外伝22 レイライン王国到着
私は魔導外骨格を装着してレイライン王国に向かって飛んだ。
しばらく飛ぶとルディオラとの国境についた。来た時の半分の時間もかかっていない。かなり速くなったようだ。
獣人の国とレイライン王国は国境が接していないので一旦ルディオラに入る。
ルディオラは通過するだけだが、入国手続きは必要なので国境警備所に寄っていく。
見た目がSFロボットな魔導外骨格は目立つので、離れた位置に着地していつもの鎧に着替えて警備所で手続きを行った。
魔導外骨格は素早く着脱できるよう設計されているから良いが、逆に普段装備している風の軽鎧や魔法の靴は、着脱に若干時間がかかる。かといって魔導外骨格を脱いだだけでは全身タイツのようなインナーで、変な目で見られるし戦闘力も不安なので、普段は今まで通りの装備で行動することになる。強い相手に奇襲された時のために素早く着脱できるよう普段の装備も改造した方が良いかもしれない。
その日は、ルディオラの町で一泊することにして、食料や日用品の補充を行った。
ルディオラ国内であれば、上級伐隊員の権限が使えるので、基本的な物は宿の職員に言うだけで届くし、店に行っても最優先で対応してもらえる。物資の補給が非常に楽だ。他の国ではこうは行かないので、たくさん買い込んでおこう。
次の日の朝出発し、その日の昼過ぎにはレイライン王国の首都に到着することができた。
獣人の国の拠点から2000km近くの距離を1泊2日で移動してきたことになる。買い物や手続きが無ければ1日で移動できただろう。
首都の周囲にはすでに多数の軍隊らしき集団が野営していた。おそらくギルバーン討伐軍に参加するために他国や他の領地からやってきた兵士達だろう。
私は首都に入り、太陽神教の神殿に向かった。レイライン王国にも小規模ながら太陽神教の神殿があり、首都の神殿はルディオラ太陽神国の領事館も兼ねていて、ルディオラの外交官などが滞在している。私も首都にいる間はここに滞在する予定だ。
私は神殿の外交関連の事務所で到着の手続きを行った。
話を聞くと、まだ部隊は到着しておらず数日以内に到着予定ということだった。しかしそれとは別に、レイライン王国から私への面会依頼がきていた。
前回の戦いの後、報告だけして引き留めるのを無視して去ってしまったからだろうか? 何か文句があるのかもしれない。ゲインの言い分ではないが、私はユージ討伐の要望は出したが、戦いの計画を立てたのも主導したのもレイライン王国なので、責任を取れと言われても困る。私に落ち度があるとすれば主力の一人として敗北したという1点だけだ。・・・それが大きいのかもしれないが。
外交関係の職員に聞いてみた。
「私が前回の戦いの責任を追及されたりする可能性はあるの?」
「いえ、アスカ様の行動が正当なものであるという確認は両国ですでになされていますので、そのようなことはできないはずです。ただ、本国からレイライン王国の動向に注意するよう指示が来ておりますので、念のため間もなく到着する討伐部隊の指揮官と話し合いを行ってから面会をお願いします。」
「注意ってどういうこと?」
「詳しいことは分かりませんが、レイライン王国が何かしようとしているようです。ただ、我が国に何かしてくる可能性は低いので、友好関係を維持しつつ動向を探るよう言われています。詳しいことは、討伐部隊の指揮官から話があるはずです。」
「そう、分かったわ。面会はうちの討伐部隊が到着してからにするから予定を組んでおいて。」
「はい。かしこまりました。」
ユージ討伐に集中したいが、また何か面倒な事があるのだろうか?
次の日は、討伐軍の編制などの情報を確認して過ごした。
軍の編制は、レイライン王国の国軍五千と貴族連合軍四千、そしてうちも含めた他国の援軍が千で合計一万の予定だそうだ。ルディオラから派遣される部隊の人数は百人程度らしい。上の決定なので仕方がないが、本当に少人数だ。一万の軍のうちの百人では発言権は無いに等しいだろう。おそらく形だけの参加なのだろう。私だけでもちゃんと戦えるよう調整してもらう必要がありそうだ。そして、アンデッド対策は神官や聖水などが用意されているようだが、肝心のドラゴン対策の情報は無かった。おそらく正式な軍議で発表されるだろうとのことだ。
さらに次の日にはルディオラの討伐部隊が到着したので、さっそく指揮官と話し合いを行った。
「初めましてアスカ様。この部隊の指揮官に任命されました神官騎士のルギスです。」
「副官の騎士のガイラルです。よろしくお願いします。」
「上級討伐隊員のアスカよ。」
ルギスは20代後半くらいの真面目そうな背の高い軍人タイプの男で、ガイラルは中年のベテランといったところだ。神官騎士というのは、神官と騎士の両方の職業を習得している者のことで、将来聖騎士になれる可能性があるため、普通の神官や騎士より上位の階級についている。いわゆるエリートだ。将来有望なエリートを、経験と実績を積ませるために指揮官にして、そのサポートにベテランの副官を付けたといったところだろう。
私に対して敬語なのは、私の方が階級が上だからだ。
アンデッド討伐部隊「太陽の炎」は、役職の種類が少ないので、私はずっと上級討伐隊員のままだが、討伐隊員は軍の階級も同時に持っていて、私の軍の階級は色々あってかなり上がっている。
上級討伐隊員の時点で士官扱いだが、聖女の専属になった時と多数の魔法装備を作った時、勇者のパーティーメンバーに選ばれた時に階級が上がっていて、特に勇者のパーティーメンバーに選ばれた時は、恐らく国の体裁の関係だろうが、かなり階級が上がったらしい。どうせ出ていくからと気にせず上げたのだろう。結局ルディオラに残ることになり、そしてよほど酷いことをしなければ戦いに負けても階級は下がらないので、階級は高いままだ。
階級が上でも指揮官適正の無い者が指揮官になることは無いので、今回のように指揮官の方が階級が下というのはたまにあるらしい。
階級が上でも指揮官ではないので部隊への指揮権は無いが、命令拒否権があるそうだ。
そんなことで軍隊として大丈夫なのかと思うが、好き勝手していいわけではなく、拒否する場合は指揮官にしっかり報告する義務があるし、勝手に軍事行動をとっていいわけではない。
それでも不安だと思うが、階級が高い者は、そういうことがあるという前提で配置するのだろう。
基本、指揮官適正が無いのに階級が高い者は、凄い能力を持っていたりするので確実に役に立つという認識のようだ。
挨拶を終えた私たちはさっそく話し合いを行った。
「まずは我々の任務ですが、主な任務は3つ。1つめは当然ギルバーンとユージの討伐。2つ目が光剣サンブレイズの奪還。そしてレイライン王国軍の調査です。」
討伐は当然として、光剣サンブレイズというのは、太陽の炎に代々受け継がれている光の魔法剣のことだ。
勇者と一緒に戦った際に、前隊長のギリアスが装備していたので、ギルバーンに奪われたと予想されている。
太陽の炎の象徴のような剣なので取り返したいのだろう。
「最初の2つは分かるけど、調査というのは何か理由があるの?」
「はい。ここからの話は一部の者にしか知らされていない事なので、内密にお願いしたいのですが、レイライン王国は黒髪黒目の者達を集めているそうです。」
・・・日本人を集めているのか。まあ勇者がいた時から集めているようだったから不思議ではないか。
「あなた達はその意味を知っているの?」 ゲインから聞いたのだろうか?
「はい。先日アスカ様が太陽の炎のゲイン隊長に話した内容は聞いています。そして、レイライン王国は黒髪黒目の者達については各国に隠していたそうです。我が国の上層部も知りませんでした。おそらくユニークスキルを持つ者達を独占しようとしているのでしょう。すでに我が国に滞在していた者達も多くがレイライン王国に連れて行かれたようです。」
「なるほど。」 まあ、ありそうな話だ。
「ユニークスキルを持つ者を確保しよういうのは、ある意味国としては当然の行動なので、我が国への敵対行動というわけではありませんが、警戒が必要と考えています。そして今回の討伐軍で、ドラゴン対策として出てくる可能性が高いため、敵対しないよう注意しつつ彼らの能力等を調査するというのが任務の内容になります。」
・・・ドラゴン対策は日本人ということか・・・
確かにそれなら納得がいく。勇者の時はやられてしまったが、事前にいると分かっていれば強いユニークスキルなら倒せる可能性は十分ある。
「そういうわけで、今回は戦力的にギルバーンとユージの討伐はレイライン王国に任さざるを得ないので、我々は黒髪黒目の者達の調査とサンブレイズが見つかった場合の奪還もしくはレイライン王国との交渉に注力することになります。」
「ちょっと待って。あなた達はそれで良いけれど、私はユージやギルバーンと戦えるようにしてほしいわね。」
国の事情は分かったが、敵対するわけでは無いならレイライン王国が日本人を集めていても私には関係ない。サンブレイズもどうでもいい。何なら材料があれば作れる。私にはユージとギルバーンを殺すことが最優先だ。
「アスカ様の意向は事前に伺っています。今回もアスカ様が望むならアスカ様が戦いに参加できるよう交渉するように言われています。」 副官のガイラルが答えた。交渉はガイラルがするのだろう。
「それなら良いわ。参加できるようにお願い。」 なら問題ない。
「わかりました。そこで確認ですが、アスカ様はドラゴンを倒す方法を用意するために行動していたと聞いています。ドラゴンを倒す手段は用意できたのでしょうか?」
「まだ完全ではないけれど用意できたわ。ドラゴンの正確な強さが分からないからやってみないと分からないけれど、今の時点でも例のドラゴンと互角に戦えると予想しているわ。」
「ドラゴンと互角に・・? それは事前に確認したりできますか?」
あまり信じていないようだ。
「必要ならあなた達や討伐軍に事前に見せるわ。私は全力で戦うつもりだから、隠すつもりは無いし、連携も必要でしょう。私一人でドラゴンを倒せるかはやってみないと分からないけれど、少なくとも勇者と一緒に戦った時より数倍は強くなったわ。戦いが終わったらゲインにも報告書を提出する予定よ。」
「・・・なるほど。勇者パーティーに入った時点でユニークスキルや錬金術だけでなく戦闘力も勇者のパーティーメンバーとして遜色無い実力があると聞いていましたが、それが数倍ですか・・・うーん・・・レイライン王国から面会依頼が来ているんですよね?」 ガイラルは何か考えながら聞いてくる。
「そうね。内容は分からないけれど、何か注意点があれば聞くわ。」
「ありがとうございます。ではまず、引き抜きの打診の可能性があると思いますが、この件はすでに一度上が許可しているので強くは言えませんが、少なくともこの戦いが終わるまでは移籍しないでいただけますか? さすがに我々も行軍中に抜けられるのは困るので。」
「ええ。分かったわ。今のところ移籍する気も無いから安心して。」
「ありがとうございます。それとドラゴンと戦えるくらい強くなったことも、一旦伏せておいてください。アスカ様が前線で戦えるよう交渉する際のカードの一つとさせていただきたいので。単に強いから戦わせろと言っても断られる可能性があるので、交渉が必要と考えています。」
まあ、そうか。自分達だけで勝てると思っている場合は、断られる可能性も高いかもしれない。私が交渉するよりも任せた方が良いだろう。失敗したら自分で交渉することも考えないといけないが、ひとまず彼らに任せよう。
「わかったわ。でも、戦いが始まるまでには全力で戦えるようにしてもらわないと困るわよ。」
「ええ、もちろんです。あとは先方の話の内容も分からないので、こちらの任務の情報を言わないでいてもらえれば問題ありません。」
「了解よ。討伐に関係ない要求は聞く気がないから安心して。話の内容は後で報告するわ。」
「お願いします。」
話を終えた私は、部屋を出た。
窓の外を見るとすっかり日が沈んでいた。
月明りに照らされた王城が見える。
私の目には、美しいと評判の城は不気味に映っていた。




