第83話 新たな計画の始まり
俺は、とりあえずやられた配下を復活させて、荒れた海岸の片付けを指示した。浄化された配下はいないようで安心した。
そしてヨゾラさん達と相談して、すぐに緊急会議を開くことにした。
町にいるヨーラムさん達にも参加してもらいたいので、町の領主館で会議を行う。
別荘は半壊してしまったし、敵に狙われた場所なので危険だからだ。
「ヨーラムさん。急に呼び出してしまって、すみません。」
「いえ、こちらは問題ありません。襲撃されたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「はい。何とか撃退することができました。町の方は大丈夫ですか?」
「急に暗くなったので大騒ぎになりましたが、配下の方に頼んだらすぐにライトを使って巡回してくれましたし、神殿所属の神官達もすぐにライトを使ってくれたので、大きな事故は起きなかったようです。」
「それは良かった。」 町もダークの範囲に入っていたからな。大きな被害が無いようで安心した。
弱めの聖騎士や雑用係にしている神官等の光魔法が使える配下は結構な数が町にいたからな。ヨーラムさんの指示に従うように言ってあったし。
それにこの世界の人はHPバリアがあるので、転んだ程度では怪我もしないしな。
まあ町の人に対しての説明は必要だろうが、またギルバーンのせいにでもしておこう。小さな被害はあるようなので、弁償が必要かもしれないが、その辺りの判断は配下に任せればいいだろう。
主要メンバーが集まったので、まずあの場にいなかった人のために、襲撃の内容を配下に説明させた。
絵の得意な配下に、あのロボットの絵も描かせて見せた。ヨーラムさんなら何か知っているかもしれないからだ。
「ヨーラムさんとヨーマ君は、こいつについて何か思い当たることはありますか? おそらくレイライン王国の日本人だと思うんですが。」
配下達にも事前に聞いてみたが、何も知らなかった。
「・・・確証はありませんが、噂で聞いた人物と一致している気がします。このような奇抜な見た目だとは思っていませんでしたが・・・。」
「噂ですか?」 何か知っているようだ。さすが情報通の商人のヨーラムさんだな。
あとこのロボットアニメみたいな見た目は、この世界の人から見たら奇抜だよな。いや日本でもリアルでいたら奇抜だな。まあコスプレ会場にはいそうだが。
「はい。ゴルドバから来た貿易船やこちらに逃げて来たゴルドバ関係者から聞いたのですが、最近ルディオラ太陽神国に新たに「銀翼」の二つ名を授かった英雄が誕生したそうです。」
「銀翼に英雄ですか・・・」 何か凄そうだ。戦闘機みたいな銀のウイングがあったから銀翼と言えなくもない。
「その英雄は、銀の鎧を着ていて、光る銀の翼で目にも止まらぬ速さで空を飛び、ドラゴンを超える戦闘力があるそうです。」
「それは・・・、間違いなさそうですね。」 カイザーより強かったしな。
ドラゴンより強くて見た目が一致する人が何人もいるわけない。間違いないだろう。
「はい。私もてっきり大げさに誇張された情報だと思っていたのですが、かなり正確な情報だったようですね。」
普通は噂は尾ヒレがつくものだからな。こんなに正確なのは逆にビックリだ。これ以上誇張すると逆に嘘くさくなるからだろうか? 誇張しなくても嘘くさいしな。俺も実際に見ていなければ誇張だと思っただろう。
しかしレイライン王国ではなくルディオラ太陽神国だったか。聖女や太陽の炎はルディオラ所属だしな。ルディオラにも恨まれているから攻撃されても不思議ではない。
「英雄はアスカという名の美しい女性だそうです。「ルディオラの銀翼」や「銀翼のアスカ」と呼ばれていて、ルディオラと戦争になりそうなレイライン王国でも恐れられているそうです。」
「アスカ?!」 え?! あれアスカさんだったの?
「それってユージを恨んでいるっていう毎回私達を襲撃してきた人よね?」 ヨゾラさんも驚いたようだ。
「そうですが、能力は錬金術師と詳細鑑定だったはずです。」 あとは戦士と槍士だったかな。
「錬金術はロボットも作れるの?」
配下達に聞いてみたが、錬金術師はレシピを知っている物しか作れないので、あのような物が作れるとは思えないそうだ。
同じ名前の別人の可能性もあるな。アスカさんはレイライン王国に所属が移ったと聞いていたしな。
配下に確認すると、勇者パーティーに入るためにレイライン王国に所属したが、勇者が死んだので戻った可能性はあるそうだ。同じ名前の人も知らないらしい。そしてアスカさんの恋人だったレオスによると、武器の形状が一致しているのでアスカさんの可能性が高いそうだ。
・・・確かに武器が薙刀だったな。これはアスカさんで間違いなさそうだ。
しかしなぜアスカさんはロボットが作れるのだろうか? この世界にロボットのレシピがあるとは思えない。いや装着しているならロボットではなくパワードスーツか? まあどっちでもいいが。
・・・アスカさんは日本でロボットの研究者か何かだったのかもな。
この世界の店で売っている魔道具はたいしたことないが、希少魔道具は日本でも作れない凄い能力があるからな。凄そうな金属もあるし。ロボット設計ができる人が希少魔道具のレシピをたくさん手に入れれば、戦闘ロボットを設計できても不思議ではない。
デザインから察するに、アスカさんはロボットアニメとか好きなんだろうな。ロボットアニメ好きの凄腕美人ロボット研究者か・・・アニメキャラみたいだな。俺の命を狙っていなければ仲良くなりたかった。
とりあえずヨゾラさんに俺の予想を話してみると微妙な顔をしていた。納得いっていないようだ。まあいいか。
とにかく、レイライン王国の日本人集団だけでもやっかいなのに、ルディオラもめちゃくちゃ強いということだ。俺達にとっては危険な状況だ。
しいて言うなら、レイライン王国とルディオラも敵対していて戦争が起きそうというのが、比較的良い情報だろう。潰し合ってくれると助かるんだが、あまり期待はできないな。
「情報をまとめると、このままでは危険ということになりますね。」
状況を考えると、このままスブ島で生活するのは危険ということだな。
いつまた空から襲撃されるか分からない。次は不意打ちの初撃で死ぬかもしれない。
「そうですね。」「そうね。」 皆も同意見のようだ。
水着の島になったスブ島での生活は気に入っていたから、できればこのままここで暮らしたかったが、仕方ない。
以前から考えていた次の段階に計画を進めるとしよう。
十分とまでは言えないが、すでに偵察と迎撃を行えるだけの海の魔物は配下にできている。アスカさんの襲撃は防げないが、軍による船の襲撃は防げるだろう。幸いアスカさんは俺以外に対しては善人らしいので俺達がいなければ島を攻撃したりしなさそうだしな。なんか哀しいな。まあいい。
「では、水着の島計画も軌道にのってきて俺達の手を離れて良い頃ですし、安全のためにも次の計画に取り掛かろうと思います。」
南国リゾート施設も軌道にのり、貿易船の商人達にも評判が良いようだし、頃合いだろう。
「水着の島計画って何よ。」 ヨゾラさんが呆れた顔で言ってきた。
やべっ! 水着の島計画は俺の心の中での呼び名だった。まあ気にせず続けよう。
「ヨーマ君発案の南国リゾート計画のことです。もう従業員に任せても問題ない状況だと聞いていますよ。」
執事長に確認したところ、すでに配下を数名見張りにつけておけば、従業員だけで問題ない状況になっていると聞いている。
「うーん。確かに教育は終わっているし、任せることは可能かもね。」 ヨゾラさんも同じように思っているようだ。
「そうっすね。ちょっと不安はあるっすけど、問題が起きたら連絡させるってことでも大丈夫かもしれないっすね。」 ヨーマ君もそう言うなら問題ないな。
ヨゾラさんもヨーマ君も割と楽しそうにやっていたので、少し心苦しいが、安全のために行動は必要だ。今回はヨゾラさん達もバッチリ顔を見られてしまっただろうしな。念のため俺だけでなく皆も島を離れた方が良いだろう。
俺が仲間外れにされているのも何とかしたかったしな。・・・別に俺の我がままというわけじゃない。あくまで俺達全員の安全のためだ。
「そうでしょう。次の段階に進むべきだと思うんですよ。」
「次の段階って何よ。」 ヨゾラさんは怪しんでいるな。
もうちょっと俺を信用しようよ。生涯のパートナーなんだから。
「それは、以前ヨーマ君が言っていたことです。」
「なんのこと?」 ヨゾラさんは忘れているようだな。
「俺っすか?!・・・もしかして。」 ヨーマ君は心当たりがあるようだ。当然だな。
「そう!魔の森に、貿易の中継地点になる港を作るという話です!」
「そういえば、そんなことも言っていたわね。」 ヨゾラさんも思い出したようだ。
「覚えていてくれてたんっすね。」 ヨーマ君の目がキラリと光った。
やはりヨーマ君もやりたいと思っていたようだ。
「当然じゃないか。むしろギルバーンを権力者にした主な理由がこれだからね。」
勢いで最初から考えていた風に言ってしまった。最近思いついたことだが、まあいいか。
「どういうこと?」 ヨゾラさんは疑問に思ったようだ。
「色々考えたんですけど、このスブ島は俺達がいなくても貿易の中継地点として利用可能なので、他国が島を奪おうとしてくる可能性があるんですよね。」
「そうね。」
「それと比べて、魔の森の港は、俺達が結界を解除すれば使えなくなるので、奪うことができないんです。俺達を攻撃したら中継地点が無くなってしまうので、多くの人が大損することになります。つまり他国は俺達を攻撃できないどころか、逆に多くの人が俺達を守ろうとするんですよ。俺達の安全度が全然違うと思うんですよね。」
アスカさんを止めようとする人も増えるはずだ。
「・・・確かにそうかもしれないわね。」 ヨゾラさんも納得のようだ。
「確認だけど、発案者のヨーマ君もそう思うよな?」
ヨーマ君はどこまで考えていたのだろうか?
「まさしくその通りっす。つけ足すなら、希少資源が採れる山があるっすから、その近くに港を作ればさらに味方を作れるっす。」
・・・希少資源? ヨーマ君の細い狐目が輝いているな。俺の知らない目的もあるようだ。
「ということはもう候補地も考えてあるのか?」 ヨーマ君凄すぎないか?
「はいっす。と言っても、考えたのはほぼ親父っす。」
「はい。魔の森の港については以前からヨーマと相談していまして、スブ島の防衛や一緒に避難してきた人達の生活の目途が立ちましたら、ユージさん達にも相談しようと思っていました。我々の都合で相談が遅くなってしまい申し訳ありません。」 ヨーラムさんが言った。
なるほど。ヨーラムさんの案か。すでに色々考えてくれていたんだな。
すぐに俺に相談が来なかったのは、ヨーラムさんやヨーマ君の立場だと避難民を優先しなければいけないからということだな。皆ヨーラムさん達を頼って避難してきたわけだし、責任があるのだろう。
避難民のことは俺はあまり気にしていなかったが、大丈夫なのだろうか? 聞いてみよう。
「スブ島防衛の目途はたちましたけど、避難民の方は大丈夫そうですか?」
「はい。スブ島に避難してきた人達は、主に私の商会やリゾート施設などで働くことになりましたので問題ありません。魔の森に避難した人達は、自立しているとは言えませんが、おかげさまで大きな問題は起きていませんし、元々ゆっくりと進める予定なので大丈夫でしょう。」
魔の森の拠点には、週一くらいでヨーラムさんかヨーマ君を連れて様子見に行っていて、避難民には畑仕事や周辺整備をさせたり、内職で生活用品等を作らせたりしている。少ないが報酬も出している。材料などは魔の森で採れない物はヨーラムさん達が買ってきている。
生活に問題は無いが、魔の森には娯楽が無いので、俺が以前配下達とやっていた将棋、チェス、リバーシを配って教えさせた。かなり流行っているらしい。一番人気は誰でも簡単に覚えられるリバーシみたいだが、将棋やチェスも普通に人気のようだ。
ヨーラムさんの話を聞くと、入れ替わりでスブ島に来させたりもしているので、あまり不満は出ていないらしい。
特にギルバーンがスブ島の領主になったことで、皆安心したそうだ。同じ辺境の土地でも、悪の死霊術士の領地より、まともに町を治めている領主の領地の方が安心ということらしい。
まあ魔の森の領地は色々な物が食べ放題だしな。腹いっぱい食べられて家があって娯楽があれば不満は少ないのだろう。仕事も強制していないし。ダラダラ遊んでいるだけの人もいるようだ。ちょっと羨ましい。まあ働いていない人には報酬が無いので、買い物をするために働く人は多いそうだ。スブ島に来た時やヨーラムさん経由で買い物をしているらしい。
現状俺達にとっては赤字らしいが、大した金額でもないし、港ができたら港で働いてもらっても良いし、あの場所に村を作って税収を得られるようにしても良いので、将来的には役に立つ人達だそうだ。
ヨーラムさんは色々考えているんだな。細かい計画が色々ありそうだ。
「じゃあ、俺達は一旦魔の森の拠点に移って、港を作る詳細な計画を立てましょう。魔の森の拠点は見つかっていないはずなので、ここにいるより安全でしょう。」
「仕方ないわね。」 ヨゾラさんは残念そうだ。
やはりスブ島の生活を気に入っていたのだろう。
「それと今回、空を飛ぶ敵と戦う戦力が不足していることが分かったので、港と同時並行で空を飛べる配下を集めようと思います。」
アスカさん対策だ。それに陸軍と海軍ができたので空軍も欲しくなった。
「そうね。でも凄く強かったけど普通の魔物で大丈夫なの?」
「そうですね。アレを倒せる配下を見つけるのは難しいでしょうけど、せめて偵察と足止めができれば不意打ちが防げるはずです。戦闘準備がしっかりできれば今の戦力でも勝てるでしょうから。」
今は偵察で発見しても俺達に連絡が来る前に攻撃されてしまうからな。せめて戦闘準備をする時間くらいは稼げるようになりたい。
「確かにそうね。」 ヨゾラさんも納得したようだ。
まあ凄く速かったので足止めできる魔物が見つかるかは怪しいが。
「皆さんもそれで良いですか?」
「はい。もちろんです。ただ、できればスブ島との定期便は続けたいので、見つからないように行き来する方法を考えたいと思います。」 ヨーラムさんが答えた。
確かにカイザーのあとをつけられたら魔の森の拠点が見つかってしまうな。まあ海の上では遠くまで良く見えるから派手に光っているアスカさんがついてきていたら気づくとは思うが、注意は必要だ。飛んでる最中に襲われるかもしれないし。
「わかりました。それも皆で考えましょう。」
とりあえずその場では、スブ島に行く場合は夜に移動して長時間滞在せずに夜のうちにすぐ戻るということで、仮決定にした。後日もっと良い案があれば検討する。
話がまとまったので、会議は終了して、俺達はあわただしく引っ越しの準備をした。
島の統治や防衛に必要な配下と死に戻り連絡用の配下を残して、主要配下は連れて行く。
準備ができた俺達は、夜の闇の中、カイザーシップで島を飛び立った。
俺達の水着の楽園が遠ざかる。アスカさんを撃退できる防空網ができたらまた戻ってこよう。
俺は水着の楽園を取り戻すことを、空に浮かぶ美しい月に誓った。
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