外伝23 ギルバーン討伐軍
翌日すぐにレイライン王国の面会は行われた。
相手は今回の討伐軍の従軍参謀でマサノブというらしい。名前からして日本人のようだ。
私は慣れない豪華な軍服を着せられ、指定された王城の応接室に向かった。
今回公的には私は軍人として従軍しているため、公式な場では軍服を着る必要がある。
これまでは、主に太陽の炎の一員として活動していたため軍服を着る機会は無かったので、軍服は支給されていたが宿舎に放置していた。
今回の討伐軍ではルディオラの最高位が私になるので、出発式や軍議に参加する可能性が高いことから、わざわざ新品を作ってルディオラから持ってきたそうだ。
そういった面倒ごとは指揮官のルギスに任せたいが、重要な場に最高位の者が出ないのは失礼にあたるらしく、機嫌を損ねて戦いから外されても困るため、私も式典や軍議に出席することになってしまった。
ルディオラ太陽神国の高位軍人の軍服は、神殿のイメージカラーである白を基調に太陽を表す赤の装飾が施されていて、さらに豪華な階級章とマントもついていて、非常に派手だ。とはいえ、この世界の身分の高い者は皆派手な格好をしているので、特別目立つということもない。
女の高位軍人が珍しいのかチラチラ見てくる者はいるが、服装がおかしいという反応ではないので問題ないだろう。
案内された応接室に入ると、日本人と思われる男とその秘書らしき現地人の女性の二人が待っていた。
「君がアスカさんか。はじめまして。私はレイライン王国軍特別部隊所属のマサノブだ。」
国の所属を名乗ってきた。特別部隊が何なのか分からないが、今回は日本人としてではなく、国の軍人として対応するということだろうか?
「ルディオラ太陽神国所属のアスカよ。」
「こちらは、私の助手のリリー。」
「リリーです。よろしくお願いいたします。」
「ええ、よろしく。」
マサノブは、細身の長身で整った顔立ちだが冷たい印象の男だ。リリーは予想通り秘書のような役割だろう。
挨拶をしてソファに座り、メイドがお茶を出してから部屋を出て行き、部屋には他に誰もいなくなった。やはり内密の話をするのだろう。
「ではさっそく、今回来てもらった理由を説明しよう。」
無駄話はしないようだ。非常に助かる。
「話は主に魔王対策についてだ。知ってのとおり、現状、勇者、聖女、大魔導士など魔王と戦う主力になると予想されていた者達が倒れてしまっている。この状況に我々は、このまま成り行き任せにしていては、魔王に敗北してしまうのではないかと危惧してるところだ。そこで、少しでも勝率を上げるために我々は、国の協力のもと、レイライン王国内に魔王対策チームを設置して、有用な人材や装備等を集めつつ情報収集や訓練等を行って、対策していくことにした。」
「魔王対策チームができたのね・・・」 今回は、魔王対策の話だったようだ。
「ああ、正式名称は別にあるが、そう呼ばれている。君は元々勇者パーティーの一員として魔王と戦う予定だったと聞いている。勇者がやられたことで話が立ち消えになったようだが、勇者パーティーのメンバーに選ばれるだけあって、君の能力は非常に優秀だ。魔王と戦う意志が変わっていないのなら、魔王対策チームにメインメンバーの一人として参加してほしい。」
「それはレイライン王国に所属を変える必要があるの?」 事前の予想どおり、おそらく引き抜きということだろうが一応確認しよう。
「ああ。この世界では他国の人と気軽にやりとりするのは難しいから、レイライン王国に所属を移してもらうことになる。勇者パーティーに入る際もその予定だったと聞いているから、問題ないはずだが・・・見たところ、君はルディオラではかなり地位が高いようなので、相応の待遇にしてもらえるように調整しよう。」 私の軍服をチラリと見て言った。
派手な軍服なので地位が高いのが見て取れるのだろう。
「話は分かったわ。魔王対策は私も重要だと思う。」
「そうか。では・・・」
「でも今は、ユージとギルバーンを殺すことを最優先にしているの。だからその話はユージとギルバーンの討伐が終わってから考えるわ。」 今は討伐に集中したいので面倒な詳細を聞く気はない。
「・・・それは、世界よりも個人的な復讐を優先するということなのか?」
「その通りよ。」 私の情報は事前に調べたのだろう。復讐については知っているようだ。
「・・・一般的には復讐に囚われるのは良くないとされている。前向きに世界のために働くことを考えてみては?」
「軽々しく分かったような事を言って欲しくないわね。」 私は睨みつけた。
復讐者に対して世間の目が冷たいことなど承知のうえだ。
「・・・分かった。いや、私には気持ちは分からないが、魔王対策も重要と考えているなら、一旦チームに参加しつつ同時並行で進めるというのはどうだろうか。そちらにもできるだけ協力できるよう調整しよう。」
「私は復讐が終わるまで別の事をする気は無いし、所属を変える気も無いわ。」
今私がかなり自由に動けているのは、私の地位が高いからというだけでなく、私の行動と組織の目的が一致しているからだ。
アンデッド討伐部隊「太陽の炎」は、その名の通りアンデッドや死霊術士の討伐が目的の組織なので、私が死霊術士を殺すために全力で行動することを認めてくれるし支援してくれる。しかし、普通の組織ではこうはいかない。個人の復讐より任務を優先しろと言われてしまうだろう。魔王対策チームに入れば当然魔王対策を優先しろと言われるし、私の能力を使って交渉したとしても今ほど動きやすくはないだろう。
「そうか・・・。」 とても理解できないといった態度だ。
「今回の討伐が成功すれば話を聞くのだから問題ないでしょう。あなたは今回の討伐軍の参謀だそうだけど、まさか負けると思っているの?」
さっきの言いぶりでは復讐はすぐに終わらないと考えているようにもとれる。
「ああいや、今回負けるようなことはまずない。戦いに絶対はないから断言はできないが、問題なく勝てるだろう。」
どうやら負けると思っているわけではないようだ。
「それなら良いわ。じゃあ詳細は討伐が終わったら話し合いましょう。そのころには私の考えも変わっているかもしれないわ。」
「・・・そうだな。とはいえ、こちらとしては早い方が良い。行軍中にでも気が変わったり、聞きたい事ができたりしたら私を訪ねて来てくれ。君が来たら通すよう手配しておく。」
「分かったわ。」 ・・・少し気になるがまあいい。
話は終わったので、王城を出て神殿に戻り、指揮官のルギスに報告に向かった。
幸い指揮官のルギスと副官のガイラルは、事務所で手続きなどをしていたようで、すぐに話し合いが始まった。
「話は、レイライン王国で魔王対策チームを作ったから入ってほしいという内容だったわ。予想通り引き抜きの類ね。」
「なるほど、魔王対策チームですか。まあ予想の範囲内ですね。レイライン王国は黒髪黒目の者達を集める際に魔王と戦うためという名目で勧誘していたそうですし。まあ、どこまで本気かは分かりませんが。」
「そうなのね。変に疑われても面倒だから、こちらからは何も探りを入れなかったから、それ以上のことは分からなかったわ。」
「はい。情報収集はこちらでやるので、怪しまれないことを優先していただいて問題ありません。」
「ただ、ユージとギルバーンの討伐を優先するから終わってから詳細を聞くと言ったら、難色を示していたのが気になるわね。負けるとは思っていないようだったから普通なら問題ないと思うけど。」
「そうですか・・・それは妙ですね。こちらでも今回の討伐軍は、勝つ自信がある様子だと聞いています。我が国の上層部も能力が不明ながらユニークスキルを使える者が数多くいるはずなので、勝率は非常に高いと考えています。」
「うーん。・・・もしかしたら逃げられる可能性を考えているんじゃあないでしょうか?」 副官のガイラルが言った。
・・・逃げられる可能性か。今まで逃げずに向かってきたから失念していたが、確かに可能性はある。
「ドラゴンは空を飛べる可能性が高いと聞いています。空を飛ぶドラゴンの目撃情報もあるようです。討伐軍は勝つ手段は用意できても空を飛んで逃げる相手を捕まえる手段は用意できなかったのかもしれません。一応相手の性格分析から、一度も戦わずに逃げる可能性は低いと見ていますが、負けそうになったら逃げる可能性は十分あります。」
「確かにドラゴンは飛べそうな見た目だったわね。」
逃げられるかもしれないと思っていたのならマサノブの態度も納得がいく。
しかしそういうことなら私の出番だ。
「それなら、空を飛んで逃げる相手を追う役目は、私がやることにするわ。」
「・・・アスカ様は空を飛べるのですか?」
「ええ、飛べるわ。ドラゴンより速いかは、やってみないと分からなけれど、ルディオラの国境から半日でここまでこれるから、ドラゴンが私より速いとは思いたくないわね。」
国境から半日なのもMP消費を抑えた長距離飛行モードの巡航速度だ。消費を無視して全力を出せばもっと速度を出すこともできるから、ドラゴンがもっと速かった場合でもおそらく追いつけるだろう。
しかし、ドラゴンが私と同じくらいの飛行能力を持っていた場合は、ブレスによる首都の空爆などが簡単にできることになる。行軍中の軍に突然空からブレスを撃ってくることもありうる。魔導外骨格を着ていない時にいきなり攻撃されたらやられてしまうかもしれない。レーダーで察知できるはずだし、ジェリーのバリアも強化できたから1発くらいは耐えられるだろうが、装備に時間がかかると危険かもしれない。レイライン王国側でも何か対策しているかもしれないが、念のため常に素早く装着できるように準備しておこう。
「・・・国境からここまで半日ですか・・・? 本当に?」 どうやら信じられないようだ。
「出入国記録を調べてもらえば分かるわ。なんならスピードは落ちるけど一人くらいなら抱えて飛べるから、一緒に飛んでも良いわよ。」
「・・・いえ。ではそれも交渉材料にしますので、いずれ証明のために飛んでみせてもらうかもしれませんが、しばらくは内密にお願いします。」
「わかったわ。」
その後、軍議と出兵式が行われた。
私はルディオラからの援軍の最高位の軍人として両方に出席することになったが、基本見ているだけで何もしないでよい立場だったので問題はなかった。
軍議や出兵式では、部屋の四隅にライトの魔法を掲げた神官が配置されていて、アンデッド対策もしっかりとされているようだった。敵が生きた人と見分けがつかないアンデッドを使役するので、スパイ対策が必要なのだろう。
軍議では各軍の役割が発表されたが、肝心のドラゴン対策は発表されなかった。
一部非難の声が上がったが、スパイ対策の名目のもと、直前まで伏せられることになった。
アンデッド対策はしているがアンデッド以外のスパイがいる可能性も否定できないという理由だ。
まあ、日本人のことを隠したいのだろう。
各軍の役割は、王国軍五千が敵の主力やドラゴンを撃破する役目を担い、貴族軍四千が敵を包囲して逃がさないことに注力する。各国からの援軍千は、臨機応変に対応するための予備戦力として後方に待機するというものだ。
臨機応変と言えば聞こえは良いが、実際には各国からの援軍は後方で戦いを観戦するだけだそうだ。本当の予備戦力は王国軍の一部が担うらしい。
各国からの援軍も建前上援軍としているだけで、戦いたいわけではなく、世界会議の決定どおりに事がなされたかの確認と、ドラゴン対軍隊という歴史的に見ても稀な出来事を見に来ているだけだそうだ。
ただ見に来ただけだと邪魔だと追い返されても文句を言えないので、援軍という形にしているそうだ。
ドラゴンの能力やレイライン王国がどう戦うのか等各国とも興味深々らしい。
私は戦いたいが、百しか兵を出していない国の代表が軍議でわがままを言っても印象が悪くなるだけだそうなので、軍議では何も言わずに黙って見ていた。私の参戦については、内々に私の能力等を伝えて、私だけ良い位置に配置してもらえるよう交渉することになっている。
その後出発したが、大軍の歩みは遅く、私が飛べば1日2日で着きそうな距離を何週間もかけてゆっくり進むそうだ。そんなことで大丈夫なのか心配になるが、私一人が焦っても仕方がない。諦めて私も一緒にゆっくりと進んでいった。
街道を進んでいく大勢の兵士達を眺めながら、私は復讐の時を待った。




