外伝28 ユージ襲撃戦
一日飛び続けてギルバーンがいるという島が遠くに見える場所まできた。
しかし、もうすぐ日が暮れるため、少し戻って途中にあった無人島で野営をすることにした。
普通の偵察なら夜に忍び込むのも有りだが、私は飛ぶときに背中が光って目立つし、夜はアンデッドが有利な時間なので、偵察は晴れた日の昼に行うことにする。
見つかって戦闘になった場合に有利だからだ。
私の隠密能力は低いので見つかると思っておいた方がよい。
数日遠くから望遠機能で様子を伺ったところ、島には不自然な仮面をつけた兵士や長そで長ズボンで顔を隠した人がウロウロしていた。
この暑さの晴れた日に肌が見えない装備をしているので、おそらくアンデッドだろう。
しかし、島は活気があり平和そうで、特に島民が虐げられている様子もない。ギルバーンに支配されたのではないのだろうか。
海で楽しそうに泳いでいる島民の姿も見える。どうやらこの島では海水浴ができるようだ。南の島特有のリゾート施設らしき建物もある。リゾート地しても営業しているのだろう。
ユージやギルバーンは見つからないし、町を遠くから見ていても大した情報も得られそうにない。近づきたいところだが、斥候もいるだろうし私は目立つので、このまま飛んで近づくと確実に見つかるだろう。
近づくなら戦闘になる覚悟が必要だ。
せめて見つかりにくい場所を探そうと島の周りを一周してみた。すると町から離れた場所の砂浜にも建物があった。
半分森の中にあるのでアンデッド用の拠点の可能性がある。しかも周囲にいるのは全員肌を隠したアンデッドらしき人だ。ユージかギルバーンの拠点かもしれない。
怪しい拠点をしばらく見ていると、アンデッドが集まってきて海辺に何かの準備を始めた。
どうやら料理の準備のようだ。
椅子やパラソルも出しているのでレジャーだろうか?
そのまま見ていると、水着の男女が現れて遊び始めた。
男1人に女3人で水着で日光に肌をさらしているのでアンデッドではない。
そして男はユージだ。
ユージの顔は覚えている。忘れることはできない。少し小ぎれいになっているが間違いない。
色々なタイプの水着の女を侍らせて遊んでいる。
レオスやガオルやアインや多くの仲間達を殺したユージが楽しそうに女と遊んでいる。
ギリッ・・・
私は胸の奥から膨れ上がる激しい怒りを感じて奥歯をかみしめた。
「殺す・・・!!」
気づくと私は投槍用の火の魔法槍を握っていた。
今すぐユージを殺すことを決意して空中に足場を作る。
身体強化と物理攻撃力強化を発動し、魔法槍に火をまとわせ、風の投槍器で加速と空気抵抗減少を付与し、投槍スキルを発動、槍をかまえて狙いを定める。
魔導外骨格の望遠機能で、海から上がってきたユージの姿をとらえた。チャンスだ。死霊術士のステータスは低い。水着で無防備な今なら攻撃が掠るだけでも殺せる。
「・・・あああぁぁ!!!」
私はこみ上げる怒りにまかせて火の魔法槍を全力で投げた。
チュイィン!
槍が炎線を引きながら超高速で飛んでいく。
投げるとほぼ同時に敵が気づいたらしく周囲の兵士が動いた。
だがもう遅い。
とった!
ドゴオォォォォン!
はずした?!
直前に大楯を持った兵士が割り込んで軌道を逸らされた。
あれはおそらく聖騎士のライアスだ。
ライアスには前回も攻撃を逸らされた。今回は撃破はできたようだが、前回や今回の私の全力攻撃を逸らすことができたことを考えると、聞いていたよりも遥かにステータスが高いように思える。実力を隠していたのかもしれない。
砂煙が晴れるのを待ってユージを見ると、ダメージはほとんど無いようでピンピンしている。
死霊術士のステータスなら爆風だけでも瀕死になってもおかしくないはずだが、予想よりステータスが高いようだ。私のように他の職業を覚えてレベル上げをしたのかもしれない。
「くっ!」 警戒されてはこの距離から槍を当てるのは難しいだろう。連射できるライフルに切り替えよう。
魔導ライフルを取り出して狙いを定める。
するとユージが光る盾と槍を空中に出現させた。体からも様々なオーラが発生している。
あれは聖騎士のスキルでは?!
どういうこと!?
・・・聖騎士は短期間で習得できるような職業じゃない。才能のある者が20年近く修行して覚えるような職業だ。
似たような見た目の別のスキル? 体に纏っている見慣れないオーラも気になる。何も持っていないように見えるが魔道具だろうか・・・?
とりあえず魔導ライフルで追撃してみよう。
バシュウゥゥン! ドオォォン!
魔導ライフルを撃つと同時にバリアが張られた。以前見た攻撃が効かないドームだ。
しまった! スキルに驚いて遅れたせいで追撃のチャンスを逃した!
いや、今の私の攻撃力なら効くかもしれない。とにかく続けて攻撃してみよう。
バシュウゥゥン! ドオォォン!
バシュウゥゥン! ドオォォン!
しかしやはりバリアには効果がないようだ。直撃してもバリアに変化はない。
周囲のアンデッド兵には一応効いているが、アンデッド兵の動きが予想以上に良く、効果はそれほど高くない。
攻撃しながらどうするか考えていると急に周囲が暗くなった。
くっ! 今度は何?!
魔導外骨格の暗視機能が発動してすぐに見えるようになる。
闇魔法のダークに似ているが範囲が桁違いだ。かなり離れた位置にいる私も完全に範囲に入っている。
そしてユージの近くにドラゴンが現れた。
ギルバーンの姿は見えない。
やはりユージもドラゴンを召喚できるようになっているのか?
ドラゴンが空に上昇しブレスを撃つ体勢をとった。
「!! 緊急回避!!」 私は声を上げて回避行動をとる。
「高速飛行モード緊急起動。」 ジェリーが答える。
ゴオオオオオオ!
ドラゴンのブレスが放たれ、回避する私を追う様に薙ぎ払われる。
今の私でも直撃すればただでは済まない圧倒的な圧力を感じる。
「このまま突っ込むわ!サポートして!」
「了解シマシタ。全力戦闘モード起動。」
私は元々遠距離戦より近接戦闘の方が得意だ。ブレスと遠距離で撃ち合うより近づいた方がいい。
一人では勝てないという思いが一瞬頭をよぎったが、怒りで戦意を高めて弱気な思考を振り払う。
不意打ちで敵の準備が整っていない今がチャンスだ。
このままドラゴンを倒す!
キーン ゴオオオオオオオオ
「ヤアアアァァァァ!!」
ブレスを回避しながら武器を魔導薙刀に持ち替えて、ドラゴンに全力の一撃を叩きこむ!
ズバァァァァァン! ドゴォォォォォォォ
攻撃は決まったが、やはり一撃では倒せない。
そして、攻撃と同時に相手に詳細鑑定!
表示された鑑定結果を読まずに一瞬で閉じる!
ブオン!
すぐに敵の反撃が飛んでくるので回避しながら距離をとる!
よし!鑑定に成功した!
敵の動きも対応できる範囲だ!飛ぶ速度は私の方が速い!接近戦なら勝てる!
これまでの教訓から戦闘中に詳細鑑定を使えるよう事前に練習しておいた。
詳細鑑定を行うには近づく必要があるが、近接戦闘中に鑑定結果が表示されると視界が遮られて危険だし、読んでいる暇もない。そこで鑑定結果を一瞬で消して後で読むことにした。
鑑定士のスキルを使えば、過去の鑑定結果を表示することができる。
これでドラゴンの情報を得ることができた。できればここで倒したいが倒せなくても情報を得ることができる。もう一体いる可能性も高い。
それに戦闘中に鑑定結果を生かせないわけではない。
一瞬だがアンデッドの文字が見えた。
やはりドラゴンもアンデッドだったようだ。
だが残念ながら今の私には光の魔法武器など浄化できる手段が無い。光の薙刀は前の戦いで無くしてしまった。一応聖水はあるが、聖水を投げつけるよりは魔導薙刀や魔導ライフルの方が強いだろう。
しかしやりようはある。
「ジェリー!ドラゴンもアンデッドよ!ライトで支援して!」
地上の兵士からの攻撃を回避しながらジェリーに指示を出す。
ジェリーは初級魔法が一通り使えるので光魔法のライトも使える。大したダメージは当てられないが、目潰しもできるので高レベルの接近戦でも意外と効果が高い。
キーン!
ズバァァァァァン!
ブオン!
ライトでドラゴンの目潰しをしながら戦えばいけると思ったが、地上の兵士達の攻撃もあってなかなか倒せない。
今の私なら普通の兵士の攻撃は無視できるかと思ったが、地上の兵士達の攻撃は普通ではない。かなりの高威力だ。今の私でも無視はできない。
ジェリーに魔導バルカンで反撃させているが、魔導バルカンでは倒せないようだ。
まるで地上の兵士全員が最上級クラスの高レベル者のようだ。そんなことが有り得るのだろうか?
しかし少し時間はかかるが、このままいけばドラゴンを倒せるだろう。ユージがドームから出てくるかだけ注意しておこう。ドームから出て逃げようとしたら即座に攻撃してユージを殺す。
そう思いながらドラゴンと戦っている時だった。
バリバリバリ!ビシャァァァァン!
「がぁっ!!」 突然激しい衝撃と共に視界が明滅し、全身に痺れるような痛みが走った。
「なっ、何が?!」 急いで体制を立て直しながら周囲を見る。
「ガガッ。バリア消失。地上カラ雷撃ヲ受ケマシタ。」 ジェリーが答える。
「雷撃!? ハッ?!!」
気づくと目の前にドラゴンが迫っていた。
慌てて回避しようとするが体の動きが鈍い。
ズガガン!
「うあぁっ!!」
ドラゴンの攻撃の直撃を受けて斜め下に吹きとばされる。
ザバーン!
そのまま海に落下してしまった。
「ガガッ。水中モード起動。」
「ううっ・・」
あまりの衝撃と大きなダメージに視界が歪む。
「ガピッ。予備バリア展開。機体ダメージ大。装甲破損。運動性低下。撤退ヲ推奨シマス。」
ジェリーが状況の深刻さを伝えてくる。
「くっ!!」 また撤退なの?!
全身の状況を確認する。
魔導外骨格は所々ヒビが入っているが、飛ぶことはできそうだ。
薙刀は手放してしまったが、武器は手を離すと自動的に収納されるようになっているので紛失はしていない。
一応戦えるが、機能は低下している。
何をされたか分からなかったし、このまま戦い続けるのは無謀だろう。
はっきりしない頭で考えているとジェリーが警告を出した。
「ピー。魔物接近。」
くっ! 追撃か! とにかく撤退しよう!
魔導外骨格は水中移動もできるが空中ほど速くはない。
かなり深いところまできてしまったので、敵から離れつつ水面に向かって移動する。
急速に何か大きな魔物が近づいてきた。ドラゴンではない。
ドラゴンではないことに安堵したが、油断はできない。できれば戦いたくない。
しかし突然うまく泳げなくなった。
「ピー。水魔法検知。」
突然水の流れが変わり魔物が目の前に現れる。
「なっ!くっ!あぁ!!」
慌てて魔導薙刀を出して振るったが、慣れない水中での攻撃はうまくいなされ何かが体に巻き付く。
何?!触手!?タコ?!
魔物は大きなタコだった。太くぬめった触手で体を締め上げてくる。
魔導外骨格がギシギシと鳴り、痛みが走る。
「うあああぁっ!」
「ピピッ。予備バリア消失。機体ダメージ上昇。」
ま、まずい!腕が動かせない!
ジェリーの魔導バルカンも水中では使えない!
このままじゃやられる!
ジェリーがライトを使う。アンデッドだったようで一瞬ひるんだが、たいして効果がない。
他に何か・・・
「うぅっ。ジェリー!聖水をまいて!あぐっ!」
痛みに耐えながらとっさに思いついた指示を出す。
「聖水散布。」
ジェリーが魔導コンテナに収納してあった大量の聖水をバラまく。
ジュワアアア 音を立てて魔物の一部が溶ける。
腕に巻き付いていた触手がビクンビクンと痙攣してほどけた。
すぐさま魔導短剣を出して残った触手を切り払い脱出する。
聖水は思ったより効果があったが魔物と戦う余裕はない。他の魔物も来るかもしれない。すぐに水面に向かった。
ザバッ!
海から脱出してすぐに全力で飛んで撤退する。
魔導外骨格の破損が心配だったが問題なく飛行できた。
追手も来ていないようだ。
またもや敗北を味わった私は、天気の良い青空とは対照的な気持ちを抱えながら、ルディオラへの帰還を決めた。




