齢 322
職業 戦士Lv3
HP /88362
MP /24761
身体能力 16
物理攻撃力 10146
物理防御力 6720
魔法攻撃力 8628
魔法防御力 5806
スキル
暗視
飛行
ドラゴンブレス
状態異常無効
闇魔法
無魔法
ダークオーラ
身体強化
再生
死体喰い
状態
ユージの配下
聖女の加護
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さすがにドラゴンのステータスはかなり高かった。私の魔導外骨格込みのステータスより高い。
しかし飛行速度や戦闘技術などステータスに記載されない部分で勝っているので、一対一なら勝てるだろう。ただ再生などのスキルもあることから倒すのは時間がかかりそうだ。
できれば上級アンデッドの詳細も鑑定したかったが、ギリギリの戦闘中では難しい。
相手が目の前にいればステータスに表示されている文字を鑑定することでさらに詳細を見れるが、今は鑑定士のスキルで過去の記録を表示しているだけなので、紙に書いた文字を見ているのと同じ状態だ。さらなる鑑定はできない。
上級アンデッドの詳細を鑑定するには、捕らえるか余裕のある戦いの時でないと難しいだろう。
とにかくドラゴンには勝てるが、確実に短時間で勝つためには、できれば光属性の武器などを用意したい。
私の権限で素材が手に入らないか帰ったら相談してみよう。私の身分もかなり高くなったので手に入るかもしれない。
続いて、ジェリーが録画した映像記録を見て確認する。
飛びながらでも視界に映像を映すことができる。
周囲の警戒は甘くなるが、警戒はジェリーがするので問題無い。
視界に映像が表示され、ユージがハーレムを作って遊んでいるシーンが映る。
今見ても怒りと殺意がこみ上げてくる。
・・・落ち着いて敵を分析しなければ。
重要なシーンまで早送りして、まずはユージが使ったスキルだ。
「ジェリー。ユージが使ったスキルが何かわかる?」
聖騎士のスキルに見えるが私の勘違いかもしれない。
「ピー。スキル映像解析ソフトウェアガアリマセン。ネットワークニ接続シ、ダウンロード購入を推奨シマス。」
・・・どうやら映像からスキルを分析するには有料ソフトが必要らしい。遺跡のサーバーには無かったので、入手は困難だろう。
「聖騎士のスキルに見えるけど、ユージがどうやって聖騎士のスキルを手に入れたかわかる?」
「ピー。データ検索・・・」
色々聞いてみたが、ジェリーの今持っているデータでは、聖騎士の職業を覚えてレベルを上げる以外に聖騎士のスキルを覚える方法は無いらしい。短期間での聖騎士の習得方法も不明だそうだ。
本当に聖騎士のスキルなのかも不明なので、とりあえず不明として保留にしておくしかない。
とにかく、ただの死霊術士よりかなり頑丈なのは間違いない。
即死の死体収納もあるので、一撃で殺せると思い込んでいると仕留めきれずにやられかねない。注意しておこう。
映像の続きを見よう。
次は敵がドームバリアを張るシーンだ。
バリアを張ったのは一緒に遊んでいた水着の女だった。黒髪なので日本人だろう。
予想通りだが、日本人なのになぜユージやギルバーンに協力しているのだろうか。水着で日光を浴びているのでアンデッドでもない。ユージのハーレムの一員にも見える。なぜこんなことをしているのかまったく理解できない。
まあいい。何度も戦っているし、敵なのは今更変わらないだろう。顔は覚えた。
次に見た時はこの女も優先目標だ。
さらに続きを見ると、バリアを張った女が魔法をいくつか使った。そして周囲が暗くなった。
「この魔法は何かわかる?」
「ピー。周囲ヲ暗クスル魔法ハ闇魔法ノダークト推定シマス。」
ダーク?
「ダークでこんなに広範囲を暗くすることが可能なの?」
「MPヲ大量消費スルコトデ、範囲拡大可能デス。」
「大量ってどのくらい?」
「推定使用MP3万カラ4万。」
「3万から4万・・・? そんなことが可能なの?」
ドラゴンのMPが2万以上あったがそれでも足りない。
「本機ハ実施可能デス。」
「・・・そう。」
確かにジェリーの充填MPは100万あるから可能だ。
古代文明の魔道具を持っていたのだろうか? 水着で何も持っていないように見えるが・・・
分からないものは仕方がない。そういうことができると覚えておくしかない。
映像が暗視モードに切り替わり、ドラゴンとの戦闘が始まる。
ドラゴンのステータスは分かったからいいとして、次に気になったのは兵士の強さだ。
映像で見直しても全員の動きが良すぎる。ただの兵士とは思えない。
「ジェリー敵の兵士の強さは分かる?」
「ピー。被弾記録参照。敵兵士ノ大半ガ攻撃力三千以上ノ上級戦闘員ト推測。」
大半が3千以上・・・
私の攻撃力は物理攻撃力が3千弱くらいだ。敵のほとんどが素の私より強いことになる・・・
敵の兵士全員が上位の高レベル者ということだ。
・・・おそらく何らかの方法でレベル上げができるのだろう。想像以上に敵が強くなっている。
そして私がやられたシーンになる。
映像を見ても何をされたか分からない。突然光って映像が途切れた。
「ジェリー、何があったか分かる?」
「地上カラ雷撃ヲ受ケマシタ。解析ノタメ映像ヲ編集シマス。」 ジェリーが答える。
録画しているといっても全方位を撮影できるわけではない。
カメラは、私の視界を映すメインカメラと背面についているジェリーのカメラの2つだけだ。
高速戦闘中ではハッキリ映らない部分も多いので、ジェリーが重要な部分やブレた部分を編集して鮮明な映像にするようだ。
「ピー。編集終了。攻撃者ヲ表示シマス。」
攻撃者として表示されたのは、意外にもユージと遊んでいた水着の女の子だった。
「この子が・・?」 まだ10代くらいに見える。
「当該敵魔法使イニヨル雷魔法ト推測。」
雷魔法・・・ 実質今回の敗北の要因がこんな女の子の攻撃だっていうの?
魔導外骨格は機械なので多少雷には弱いが、全力戦闘モードでは常時強力なバリアが張られていて、攻撃魔法を受けてもバリアの耐久が削られるだけでダメージを受けることは無い。
バリアを一撃で消し飛ばすほどの威力だったとでもいうのだろうか。
「分かる範囲でこの子と攻撃の詳細を教えて。」
「ピー。映像確認。被弾記録参照。推定種族、魔族。推定魔法攻撃力1万以上。ドラゴン級戦闘員ニヨル上級雷魔法攻撃ト推測。今回ノ戦闘ニオケル敵最高戦力ト推測。」
・・・意味が分からない。ドラゴン級に魔法攻撃力1万に最高戦力?
この女の子が?
ただの女遊び要員じゃなかったということ?
信じられないが、ジェリーが嘘をつくとは思えない。ジェリーの予想に多少間違いがあったとしても強いことは確定だろう。
今回の最高戦力ということは、もしかして魔導外骨格を装備した完全武装の私が、水着の女の子に負けるかもしれないということだろうか?
実際にこの子のせいで負けたようなものだし・・・
もしかしてもう一人の獣人の女の子も戦闘要員? さすがに無いと思いたいが、1人はバリアの女だし、3人中2人が強力な戦闘員だったのだから十分に有り得る。
その後、水中の映像も確認したが映像が乱れていて碌に記録できていなかった。ジェリーの推測はドラゴンほどではないというものだった。
しかし万全の状態でも水中では勝てるかわからない。水中で戦うのは避けた方がいいだろう。
水中でも聖水が有効だったおかげで逃げることができたので、今後も聖水は常備しておこう。
とりあえず確認が終わったが状況は深刻だ。
今回私は水着で遊んでいる所を襲撃した。明らかに敵は戦う準備などしていなかった。
今回戦った相手が敵の全戦力だとは思えないし、戦った敵も全力を出せたとは思えない。何せ最高戦力が水着だ。武装して戦闘準備をしていればもっと強いだろう。
そう考えると敵は想像を遥かに超えて強くなっているということになる。
以前マサノブが言っていたことが現実味を帯びてきた。敵は常識を超えて強くなり続けている。
敗北してしまったが、今回は強引に偵察と襲撃をして正解だった。
この分では、ルディオラの普通の討伐軍を用意しても勝てない可能性が高い。
何も知らずに討伐軍を派遣していたら、また負けて大勢アンデッドにされていただろう。
私はドラゴン級だの国内最強だの言われて、無意識のうちに十分強くなったと慢心していたことに気づいた。
全然強さが足りない。もっともっと強くならなければ。
私は強くなる決意を胸に、今後の行動を考えながら大空を飛び続けた。




